【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

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第26話:はい?

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「は? ……え?」
「ごめんなさいね。
 でも、体験してみるのがいちばんいいかと思って。
 ワタシのスキルって言葉では伝わりにくいから」

 虚脱状態のわたしに、エスティークがすまなそうな顔で笑う。
 教室を見渡すと、みんな程度の差はあれど、わたしと同じように呆然としている。

 コトダマが腕を組んで、エスティークに抗議する。

「体験っておまえ、いきなり最大出力でやったよな?
 初手でおまえに感心したやつは、瞬間的にリセットされておまえの言動すべてに感動しまくってたぞ。
 モブリンを見てみろ、涙でぐちゃぐちゃになってひでえもんだ」
「うふふふ。
 急に連れてこられたから、し・か・え・し。
 先生も一瞬でも油断してくれたら、お漏らしするまでいじめてあげられたのに」
「あのなあ……」

 あ、これ、やばい人だ。
 あのコトダマと対等に渡り合える人種だと思う。
 歯を食いしばってでも感心はしないが、強すぎるスキルを持つと人間はこうなってしまうということか。
 いや、もしかしたら逆で、やばい精神にはやばいスキルが宿るのかもしれない。

 とにかく、エスティークと対面しているあいだは、心を強く持って何事にも動じないようにしよう。
 ハンカチで顔の涙をぬぐいながら、わたしはそう決心した。

「お漏らしといえば、ワタシのスキルにやられ続ける感覚を、こう例えてくれたひとがいたわ。
 ええとね、『我慢していたおしっこを漏らす瞬間だけを、何度も繰り返す感じ』なんだって。
 どう? 気持ちよかった?」
「……品がないですよ。
 将来の王妃様になるかもしれないのに、そんなことは言わないでください」
「あら? モブリンちゃん、それ誰が言ったの?
 ワタシは王妃になんてならないわよ?」

 ……ん?
 コトダマの話では、彼女とビューティが本来の婚約者候補だということだったが。
 わたしが見ると、コトダマはよくわからないという顔をしている。

「オレは、おまえかビューティがプリンスと婚約するものと思っていたのだが、違ったか?」
「ああ、先生にはそう見えていたのね。
 違うわ。
 ワタシはプリンスちゃんと婚約しない。
 その役目はビューティでも、モブリンちゃんでも、どっちでもいいのよ」
「……どういうことだ?
 あれだけずっとそばにいながら、おまえはプリンスに恋愛感情がないってわけか?」

 そう問われたエスティークは、「いやだわ」と言って、教卓のうえにひらりと座った。
 話が長くなる覚悟をしたらしい。

「プリンスちゃんはね、前世で弟だったの。
 一緒の事故で死んじゃって、一緒に転生することになったから、今回は守ってあげようと決心した。
 彼のほうに先に希望を言わせて、ワタシはそれをサポートできる存在として転生したというわけね。
 同じ王家に転生しなかったのは、政略結婚とかに巻き込まれると離れ離れになりかねないから。
 そういう理由だから、プリンスちゃんとワタシは、婚約なんてしない。
 過保護な姉とヤンチャな弟と思ってくれて構わないわ。
 ここまではOK?」

 え、え……?
 気持ちを強く持つと決めたが、これは……。

 生唾を飲んで衝撃をこらえるわたしの返事を待つことなく、エスティークは続ける。

「ビューティは頭からっぽだけど、謀略なんかとは無縁だし、すごく安全な婚約相手なのよ。
 あの子はただ純粋に、顔を褒められたいだけ。
 自分自身の顔じゃない、《カレイドスコープ》で見せた顔を褒められても本気で喜んでいるほど無邪気。
 同じ男がずっと一緒にいるとさすがに見慣れてくるのだけど、ワタシのスキルがあればそれもリセットできるし。
 今も、プリンスちゃんから毎日のように褒められて、心底ご機嫌ですごしてくれているわ。
 身辺調査じゃないけど、念のために前世のことを訊いたら、整形失敗で大変だったみたい」

 うわ……ビューティまで……転生者。
 あっけらかんと語っているが、転生先の異世界でそれを明かすというのは、マナーとしてどうなのだろう。

 世界に混乱をもたらすから、言うべきではないとわたしは思っている。

 ――が、

「ここのみんなも前世の反省から、スキルや容姿を選んだでしょう?
 それでもビューティみたいな極端なのは、本当に純粋な子にしかできない芸当。
 憧れはしないけど、国宝級って感じ」

 みんなもってなに??
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