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第16話:ダルマは揺れる、されど進まず
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「あのね、マッスリーヌ。
今がどういう状況かわかってるわよね?
絶体絶命なのよ?
プリンスに指名されたら、もう終わりなわけ。
悪いことは言わないから、結婚しましょう」
説得しようとするわたしに、筋肉メイドは一歩も引かない。
「絶対に嫌です。
結婚はふたりだけの問題です。
そこにプリンスだかなんだかいうきらきら男が関わってきたら、十年後にアルバムを見て笑えますか?
きっとあなたは、結婚という思い出とセットで、あの男のことを思い出して嫌な気持ちになるはずです。
そんなのは絶対に間違っている」
「あんたほんとは、わたしのこと嫌いでしょ」
「めちゃくちゃ好きです。
さっきから、お嬢様だけがわたくしのポージングをいちいち見てくださっています」
そう言って、胸筋をぴくぴくさせる。
くっそ、また見ちゃった。
そうだよ、なんか見ちゃうんだよ。
う~……困った。
じつのところ、マッスリーヌの言うことが正しいということはわかっている。
説得しようと思ったわたしが説得された。
そうだね、結婚はふたりの愛でするべきだ。
何度目かわからないが、彼女のことをまた見直した。
だから、
「ごめんなさい、レッド。
あなたの案はたしかに勝てる案だった。
でも、わたしたちは乗れない。
悪いけど、ほかの作戦でいかせて」
「ちっ」
舌打ちをしながらも、彼は自分の考えた作戦自体は褒められて嬉しそうだ。
しょうがねーな、と引き下がってくれた。
「となると、そろそろ真打ちの出番かな。
ここで誰の知恵が必要か、呼んでみるがいい」
「……」
誰もなにも言わない。
言ってあげない。
静まり返った教室に、そのとき、一陣の風が吹いた。
「ん? 風の音がするぞ。
風……疾風……はっ!
疾風のゼファー、ここに推参ッ!」
「いいから、案があるならさっさと言え」
「お、おう」
ターコに睨まれてゼファーのテンションが下がった。
言われたとおりにさっさと言う。
「ようは、婚約相手に選ばれなければいいのさ。
プリンスに嫌われよう。
俺の《ウィンド》でパーティの直前に嵐を呼んで、モブリンくんのことをずぶ濡れのボロ雑巾のようにする。
そんな姿で会場に行く女性を、よもやみんなのまえで指名したいとは思うまい」
「はい却下」
「なぜだッ!」
食い下がるゼファーの全身を、ターコが《クリエイト》で出した巨大なダルマで包み込む。
がたがた揺らして中でなにか叫んでいたが、しばらくするとあきらめたのか静かになった。
「女の子を馬鹿にするな、クソが。
モブリン、あんたがパーティに出るときは、特製のドレスをスキルで出してやるからね。
アタシ、これでもデザイナー志望なんだ」
「わあ、嬉しい。
ありがとうターコ!」
ダルマの案に、ちょっと心が揺らいだのは内緒だ。
ボロ雑巾はともかく、嫌われれば話は早い。
ただ、たとえどんな姿で会場に行っても、そこにいるプリンスが望めばたまたまきれいになりそうな気がする。
物理的なものは、どうにでもなる可能性があるので危険だ。
ゼファーの扱いのせいで、下手な案を言い出しづらい雰囲気になってしまった。
沈黙のなか、ターコもさすがに責任を感じたらしい。
「アタシもいちおう、案はあるんだ。
成功率もかなり高いと思う。
ただ……まあ、モブリンが嫌かもしれないから、そのときははっきり言ってくれ。
自分でダルマに入るから」
スキルで出したコーラを一気に飲み干すと、「よし」とワイルドに口をぬぐって話しはじめた。
今がどういう状況かわかってるわよね?
絶体絶命なのよ?
プリンスに指名されたら、もう終わりなわけ。
悪いことは言わないから、結婚しましょう」
説得しようとするわたしに、筋肉メイドは一歩も引かない。
「絶対に嫌です。
結婚はふたりだけの問題です。
そこにプリンスだかなんだかいうきらきら男が関わってきたら、十年後にアルバムを見て笑えますか?
きっとあなたは、結婚という思い出とセットで、あの男のことを思い出して嫌な気持ちになるはずです。
そんなのは絶対に間違っている」
「あんたほんとは、わたしのこと嫌いでしょ」
「めちゃくちゃ好きです。
さっきから、お嬢様だけがわたくしのポージングをいちいち見てくださっています」
そう言って、胸筋をぴくぴくさせる。
くっそ、また見ちゃった。
そうだよ、なんか見ちゃうんだよ。
う~……困った。
じつのところ、マッスリーヌの言うことが正しいということはわかっている。
説得しようと思ったわたしが説得された。
そうだね、結婚はふたりの愛でするべきだ。
何度目かわからないが、彼女のことをまた見直した。
だから、
「ごめんなさい、レッド。
あなたの案はたしかに勝てる案だった。
でも、わたしたちは乗れない。
悪いけど、ほかの作戦でいかせて」
「ちっ」
舌打ちをしながらも、彼は自分の考えた作戦自体は褒められて嬉しそうだ。
しょうがねーな、と引き下がってくれた。
「となると、そろそろ真打ちの出番かな。
ここで誰の知恵が必要か、呼んでみるがいい」
「……」
誰もなにも言わない。
言ってあげない。
静まり返った教室に、そのとき、一陣の風が吹いた。
「ん? 風の音がするぞ。
風……疾風……はっ!
疾風のゼファー、ここに推参ッ!」
「いいから、案があるならさっさと言え」
「お、おう」
ターコに睨まれてゼファーのテンションが下がった。
言われたとおりにさっさと言う。
「ようは、婚約相手に選ばれなければいいのさ。
プリンスに嫌われよう。
俺の《ウィンド》でパーティの直前に嵐を呼んで、モブリンくんのことをずぶ濡れのボロ雑巾のようにする。
そんな姿で会場に行く女性を、よもやみんなのまえで指名したいとは思うまい」
「はい却下」
「なぜだッ!」
食い下がるゼファーの全身を、ターコが《クリエイト》で出した巨大なダルマで包み込む。
がたがた揺らして中でなにか叫んでいたが、しばらくするとあきらめたのか静かになった。
「女の子を馬鹿にするな、クソが。
モブリン、あんたがパーティに出るときは、特製のドレスをスキルで出してやるからね。
アタシ、これでもデザイナー志望なんだ」
「わあ、嬉しい。
ありがとうターコ!」
ダルマの案に、ちょっと心が揺らいだのは内緒だ。
ボロ雑巾はともかく、嫌われれば話は早い。
ただ、たとえどんな姿で会場に行っても、そこにいるプリンスが望めばたまたまきれいになりそうな気がする。
物理的なものは、どうにでもなる可能性があるので危険だ。
ゼファーの扱いのせいで、下手な案を言い出しづらい雰囲気になってしまった。
沈黙のなか、ターコもさすがに責任を感じたらしい。
「アタシもいちおう、案はあるんだ。
成功率もかなり高いと思う。
ただ……まあ、モブリンが嫌かもしれないから、そのときははっきり言ってくれ。
自分でダルマに入るから」
スキルで出したコーラを一気に飲み干すと、「よし」とワイルドに口をぬぐって話しはじめた。
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