【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

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第15話:プリンス対策会議

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 午後の授業をどう過ごしていたか覚えていない。
 ずっと考えごとをしていたわたしは、リリィに声をかけられて放課後だと気づいた。

「プリンスの婚約パーティは次の金曜なんだって。
 今日が火曜だから、三日後ね」
「三日って、あっという間じゃない」
「ええ、無策で過ごせば一瞬で当日になっちゃう。
 私のスキルを使うまでもなくね」

 ターコの呼びかけにより、すでにわたしのクラスは対プリンスで一致団結していた。
 みんな多かれ少なかれ、彼には反感を抱いていたらしい。

「あんなに美しくて強いのに、みんな彼のことが好きじゃないのね。
 そんなことってある?」
「あるある、大ありだ!」

 わたしの言葉に、レッドが自分の席から文字どおり飛んできた。
 彼はほぼずっと、スキルの力で重力を操って移動している。

「そんなに嫌い?」
「ああ、大嫌いの最上級だ。
 あいつさえいなければ、この世界の主役はおれだっていうのに」
「……そう、だね」

 疑問の言葉をあやうく飲み込む。
 たしかにレッドはイケメンだし、主人公でもおかしくないスキルを持っている。
 性格も猪突猛進って感じで、熱血タイプの主役感がある。

 でも、この世界には、きっと彼レベルの人間は大量に存在する。
 このクラスのなかですらドングリの背比べなのに、そとに出たらもはやモブ。
 強くてカッコよくて我が強いのに、羨ましいことに彼はモブなのだ。

「なんだろう、この世界」
「そう悲観すんなって。
 おれ、じつはプリンスへの対抗策を思いついたんだ」

 レッドが、得意げにみんなをわたしの席に集める。
 どうせしょうもない策だろうとうっすら予感していることがみんなの表情でわかるが、彼はそんなことは気にも留めず、にひひと笑って話しはじめた。

「プリンスの《ラッキー・スター》は、起こる可能性があることを好きに起こせる。
 つまりな、絶対に負ける状況を作ればおれたちの勝ちだ。
 今回で言うと――」

 わたしと、後ろにいるマッスリーヌを見て言う。

「このふたりが結婚しちまえばいい。
 愛し合ってんだろ?
 この足で役所に行って、婚姻届を出せ。
 それで勝ち確。
 重婚は無理だからプリンスとの婚約は不可能だ」

 彼の作戦は単純明快だった。
 単純すぎて、「あれ? いける?」と一瞬思う。

 ひとつだけ、そばにいるリリィに小声で確認。

「……ねえ、同性婚って」
「一般的だよ、昔から」

 だよね、だって昨日モブリンがマッスリーヌに求婚されていたわけだし。
 勘違いがあるといけないから訊いてみただけ。

 となると、

「意外と悪くないじゃねーか。
 レッド、てめえなかなか頭使ったな」
「わはは、ひれ伏せターコ。
 おれの靴はきれいだから舐めてもいい」

 調子乗んな、とターコが金属バットを創造して殴りかかる。
 当たる直前にバットの重力を消し、まるでスポンジで殴られたような感触に変えるレッド。
 じゃれ合いが高度すぎて、見ていて心臓に悪い。

 いやそれはともかく、作戦は本当に悪くない。
 愛し合っているは言いすぎだけど、まあ……プリンスと婚約するよりはよほど目立たない相手だ。
 どうせ婚約しているし、わたしさえ覚悟を決めれば問題はないように思える。
 両親に報告するから今日すぐにとはいかないが、金曜日までに婚姻届を出すのは不可能ではないだろう。

 レッドの言葉どおり、勝ち確の予感がした。

 ――しかし、

「わたくしは嫌ですね。
 そんな、対抗策として結婚するなんてありえません。
 もちろん、わたくしはモブリンお嬢様を愛しております。
 でも、婚姻届は、プリンスとやらを正々堂々と打ち破り、そのあとで愛の証として提出すべきです」

 マッスリーヌが、ポージングの腕の形でハートを作り、鼓動のように筋肉を激しく震わせながら熱弁しだした。
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