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第27話:あんたら普通じゃないからね?
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「えっと……みんな転生者なの?」
エスティークの長台詞が終わったあと、わたしは恐る恐る口を開いた。
もう確認する必要もないのかもしれないが、もしかしたら、エスティークの勘違いという可能性もあるわけだし……。
そんなわたしに、最初に答えてくれたのはリリィだった。
「あっ……もしかしてモブリンって、最近になって転生してきたひと?
ごめん気がつかなくて。
そうだよ、私たちはみんな、ほかの世界からの転生者。
来て何年も経つと、つい周りも同じくらい長いと考えがちになるの」
「みんな……クラス全員……ってこと?」
「あー、そこからか」
彼女が困ったようにみんなを見ると、ターコがあとを引き継いだ。
「クラス全員どころか、この世界全員が転生者だぜ。
ひとり残らず全員。
これだけみんな好き勝手にキャラメイクしてるんだから、わかるだろ」
「いや、まあ、みんな濃いとは思ったけど。
そういう異世界なのかなーと。
あっ、でも待って、それっておかしくない?」
「ん?」
わたしは、元のモブリンの話をした。
わたしが転生するまえの彼女が、歩いて登校したり、筋肉メイドと出会ったりしていたのだ。
少なくとも昨日までは、この世界にひとりだけ転生者じゃない存在がいたことになる。
それこそ特異点ということなのだろうか。
だが、そこでコトダマが口を挟む。
「それは考えかたが違うな。
元のモブリンというのは存在しない。
天界の女神にとって時間は記録でしかないから、おまえを今日という日に転生させたときに、同時にそこまで暮らしてきたモブリンの記録を作ったんだ」
「記録……?
えっと……うーん?」
理解がまったく追いつかない。
モブリンの両親は本当はふたりで暮らしてきたのに、今朝いきなり娘がいる設定に書き換わったのだろうか。
でもそれなら、マッスリーヌと出会ったモブリンもいなくて、押しかけメイドがやってくるきっかけもなかったことになりはしないか。
混乱するわたしに、コトダマは「簡単なことだから、落ち着いて考えろ」と諭してくる。
「生まれてから死ぬまでのおまえを一本の映画とすると、おまえにとっての今は、そのなかのひとコマだ。
でも女神にとっては全部でひとつだから、転生するときは全コマ同時に書き換わる……これでどうだ?」
「うーん……」
どうだ、と言われてもパッと理解はできないが、なんとなくならイメージはできた。
わたしがそう答えると、コトダマは「今はそれでいい」と言ってくれる。
「そのうち身近で新しく転生してきた人間に出会うと、嫌でも理解できるようになる。
当人は『いま転生してきた』と語るのに、自分の記憶ではそいつはずっといるんだからな」
「そういうものですか」
「そういうものだ」
無理やり納得させられた感があるけど、まあそういうものならしかたがない。
まだ人生は長いだろうから、追い追いゆっくり理解していくことにしよう。
と、そこで、レッドがわたしに笑って言う。
「それにしてもモブリン、考えたもんだよな。
逆に平凡にして目立とうだなんて。
その発想にたどり着いたやつは、異世界広しといえど、たぶんおまえだけだと思うぞ」
「はい?
べつに目立とうとしたわけじゃないんだけど……」
「またまた~」
いや、軽く流してくれるな。
わたしのモブ道はそんな不純な動機ではない。
目立ちたくないからモブになった、ただそれだけなのに。
そんなわたしをよそに、レッドはゼファーと盛り上がりはじめる。
「せっかく転生するなら最強主人公になりたいと思ってキャラメイクしたのに、転生してみたら全然こんなの最強じゃなくてがっかりだよな」
「ふっ……残念ながら同意するしかない。
自由に考えていいとなると、結局は頭のぶっ飛びかたを競うことになってしまう。
常識があるほど弱くなってしまうというわけさ」
転生あるあるか?
言っておくけど、あんたたちふたりの強さも相当なものだから、その理屈でいくとかなり頭がぶっ飛んでいることになるぞ。
そんなふたりに、エスティークが言う。
「その気持ち、わかるわ~。
ワタシもビューティとかプリンスちゃんを見ていると、自分の常識人っぷりにあきれるもの。
心のストッパーがどうしても邪魔するのよね」
あんたの《エロス》、ストッパーの存在が微塵も感じられないスキルなんですけど?
そんな顔でクラスメイトたちが彼女を見ているが、その彼らを見るわたしの目は同じように冷ややかだ。
ゲームや漫画の主人公みたいな強スキルと見た目にしている時点で、自制心というものがどこか遠くへ行っている。
みんな同じで、みんなヤバい。
この異世界のキャッチコピーを、人知れずそうすることにした。
エスティークの長台詞が終わったあと、わたしは恐る恐る口を開いた。
もう確認する必要もないのかもしれないが、もしかしたら、エスティークの勘違いという可能性もあるわけだし……。
そんなわたしに、最初に答えてくれたのはリリィだった。
「あっ……もしかしてモブリンって、最近になって転生してきたひと?
ごめん気がつかなくて。
そうだよ、私たちはみんな、ほかの世界からの転生者。
来て何年も経つと、つい周りも同じくらい長いと考えがちになるの」
「みんな……クラス全員……ってこと?」
「あー、そこからか」
彼女が困ったようにみんなを見ると、ターコがあとを引き継いだ。
「クラス全員どころか、この世界全員が転生者だぜ。
ひとり残らず全員。
これだけみんな好き勝手にキャラメイクしてるんだから、わかるだろ」
「いや、まあ、みんな濃いとは思ったけど。
そういう異世界なのかなーと。
あっ、でも待って、それっておかしくない?」
「ん?」
わたしは、元のモブリンの話をした。
わたしが転生するまえの彼女が、歩いて登校したり、筋肉メイドと出会ったりしていたのだ。
少なくとも昨日までは、この世界にひとりだけ転生者じゃない存在がいたことになる。
それこそ特異点ということなのだろうか。
だが、そこでコトダマが口を挟む。
「それは考えかたが違うな。
元のモブリンというのは存在しない。
天界の女神にとって時間は記録でしかないから、おまえを今日という日に転生させたときに、同時にそこまで暮らしてきたモブリンの記録を作ったんだ」
「記録……?
えっと……うーん?」
理解がまったく追いつかない。
モブリンの両親は本当はふたりで暮らしてきたのに、今朝いきなり娘がいる設定に書き換わったのだろうか。
でもそれなら、マッスリーヌと出会ったモブリンもいなくて、押しかけメイドがやってくるきっかけもなかったことになりはしないか。
混乱するわたしに、コトダマは「簡単なことだから、落ち着いて考えろ」と諭してくる。
「生まれてから死ぬまでのおまえを一本の映画とすると、おまえにとっての今は、そのなかのひとコマだ。
でも女神にとっては全部でひとつだから、転生するときは全コマ同時に書き換わる……これでどうだ?」
「うーん……」
どうだ、と言われてもパッと理解はできないが、なんとなくならイメージはできた。
わたしがそう答えると、コトダマは「今はそれでいい」と言ってくれる。
「そのうち身近で新しく転生してきた人間に出会うと、嫌でも理解できるようになる。
当人は『いま転生してきた』と語るのに、自分の記憶ではそいつはずっといるんだからな」
「そういうものですか」
「そういうものだ」
無理やり納得させられた感があるけど、まあそういうものならしかたがない。
まだ人生は長いだろうから、追い追いゆっくり理解していくことにしよう。
と、そこで、レッドがわたしに笑って言う。
「それにしてもモブリン、考えたもんだよな。
逆に平凡にして目立とうだなんて。
その発想にたどり着いたやつは、異世界広しといえど、たぶんおまえだけだと思うぞ」
「はい?
べつに目立とうとしたわけじゃないんだけど……」
「またまた~」
いや、軽く流してくれるな。
わたしのモブ道はそんな不純な動機ではない。
目立ちたくないからモブになった、ただそれだけなのに。
そんなわたしをよそに、レッドはゼファーと盛り上がりはじめる。
「せっかく転生するなら最強主人公になりたいと思ってキャラメイクしたのに、転生してみたら全然こんなの最強じゃなくてがっかりだよな」
「ふっ……残念ながら同意するしかない。
自由に考えていいとなると、結局は頭のぶっ飛びかたを競うことになってしまう。
常識があるほど弱くなってしまうというわけさ」
転生あるあるか?
言っておくけど、あんたたちふたりの強さも相当なものだから、その理屈でいくとかなり頭がぶっ飛んでいることになるぞ。
そんなふたりに、エスティークが言う。
「その気持ち、わかるわ~。
ワタシもビューティとかプリンスちゃんを見ていると、自分の常識人っぷりにあきれるもの。
心のストッパーがどうしても邪魔するのよね」
あんたの《エロス》、ストッパーの存在が微塵も感じられないスキルなんですけど?
そんな顔でクラスメイトたちが彼女を見ているが、その彼らを見るわたしの目は同じように冷ややかだ。
ゲームや漫画の主人公みたいな強スキルと見た目にしている時点で、自制心というものがどこか遠くへ行っている。
みんな同じで、みんなヤバい。
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