9 / 33
第9話:美男美女しかいなくない?
しおりを挟む
ヤクザ教師の授業が終わって、休み時間となった。
驚いたことに授業内容はただの数学で、前世で習ったものと変わらない。
筋肉のなせるわざなのか微動だにせず立っているマッスリーヌに、雑談っぽく訊いてみる。
「魔法学校って名前だけなの?」
「? と、言いますと?」
「いや、その、魔法の授業とかないのかなって。
杖を構えてびゅーって飛ばすのとか。
ヘンテコな草を調合して、変身する薬を作ったり」
言ってて恥ずかしくなってきたが、魔法学校のイメージってそういうものではないだろうか。
が、マッスリーヌはすこし笑って言った。
「そういう習得するタイプの魔法は、おとぎ話でしか聞いたことがありませんね。
校名にある魔法とは、スキルの昔の呼びかたです。
集団生活を通してスキルの使いかたを学ぶということで、魔法学校とつけられたと聞いております」
わたし以外に「スキルなし」がいないとなると、スキルは誰もが等しく持っているものだ。
ありふれすぎて言葉自体がそこまで大層な意味を持っていないのかもしれない。
修学旅行で修学する学生なんていないのと同じ……って、これは違うかな?
いい例えがないかとうなっているわたしに、誰かが近づいてきた。
「モブリンくん、今日も一段と謎めいているね。
レッドじゃなくても興味を引かれてしかたないよ」
見上げると、銀髪ロン毛の男子生徒がわたしの顔を見つめている。
背も高いし、めっちゃくちゃイケメンだ。
なんだこのひと、ゲームの主人公かなにか?
「ど、どうも……」
「俺の名前は、ゼファー。
疾風のゼファーと呼んでくれてもいい。
大気を操るスキル、《ウィンド》を持っている」
名乗った直後、屋内なのに銀髪がふぁさ~っと風になびいた。
わざわざ登場演出のためにスキルを使ったということだろう。
なんてキザなやつ。
でも悔しい、顔がいいからわりと許せる。
「わたしになんて興味持たなくていいよ。
判定する価値もない、つまんないスキルだから」
「お、それはヒントかな?
価値がない……ふむ、わかってきたぞ。
相手を価値なきものに貶めるスキルじゃないか?
だから能力判定器が価値を失い、きみのスキルを見逃した。
おお、なんて恐ろしいスキルなんだ」
「違うから」
無効化スキルなんて、主人公が使うタイプのやつだ。
そんなもの、モブのわたしは持っていない。
もし持っていたら、さっきのレッド戦で迷わず無効化していたのに。
と、そこにもうひとりクラスメイトがやってきた。
今度は女子だ。
「へっ、疾風のゼファーが聞いて呆れるぜ。
判定器は無効化スキルでも無効化されない。
中身は空っぽで、過去に判定スキルを持っていた人間の概念だけを封じ込めてあるってのは有名な話さ」
「わ、わかっている。
今のは……そう、ただの冗談だよ。
モブリンの反応を見たかっただけだ」
「どーだかな」
言って、その女子生徒はわたしのほうに「よっ」と軽く挨拶した。
青い髪を短く刈り上げた、ボーイッシュな子だ。
顔は可愛いというよりカッコいい。
切れ長の目で見つめられると、同性のわたしでもくらっときてしまう。
「アタシはターコイズ。
ターコって呼ぶやつが多いな。
スキルはこれさ」
手のひらを上に向けると、ポシュッと音がして、そこに一輪の青いバラの花が出現した。
「お花が現れるスキル?」
「ははっ、《クリエイト》っつーんだ。
花だけじゃなくて、なんでも創れる。
早弁したいときは、言ってくれたら食べたいものを出してやるよ」
「な、なんでも?」
つっよ!
強いなんて言葉では表現できない、神様のスキルだ。
主人公なんかは逆に持てないレベル。
だって物語が破綻しちゃうんだもの。
「は~、みんなすごいね……」
思わず出た、正直な感想だった。
時間を飛ばす《スキップ・オブ・ザ・ワールド》。
重力を操る《グラヴィティ・コントロール》。
人を従わせる《ザ・ワード》。
大気を操る《ウィンド》。
そして、万物を創造する《クリエイト》。
どれもこれも、絶対に脇役なんかが所持するわけがない、主役級スキルばかり。
これ以外にも、この教室には、死にかけたわたしを治した生徒と、激しく壊れた教室をきれいに復元した生徒が存在する。
しかもクラスじゅう、見渡すかぎり全員、顔がいい。
凶悪フェイスの先生だって、極道映画の主役が張れそうな感じの男前だ。
とんでもない異世界に来てしまった。
スキルなし&平凡顔のわたしが、これでは逆に目立ってしまう。
「ははっ、モブリンの顔見てると、なんか和むな。
アタシ、あんたの親友になりたい。
親友を通り越して恋人でもいいくらいさ」
「お嬢様の貞操は、わたくしが守ります。
いえ、わたくしのこの筋肉だけが、お嬢様を愛することを許されているのです」
「お? やるか?」
おーい……。
わたしのことで争わないで。
いや本気で、争われたらモブじゃなくなるから。
驚いたことに授業内容はただの数学で、前世で習ったものと変わらない。
筋肉のなせるわざなのか微動だにせず立っているマッスリーヌに、雑談っぽく訊いてみる。
「魔法学校って名前だけなの?」
「? と、言いますと?」
「いや、その、魔法の授業とかないのかなって。
杖を構えてびゅーって飛ばすのとか。
ヘンテコな草を調合して、変身する薬を作ったり」
言ってて恥ずかしくなってきたが、魔法学校のイメージってそういうものではないだろうか。
が、マッスリーヌはすこし笑って言った。
「そういう習得するタイプの魔法は、おとぎ話でしか聞いたことがありませんね。
校名にある魔法とは、スキルの昔の呼びかたです。
集団生活を通してスキルの使いかたを学ぶということで、魔法学校とつけられたと聞いております」
わたし以外に「スキルなし」がいないとなると、スキルは誰もが等しく持っているものだ。
ありふれすぎて言葉自体がそこまで大層な意味を持っていないのかもしれない。
修学旅行で修学する学生なんていないのと同じ……って、これは違うかな?
いい例えがないかとうなっているわたしに、誰かが近づいてきた。
「モブリンくん、今日も一段と謎めいているね。
レッドじゃなくても興味を引かれてしかたないよ」
見上げると、銀髪ロン毛の男子生徒がわたしの顔を見つめている。
背も高いし、めっちゃくちゃイケメンだ。
なんだこのひと、ゲームの主人公かなにか?
「ど、どうも……」
「俺の名前は、ゼファー。
疾風のゼファーと呼んでくれてもいい。
大気を操るスキル、《ウィンド》を持っている」
名乗った直後、屋内なのに銀髪がふぁさ~っと風になびいた。
わざわざ登場演出のためにスキルを使ったということだろう。
なんてキザなやつ。
でも悔しい、顔がいいからわりと許せる。
「わたしになんて興味持たなくていいよ。
判定する価値もない、つまんないスキルだから」
「お、それはヒントかな?
価値がない……ふむ、わかってきたぞ。
相手を価値なきものに貶めるスキルじゃないか?
だから能力判定器が価値を失い、きみのスキルを見逃した。
おお、なんて恐ろしいスキルなんだ」
「違うから」
無効化スキルなんて、主人公が使うタイプのやつだ。
そんなもの、モブのわたしは持っていない。
もし持っていたら、さっきのレッド戦で迷わず無効化していたのに。
と、そこにもうひとりクラスメイトがやってきた。
今度は女子だ。
「へっ、疾風のゼファーが聞いて呆れるぜ。
判定器は無効化スキルでも無効化されない。
中身は空っぽで、過去に判定スキルを持っていた人間の概念だけを封じ込めてあるってのは有名な話さ」
「わ、わかっている。
今のは……そう、ただの冗談だよ。
モブリンの反応を見たかっただけだ」
「どーだかな」
言って、その女子生徒はわたしのほうに「よっ」と軽く挨拶した。
青い髪を短く刈り上げた、ボーイッシュな子だ。
顔は可愛いというよりカッコいい。
切れ長の目で見つめられると、同性のわたしでもくらっときてしまう。
「アタシはターコイズ。
ターコって呼ぶやつが多いな。
スキルはこれさ」
手のひらを上に向けると、ポシュッと音がして、そこに一輪の青いバラの花が出現した。
「お花が現れるスキル?」
「ははっ、《クリエイト》っつーんだ。
花だけじゃなくて、なんでも創れる。
早弁したいときは、言ってくれたら食べたいものを出してやるよ」
「な、なんでも?」
つっよ!
強いなんて言葉では表現できない、神様のスキルだ。
主人公なんかは逆に持てないレベル。
だって物語が破綻しちゃうんだもの。
「は~、みんなすごいね……」
思わず出た、正直な感想だった。
時間を飛ばす《スキップ・オブ・ザ・ワールド》。
重力を操る《グラヴィティ・コントロール》。
人を従わせる《ザ・ワード》。
大気を操る《ウィンド》。
そして、万物を創造する《クリエイト》。
どれもこれも、絶対に脇役なんかが所持するわけがない、主役級スキルばかり。
これ以外にも、この教室には、死にかけたわたしを治した生徒と、激しく壊れた教室をきれいに復元した生徒が存在する。
しかもクラスじゅう、見渡すかぎり全員、顔がいい。
凶悪フェイスの先生だって、極道映画の主役が張れそうな感じの男前だ。
とんでもない異世界に来てしまった。
スキルなし&平凡顔のわたしが、これでは逆に目立ってしまう。
「ははっ、モブリンの顔見てると、なんか和むな。
アタシ、あんたの親友になりたい。
親友を通り越して恋人でもいいくらいさ」
「お嬢様の貞操は、わたくしが守ります。
いえ、わたくしのこの筋肉だけが、お嬢様を愛することを許されているのです」
「お? やるか?」
おーい……。
わたしのことで争わないで。
いや本気で、争われたらモブじゃなくなるから。
39
お気に入りに追加
1,018
あなたにおすすめの小説
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します
天宮有
恋愛
私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。
その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。
シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。
その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。
それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。
私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~
玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。
平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。
それが噂のバツ3将軍。
しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。
求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。
果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか?
※小説家になろう。でも公開しています

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる