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第2話:メイドまで濃いとかやめてほしい
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「モブリンお嬢様、そろそろ起きてください」
「ん……」
揺すられて目を覚ますと、そこには腹筋バキバキのメイドがいた。
なぜ筋肉がわかるのかというと、彼女が身につけているメイド服が激しく改造されていて、二の腕やお腹など、見せつけたい箇所の筋肉がむき出しになっているからだ。
「すっご……。
ねえ、触っていい?」
「はい、どこからでもお触りください。
……あっ」
立派な筋肉のくせに、触ると変な声を出すもんだから、朝からいかがわしいことをしている感じになってきた。
「あんっ、お嬢様……そこ……ッ」
「あー、ほんとにガチガチね。
すごい鍛えかただってのが素人目にもわかる」
というか、つい触ってしまったが、こんなことをするのはモブらしくない。
モブ道に反するといえよう。
「はふん……お嬢様……?」
「いや、そんな目で見られても続きはないって。
もうやめやめ。
そんなことより、わたしのプロフィールを言ってみてもらえる?」
「かしこまりました。
では僭越ながら――」
筋肉メイドがポージングしながら教えてくれた情報は、こうだ。
わたしはモブリン、16歳の女の子。
容姿は普通で、美人でもブサイクでもない。
背も体重も、もちろん普通。
平凡な家庭に生まれ、普通に育てられてきた。
この世界ではみんなが通っている、王立魔法学校の普通科に所属している。
「普通ね」
「はい、ごく普通でございます」
にっこりと笑うわたしに、二の腕をぴくぴくさせながら答えてくれた。
このメイドから見れば大抵のひとは「普通」の範疇に入りそうだが、まあ、基本情報はわりと理想的だ。
あの女神、なかなかやるじゃん。
でも……モブリンという名前はどうなんだろう。
まるでモブのゴブリンみたいではないか。
「ねえ、変なことを訊くけど。
わたしの名前ってどう思う?」
「めちゃくちゃ可愛いと思います!
モブリンお嬢様の魅力がぐっと詰まった、これしかないと思える最高のお名前です」
「あそう」
そこは普通と言ってほしかった。
けどまあ、個人の感想なのでしかたがない。
この女性はだいぶ特殊だと思うので、感性の面でもいろいろと差し引いて考える必要があるだろう。
それにしても、
「平凡な家庭って、娘にメイドをつけたりするのかな。
これって普通?」
「いえ、わたくしは押しかけメイドですから。
通学中のモブリンお嬢様をお見かけして、ひと目惚れして無理やり働かせていただいております」
なにそれ怖い。
こんな筋肉むきむきの女性が押しかけてくるなんて、さぞかし両親は怖い思いをしたことだろう。
にしても、ひと目惚れか……。
普通な容姿のはずなんだけども。
「わたしのどこがそんなにいいの?」
「それはもうッ、わたくしめの筋肉をじっと見てくる、その澄んだ目がたまらないのです。
さきほどからもずっと視姦してくださって。
本当に最高でございます」
視姦って言った。
自分から見せつけておいて視姦って言った。
「そりゃ見るでしょ。
そんな目立つ筋肉してたら、嫌でも見ちゃうよ」
「お嬢様だけです。
世の中はみんな、自分のことばかりですから」
「そうかなあ」
目を逸らされているだけではないだろうか。
まあ、傷つくといけないから黙っていよう。
筋肉メイドが世話をしてくれるのは普通じゃないが、とにかくわたし自身は普通の女の子として転生できたということがわかった。
モブリン16歳、頑張ってこそこそ生きよう。
「ところであなたの名前はなんていうの?」
「筋肉メイドのマッスリィーヌでございます」
「マッスリーヌ」
「マッスリィィィーヌでございます」
圧がすごいよう……。
「ん……」
揺すられて目を覚ますと、そこには腹筋バキバキのメイドがいた。
なぜ筋肉がわかるのかというと、彼女が身につけているメイド服が激しく改造されていて、二の腕やお腹など、見せつけたい箇所の筋肉がむき出しになっているからだ。
「すっご……。
ねえ、触っていい?」
「はい、どこからでもお触りください。
……あっ」
立派な筋肉のくせに、触ると変な声を出すもんだから、朝からいかがわしいことをしている感じになってきた。
「あんっ、お嬢様……そこ……ッ」
「あー、ほんとにガチガチね。
すごい鍛えかただってのが素人目にもわかる」
というか、つい触ってしまったが、こんなことをするのはモブらしくない。
モブ道に反するといえよう。
「はふん……お嬢様……?」
「いや、そんな目で見られても続きはないって。
もうやめやめ。
そんなことより、わたしのプロフィールを言ってみてもらえる?」
「かしこまりました。
では僭越ながら――」
筋肉メイドがポージングしながら教えてくれた情報は、こうだ。
わたしはモブリン、16歳の女の子。
容姿は普通で、美人でもブサイクでもない。
背も体重も、もちろん普通。
平凡な家庭に生まれ、普通に育てられてきた。
この世界ではみんなが通っている、王立魔法学校の普通科に所属している。
「普通ね」
「はい、ごく普通でございます」
にっこりと笑うわたしに、二の腕をぴくぴくさせながら答えてくれた。
このメイドから見れば大抵のひとは「普通」の範疇に入りそうだが、まあ、基本情報はわりと理想的だ。
あの女神、なかなかやるじゃん。
でも……モブリンという名前はどうなんだろう。
まるでモブのゴブリンみたいではないか。
「ねえ、変なことを訊くけど。
わたしの名前ってどう思う?」
「めちゃくちゃ可愛いと思います!
モブリンお嬢様の魅力がぐっと詰まった、これしかないと思える最高のお名前です」
「あそう」
そこは普通と言ってほしかった。
けどまあ、個人の感想なのでしかたがない。
この女性はだいぶ特殊だと思うので、感性の面でもいろいろと差し引いて考える必要があるだろう。
それにしても、
「平凡な家庭って、娘にメイドをつけたりするのかな。
これって普通?」
「いえ、わたくしは押しかけメイドですから。
通学中のモブリンお嬢様をお見かけして、ひと目惚れして無理やり働かせていただいております」
なにそれ怖い。
こんな筋肉むきむきの女性が押しかけてくるなんて、さぞかし両親は怖い思いをしたことだろう。
にしても、ひと目惚れか……。
普通な容姿のはずなんだけども。
「わたしのどこがそんなにいいの?」
「それはもうッ、わたくしめの筋肉をじっと見てくる、その澄んだ目がたまらないのです。
さきほどからもずっと視姦してくださって。
本当に最高でございます」
視姦って言った。
自分から見せつけておいて視姦って言った。
「そりゃ見るでしょ。
そんな目立つ筋肉してたら、嫌でも見ちゃうよ」
「お嬢様だけです。
世の中はみんな、自分のことばかりですから」
「そうかなあ」
目を逸らされているだけではないだろうか。
まあ、傷つくといけないから黙っていよう。
筋肉メイドが世話をしてくれるのは普通じゃないが、とにかくわたし自身は普通の女の子として転生できたということがわかった。
モブリン16歳、頑張ってこそこそ生きよう。
「ところであなたの名前はなんていうの?」
「筋肉メイドのマッスリィーヌでございます」
「マッスリーヌ」
「マッスリィィィーヌでございます」
圧がすごいよう……。
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