【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca

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第7話:グラヴィティ黒板消し

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 王立魔法学校に到着し、昇降口を通って教室に向かう。
 当たり前な顔をしてマッスリーヌが横にいるのがわたしにとっては異様なのだが、まわりを見渡すと、たしかにメイドを連れている生徒は他にもちらほらいる。
 メイド連れは、みんな金持ちの子どもって感じだけど……。

 そんなことに引け目を感じながら歩いていると、すこしだけ前にいるリリィがぴくっと立ち止まった。

「あれは……」

 教室のドアがわずかに開いており、その上部に見慣れた物体が挟まっている。
 黒板消しだ。

 わたしが教室に近づくと、なかで誰かが「来たぞ」と言うのが聞こえた。
 ははあ、なるほど。
 有名人のわたしに対するいたずらといったところか。

「モブリンお嬢様、ここはわたくしが――」
「ううん、気にしないで。
 こういうのは下手な反応がエスカレートを招くのよ」

 悪目立ちすると、こういう目に遭うのはよく知っている。
 でもここで過剰に反応するのは相手の思うつぼだ。
 服が汚れるのは癪だが、それくらいで「つまらないやつ」と思ってもらえるなら安いもの。

 わたしは素知らぬ顔をして足を前に進め、教室のドアに手をかけた。

「今だ! 《グラヴィティ・コントロール》!」

 叫び声が聞こえたと思った瞬間、右足のつま先にとんでもない衝撃を受けた。

「お嬢様!」
「モブリン!」

 駆け寄ってくるマッスリーヌとリリィに、大丈夫と言おうとした。
 が、衝撃のあまり声が出てくれない。
 黒板消しが落ちてきたのはわかったが、それがぶつかったつま先を中心に、教室の床にクレーターができている。
 なにこれ? なにこれ?

「おかしいな、何のスキルも使わなかった。
 これくらいじゃ痛くもかゆくもないということか?
 じゃあ、今度はこれだ。
 いけ、《グラヴィティ・コントロール》!」

 今度は叫び声の主がわかった。
 教室の中央に立っている、悪ガキがそのまま大きくなったような不良男子。
 赤い髪で右耳にピアスをつけて、ちょっと、いやだいぶイケメン。

 その彼が叫ぶと、机のひとつが宙に浮かび、わたしに向かって飛んできた。

「危ない、お嬢様!」

 鈍い音が鳴り響き、わたしをかばって立ちふさがったマッスリーヌが倒れ込む。
 どこからか血を流して気絶している。
 これだけの筋肉があっても、あの机の衝撃に耐えられなかったということだ。

「ちょちょちょ、ちょっと待って。
 わたしそんなの食らったら死んじゃうわ」
「はっはー、そんなわけあるかよ。
 足が潰れたのも気にしないやつが、これくらいで死ぬわけがない。
 耐久力関係のスキルか?
 よし、おれの最大出力と勝負だ」
「う、わ……」

 今度は教室じゅうの机という机が、宙に浮かんだ。
 その数、三十はあるだろう。
 このひとつひとつが、さっきの威力だというなら、もうここでわたしは人生終了。
 足が潰れていると言われたとおり、感覚が麻痺して右足がすこしも動いてくれない。

「お願い、待って!
 足が潰れて動けない」
「おっと、精神操作かな。
 耳を傾けるとあやうく乗っ取られかねない。
 問答無用! 《グラヴィティ・コントロール・マキシマム》!」

 地球が滅亡するときってこういう感じかもしれない、と思った。
 大量の机が隕石のように、おそらくはとんでもない質量をもって飛んでくる。
 マッスリーヌは気絶しているし、わたしは動けない。

 これは死んだ。
 次に死ぬときは別の女神がいいと思っていたが、今はあのおっさん女神がいい。
 スキルについてなにも言わなかったことを責め立てて、ぼっこぼこに殴ってやりたい。

 ああ……さようなら。
 さようなら、モブ人生。

 あきらめたわたしの全身に、無数の机が降り注いだ。
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