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第23話:誰かこの教師を捕まえてほしい
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わたしは死んだ。
恥ずかしすぎて死んでしまった。
コトダマの笑い声と、クラスメイトたちがわいわい盛り上がっている声が、どこか遠くで響いている。
わたしは机にばたりと突っ伏して、おそらくは熟れたトマトのように真っ赤になっている顔を隠して、ひとりでそっと死体となった。
「お嬢様」
死体に話しかけないでほしい。
ただの屍は返事をしないんだから。
「お嬢様! おじょーさまっ!」
「……うるさいよ」
耳元ではしゃいだ声をあげるマッスリーヌに、わたしは机に顔をつけたまま、横を向いて答えた。
彼女は机の横にしゃがみこんで、そんなわたしの顔を覗き込むようにして言う。
「モブリンお嬢様には、あの写真がわたくしの顔に見えたんですよね?」
「……知らない。
よく見えなくて適当に言っただけ」
「ふふっ、照れているのが答えです。
わたくしのことをそんな目で見ていたのなら、おっしゃってくださればよかったのに。
後ろではなく、こうしていつでも見える位置でお仕えいたしましょうか?」
「く~……」
あのねえ。
そうやってにこにこにこにこして、その顔がまた美人なのだから憎たらしい。
正直な話、わたしは最初からマッスリーヌのことを美人だと思っていた。
真顔になるたびにどきっとさせられていたが、ポージング中の笑顔も、それはそれで悪くない。
腹筋バキバキや胸筋ガチガチに目がいってしまうが、それだって、顔とのギャップのせいなのだ。
美しい彼女が、そうやって肌を見せて筋肉を震わせているのだから、どうしても自然と見つめてしまう。
マッスリーヌは、彼女の筋肉を見るわたしの瞳にひと目惚れしたと言っていたが、わたしだって負けないくらいひと目惚れしている。
ただ彼女がああいうキャラだから、言わないでいるだけで。
でも、ビューティのスキルのせいで、その隠しごとがバレてしまった。
恥ずかしい。
とてつもなく気恥ずかしい。
恥ずかしいから、会議を進めよう!
わたしはがばっと身を起こして、教壇にいるコトダマに大声で言う。
「コトダマ先生、ビューティのスキルについてはよくわかりました。
彼女の《カレイドスコープ》は、見る人の主観に合わせて彼女の顔を変えるから、絶対に世界一の美女の地位は揺るがない。
写真にまで効果が及ぶのだから徹底しています。
プリンスも、彼女の素顔は知らないのですね?」
突然の会議の再開に誰もが驚いているが、わたしの勢いに押されてそれぞれ席に着いてくれた。
マッスリーヌがにこっとして定位置に戻ったのが、なんかムカつく。
形勢逆転のつもりか~?
言っておくが、わたしは二度とデレるつもりはないからな!(言ってない)
鼻息を荒くするわたしに、気圧されながらコトダマが答える。
「あ、ああ、プリンスも素顔は見えないだろうな。
ビューティのスキル抜きの顔を知っているのは、彼女自身と、先生くらいのものだ」
「え、先生は見たんですか?」
「隠されると気になるのが人情ってやつだ。
ほかの生徒がいないときに、《ザ・ワード》を使ってスキルを解除させた。
女の恨みは怖いから、そのことはすぐに忘れさせて、彼女自身は覚えていないけどな」
あんた、興味本位でなにやってんだよ。
本当に倫理観がぶっ壊れている。
「……それで、どんな顔でしたか?」
「ああ、ちゃんと美人だった。
言葉では説明しづらいが、まつ毛が長くて目が大きくて、肌は陶器のようで顎が小さい。
ただまあ、好みは人によるからな。
スキルで他人好みに変化させようと考えたビューティは、世界一をめざすなら唯一の正しい方法をとったと思う。
先生も、素顔のあいつはガキにしか見えないが、スキルを使ったときのどエロ熟女顔には、本気でくらっときちまうくらいだから」
生徒のまえで、どエロ熟女顔とか言うな。
ていうかそれ、どんな顔なんだ。
顔だけで表現できることなのだろうか。
……いやいや、教師の好みのことなど忘れよう。
「ありがとうございました。
ビューティのスキルはよくわかったので、次はエスティークのスキルについて教えてください。
たしか、快楽……」
「快楽全振り。
こいつも体感すれば一発で理解できるんだが、まあそういうわけにもいかんか」
そう話すコトダマは、今にもよだれを垂らしそうな顔をしている。
……聞きたくないなあ。
恥ずかしすぎて死んでしまった。
コトダマの笑い声と、クラスメイトたちがわいわい盛り上がっている声が、どこか遠くで響いている。
わたしは机にばたりと突っ伏して、おそらくは熟れたトマトのように真っ赤になっている顔を隠して、ひとりでそっと死体となった。
「お嬢様」
死体に話しかけないでほしい。
ただの屍は返事をしないんだから。
「お嬢様! おじょーさまっ!」
「……うるさいよ」
耳元ではしゃいだ声をあげるマッスリーヌに、わたしは机に顔をつけたまま、横を向いて答えた。
彼女は机の横にしゃがみこんで、そんなわたしの顔を覗き込むようにして言う。
「モブリンお嬢様には、あの写真がわたくしの顔に見えたんですよね?」
「……知らない。
よく見えなくて適当に言っただけ」
「ふふっ、照れているのが答えです。
わたくしのことをそんな目で見ていたのなら、おっしゃってくださればよかったのに。
後ろではなく、こうしていつでも見える位置でお仕えいたしましょうか?」
「く~……」
あのねえ。
そうやってにこにこにこにこして、その顔がまた美人なのだから憎たらしい。
正直な話、わたしは最初からマッスリーヌのことを美人だと思っていた。
真顔になるたびにどきっとさせられていたが、ポージング中の笑顔も、それはそれで悪くない。
腹筋バキバキや胸筋ガチガチに目がいってしまうが、それだって、顔とのギャップのせいなのだ。
美しい彼女が、そうやって肌を見せて筋肉を震わせているのだから、どうしても自然と見つめてしまう。
マッスリーヌは、彼女の筋肉を見るわたしの瞳にひと目惚れしたと言っていたが、わたしだって負けないくらいひと目惚れしている。
ただ彼女がああいうキャラだから、言わないでいるだけで。
でも、ビューティのスキルのせいで、その隠しごとがバレてしまった。
恥ずかしい。
とてつもなく気恥ずかしい。
恥ずかしいから、会議を進めよう!
わたしはがばっと身を起こして、教壇にいるコトダマに大声で言う。
「コトダマ先生、ビューティのスキルについてはよくわかりました。
彼女の《カレイドスコープ》は、見る人の主観に合わせて彼女の顔を変えるから、絶対に世界一の美女の地位は揺るがない。
写真にまで効果が及ぶのだから徹底しています。
プリンスも、彼女の素顔は知らないのですね?」
突然の会議の再開に誰もが驚いているが、わたしの勢いに押されてそれぞれ席に着いてくれた。
マッスリーヌがにこっとして定位置に戻ったのが、なんかムカつく。
形勢逆転のつもりか~?
言っておくが、わたしは二度とデレるつもりはないからな!(言ってない)
鼻息を荒くするわたしに、気圧されながらコトダマが答える。
「あ、ああ、プリンスも素顔は見えないだろうな。
ビューティのスキル抜きの顔を知っているのは、彼女自身と、先生くらいのものだ」
「え、先生は見たんですか?」
「隠されると気になるのが人情ってやつだ。
ほかの生徒がいないときに、《ザ・ワード》を使ってスキルを解除させた。
女の恨みは怖いから、そのことはすぐに忘れさせて、彼女自身は覚えていないけどな」
あんた、興味本位でなにやってんだよ。
本当に倫理観がぶっ壊れている。
「……それで、どんな顔でしたか?」
「ああ、ちゃんと美人だった。
言葉では説明しづらいが、まつ毛が長くて目が大きくて、肌は陶器のようで顎が小さい。
ただまあ、好みは人によるからな。
スキルで他人好みに変化させようと考えたビューティは、世界一をめざすなら唯一の正しい方法をとったと思う。
先生も、素顔のあいつはガキにしか見えないが、スキルを使ったときのどエロ熟女顔には、本気でくらっときちまうくらいだから」
生徒のまえで、どエロ熟女顔とか言うな。
ていうかそれ、どんな顔なんだ。
顔だけで表現できることなのだろうか。
……いやいや、教師の好みのことなど忘れよう。
「ありがとうございました。
ビューティのスキルはよくわかったので、次はエスティークのスキルについて教えてください。
たしか、快楽……」
「快楽全振り。
こいつも体感すれば一発で理解できるんだが、まあそういうわけにもいかんか」
そう話すコトダマは、今にもよだれを垂らしそうな顔をしている。
……聞きたくないなあ。
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