【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

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第14話:とりあえず利害は一致しているから

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 だいぶ衝撃が大きい。
 マッスリーヌが求婚していたことにも驚いたけど、それよりずっと、元のモブリンの発言に驚いた。

 モブ道って、わたしの専売特許じゃなかったんだ……。
 たまたま転生した身体の持ち主が、わたしの思想を元から持っていたなんて。
 そんなことって……ある?

「さ、再現ありがとぉ。
 わたしの真似、とぉっても上手だわぁ」
「いえ、その口調に戻らなくて大丈夫です。
 昨日のは、その、入学初日のアレ……ですよね?」
「アレって?」
「魔法学校デビューです」

 魔法学校デビュー。
 なるほど、高校デビューみたいなやつね。
 この世界でも、「新しい自分で新しい友だち!」みたいなこっぱずかしい学生はいるのか。
 キャラを作っている時点で誠実ではないというのに。

 って、それをわたしがしていたって話だ。
 そう思われるのは恥ずかしいけど、それで話が通るならしかたがない。

「あー、うん、そうなの。
 たった一日で『これはないわ』と思って、戻した」
「それでいいと思います。
 正直あのときは、求婚するの早まったかなと思いましたから」

 ですよね。
 でも、そこから筋肉メイドとして押し掛けることになった経緯が気になる。

「それでさ、段階を踏んで普通にやれって言われて、マッスリーヌは言ってくれたよね」
「はい、筋肉と相談して、答えました。
 それではまず婚約しましょう。
 寝食はともにしたいので、メイドをやります。
 ……以上ですね」

 婚約していた!
 ちょ……えー?
 モブリン、それをOKしたわけ?
 あんたのモブ道ってなんなのよ。

 普通の基準がわからない。
 わからないけど、とにかくこの世界でのわたしは、筋肉メイドと婚約している状態から人生がスタートしていたのだ。
 ようやく基本設定が判明したことになる。
 すごい基本設定だけど……。
 おっさん女神よ、どういうおつもり?

「うーん……まあその、あれよね。
 あんたはわたしと婚約しているわけだから、あのプリンスが婚約者としてわたしを指名するのは阻止したい」
「はい、言語道断です」
「だったら、利害は一致よ。
 わたしもプリンスとの婚約なんて嫌だもん」
「お嬢様!」

 目まぐるしく変わるポージングで、喜びを表現している。
 暑苦しいことこのうえないけど、犬が庭を駆け回っているようなものと思えば可愛いかもしれない。

 あ、ダメだ。
 ほとばしる汗が飛んできた。

「落ち着いてマッスリーヌ」
「はい、お嬢様。
 筋トレして心を落ち着けます」

 そういえば、そういうスキルだった。
 どのみち筋肉からは逃げられないのか……。

 と、そこで、ターコが近寄ってきた。
 まえの休み時間のことがあるので、マッスリーヌがすぐに反応する。

「貴様、またお嬢様に言い寄ろうというのか!」
「待てよ、落ち着け。
 スキルを使って待機していろ。
 アタシはモブリンに感動したって伝えにきただけだ」
「感動だと?」

 いきり立つマッスリーヌに待てを命ずる。
 わたしが先を促すと、ターコはにやりと笑って、わたしに言った。

「あんた、すげーこと考えてるみたいだな。
 プリンスの婚約を断ろうってんだろう?
 あのスキルを目にしてもそれができると思うだなんて、アタシは尊敬の念を禁じえないよ」
「あ……」

 プリンスの《ラッキー・スター》を忘れていた。
 あのスキルのまえには、彼に不都合な展開などひとつたりとも許されないだろう。
 婚約を断るなんてできるわけがない。
 指名されたが最後、どう行動しようがなにを言おうが、あれよあれよという間に婚約成立しているはず。

 王子と婚約して、モブ道からドロップアウト確定だ。

「クラスのほかのやつにも協力させるから、あのプリンスにひと泡吹かせてやろうぜ。
 この世の主人公みたいな顔しているあいつには、みんな内心、うんざりしてるんだ」

 おお?
 普通をキープできる可能性が……!

「なあ、やってやろうぜモブリン。
 ちょっと悔しい気持ちもあるが、あんたこそあいつをぎゃふんと言わせる主人公にふさわしい」

 ぎゃふん!
 成功しても失敗しても、わたしもう、普通じゃなくない?
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