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第5話:普通科が普通じゃない
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「お嬢様! モブリンお嬢様!」
慌てて家を出たわたしのことを、マッスリーヌが追いかけてきた。
逃げたいけどおそらく逃げ切るのは難しい。
というか、改造メイド服の筋肉女と鬼ごっこをしている姿を人に見られたくない。
路地裏にさっと入り、そこで話を聞くことにした。
「いったいどうしたというの?
わたし、学校に行きたいんだけど」
「はい、承知しております。
バッグをお持ちしました。
それから、学校はそちらの方角ではありません」
「……ありがとう」
彼女からバッグを受け取り、お礼を言う。
これは普通にありがたかった。
考えてみれば、マッスリーヌは見た目とすぐにポージングする癖こそ奇抜だが、行動はとても親切だ。
メイドというのも伊達ではない。
今も、わたしのお礼の言葉に対する素直な気持ちをポージングで表現している。
悪いひとではないのだ。
「マッスリーヌ、これからもよろしくね」
「はい、お嬢様」
いちおう主従関係なので友情ではないのだけれど、はじめての異世界で心を許せる関係になれそうな気がした。
と、そこで。
「そこにいるのってモブリン?」
金髪カチューシャのすごい美人が声をかけてきた。
わたしと同じ制服を着ているところを見ると、同級生なのかもしれない。
上書きのような感じでモブリンとして転生したわたしは、元のモブリンがこの世界で暮らしてきた記憶を失っている。
この少女との関係性しだいでは、正直に記憶喪失とでも告白しておかないと話が合わなくなるだろう。
「えっと……」
「お嬢様、こちらは同じクラスのご学友です。
入学して二日目なのでまだ覚えておられないでしょうが、昨日、すこし会話をなさっていました。
名前はリリィと言っていたはずです」
マッスリーヌがすばやく耳打ちしてくれた。
そうか、わたしってまだ入学したばかりなのか。
だったら知らないことばかりでも不自然ではない。
記憶喪失なんて目立つ設定は使わないでおこうと、ひとまず思った。
「おはよ、リリィ」
「覚えてくれて嬉しいわ。
おはよう、モブリン」
「わたしこそだよ」
こんな平凡顔のモブキャラを、見るからにメインキャラといった顔立ちのクラスメイトが覚えてくれるなんて。
きっと分け隔てない性格の優しい子に違いない。
ところが、そんなわたしの言葉に、リリィは意外な反応を返してきた。
「わたしこそって、おかしなことを言うのね。
クラスでモブリンのことを覚えていない者なんて、ひとりもいないわ。
有名人ですもの」
「ゆ、有名人……?
ななな、なにかしたっけ、わたし」
自己紹介で盛大に噛んだとか、先生のことをお母さんって呼んだとか、そういうなにかをやらかした?
普通の容姿で普通に生きてきたモブリンのことだから、なにか突発的な事故がないかぎりは有名人になどなれるわけがない。
戸惑うわたしに、リリィが笑う。
「だってあなた、普通科じゃない」
「う、うん……そうだけど。
普通科だとおかしいのかな」
「うふふ」
大きな青い目でわたしを見つめて、リリィが言った。
「魔法学校で魔法科じゃないの、あなただけよ。
学校はじまって以来の普通科の生徒。
昨日あれだけ騒ぎになったのに、まったく、あなたったら浮世離れしてるんだから」
や、やば……。
ちょっと普通科を勘違いしていたみたい。
慌てて家を出たわたしのことを、マッスリーヌが追いかけてきた。
逃げたいけどおそらく逃げ切るのは難しい。
というか、改造メイド服の筋肉女と鬼ごっこをしている姿を人に見られたくない。
路地裏にさっと入り、そこで話を聞くことにした。
「いったいどうしたというの?
わたし、学校に行きたいんだけど」
「はい、承知しております。
バッグをお持ちしました。
それから、学校はそちらの方角ではありません」
「……ありがとう」
彼女からバッグを受け取り、お礼を言う。
これは普通にありがたかった。
考えてみれば、マッスリーヌは見た目とすぐにポージングする癖こそ奇抜だが、行動はとても親切だ。
メイドというのも伊達ではない。
今も、わたしのお礼の言葉に対する素直な気持ちをポージングで表現している。
悪いひとではないのだ。
「マッスリーヌ、これからもよろしくね」
「はい、お嬢様」
いちおう主従関係なので友情ではないのだけれど、はじめての異世界で心を許せる関係になれそうな気がした。
と、そこで。
「そこにいるのってモブリン?」
金髪カチューシャのすごい美人が声をかけてきた。
わたしと同じ制服を着ているところを見ると、同級生なのかもしれない。
上書きのような感じでモブリンとして転生したわたしは、元のモブリンがこの世界で暮らしてきた記憶を失っている。
この少女との関係性しだいでは、正直に記憶喪失とでも告白しておかないと話が合わなくなるだろう。
「えっと……」
「お嬢様、こちらは同じクラスのご学友です。
入学して二日目なのでまだ覚えておられないでしょうが、昨日、すこし会話をなさっていました。
名前はリリィと言っていたはずです」
マッスリーヌがすばやく耳打ちしてくれた。
そうか、わたしってまだ入学したばかりなのか。
だったら知らないことばかりでも不自然ではない。
記憶喪失なんて目立つ設定は使わないでおこうと、ひとまず思った。
「おはよ、リリィ」
「覚えてくれて嬉しいわ。
おはよう、モブリン」
「わたしこそだよ」
こんな平凡顔のモブキャラを、見るからにメインキャラといった顔立ちのクラスメイトが覚えてくれるなんて。
きっと分け隔てない性格の優しい子に違いない。
ところが、そんなわたしの言葉に、リリィは意外な反応を返してきた。
「わたしこそって、おかしなことを言うのね。
クラスでモブリンのことを覚えていない者なんて、ひとりもいないわ。
有名人ですもの」
「ゆ、有名人……?
ななな、なにかしたっけ、わたし」
自己紹介で盛大に噛んだとか、先生のことをお母さんって呼んだとか、そういうなにかをやらかした?
普通の容姿で普通に生きてきたモブリンのことだから、なにか突発的な事故がないかぎりは有名人になどなれるわけがない。
戸惑うわたしに、リリィが笑う。
「だってあなた、普通科じゃない」
「う、うん……そうだけど。
普通科だとおかしいのかな」
「うふふ」
大きな青い目でわたしを見つめて、リリィが言った。
「魔法学校で魔法科じゃないの、あなただけよ。
学校はじまって以来の普通科の生徒。
昨日あれだけ騒ぎになったのに、まったく、あなたったら浮世離れしてるんだから」
や、やば……。
ちょっと普通科を勘違いしていたみたい。
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