【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

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第8話:わたしは下位カーストになりたい

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「えっ……?」

 気がつくとわたしは、椅子に座っていた。
 死んだと思ったのに生きている。
 いや、生きているというのは勘違いで、これはもう来世なのだろうか。
 天界を経由せずに再び転生した?

 きょろきょろと見渡すと、ここは教室のなかだということがわかった。
 ほかの生徒もみんな席についており、教卓には教師らしき人がいる。

 と、そこで、

「あー! つまんねーことすんなって!
 これじゃわかんねーだろうが」

 生徒のひとりがふわりと宙に浮かんだ。
 赤髪ピアスの、あのイケメンだ。

 彼が怒鳴っている方向には、金髪カチューシャの美人が座っている。
 あれはそう、リリィだ。
 わたしが気づいたことに彼女も気づいたらしく、こちらを向いて可愛らしく手を振ってきた。

「ど、どういうこと……?」
「彼女がスキルを使ってくれたみたいですね。
 わたくしも倒れていたはずですが、いつの間にかここにいました」

 わたしの呟きに、背後から答えてくれたのはマッスリーヌだ。
 彼女には椅子はないらしい。
 わたしのすぐ後ろに立つのが定位置ということか。

「リリィのスキルって、たしか――」
「《スキップ・オブ・ザ・ワールド》と言っていましたね。
 おそらく、先ほどのごたごたが片付いたところまで、時間を飛ばしたということでしょう」
「でも、わたしの足も治ってる。
 時間を飛ばすというのは、こういうのも含まれているの?」

 わたくしの怪我も消えています、と背筋をムキっと見せてくる。
 そこを怪我していたという意味なのか、筋肉を見せつけたかったのかはわからない。
 あ、両方か。

「彼女のスキルが、怪我の治療まで可能とは思えません。
 それでは系統が違いすぎます。
 つまり、治療と、あと教室の復元は、ほかの生徒のスキルということでしょう。
 赤髪の彼がお嬢様を試したあと、スキルで元どおりにするつもりだったのだと思います」
「なるほど」

 納得したふうに答えてはみたが、なかなか理解が追いついてくれない。
 整理して考えてみよう。

 リリィのスキルは時間をすっ飛ばすだけ。
 飛ばすというのは、途中で起こったことを意識できないということ。
 起こったことを誰も覚えていないが、起こるはずだったことは「あった」として処理される。

 つまり、ええと……。
 赤髪が壊して、誰かが治して、それでおしまいという悪戯だったということだ。
 わたしは痛くてつらい思いをするけど、あとに引きずる怪我は残らない。

 でもリリィが時間を飛ばしてくれたおかげで、痛くてつらい思いもしなくて済んだ。
 その代わり、赤髪たちの目的――わたしのスキル暴露も失敗したというわけだ。

 順を追って考えたら、どうにか理解できた。
 そして改めてわかった。

 この教室の連中は、普通じゃない。
 ……わたしひとりを除いて。

 陰鬱とした気持ちになったところで、教師がだるそうに言葉を発した。

「あー、これはリリィのしわざか。
 職員室でのんびりしていたのに、余計なことをしやがって。
 せっかく淹れたコーヒーを飲み損ねたじゃないか」

 よく見ると、教師はめちゃくちゃガラが悪い。
 オールバックをつやつやと光らせて、黒いサングラスをかけている。
 ヤのつく職業と言われたほうがしっくりくるくらいだ。

 だが、リリィは臆することなく言い返す。

「先生が覚えていないだけで、コーヒーは飲んだはずです。
 透視スキルを持っている生徒に胃のなかを視てもらっても構いません」
「うるせえ、そういうことじゃない。
 コーヒーを飲むというのはな、コーヒーを飲んでいる瞬間を楽しむのがメインだ。
 食事で腹を満たすのとはわけが違うんだぞ」

 低い声でそう言って、「でもまあ」と続ける。

「リリィは、レッドがなにかやらかしたのを飛ばしてくれたんだな。
 厄介ごとはあったんだろうが、意識に残らないってのはありがたい。
 コーヒーの恨みと相殺してトントンだ。
 ただしレッド、てめえはあとで職員室に連行する」
「うげえ」

 浮いていた赤髪の彼、レッドがドカッと椅子に座った。
 そして、わたしのほうを恨めしそうに見てくる。

「モブリンが悪いんだ。
 あいつがスキル隠しなんかして目立とうとするから、おれは――」
「レッド、なんか言ったか?
 昨日も言ったが、先生のスキルは《ザ・ワード》。
 言葉を聞いたやつを無条件に操ることができる。
 死ねと言えばおまえは死ぬ。
 シンプルだが、最強だ」
「……悪かったよ」

 こちらにひとこと謝ってくれたが、わたしはそれどころじゃなかった。
 スキル隠しをして目立とうとしている?
 冗談じゃない。

 冗談じゃないよ、ほんと……。
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