2 / 6
第一章
しおりを挟む
この季節は結構好きだ。もう8度目の冬だが、私はこの時期が1番楽しい。
人は、外に出たがらないから遊び盛りの後輩猫の相手をしてくれる。あいつの相手は、少し疲れるようになった。今もお父さんに、猫じゃらしで遊んでもらっているようだ。私は、こたつのなかでお腹を横にして、ごろんと横になったり、暑くなれば窓際に座り、しっぽを足に絡ませて外を眺めたりする。暖かいのに、ひんやりとした空気を感じることが出来る窓際はお気に入りである。
今日は、どうやら「シンセキノアツマリ」というやつらしい。新しい年になると、毎年お父さんの兄弟である剛士叔父さん家族が、この家に集まる。そんなに広い家ではないのに、この日だけは家の中が9人と猫2匹になる。それなりに騒がしい日だ。私は外で車の停まる音が聞こえたら、早めにコタツから出てカーテンの後ろで隠れて、窓の外を眺めようと決めていた。
なんといっても、あの啓子叔母さんがくる。なかなか、あれは手強い。自分の娘である由美が猫アレルギーということがあり、家で猫が飼えないのだが、啓子叔母さんは大の猫好きなのだ。それでこの家に来る際には、必ず私を探し回って抱きかかえようとする。本当に困ったものだ。もちろん由美の方は猫アレルギーということもあって、近づこうともしないので安心だ。だが剛士叔父さんと、由美の兄である恭平は私の方をチラチラと見て触る機会を伺ってくる。面倒ではないが、私はこの家の人間に触られる方が好きなのだ。
ほら、車が停まる音が聞こえてきた。私はダッシュでカーテンの後ろに隠れる。後輩猫であるメイは、私とは逆に玄関に迎えにでる。遊んでくれる人が増えるのは嬉しいのだろう。
早速、啓子叔母さんのメイを可愛がる声が聞こえてきた。人間というものは動物を可愛がる時に声色が変わるから面白い。
「メイちゃーん。あら、こんなに大きくなって。まだ1歳半だっけ? 本当に可愛いわ~」
きっとメイは今頃、撫でまわされているに違いない。少し身震いする。自然と耳が後ろに行くのを感じる。きっと今から私を探し回るに違いない。
「ユキちゃんはー? あれー? ユキちゃーん? どこかなー? ここかな~?」
ほら来た。カーテンの前にいるのを感じて、尻尾を太くしながら背中を丸めて、ウーと威嚇する。
「あら、やっぱり居たわ……おばさんにそんなことしてもだめよ? 可愛いだけなんだから」
どうやら効果なしのようだ。諦めて、横をすりぬけてお母さんの膝の上に座る。
「啓子さんったら。そんなにいじめないで下さいよ。それより、アレルギーの由美ちゃんがいるから猫は隣の部屋に行かせますよ?」
お母さん、ファインプレー。啓子おばさんの近くで居たくない。お礼も込めて、お母さんの胸にすりすりする。お母さんは、分かってますよとでも言うように優しく撫でてくれる。
それから隣の部屋で、電気毛布の上に丸くなってウトウトしてしまった。メイは遊んでほしそうだったが、おしりを少し上げ尻尾も立たせてから片足を浮かせて睨めば、諦めたように離れて行った。
少し時間が経って、みんなの足音が2階に向かうのが聞こえてきた。2階には寝たきりの祖母がいるので挨拶に行ったようだ。元気だったころは猫好きだったらしいが、今は言葉も怪しい。2階への階段には柵があるため、私は1度も上がったことがない。それから、また少し経って叔父家族は帰っていった。
車が出発するのを窓から見てから、お母さんの子供である雅人兄さんと千菜美の間で丸くなり耳をすませる。
「やっと帰ったな。ユキも追い回されて大変だっただろ」
本当にその通りである。雅人兄さんに背中を撫でられながら、しっぽを上下にパタパタ動かしておく。
「ちょっと、兄さん。言い方悪くない? でもお婆ちゃんの件は流石にありえないわよね。長男なのにお婆ちゃんの面倒みたくないっていうし、面倒みるなら由美ちゃんにさせるっていうし」
顔を見なくても千菜美が膨れているのが分かる。ここに来た時から、気に入らないことがあると千菜美は頬をふくらませる癖がある。
「あの時の由美の顔みたか? めちゃくちゃ怖かったぞ。そりゃあ定年退職してる親父達が面倒見るべきだと思うがな。しつこく嫌がらせしてきた婆ちゃんの面倒を俺ら4人が見るわけないだろう」
これは私も知っている話だ。どうやらお婆ちゃんは、由美さんを含む孫4人に冷たく何年も当たっていたらしい。
「そうね。それだけは絶対にない。由美ちゃんは温厚な子だけど、はらわた煮えくり返っているに違いないわ。明日も遊びにいって話を聞いてくる」
その後、千菜美が小さな声で何とかしなくっちゃと囁いたのを見逃さなかった。
それから半月してから、お婆ちゃんが風邪をひいたとお父さんが騒ぎ始めた。なんだか嫌な予感がしていた。いや、第六感的なものではない。その日、あの匂いがしていたのだ。私が嫌いなあの匂い。この家では私が嫌いな事を知っているから使わないはずの、あの匂いが。
人は、外に出たがらないから遊び盛りの後輩猫の相手をしてくれる。あいつの相手は、少し疲れるようになった。今もお父さんに、猫じゃらしで遊んでもらっているようだ。私は、こたつのなかでお腹を横にして、ごろんと横になったり、暑くなれば窓際に座り、しっぽを足に絡ませて外を眺めたりする。暖かいのに、ひんやりとした空気を感じることが出来る窓際はお気に入りである。
今日は、どうやら「シンセキノアツマリ」というやつらしい。新しい年になると、毎年お父さんの兄弟である剛士叔父さん家族が、この家に集まる。そんなに広い家ではないのに、この日だけは家の中が9人と猫2匹になる。それなりに騒がしい日だ。私は外で車の停まる音が聞こえたら、早めにコタツから出てカーテンの後ろで隠れて、窓の外を眺めようと決めていた。
なんといっても、あの啓子叔母さんがくる。なかなか、あれは手強い。自分の娘である由美が猫アレルギーということがあり、家で猫が飼えないのだが、啓子叔母さんは大の猫好きなのだ。それでこの家に来る際には、必ず私を探し回って抱きかかえようとする。本当に困ったものだ。もちろん由美の方は猫アレルギーということもあって、近づこうともしないので安心だ。だが剛士叔父さんと、由美の兄である恭平は私の方をチラチラと見て触る機会を伺ってくる。面倒ではないが、私はこの家の人間に触られる方が好きなのだ。
ほら、車が停まる音が聞こえてきた。私はダッシュでカーテンの後ろに隠れる。後輩猫であるメイは、私とは逆に玄関に迎えにでる。遊んでくれる人が増えるのは嬉しいのだろう。
早速、啓子叔母さんのメイを可愛がる声が聞こえてきた。人間というものは動物を可愛がる時に声色が変わるから面白い。
「メイちゃーん。あら、こんなに大きくなって。まだ1歳半だっけ? 本当に可愛いわ~」
きっとメイは今頃、撫でまわされているに違いない。少し身震いする。自然と耳が後ろに行くのを感じる。きっと今から私を探し回るに違いない。
「ユキちゃんはー? あれー? ユキちゃーん? どこかなー? ここかな~?」
ほら来た。カーテンの前にいるのを感じて、尻尾を太くしながら背中を丸めて、ウーと威嚇する。
「あら、やっぱり居たわ……おばさんにそんなことしてもだめよ? 可愛いだけなんだから」
どうやら効果なしのようだ。諦めて、横をすりぬけてお母さんの膝の上に座る。
「啓子さんったら。そんなにいじめないで下さいよ。それより、アレルギーの由美ちゃんがいるから猫は隣の部屋に行かせますよ?」
お母さん、ファインプレー。啓子おばさんの近くで居たくない。お礼も込めて、お母さんの胸にすりすりする。お母さんは、分かってますよとでも言うように優しく撫でてくれる。
それから隣の部屋で、電気毛布の上に丸くなってウトウトしてしまった。メイは遊んでほしそうだったが、おしりを少し上げ尻尾も立たせてから片足を浮かせて睨めば、諦めたように離れて行った。
少し時間が経って、みんなの足音が2階に向かうのが聞こえてきた。2階には寝たきりの祖母がいるので挨拶に行ったようだ。元気だったころは猫好きだったらしいが、今は言葉も怪しい。2階への階段には柵があるため、私は1度も上がったことがない。それから、また少し経って叔父家族は帰っていった。
車が出発するのを窓から見てから、お母さんの子供である雅人兄さんと千菜美の間で丸くなり耳をすませる。
「やっと帰ったな。ユキも追い回されて大変だっただろ」
本当にその通りである。雅人兄さんに背中を撫でられながら、しっぽを上下にパタパタ動かしておく。
「ちょっと、兄さん。言い方悪くない? でもお婆ちゃんの件は流石にありえないわよね。長男なのにお婆ちゃんの面倒みたくないっていうし、面倒みるなら由美ちゃんにさせるっていうし」
顔を見なくても千菜美が膨れているのが分かる。ここに来た時から、気に入らないことがあると千菜美は頬をふくらませる癖がある。
「あの時の由美の顔みたか? めちゃくちゃ怖かったぞ。そりゃあ定年退職してる親父達が面倒見るべきだと思うがな。しつこく嫌がらせしてきた婆ちゃんの面倒を俺ら4人が見るわけないだろう」
これは私も知っている話だ。どうやらお婆ちゃんは、由美さんを含む孫4人に冷たく何年も当たっていたらしい。
「そうね。それだけは絶対にない。由美ちゃんは温厚な子だけど、はらわた煮えくり返っているに違いないわ。明日も遊びにいって話を聞いてくる」
その後、千菜美が小さな声で何とかしなくっちゃと囁いたのを見逃さなかった。
それから半月してから、お婆ちゃんが風邪をひいたとお父さんが騒ぎ始めた。なんだか嫌な予感がしていた。いや、第六感的なものではない。その日、あの匂いがしていたのだ。私が嫌いなあの匂い。この家では私が嫌いな事を知っているから使わないはずの、あの匂いが。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】橘さんは殺された。
水沼早紀
ミステリー
20XX年、六月。
学校でクラスの噂になるほど、美人の女子高生がいた。
名前は橘 智夏(たちばな ちなつ)17歳。
彼女は本当に美人で、誰からも好かれるほどの女子高生だった。
彼女は友達も多く、男子からは告白されることも多かった。
ーーーだがその年の十月。
クラスのマドンナの橘智夏が、死んだ。
橘智夏は、自宅近くの林の中で暴行されて死んでいたのだ。
橘智夏を殺したのは、誰だーーー?
彼女なぜ、殺されたのかーーー?
カトレアの香る時2【二度殺された女】
Yachiyo
ミステリー
長谷部真理子(37歳)は姉の内藤咲(40歳)を殺した殺人容疑で逮捕される。当初真理子は記憶喪失で自分の犯行だと思い出せなかった。死体は上がらす状況証拠だけで逮捕状がでていたのだ
しかし、記憶が戻り直ぐに自分の犯行だと思い出し刑に服していた真理子。そんなある日、ラブホテルで殺人事件が起きる。死体の身元は死んだはずの内藤咲だった!真犯人は誰なのか?元極道の妻で刑事の小白川蘭子(42歳)とちょっとお茶目な刑事仲村流星(36歳)コンビは事件を解決出来るのか!
解けない。
相沢。
ミステリー
「なんだっていいです。
動機も。殺意の有無も。
どんな強さで、どんな思いで殺したとか、
どうでもいいです。
何であろうと、
貴方は罪を犯した
ただの殺人犯です。」
______________________________
______________________________
はじめまして、閲覧ありがとうございます。
相沢と申します。
推理小説ってなんだろう。
どうしてそこまで
相手のテリトリーに踏み込むんだろう。
いっその事踏み込まないでやろう。
そんな想いで書き進めました。
短編小説です。よろしくお願いします。
Bless The VAMPIRES -吸血鬼に祝福を-
Mar
ミステリー
世間では未知の感染症が蔓延し、不要不急の外出を避け、マスク着用が義務付けられていた。そんな窮屈な日常を打開しようと、政府から出されたのは的外れな政策。嫌気がする毎日に、あるニュースが注目を浴びた。
『吸血鬼は現代社会に存在する』
スターエル号殺人事件
抹茶
ミステリー
片田舎に探偵事務所を構える20歳の探偵、星見スイ。その友人の機械系研究者である揺と豪華客船に乗ってバカンスのためにメキシコのマンサニージョへと向かう。しかし、その途中で、船内に鳴り響く悲鳴とともに、乗客を恐怖が襲う。スイと揺は臨機応変に対応し、冷静に推理をするが、今まで扱った事件とは明らかに異質であった。乗客の混乱、犯人の思惑、第二の事件。スイと揺はこの難事件をどう解決するのか。
グレイマンションの謎
葉羽
ミステリー
東京の郊外にひっそりと佇む古びた洋館「グレイマンション」。その家には、何代にもわたる名家の歴史と共に、数々の怪奇現象が語り継がれてきた。主人公の神藤葉羽(しんどう はね)は、推理小説を愛する高校生。彼は、ある夏の日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)と共に、その洋館を訪れることになる。
二人は、グレイマンションにまつわる伝説や噂を確かめるために、館内を探索する。しかし、次第に彼らは奇妙な現象や不気味な出来事に巻き込まれていく。失踪した家族の影がちらつく中、葉羽は自らの推理力を駆使して真相に迫る。果たして、彼らはこの洋館の秘密を解き明かすことができるのか?
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる