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ROKI

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懐柔

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  こうなってようやく気付く。こんな事は間違いだったのかもしれないと。私は愚かな大人だ。こんな稀代な事態で起きうる事に、予測など出来たものではない。気づいた瞬間にはもう手遅れだった。

  私は彼の身体を貫いた。渦巻く甘い欲望に任せて。彼はそれまでの静けさが何だったのかと思うほど、途端に耳元で甘く啼いた。情など不要だとあれ程言い聞かせたというのに、衝動に彷徨ってしがみ付いてくる彼の腕にあっさりと充てられてしまう。
それほど彼の身体は暖かかった。包まれてしまえば甘さしか湧かない。心地がいい。
  律動する度に彼は頼りなく乱れる。痛むのか、快楽なのかは分からない。涙をにじませる彼の目にその時だけは光が差していた。こんな交わりはとても久しい。なぜ、会ったばかりの相手とこんな風に感じたのかは分からない。彼もまた揺らいでいるのかもしれない。眉根を寄せたその表情は今までになく人間らしい。なんと切ない顔をするのだろう。

「君の名前は……?」
甘ったる過ぎる抱擁の最中に彼の耳に問いかけた。
「……名前、は…失くした…」
彼の中で快楽に満ちると、若い体はまだ熱を持て余していた。彼がした様に唇で発散させてやると、まるで女の様に仰け反り艶かしく乱れて、彼は果てた。うねる身体の下腹部に傷痕が見える。縫い合わせた痕がくっきりと分かる手術痕だった。某れを指で辿ると、彼は私の手を掴んで制した。
  「失くしたのか…」
  つい、余計な事を尋ねてしまう。彼は黙って頷いた。
  私はこんなに空虚な人間を見た事がない。何を与えても彼の瞳が息吹く事は無かった。食事に連れ出しても、着飾らせても、どんな贅沢を味わわせても闇が晴れる事はなく、ベッドの上で交わる時だけ、彼は息を吹き返す。二度、三度、四度…夜を繰り返す度に生きた眼差しと目が合う回数が増える。無様に嵌ってしまっているのは自覚していた。私は彼を夢中で貪り、彼は必死で私にしがみついていた。
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