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第6話:無能力者に期待する風潮なんなの?
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普通科はわたしひとり……。
その事実に愕然としながら、リリィと一緒に学校へと向かう。
「お嬢様、もうすぐです」
「いやいや、なんであんたもいるの?」
当然の突っ込みをしたつもりだったが、マッスリーヌどころかリリィにまで意外そうな顔をされた。
「モブリンって昨日もメイドさんと一緒だったから、一心同体みたいな関係かと思ってた。
メイドとご主人様ってそういうものだし。
ゆうべ、喧嘩でもしちゃった?」
「え、あー……ううん、違う違う。
わたしももう子どもじゃないから、保護者みたいに守ってもらうのは卒業かなって」
うまく切り抜けられた……かな?
マッスリーヌのほうをちらりと窺うと、隆起した上腕二頭筋に相談しているところだった。
「モブリンお嬢様はなにをおっしゃっているのだろう。
昨日からお仕えしているわたくしを、二日目でもう卒業とはどういう意味だ。
え、なんだって?
筋肉が足りない?
そうか、鍛錬が足りないことを暗に指摘なさっているということか!」
「違うから!」
わたしがマッスリーヌに見初められたのは登校時だと言っていた。
そうか、それが昨日の入学初日……。
記憶がないものだから、てっきりもう長いあいだ一緒に暮らしているものと思ってしまった。
元のモブリンは、昨日はじめて王立魔法学校に登校し、その途中でマッスリーヌにひと目惚れされ、彼女と一緒に教室に入り、ひとりきりの普通科ということで話題となった。
そして寝て起きたら、わたしが上書きで転生した。
怒涛の一日じゃん。
おとといまでは普通だった彼女の人生が、たった一日で一変している。
可哀想なモブリン。
いや、彼女はわたしみたいに普通を望んでいなかったのかもしれないけど。
もしかしたら今日から始まる未知なる生活に、わくわくしながらベッドに横になったのかもしれない。
どっちにしろ可哀想だ。
でも、転生してしまったものはどうしようもない。
切り替えていこう。
わたしはこんな境遇であっても、普通をめざす!
「握ったこぶしを空に突き上げて、どうしたの?」
「ううん、リリィ、なんでもない。
ちょっと、今日からの学生生活を気合い入れてかかろうと思って」
「うふふ、さすがね。
能力判定をすり抜けたあなたのスキルが、どんなものだかますます楽しみになってきた」
ん?
能力判定をすり抜けた?
いやいや、そういうわけじゃないと思いますけど。
わたし魔法とか本当に使えないし、真の無能力だと思う。
「ちなみに私は、《スキップ・オブ・ザ・ワールド》っていうスキル。
時間を飛ばせるんだ。
便利ではあるんだけど、飛ばしちゃうと物足りないからあんまり使わない」
「ふ、ふうん」
すご。
なんだかラスボス感のある能力のような……。
「魔法学校の能力判定って、どんな些細なスキルでも確実に発見できることで有名なのよね。
だって未知のスキルを持っている人間が野放しにされるなんて怖いでしょう?
そんな能力判定が、あなたのことを完全に『無能力』としてしまったから、もう大変。
大慌てで最強の魔法障壁で囲って、教室のあなたの席だけを普通科としたの。
昨日はあなたがどんなスキルを持っているのか、遅くまでみんなで想像して楽しかったわ」
「い、いや~。
本当に無能力って可能性は考えないの……かな」
「ぷっ、スキルなしってこと?」
リリィが思わず吹き出す。
「そんな人間がこの世界にいるわけないじゃない。
もしそんなのがいたら、歴史的特異点として世界中から研究者が殺到しちゃう。
笑わせないでよ。
もしかしてモブリンのスキルって、お笑い関係かしら」
「だ、だよね~。
わたしたぶん、うっかり見過ごされただけですごく平凡なスキルだよ」
どうしよう。
転生のときにスキルの要望なんて出さなかった。
だってあの女神が教えてくれないから。
ううう、まずいまずい。
歴史的特異点は本当にまずい。
普通どころか、歴史上でただひとりの特別な人間になってしまう。
「ところで、メイドさんのスキルはなんですか?」
「わたくしのスキルは《マッスル・ヒーリング》ですね。
筋トレをすればするほど、心が穏やかになります」
「どうりで落ち着いているわ」
「なにがあっても取り乱さない自信があります。
いつでもどこでも筋トレはできますから」
それって、ただの筋トレ依存症では?
その事実に愕然としながら、リリィと一緒に学校へと向かう。
「お嬢様、もうすぐです」
「いやいや、なんであんたもいるの?」
当然の突っ込みをしたつもりだったが、マッスリーヌどころかリリィにまで意外そうな顔をされた。
「モブリンって昨日もメイドさんと一緒だったから、一心同体みたいな関係かと思ってた。
メイドとご主人様ってそういうものだし。
ゆうべ、喧嘩でもしちゃった?」
「え、あー……ううん、違う違う。
わたしももう子どもじゃないから、保護者みたいに守ってもらうのは卒業かなって」
うまく切り抜けられた……かな?
マッスリーヌのほうをちらりと窺うと、隆起した上腕二頭筋に相談しているところだった。
「モブリンお嬢様はなにをおっしゃっているのだろう。
昨日からお仕えしているわたくしを、二日目でもう卒業とはどういう意味だ。
え、なんだって?
筋肉が足りない?
そうか、鍛錬が足りないことを暗に指摘なさっているということか!」
「違うから!」
わたしがマッスリーヌに見初められたのは登校時だと言っていた。
そうか、それが昨日の入学初日……。
記憶がないものだから、てっきりもう長いあいだ一緒に暮らしているものと思ってしまった。
元のモブリンは、昨日はじめて王立魔法学校に登校し、その途中でマッスリーヌにひと目惚れされ、彼女と一緒に教室に入り、ひとりきりの普通科ということで話題となった。
そして寝て起きたら、わたしが上書きで転生した。
怒涛の一日じゃん。
おとといまでは普通だった彼女の人生が、たった一日で一変している。
可哀想なモブリン。
いや、彼女はわたしみたいに普通を望んでいなかったのかもしれないけど。
もしかしたら今日から始まる未知なる生活に、わくわくしながらベッドに横になったのかもしれない。
どっちにしろ可哀想だ。
でも、転生してしまったものはどうしようもない。
切り替えていこう。
わたしはこんな境遇であっても、普通をめざす!
「握ったこぶしを空に突き上げて、どうしたの?」
「ううん、リリィ、なんでもない。
ちょっと、今日からの学生生活を気合い入れてかかろうと思って」
「うふふ、さすがね。
能力判定をすり抜けたあなたのスキルが、どんなものだかますます楽しみになってきた」
ん?
能力判定をすり抜けた?
いやいや、そういうわけじゃないと思いますけど。
わたし魔法とか本当に使えないし、真の無能力だと思う。
「ちなみに私は、《スキップ・オブ・ザ・ワールド》っていうスキル。
時間を飛ばせるんだ。
便利ではあるんだけど、飛ばしちゃうと物足りないからあんまり使わない」
「ふ、ふうん」
すご。
なんだかラスボス感のある能力のような……。
「魔法学校の能力判定って、どんな些細なスキルでも確実に発見できることで有名なのよね。
だって未知のスキルを持っている人間が野放しにされるなんて怖いでしょう?
そんな能力判定が、あなたのことを完全に『無能力』としてしまったから、もう大変。
大慌てで最強の魔法障壁で囲って、教室のあなたの席だけを普通科としたの。
昨日はあなたがどんなスキルを持っているのか、遅くまでみんなで想像して楽しかったわ」
「い、いや~。
本当に無能力って可能性は考えないの……かな」
「ぷっ、スキルなしってこと?」
リリィが思わず吹き出す。
「そんな人間がこの世界にいるわけないじゃない。
もしそんなのがいたら、歴史的特異点として世界中から研究者が殺到しちゃう。
笑わせないでよ。
もしかしてモブリンのスキルって、お笑い関係かしら」
「だ、だよね~。
わたしたぶん、うっかり見過ごされただけですごく平凡なスキルだよ」
どうしよう。
転生のときにスキルの要望なんて出さなかった。
だってあの女神が教えてくれないから。
ううう、まずいまずい。
歴史的特異点は本当にまずい。
普通どころか、歴史上でただひとりの特別な人間になってしまう。
「ところで、メイドさんのスキルはなんですか?」
「わたくしのスキルは《マッスル・ヒーリング》ですね。
筋トレをすればするほど、心が穏やかになります」
「どうりで落ち着いているわ」
「なにがあっても取り乱さない自信があります。
いつでもどこでも筋トレはできますから」
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