【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

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第24話:無限快楽

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 コトダマが語りだすまえに、ターコがしかたないといった感じで彼に告げた。

「いちおう言っておくけど、アタシたちは未成年だよ。
 子どもにあんまり刺激のつよい話はやめてくれ。
 できるだけオブラートに包んで――」
「あん? ターコてめえ、なにか勘違いしてんのか?
 もしかして快楽って言葉で、エロいこと想像したのか。
 まったく、これだからマセガキは」
「くっ……。
 違うなら悪かったよ」

 恥ずかしそうに下を向くターコに、まわりのクラスメイトたちが口々に慰めの言葉をかけている。
 傍若無人な教師に釘を刺そうとしてくれた彼女のことを、誰もがすごいと思っているのだ。
 思わぬ反撃に遭ったが、ターコのしたことは正しい。
 わたしも彼女と仲良くしたいと思った。

 というか、エロいことじゃなければ、快楽というのはなんの話なのだろう?

 そう考えたわたしと目が合うと、コトダマは満足そうに「これが快楽だ」と言ってきた。

「これ……って、どれのことですか?」
「先生に釘を刺すつもりだった生徒を、逆にやり込めた。
 このときに脳内に発生した『ざまあみろ』という感覚、これが快楽なんだ」

 ざまあみろって、あんた……。
 いまさら見損なうほどの人間性も残っていないけど。
 仮にも教師でしょうに。

 あきれるわたしに、コトダマは続ける。

「達成感とか爽快感とか、そういうのすべてが快楽だ。
 先生が未熟なおまえらにこうして説明してやっているのも、優越感という快楽のためだし。
 もっといえば生きていること自体が、次なる快楽を求める心があるおかげとも考えられる。
 ……ここまではわかるか?」
「勉強するのは嫌でも、テストでいい点がとれると嬉しいから頑張れる……みたいな?」
「そうだ、そのとおり。
 今おまえが物を考えて答えたのも、先生から『そうだ』と言ってもらう快楽のためだ。
 とにかく人間のほぼすべての活動が、こうして快楽を得たいという気持ちに根ざしている」

 難しい話だが、わからなくもない。
 こうして一見して難しいことを理解したいと思うのも、わかったときの喜びを求めているのだ。
 これを快楽と呼ぶなら、たしかにいろんな行動の根底にあることのような気がする。

「それで先生。
 エスティークのスキルは、この快楽に関するものなんですか?
 達成感をいつでも与えてくれる、みたいな?」

 わたしの質問に、コトダマはにやりとした。
 またなんらかの快楽を与えてしまったらしい。
 ああこの考えかた、頭のなかがうっとうしくなる。
 そろそろやめておこう。

 思いどおりの質問をした扱いやすいわたしに、コトダマは楽しそうに答える。

「それが逆なのが、エスティークの賢いところなんだ。
 やつのスキルは快楽をリセットする。
 慣れちまった感覚を、まるで初めて体験するもののように新鮮なものに戻してくれる」
「感覚の、リセット」
「ああ。
 さっきの勉強の話でいくと、何度もテストを繰り返していると、解けたときの達成感がしだいに失われていくだろう?
 受験勉強なんかでありがちだが、快楽のコントロールを怠ると、正解しても間違えても無感動になる。
 そんな状態をリセットして、何度でも初めてテストを解いたときの快楽を与えてくれるのが、エスティークのスキルだ」

 それは……たしかにすごい。
 達成感は達成したら失われるが、それがリセットできるなら無限に達成感を得られることになる。
 同じ山を登って毎回同じだけ感動できる。

「それはプリンスも重宝しているでしょうね」
「重宝どころじゃない。
 プリンスの《ラッキー・スター》にとって、いちばんの敵は退屈なんだ。
 なんでも思いどおりになる人生なんて、普通なら半年で飽きちまう。
 それを永久に維持できるんだから、もはやプリンスはエスティークに依存していると考えていい。
 彼女というか、彼女のスキル――《エロス》に」
「エロスって……」
「愛って意味だ。
 人類を退屈から救う、大いなる愛ってことだろう」

 エスティークの《エロス》。
 彼女のスキルは、ほかの生徒のスキルとは一線を画しているようにわたしには思えた。
 いったいどんな女性なのだろう。
 プリンスを甘やかしているのか、それとも純粋にサポートしているのか。
 彼の幸せを考えるうえで、彼女には会っておく必要があるだろう。

 まだ学校に残っているだろうかと考えたわたしの耳に、コトダマの呟きが聞こえてきた。

「まあ、エスティークがエロいのもたしかだがな。
 ガキのくせにすごい身体をしてやがる。
 もうすこし熟したらオレのスキルで……」

 警察はなにをしているんだ。
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