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第12話:そっとしておいてくれない?
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あうあうと言葉を失うわたしに、プリンスはきらきらのウインクをして去っていった。
残り香も最高にいい匂い。
本当になんなんだろう、あの高貴な存在は。
「って、うっとりしている場合じゃない。
わたしが婚約者の筆頭候補?
とんでもないことになったわ」
「ええ、とんでもない男ですね」
振り返ると、マッスリーヌが苦々しい顔をして立っていた。
そういえばプリンスが近づいているあいだ、彼女がふしぎと黙っていたことに思い当たる。
あれだけ接近していれば、「お嬢様に近づくな」とか言いそうなものだけど。
「あんたでもプリンス相手では気が引けた?」
「いえ、全力で応戦したのですが、すべて躱されました。
あのスキル、あまりにも強力です」
「え? いつ応戦したって?」
驚くわたしに、屈辱の表情で彼女は言う。
「あの男の《ラッキー・スター》により、わたくしの声と攻撃はお嬢様に察知されませんでした。
わたくしが声を発するたびに、たまたま他の音が逆位相で打ち消す。
パンチを繰り出そうとするたびに、たまたま彼が投げた金貨がわたくしの身体の軸をずらして空を切らせる。
これらすべてを、お嬢様がたまたま視線を動かしたときに、見えない位置でおこなっていました」
「そんなことが、わたしの視界のそとで繰り広げられていたなんて……」
「はい。
お嬢様との会話を邪魔させないという、そのためだけに」
か、カッコいい……。
スキルの力でやっているにしても、そうやってわたしとの会話を守ってくれたというのが、なんというか……もう、まさに王子様だ。
自分で言っていたように、彼こそが唯一無二のプリンスと言えるだろう。
ほかのクラスメイトも美形・強キャラぞろいだが、申し訳ないことに、ちょっとモノが違う。
「ほわ~」
「ほわ~、じゃありません。
なんですかお嬢様、その恋する乙女のような間抜けな顔は」
恋する乙女を間抜けと言うな。
思わずムッとしたが、おかげですこし冷静になれた。
そうだ、わたしはモブ道を極めるためにモブリンに転生した。
王子なんかと婚約したら、もう絶対にモブじゃない。
モブリンという名に恥じることになってしまう。
「いけないいけない、婚約はどうにかして回避しないと」
「はい、それでこそモブリンお嬢様です。
わたくしも限界を超えて筋トレをおこない、あのプリンスを打倒してみせます」
「打倒はしなくていいけど……」
ていうか、「それでこそ」ってどういう意味だろう。
わたしがモブとして生きたいことって、マッスリーヌに伝えた?
「ええと、なんでマッスリーヌはわたしとプリンスの婚約を阻止したいの?
わたしのメイドを続けたいなら、彼は聞いてくれそうな気がするけど」
「はい?」
黒髪ポニテをびくんと揺らして、目をまんまるにして驚いている。
そんなに意外なことを訊いただろうか。
わけもわからず待っているわたしに、マッスリーヌがようやく答える。
「わたくしがいちばん、お嬢様のことを愛しております。
絶対にほかの誰にも渡しません。
この身体じゅう、すべての筋肉に誓って!」
「おおう」
今度はわたしのほうがびっくりだよ。
残り香も最高にいい匂い。
本当になんなんだろう、あの高貴な存在は。
「って、うっとりしている場合じゃない。
わたしが婚約者の筆頭候補?
とんでもないことになったわ」
「ええ、とんでもない男ですね」
振り返ると、マッスリーヌが苦々しい顔をして立っていた。
そういえばプリンスが近づいているあいだ、彼女がふしぎと黙っていたことに思い当たる。
あれだけ接近していれば、「お嬢様に近づくな」とか言いそうなものだけど。
「あんたでもプリンス相手では気が引けた?」
「いえ、全力で応戦したのですが、すべて躱されました。
あのスキル、あまりにも強力です」
「え? いつ応戦したって?」
驚くわたしに、屈辱の表情で彼女は言う。
「あの男の《ラッキー・スター》により、わたくしの声と攻撃はお嬢様に察知されませんでした。
わたくしが声を発するたびに、たまたま他の音が逆位相で打ち消す。
パンチを繰り出そうとするたびに、たまたま彼が投げた金貨がわたくしの身体の軸をずらして空を切らせる。
これらすべてを、お嬢様がたまたま視線を動かしたときに、見えない位置でおこなっていました」
「そんなことが、わたしの視界のそとで繰り広げられていたなんて……」
「はい。
お嬢様との会話を邪魔させないという、そのためだけに」
か、カッコいい……。
スキルの力でやっているにしても、そうやってわたしとの会話を守ってくれたというのが、なんというか……もう、まさに王子様だ。
自分で言っていたように、彼こそが唯一無二のプリンスと言えるだろう。
ほかのクラスメイトも美形・強キャラぞろいだが、申し訳ないことに、ちょっとモノが違う。
「ほわ~」
「ほわ~、じゃありません。
なんですかお嬢様、その恋する乙女のような間抜けな顔は」
恋する乙女を間抜けと言うな。
思わずムッとしたが、おかげですこし冷静になれた。
そうだ、わたしはモブ道を極めるためにモブリンに転生した。
王子なんかと婚約したら、もう絶対にモブじゃない。
モブリンという名に恥じることになってしまう。
「いけないいけない、婚約はどうにかして回避しないと」
「はい、それでこそモブリンお嬢様です。
わたくしも限界を超えて筋トレをおこない、あのプリンスを打倒してみせます」
「打倒はしなくていいけど……」
ていうか、「それでこそ」ってどういう意味だろう。
わたしがモブとして生きたいことって、マッスリーヌに伝えた?
「ええと、なんでマッスリーヌはわたしとプリンスの婚約を阻止したいの?
わたしのメイドを続けたいなら、彼は聞いてくれそうな気がするけど」
「はい?」
黒髪ポニテをびくんと揺らして、目をまんまるにして驚いている。
そんなに意外なことを訊いただろうか。
わけもわからず待っているわたしに、マッスリーヌがようやく答える。
「わたくしがいちばん、お嬢様のことを愛しております。
絶対にほかの誰にも渡しません。
この身体じゅう、すべての筋肉に誓って!」
「おおう」
今度はわたしのほうがびっくりだよ。
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