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第1話:そういえば女神がまず濃かった

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「名前はモブ子でいいのかしら?
 じゃあ転生させるわよ。
 せーのっ!
 ……って、さすがにその名前はないでしょ~」

 いきなりノリツッコミされた。
 女神なのにそういうことをするのか。

 というか、

「あなた本当に女神なんですか?」
「やだ~、オネエ迫害するわけ?
 そういうのよくないわよ。
 罰としてモブに転生させようかしら。
 って、それじゃ希望を叶えることになるじゃないの!」

 いや、しつこい。
 笑えないというかむしろキモい。

 なぜ女神なのに、髭の剃りあとが青々としているのか。
 なぜ女神なのに、すね毛があるのか。
 なぜ女神なのに、どう見てもおっさんの女装なのか。

 いろいろと、本当にいろいろと言いたいことはあるのだが、こういうことをいちいち指摘するのはよろしくない。
 ポリティカル・コレクトネスなんていう言葉を持ち出すまでもなく、ただ普通に、わたしも前世では悪目立ちするタイプの人間だったので、自分が嫌だったことは人にもしないというだけのことだ。

「でも、いちおう確認しておきますが……。
 女神のチェンジってできます?」
「できないわよ。
 チェンジしたかったら、転生したあとにさっさとまた天界にくることね」
「それ、死ねって言ってますよね。
 ひどっ……傷つく……」
「チェンジって言われたほうが傷つくわ」

 まあ、そうですよね。
 ごめんなさいと謝って、わたしはもういちど希望を伝えた。

「できるだけ目立たない、モブキャラに転生させてください。
 もう目立つのはこりごりなんです。
 名前はモブっぽければ、モブ子でもモブ美でも構いません」
「うーん……。
 モブ、ねえ……」

 なにも超絶スキル持ちの勇者に転生させろと言っているわけではないのだ。
 なのに、女神はなんだか気が乗らないといった感じ。
 さっきもノリツッコミなどしていたが、ようは、ぐだぐだ言って転生をしぶっているだけ。

「なにが問題なんですか?
 普通の家庭に生まれた、ごく普通の女の子でいいんです。
 学園とか世界とかが危機に瀕しても、べつに誰にも期待されないしされようとも思わない存在。
 婚約パーティに呼ばれても、けっして自分が婚約相手に選ばれるとは思わなくていい存在。
 女神なら簡単じゃないですか?」
「まあねえ……できるという意味では簡単だけど」

 おすすめはしないのよね、と女神は言った。

「それでもOKです。
 なんかさっきから独特の体臭もするし、はやく転生させてください」
「あっ、いま、あたしのことクサいって言ったわね?
 許せない……。
 乙女のスメルをクサいだなんて」

 独特の体臭って言っただけなんだけどな、とわたしは思った。
 でも、まあ、クサいって意味だけど。
 こういう悪口みたいなのがさらっと出てくるあたり、わたしってば性格が悪いのかもしれない。
 このままではモブに転生してもいざこざに巻き込まれかねないから、自制しようとひそかに決心した。

「いいわ、もう説得はあきらめた。
 転生させるから、ここをくぐり抜けてちょうだい」

 言って、女神は立ったまま両足を開く。
 足のあいだが転生ゲートということだろうか。
 かなり嫌だけど、転生したいから従うしかない。

 四つん這いになって、のそのそと足のあいだを抜ける。
 女神のまたぐらゲートで転生なんて、考えたやつを殴ってやりたい。

「……はい、通りました」
「よろしい。
 じゃあ、あっちの扉に入ってね。
 来世ではすてきなモブ人生が送れますよ~に!」

 投げキッスをして送り出された。
 ていうか、ちゃんと扉の形をした転生ゲートがあるんですけど?

「え? だったら今の足のやつは?」
「ただの趣味よ?
 芋虫みたいにのそのそと自分の下を通られるのがたまらなく好きってだけ。
 なかなかやってくれる子はいないから、嬉しかった」
「は~?
 転生ゲートだと思ったからやったんですけどっ!」

 抗議するわたしの背中を、「まあまあ」と言って女神が転生ゲートのなかに押し込んでくる。
 ああもう、こいつ嫌い。

「来世では誰にも見つからずにひっそりと暮らしますから。
 じゃあ、さよなら!」

 宣言してゲートに入ったわたしを、おっさん女神が半笑いで見ている。
 転生が完了するまでのあいだ、そのムカつく姿が目に焼き付いて離れてくれなかった。
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