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第19話:教師がいちばん普通じゃない件について
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酔って上機嫌になったコトダマに、プリンスとの一件を話した。
レッドたちが提案してくれた案などもすべて話し終えると、彼は、
「いちど痛い目に遭わせておくべきだな」
そう言ってソファの背もたれに体重をあずけ、天井を見てじっと黙り込んだ。
そのまま数分が経過しても、なにも言わない。
「おい、寝てんのか?」
焦れたレッドがソファのそばまで飛んで確認する。
すると、
「……おそらく、無駄だな」
「は? あんたなにを言って――」
「この作戦会議は、すべて無駄だと言っている」
どういうことだろう。
ふしぎに思うわたしたちを席につかせ、コトダマは教壇に上がる。
ターコの創った調度品はいつの間にか消されている。
「プリンスは《ラッキー・スター》を常時発動している。
自分がこうしたいと思ったことを実現するだけでなく、つねに、自分にとって不利な出来事が起こらないよう気を配っている」
「根拠はあるんですか?」
「ある」
わたしの質問に、コトダマは即答を返してきた。
オールバックに固めた髪を撫でながら、低い声で語りだす。
「先生はな、じつはあいつにスキルを使ったことが何度かある。
きらきらした王子がいきなりすっ転んだら面白いと思って、すれ違いざまに『転べ』と言ったりな」
「ひでー教師がいたもんだ」
「人間味があると言ってほしいね」
ちゃちゃを入れるレッドににやりと笑う。
「でも、一度たりともスキルが成功したためしがない。
近くにいると警戒されるのかと思ったが、絶対に見えていない離れたところから叫んでも無駄だった。
どうやら自動的に音が打ち消されるらしいんだ」
音が打ち消される。
マッスリーヌが言っていた、「逆位相の音をぶつける」というやつだろう。
プリンスが消したいと思う声には、たまたまそういう音がぶつかって無音となる。
ノイズキャンセリング機能の完璧なやつと考えればいいかもしれない。
「それでいて、会話は普通にできる。
スキルを交えていない言葉なら、やつの耳にも問題なく届いている。
さらに、やつの近くにいる取り巻き女でも実験してみたところ、『プリンスに平手打ちしろ』はダメで、『愛を囁け』はいけた。
このことからも、不利となるものを自動判別して発動していることがわかるだろう。
念のために『ハグしろ』もやってみたが、これはプリンスが嫌だと感じるタイミングでは発動しない」
仮にも生徒で、しかもこの国の王子だというプリンスを相手に、めちゃくちゃ細かく実験している。
なんだこの教師は。
ターコもわたしと同じことを思ったようで、笑いながら突っ込んだ。
「先生、あんたそのうち不敬罪で逮捕されるよ」
「悪事を揉み消すのに便利なスキルを持っていると、倫理観がぶっ壊れちまうんだ。
まあ、ここまで執拗に試したのはプリンスが初めてだけどな。
気に食わないって言っただろう?」
「ああ怖い怖い。
せいぜいアタシは逆らわないようにするよ」
この教室にいる誰もがそう思ったことだろう。
さすが、大勢の強スキル持ちに集団生活を学ばせる、王立魔法学校の教師である。
これくらいの強さがなければ務まらないのかもしれない。
だが、実験はこれだけではないはず。
今の情報だけでは、この会議が無駄という話には繋がらないからだ。
本人が自動防御している、近くの人間にも適用される、それだけだ。
「先生、もうひとつ実験したんですよね?」
「ああ、モブリンおまえ、鋭いな。
そうだ先生は、念には念を入れて確認した。
隣の街まで行って、通行人に『プリンスを殴ってこい』と命令したが……それすら打ち消されたんだ」
それは絶望的な情報だった。
プリンスの《ラッキー・スター》は距離に関係なく、完璧に彼を護っている。
コトダマのスキルが打ち消されるということは、プリンスに不利益のある行動は、すべて偶然によって防がれるということだ。
レッドたちが提案してくれた案などもすべて話し終えると、彼は、
「いちど痛い目に遭わせておくべきだな」
そう言ってソファの背もたれに体重をあずけ、天井を見てじっと黙り込んだ。
そのまま数分が経過しても、なにも言わない。
「おい、寝てんのか?」
焦れたレッドがソファのそばまで飛んで確認する。
すると、
「……おそらく、無駄だな」
「は? あんたなにを言って――」
「この作戦会議は、すべて無駄だと言っている」
どういうことだろう。
ふしぎに思うわたしたちを席につかせ、コトダマは教壇に上がる。
ターコの創った調度品はいつの間にか消されている。
「プリンスは《ラッキー・スター》を常時発動している。
自分がこうしたいと思ったことを実現するだけでなく、つねに、自分にとって不利な出来事が起こらないよう気を配っている」
「根拠はあるんですか?」
「ある」
わたしの質問に、コトダマは即答を返してきた。
オールバックに固めた髪を撫でながら、低い声で語りだす。
「先生はな、じつはあいつにスキルを使ったことが何度かある。
きらきらした王子がいきなりすっ転んだら面白いと思って、すれ違いざまに『転べ』と言ったりな」
「ひでー教師がいたもんだ」
「人間味があると言ってほしいね」
ちゃちゃを入れるレッドににやりと笑う。
「でも、一度たりともスキルが成功したためしがない。
近くにいると警戒されるのかと思ったが、絶対に見えていない離れたところから叫んでも無駄だった。
どうやら自動的に音が打ち消されるらしいんだ」
音が打ち消される。
マッスリーヌが言っていた、「逆位相の音をぶつける」というやつだろう。
プリンスが消したいと思う声には、たまたまそういう音がぶつかって無音となる。
ノイズキャンセリング機能の完璧なやつと考えればいいかもしれない。
「それでいて、会話は普通にできる。
スキルを交えていない言葉なら、やつの耳にも問題なく届いている。
さらに、やつの近くにいる取り巻き女でも実験してみたところ、『プリンスに平手打ちしろ』はダメで、『愛を囁け』はいけた。
このことからも、不利となるものを自動判別して発動していることがわかるだろう。
念のために『ハグしろ』もやってみたが、これはプリンスが嫌だと感じるタイミングでは発動しない」
仮にも生徒で、しかもこの国の王子だというプリンスを相手に、めちゃくちゃ細かく実験している。
なんだこの教師は。
ターコもわたしと同じことを思ったようで、笑いながら突っ込んだ。
「先生、あんたそのうち不敬罪で逮捕されるよ」
「悪事を揉み消すのに便利なスキルを持っていると、倫理観がぶっ壊れちまうんだ。
まあ、ここまで執拗に試したのはプリンスが初めてだけどな。
気に食わないって言っただろう?」
「ああ怖い怖い。
せいぜいアタシは逆らわないようにするよ」
この教室にいる誰もがそう思ったことだろう。
さすが、大勢の強スキル持ちに集団生活を学ばせる、王立魔法学校の教師である。
これくらいの強さがなければ務まらないのかもしれない。
だが、実験はこれだけではないはず。
今の情報だけでは、この会議が無駄という話には繋がらないからだ。
本人が自動防御している、近くの人間にも適用される、それだけだ。
「先生、もうひとつ実験したんですよね?」
「ああ、モブリンおまえ、鋭いな。
そうだ先生は、念には念を入れて確認した。
隣の街まで行って、通行人に『プリンスを殴ってこい』と命令したが……それすら打ち消されたんだ」
それは絶望的な情報だった。
プリンスの《ラッキー・スター》は距離に関係なく、完璧に彼を護っている。
コトダマのスキルが打ち消されるということは、プリンスに不利益のある行動は、すべて偶然によって防がれるということだ。
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