【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

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第29話:王子様の婚約パーティ

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 気がつくとわたしは、知らない大広間にいた。
 広間には、一段高くなっているステージ部分と、それを見上げる観客席がある。
 わたしはその、ステージのほうに座っていた。

 横一列に、わたしを含めて十人の女性が並んでいる。
 これがプリンスの婚約者候補ということなのだろう。

 見渡すと、観客席のほうにわたしのクラスの面々が座っている。
 全員がリリィのスキルのことを知っているから、「やりやがったな」という表情だ。
 リリィは黙ってVサイン。
 事情を知らないほかの生徒たちはざわついているが、結局は全員が転生者なので、誰かのスキル効果でこうなっているということには思い当たっているようだった。

 と、そこで、プリンスがステージに登場した。
 彼も火曜の下校時にいきなりここまで飛んだはずだが、動揺は見られない。

「みんな、どうか落ち着いてくれ。
 なにかしらの力によって時間が飛んだようだが、慌てる必要はすこしもない。
 私がここに立っているというその事実が、この事態が安全だということを示している。
 もし危険や不利益が発生するなら、私の《ラッキー・スター》がそれを許すはずがないのだから」

 しん、と大広間全体が静まり返る。
 プリンスの自信はたいしたものだが、言っていることは間違っていない。
 これぞ王家、これぞ次期国王といった貫禄だ。

「プリンス様、さすがです」
「素敵ですわ」
「愛しております」
「私のほうが愛しております」

 ステージの女性たちが、口々にプリンスを持ち上げる。
 婚約者に選ばれたいというのはわかるが、言えば言うほどモブ化する自覚はないのだろうか。
 わたしも思わずモブ道のために言いたくなったくらいである。
 ちんけなプライドがそれを許さなかったけど。

 そんななか、ひとりの女性だけがまったく違う反応を示した。

「プリンスぅ、鏡見てこられなかったんだけど、今日のビューティはきれいかな?」

 甘えた声でプリンスを呼ぶのは、間違いなくビューティだ。
 だって一人称が「ビューティ」だし、わたしから見ると、その……顔がマッスリーヌにそっくりなのだ。
 しゃべりかたとのギャップがとんでもないが、これはわたしの責任だから我慢する。
 本物のマッスリーヌは、観客席でおとなしく椅子に座っている。
 ……あ、違う、椅子がない。
 空気椅子で筋トレをしている。

「ああ、ビューティ。
 きみはなんて美しいんだ。
 まさに私の理想の顔をしている」
「ありがとっ、プリンス」

 褒めたたえるプリンスに、ビューティが大喜びで投げキッスをする。
 彼がまるで初めて見たかのように感動しているのは、間違いなくエスティークの《エロス》の効果だろう。
 ビューティの喜びのほうは、もしかしたら天然なのかもしれないと思わせる無邪気さがある。
 たしかに悪くない組み合わせ。
 いや、これが永遠に続くのだとしたら、ベストカップルなのかもしれない。

 ほかの候補者たちもそれがわかっているようで、先ほどのアピールの熱意はどこへやら、プリンスとビューティのやり取りを見ている彼女たちの顔は、ほぼあきらめに満ちている。

 これであとは、エスティークが約束どおりにやってくれたら、婚約相手は問題なくビューティに決まる。
 プリンスのわたしに対する不当な感動をリセットせず、彼が飽きるのに任せてくれたらいいのだ。

 すこし不安になってエスティークを探すと、彼女はステージ脇の、観客から見えない席に座っていた。
 一般の参加者ではなく、スタッフ側の人間という扱いなのだろう。
 わたしが視線を送ると、「OK」のハンドサインを返してくれた。
 これで大丈夫だ。

 落ち着いた心で、婚約パーティの進行を眺める。
 プリンスが国家の偉大さを語ったり、この婚約の意義を熱弁したりしているが、観客席にいる多くの者と同じく、校長先生の話のようにただ聞き流していた。
 わたしは自分が着ている白いドレスがとっても素敵で、きっとターコが選んでくれたものだろうと感動していた。

 そしてついに、プリンスの長い話が締めくくられる。
 婚約者指名の場面だ。

「――それでは、すばらしき建国のこの日に、将来の妻となる女性を指名したいと思う。
 みんな、どうか祝福してくれ」

 そう言って彼は、迷わずビューティのまえで足を止めた。
 跪いて手を取ると、じっと彼女の顔を見つめる。

「ああ、一点の曇りもない美しさをしている。
 ビューティ、きみは本当に美の化身のようだ。
 きみがこの国の王妃となれば、世界じゅうがきみの虜となるに違いない」
「うーん、嬉しいっ!」

 その反応を世界じゅうに見せてもいいのだろうか。
 一抹の不安がないでもないが、エスティークが彼らのそばに仕えてくれるなら問題ない。
 彼女のスキルは強力だし、それ以上に彼女自身が強キャラの風格を備えている。

 そんなことを思いながらぼけっと眺めていると、不意に、プリンスがこちらを向いた。
 えっ?

「ただ、モブリンも捨てがたいと私は思っている。
 美しさのビューティか、安らぎのモブリンか。
 これは私とこの国にとって、最大の難問といえるだろう」

 はて……?
 その問題、簡単ですけど……。
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