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蹂躙される冒険者にひたすら回復魔法をかけ続けるお話
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村で一大事が起きていた。
古くから村人達が神域と呼ぶ森から、冒険者たちの体の一部が見つかった。
その遺体の一部を発見した者は、普段は立ち入りを禁じられている森の深部に巨大な熊のような影が消えていくのを見たという。
その正体はおそらく、A級魔獣グランベア。
それは村の冒険者達が束になっても敵わない、まさに化け物だった。
1
村の酒場。
いつもは昼から酒を飲む男達がこの場を騒がせるのだが、今日に限ってはその活気もない。
そんな静まり返った酒場の扉がバンと音を立てて開く。
酒場の中に入ってきたやせ細った男が、訝しげな表情で依頼受付のカウンターに一直線に駆け寄る。
「おい受付嬢、中央ギルドに申請したA級以上の冒険者はまだ来ないのか!?」
語気の強い男の言葉に動揺しながらも、受付嬢は受け答えする。
「そ、そうですね。一応申請は出したのですが、ここは中央区からかなり離れた辺境の地なので、応援がくるのにはもう少し時間がかかるかと……」
言いにくそうに受付嬢がそう答えると男は間髪入れずに拳をカウンターに振り下ろす。
静寂としていた酒場にドンと大きな音が響き渡る。
そして男は怯えている受付嬢に立て続けに言葉を浴びせた。
「今日、うちの牛が食われた! あの化け物はもう村の中にまで来てる! 頼むから早くしてくれ、次は人が食われるぞ! 早急に救援を呼び出してくれ!」
「そ、そう言われましても……」
一刻も早くグランベアを討伐しなければ村の被害がどんどん増えていくのは間違いない。
だがそんなことを言われても、一介の受付嬢にしか過ぎない彼女に何ができるわけでもない。
今村人達にできることは中央ギルドから派遣される冒険者を待つことだけ。
皆分かりきっていたことだが、それでも男は焦りから声を荒げずにはいられなかった。
「失礼しまーす!」
凍りついた空気の中、酒場の入り口から若い女性の声が響いた。
そこにいたのは逆光の中、仁王立ちで立つ少女。
長い赤髪に、まだ幼さが残りつつも凛々しい顔つき。
簡素な皮の服とスカートといった薄手の衣装なのに対し、腰と背中には物騒な剣をいくつも携えていた。
この辺では見慣れない顔の女性だった。
「え、えーっと……どなたでしょう?」
「中央ギルドから参りました。S級冒険者のフレイヤです」
フレイヤと名乗った少女は、元気よく答える。
「え、えすきゅ……っ!? あなたが……?」
「S級だぁ!? ただのガキじゃないか、ふざけるのも大概に――」
カウンターの前にいた男は二人の会話の中に割って入り、怒りをあらわにしながらフレイヤに近づく。
「そぉい」
だがフレイヤはそんな男の腕を掴み、軽く腕を上げる。
「お、おぉ……ッ!?」
男の体が宙を舞い、数秒後、大きな音を立てて背中から地面に落下する。
「いッ、痛え……っ」
「S級冒険者様になんと無礼な男でしょう。でも心やさしきフレイヤ様は寛大な御心を持って男の発言を聞かなかったことにしてあげるのでした」
「な、なんだその力……まさか、本物……?」
「そう! 人の力では制御しきれぬ魔剣をいとも容易く振るう可憐なS級冒険者、魔剣使いのフレイヤとは私のことよ!」
自分を指差し微笑む彼女。
だが男は背中から落下した衝撃で咳き込んでいて、反応もできない状況だった。
「き、聞いたことがある……史上最年少でS級冒険者になった赤髪の少女、確か名前は……フレイヤ……」
受付嬢が独り言のようにそう呟くと、フレイヤは目を光らせ受付嬢の方へ振り向く。
「お、そっちの受付ちゃんは話が早そうじゃん! じゃあさ、早速お仕事の話をしましょうか」
そう言って、フレイヤはぴょんぴょんと跳ねながら受付のカウンターに近づく。
そこだけを見ると本当にただの少女のようだった。
受付嬢は未だ困惑しながらも、この村の状況を説明する。
「なるほど、A級魔獣グランベア。確かに、人里近くに湧いていい魔獣じゃないわね」
「こちら討伐対象の魔獣となりますが……あの……」
受付嬢はそこで言葉に詰まる。
こんな化け物の討伐を、こんな少女に任せていいものかと。
だがそれを口にしてしまうと、あそこで悶えている男と同じ目に合いそうだったので口には出せなかった。
「そうね、案内役と回復術師が一人は欲しいかな」
何も言えずにいると、資料に目を通しているフレイヤがそう呟く。
「えーっと、案内役は分かりますが……回復術師、ですか……」
「そう、グランベアは人間を動けない状態にまで痛めつけてから、生きたまま貯蔵する習慣がある。保存食を鮮度のいい状態に保つためにね」
その説明を聞くだけで、受付嬢の顔が青ざめる。
「だからもしこれからグランベアの巣に殴り込みをかけるなら、まだ生きている人間が見つかる可能性がある。ただ私は殴る蹴る斬るは得意だけどそれ以外はからっきしで。だから回復術の使える人が一人欲しいんだよね」
「あのこう言った質問をするのは気を悪くするかもしれませんが、一つ気になったことが……」
「なあに? なんでも聞いて」
いくらか受付嬢に心を許したのか、フレイヤはそう言ってニコリと微笑む。
「あの……中央ギルドの方々は魔術師や回復術師などバランスのとれたパーティを組んで活動される方々がほとんどだと聞いているのですが、フレイヤさんはお一人……なのでしょうか……?」
「……」
さっきまで朗らかだったフレイヤの表情が固まる。
「あ、まず……」
背中からダラッと冷や汗が溢れる。
受付嬢はその瞬間、フレイヤの踏み込んではいけない領域に足を踏み入れたことを察する。
あの男と同じように、背中から地面に叩きつけられることを覚悟する。
「一人、だけど…………一人だけど何かぁ!? だって、前のパーティ組んでたおっさん私のことずっと変な視線で見てくるんだもん! あんなのと一緒に旅できるわけないじゃん!!」
フレイヤは溜まっていたものが爆発したのか、急に大声で叫び出した。
「そ、そそ、そうですよね! 気高きS級冒険者様に仲間なんて必要ないですよね! たった一人で一般兵士100人分以上の力を持つ人間と認められた方なのですからー!」
「よし、くるしゅうない」
必死におだてると、フレイヤは秒で機嫌を取り戻した。
受付嬢は心の中でふぅとため息をつく。
「で、案内役と回復術師、用意できそう? それさえ揃えば今からでも討伐に向かえるよ」
「そ、それなのですが……実は町の冒険者のほとんどはグランベアの件を恐れて隣町に避難している状況でして……」
「ええっ、この町の危機だってのに!?」
「は、はい……恥ずかしながら……なので今この町に回復術を扱える冒険者はいない状況でして……」
「え、じゃあそのカウンターの裏にある杖は? それって術者が使う杖でしょ?」
そう言ってフレイヤは受付嬢の背後に置いてある杖を指差す。
「えーっと、これは私の私物で……傷を負って帰ってきた冒険者を癒すために、たまに使っているんです」
「え、じゃあいるじゃん回復術師」
今度は目の前にいる受付嬢を指差す。
「え?」
「それにあなた村の人だから道案内もできるでしょ?」
「え、ま、まあできます、けど……え、え?」
話が想定外の方向に進み、挙動不審になる受付嬢。
「じゃあ行こうよ! それにあの熊の討伐、一分一秒でも早い方がいいんでしょ、ね?」
フレイヤは急に、それまで横で話を聞いていた男に話を振る。
痛そうに背中をさすっている男は、何かこう納得のいっていなさそうな顔をしながらも、首を縦に振った。
「はい、じゃあ決まり! ほら、行くよ受付嬢ちゃん!」
「え、ええーーーーっ!?」
全く予期せぬ展開に、受付嬢はただただ困惑するばかりだった。
2
村人たちが神域と呼ぶ森。
その深部には有事の際以外は立ち入りを禁ずる規則があるが、今はまさにその有事であろう。
「受付嬢ちゃん、こっちで合ってる?」
前を歩くフレイヤが受付嬢の方へ振り返る。
慌てて出発したため受付嬢は冒険用のカバンと杖だけ持ち、衣装は普段の質素なドレスのままここまで来ていた。
「はい、ですがここから先は普段は立ち入りを禁止されていて、私も立ち入ったことがありません」
「そっか、でも大丈夫。近くからかなりやばい奴の匂いがプンプンするから。間違いなくいるよ、この先に」
その匂いとやらは歴戦の冒険者だけが感じることのできる感覚なのだろう。
経験の浅い受付嬢には匂いの違いなんてものは何も分からなかったが、それでも不思議とここから先の領域が今までとは違うと言うことくらいは感覚で理解できた。
体がひりつく。
無意識の恐怖で体がすくむ。
「さあ行くよ、受付嬢ちゃん……って。毎回そう呼ぶのなんか変だね。名前は?」
「えっと……ノエルです」
「じゃあよろしくね、ノエル」
その一言に受付嬢、もといノエルはグッと胸が熱くなるのを感じた。
「……っ、は、はい!」
S級冒険者に自分の名前を認識してもらえたからなのだろうか。
震えていた指と恐怖が、少しだけ和らいだ。
***
立入禁止区域に入り込んでからは、完全にフレイヤの直感を頼りに前に進んだ。
ここから数時間彷徨うことも覚悟していたノエルだったが、S級冒険者の直感と言うものはどうやら本物のようで、ほぼ道に迷うことなく目的地を見つけ出した。
「この大穴、間違いなく巣穴だね」
そこにあったのは巣穴と言うよりは洞窟の入り口にしか見えない大穴。
ここが敵の本丸。
ノエルは目の前の光景に息を呑む。
ドクドクと鼓動が高鳴っていた。
「……怖い?」
「え?」
「ここまで来て言うのもあれだけど、流石に冒険者でもないあなたに少し無理させ過ぎちゃったかなって思って。だから」
「だ、大丈夫です! 確かに胸が痛いくらいに高鳴って、怖いのは確かですけど、でも実はそれだけじゃないんです……ちょっとワクワクしているんです。実は私も昔は冒険者として活動していたので……」
そう言ってノエルは自分の胸に手を当てる。
この胸の高鳴りは恐怖の感覚が半分、好奇心半分といったところか。
自分の中にまだこんな感情が残っていたことにノエルは少し驚く。
「へぇ、じゃあ何で受付嬢になったの?」
「私は回復術くらいしか使えないから誰かとパーティを組むしかなくて……だから基本誰かの後ろをついて行くことしかできなくて……後衛でみんなのお世話ばかりしてたら受付嬢をしないかと誘われたんです。回復術が使える受付嬢がいると便利なんですって。そして気付いたら町から一歩も出ない人になっちゃいました、あはは……」
笑って場を流そうとするが、フレイヤは真顔でノエルの目をじっと見つめていた。
「ふーん、じゃあこれからも私とパーティ組む?」
「え、えええっ!? 無理ですよ、S級冒険者と一緒のパーティなんてとても私じゃ務まりません!」
「いいのいいの、だって敵は私が全部倒すから! 私もね、同性で同い年くらいの冒険者と一緒に旅に出るのが夢だったんだ! だからノエルみたいな人とパーティ組めたら絶対楽しいなーって思って」
無邪気なフレイヤの言葉にノエルはたじろぐ。
もしもフレイヤと共に冒険者として旅ができたなら、それはきっと心踊る冒険が待っているに違いない。
そんなことを言われたら、嫌でもそんな想像をしてしまう。
「そ、それはすごく魅力的な提案なんですけど……えと、えーっと……」
「いいよ、すぐに返事しなくて。でも冗談じゃないからさ。町に戻る頃までにはどうするか考えておいて」
いたずらにノエルの心を惑わして、フレイヤは巣穴の方へと振り返る。
「じゃ、巣穴に入るよ。ついてきて」
「え、あっ……はい!」
そうして二人は巣穴の中へと足を踏み入れる。
まだ数歩足を踏み入れただけなのに、まるで異界の中に入り込んだかのように目の前が真っ暗で何も見えなくなる。
「随分暗いですね、松明を点けましょうか?」
「大丈夫、私に任せて」
そう言ってフレイヤは腰に差した剣の一本を引き抜いた。
「《獄炎剣アグニ》!」
そう叫ぶとその剣の刀身に火が纏う。
「さらに、浮遊術!」
もう一度叫ぶと今度はその剣がフレイヤ達のやや頭上に浮き上がり、辺りを明るく照らす。
「ほら、明るくなった。私の物を自在に浮かせて動かすことができる浮遊術とこの炎の魔剣があれば松明いらずよ。どう、すごいでしょ?」
「わ、わー……」
確かにフレイヤの使う術も火を纏う魔剣も凄いと言えば凄いのだが、きっとノエルが住む町一つよりも価値があるであろう魔剣を松明代わりに使うフレイヤとの価値観の違いにノエルは絶句していた。
「――ッ!? ノエル伏せて!」
そんな時、急に血相を変えてフレイヤが叫ぶ。
「え?」
ノエルは何も理解できないまま、反射的に屈んだ姿勢を取る。
直後、炎の魔剣がノエルの頭上に移動し、ジュウッと何かが焼ける音が響いた。
「な、何が……?」
「こいつは……低級魔獣のスライム。こいつがノエルの頭上に落ちてきそうになってたんだ。多分、私の炎にびっくりしたんだと思う。ごめんね」
ノエルの周りには粘性のある液体が飛び散り、それが蒸発してしばらくすると完全に消滅した。
「でもこんな低級な魔獣がグランベアの巣に近づくなんて普通はありえないはずなんだけど……まだ巣の近くだからかな?」
「すいません、私もちょっと油断してました」
「ううん、ノエルを守るのは私の役目だもん。ちょっと待ってて」
そう言ってフレイヤは新たに真っ白い剣を取り出す。
「《守護剣ベール》! ノエルを守りなさい!」
そう叫ぶとその白い剣は宙に浮き、ノエルのすぐ近くを浮遊する。
「その剣には邪なるものを近づけない効果があるの。たとえどんな魔獣でもその剣には近づけないから、これでノエルは安全よ」
「すごい、こんなこともできるんですね……」
ノエルが素直に感心すると、フレイヤはふふんと鼻高々な表情を見せていた。
本当は少しだけ彼女の力を疑っていたノエルだったが、確かにこの力があればA級魔獣とて敵ではないかもしれない。
その後も一本道の通路を二人は進む。
だが巣穴の奥から出てくるのはA級魔獣のグランベアではなく、小型の低級魔獣ばかりだった。
「せやぁッ!」
フレイヤが剣を薙ぐと無数の触手が飛び散る。
相対するのは、無数の触手と大きな一つ目を持つ魔獣エビルアイ。
その大きな眼球にフレイヤは勢いよく剣を突き立てる。
するとどす黒い粘性のある液体が勢いよく溢れ出し、しばらくすると魔獣は崩れ落ちて消滅した。
「けほ、けほっ……黒いのちょっと口に入っちゃった」
「イビルアイは無数の触手で敵を捉え、捕らえた者をゆっくりと溶かしながら捕食する魔獣。確かその体液には人の体さえも溶かす効果があったはず」
「え、うそ!?」
「即効性のあるものではないので一度体を拭いて、必要であれば回復術をかけますね」
「ありがとー、ノエルがいてくれて本当に良かったー!」
ノエルはカバンからタオルを取り出し、体液で濡れたフレイヤの体を拭いていく。
「もしかしてフレイヤさんって、上級魔獣について詳しいけど低級魔獣に対してそんなに知識なかったり……?」
「かもー、あんまり苦戦したことないからね。げ、服の端っこちょっと溶けちゃってる!」
「そんな薄手の衣装でこんなところまで来るからですよ」
半ば強引にここまで連れてこられたとは言え、簡素な受付嬢のドレス衣装でここまで来たノエルがそんなことを言うのは変な話だった。
「S級冒険者ならもっとフルプレートの鎧とかを身につけた方がいいんじゃないですか?」
「だって、動きにくいし暑いじゃん。ああちょっと! そこ触るのえっち!」
「フレイヤさんがこんな露出してる服着てるのが悪いんですよ」
恥ずかしそうにするフレイヤを無視して、ノエルはブーツの内側や、露出した太もも、スカートの内側も拭いて行く。
まるで子供の体を拭く母親のようだった。
フレイヤの体全身を拭いて行くうちに、ノエルはある疑問を持つ。
「それにしてもフレイヤさんの腕、思ったよりも細いですね。こんな腕で大の大人を投げ飛ばすなんて……あっ、もしかして、浮遊術?」
「あ、バレちゃった? そう、アレも浮遊術の応用だよ」
「なるほど……」
そうであればノエルのこの細い腕にも納得がいく。
フレイヤが普段装備しているこの複数ある剣も相当な重さがあるはずだ。
それを何ともないかのように持ち歩いているのも浮遊術の応用かもしれない。
その浮遊術に頼った戦闘スタイルのせいか、フレイヤの体は訓練された戦士というよりは、年相応の少女の体つきにずっと近かった。
ノエルはその決して万能ではないフレイヤの体に親近感を覚えるのと同時に、不安がよぎる。
浮遊術を失った瞬間、フレイヤはS級冒険者からただの少女に戻ってしまうのだから。
「よし、一通り拭き終わりました、最後に回復術をかけますね」
「うん、お願い」
ノエルは一通りフレイヤの体を拭ききると、杖を持ち意識を集中する。
「ヒール」
そして回復の呪文を唱える。
フレイヤの体が仄かに暖かい光に包まれ、体の傷が癒えていく。
「ふう、どうでしょう?」
「うん、体が軽くなった感じ。本当にノエルがいてくれて良かったよ」
フレイヤはぴょんぴょんと跳ねて体の調子を確かめる。
「ねぇノエル、やっぱ一緒に旅しようよ」
「え、それはさっき今すぐ返事しなくていいって……」
「気分が変わったの。さっきはノエルみたいな人と旅がしたいって言ったけど、それがどんどんノエルみたいな人じゃなくて、ノエルと旅がしたいって気持ちになってきてるんだよね」
混じり気のない純粋な少女の瞳でこちらを覗き込まれ、ノエルはそこから目を離せなくなる。
彼女の本気が伝わってくるからこそ、はぐらかすこともできない。
「確かに私も、フレイヤさんとずっと旅ができたら楽しいだろうなって思います」
「じゃ、じゃあ――」
フレイヤの表情がパァッと明るくなる。
だがノエルはそれ以上は言わせまいと、フレイヤの口元に指を当てる。
「でも今はグランベアを倒すことだけ考えましょう。後のことはそれからです」
「うん、じゃあちゃっちゃと倒して、帰ったらパーティ申請しようね」
「ふふっ、気が早いですよ――」
そんな穏やかな空気の中、洞窟の奥から轟音が響く。
「グオォオオオオッ!!」
明らかに人とは違う、魔獣の雄叫び。
「ひっ!」
先ほどまで戦ってきた魔獣達とは比べ物にならないほどの威圧感。
まるで不意に突風を受けたかのような感覚に、ノエルはその場に尻餅をつく。
「ほらほら、腰を抜かしてる場合じゃないよ。 魔獣の親玉はもうすぐそこだ!」
強敵の存在を認識したせいか、フレイヤは目を爛々と輝かせて巣穴の奥へグイグイと進んでいく。
「ちょ、ちょっと待って、置いてかないでくださ~~い!」
ノエルも慌てて立ち上がり、小さくも頼り甲斐のあるその背中を追いかけた。
3
一本道の洞窟を進み続けると、急に視界が広くなる。
そこにあったのは先程までとは違う、人が100人以上は入れそうな開けた空間。
炎の魔剣の明かりが部屋全体を明るく照らす。
部屋の奥で蠢く黒い大きい影が、まるでフレイヤ達を待っていたと言わんばかりにゆっくりとこちらに近づいてくる。
一歩こちらに近づくたびに、その姿が鮮明に見える。
全身を覆う黒い体毛。
人の体など一握りで粉みじんになるだろうその巨体。
その姿は間違いなく、魔獣グランベアであった。
そんなA級魔獣の姿をフレイヤは訝しげな表情で見つめる。
「どうして巣穴にこんな広い空間が……グランベアの習性と何か違う。もしかして特殊個体……」
「ど、どうしましょうフレイヤさん」
ノエルの言葉が届いていないのか、フレイヤは顎に手を当て熟考する。
そこに今までの柔らかい表情はなく、睨むような視線でグランベアをじっと観察していた。
そんな彼女を見て、ノエルは目の前の敵が今までの敵とは比べ物にならないほどの強敵であるということを再認識する。
S級冒険者フレイヤの戦う姿を目の前で見て、もしかしたらあのグランベアさえも一振りで倒してしまうのではないかと期待したが、そんな都合の良いことはないらしい。
そして普段見ない彼女のそんな表情が、ノエルを焦らせる。
「あ、あのフレイヤさ――」
「ノエルはそこから動かないで。そうそこ、道を塞ぐように立ってて」
フレイヤは一度うんと頷くと、矢継ぎ早にノエルに指示を送る。
「そこに立っているだけで守護剣の力でグランベアは外に逃げれない。だからもしグランベアがノエルを狙ったとしても、絶対に動かないで。大丈夫、その守護剣が絶対にあなたを守るから」
ノエルに指示されたことはこの部屋の入口に立つ、ただそれだけ。
あの巨大な化け物の相手をこんな小さな少女一人に任せるということに、ノエルは心苦しさと自分の無力さを感じていた。
とはいえ戦闘の経験が浅く、回復術以外に取り柄のない自分が彼女の隣に立ったところで足手まといになることなど目に見えている。
「わ、分かりました。健闘を祈ります」
だから今は自分に任された仕事を全うすることだけに意識を向ける。
ノエルは強敵と立ち向かう彼女の背中を見送る。
背中越しに、フッと笑う彼女の姿が見えた気がした。
そして一人と一体は静かに間合いを詰めていく。
魔獣グランベアの方も、自分よりも一回りも二回りも小さなその人間の実力を理解しているのか、ゆっくりと警戒している足取りで動く。
互いにあと一歩でも前に出れば、双方の攻撃範囲に入る。
そんなとき、フレイヤは腰に指した剣の一つを引き抜く。
「嘶け……《雷鳴剣ソール》ッ!」
それは一瞬の出来事だった。
雷鳴が轟く音と共に、洞窟の中が閃光に包まれる。
「……っ!? な、何が……っ!」
それを直視したノエルは一時的に目の前が真っ白になる。
しばらくして視界が元に戻った頃には、どさりと鈍い音と共にフレイヤの足元に何かが落ちるのが見えた。
その光景にノエルは言葉を失う。
「な……え……?」
フレイヤの足元に転がったのは、先ほどまで相対していたグランベアの上半身だった。
直立したままのグランベアの下半身は、少し遅れて膝から崩れ落ちる。
「ま、こんなもんね」
余裕そうな表情でフレイヤは剣を収める。
そしてノエルの方に振り向き、微笑んだ。
「すごい、A級魔獣を……あんな一瞬で……」
ノエルも顔を引きつらせながら微笑み返す。
想像以上のS級冒険者の力を見せつけられ、歓喜と同時に恐怖に近い感情も芽生えていた。
それでも町の危機を脅かす魔獣は退治されたと言う事実を少しづつ実感し、張り詰めていた緊張の糸が解け、ノエルはその場に腰から崩れ落ちる。
「あら、腰ぬけちゃった?」
「あ、あれれ……すいません、そうみたいです」
しょうがないなぁ、と呟きながらノエルに近づき手を伸ばすフレイヤ。
恥ずかしそうにしながらノエルも手を伸ばそうとしたその瞬間、ノエルの瞳に有り得ないものが映る。
刃物のように鋭く長い爪。
それが今まさにフレイヤに振り下ろされようとして――――
「……ッ! フレイヤさん後ろッ!」
「え?」
言われて振り向くのと同時、フレイヤの体が吹き飛ばされる。
「フレイヤさんッ!?」
「がっ……!?」
フレイヤの体は部屋の壁に直撃し、舞い上がった砂埃でその姿が視認できない。
そしてさっきまでフレイヤがいたその場所には、上半身だけになっても動き続ける魔獣グランベアの姿があった。
「グゥ……ガァア……ッ!」
魔獣は飢えた声を上げながら、殺意に満ちた瞳でノエルのことを睨み続ける。
「や……あ、あぁ……っ」
目を見ただけで分かる、生物として圧倒的な格の違い。
その目を合わせた瞬間、ノエルは湧き上がる恐怖で全身が動かなくなる。
魔獣はフレイヤを吹き飛ばしたその巨大な手でノエルを握りつぶそうとする。
「いや、いやぁああああああッ!!」
だがその瞬間『バチン……ッ!』と何かが弾けるような音がして、グランベアが手を引く。
全てを諦めてギュッと目を瞑っていたノエルは、恐る恐る目を開ける。
「んっ……これは……」
目の前にはノエルを守るように、フレイヤが託した白い剣が浮遊していた。
「だ、大丈夫、だよ……例えグランベアであろうと、魔獣である限り《守護剣ベール》の結界は破れない」
「ふ、フレイヤさん!? そ、その傷……」
「……いっつぅ…………だ、大丈夫、ちゃんと剣で防いだよ」
たどたどしい足取りでフレイヤがグランベアに近づく。
彼女は大丈夫と言っているが、フレイヤの右足には鋭い切り傷が出来ていた。
確かに、背後からの一撃を咄嗟に剣で防御したことで致命傷は避けることができた。
だが爪の一本はフレイヤの右足を掠り、フレイヤの露出した太ももからは血があふれ続けている。
掠っただけでこれなのだから、もしもグランベアの一撃が直撃していたら一瞬でフレイヤの体はぶつ切りにされていたことだろう。
「にしても……体半分にしてもまだ動くとは、流石にちょっと油断しちゃったね。ノエル、回復お願い」
「え、ぁ…………わ、分かりましたっ! ひ、ヒール!」
ノエルは慌てながらもフレイヤに向けて回復呪文を唱える。
フレイヤを包み込む淡い光。
太ももの傷口がゆっくりと塞がっていく。
「グ、ガァアアアアッ!!」
それを許すまじと上半身だけのグランベアは両手で地面を這い、回復途中のフレイヤを噛み砕こうとする。
「斬っても死なないなら……燃やし尽くす!! 獄炎剣ッ!!」
フレイヤがそう叫ぶと、宙に浮いていた炎の剣がまるで隕石のようにグランベアの体に突き刺さる。
燃え続ける炎が魔獣の体を包み込み、炎の中で魔獣はもがき続ける。
「ア、ガァアア…………ガっ……」
悲鳴のような雄叫びは次第に燃え盛る炎の轟音に掻き消され、魔獣の体は炭となり、朽ち果てていく。
今度こそ本当にやった。
フレイヤがそう確信しかけた瞬間、魔獣の体の燃え上がり方に違和感を覚える。
「これは……糸? ……っ、まさか!?」
そこでフレイヤは最初から感じていた違和感の正体に気づく。
グランベアの体には、天井から伸びたいくつもの細い糸が巻き付いていた。
まるで操り人形のように。
いつしかその糸にも火が移り、いくつもの細い火の柱が天井に向かって伸びていく。
そしてその炎が天井にたどり着いた途端、天井が一気にボワァッと音を立てて燃え広がる。
「こ、これは一体!?」
「なるほど、ここは熊の巣じゃなくて、蜘蛛の巣だったってわけね」
天井全面が布のように折り重なった糸で覆われていて、それが燃え上がった今さらにその奥にある空間がフレイヤたちの目に映る。
「な……あ……ッ!?」
こちらを覗くいくつもの眼、毒々しい色の長い足。
先程までの魔獣グランベアが子供に見えるほどの、常識離れした大きさの蜘蛛の姿がそこにはあった。
「精神を操る猛毒と繊細な糸の動きであらゆる生物を人形のように操る魔獣。大蜘蛛、パペッティアラクニド。バリバリのS級魔獣ね」
「え、Sきゅ……っ!? そ、そんな……なんでこんな化け物がここに……っ!」
「さぁね、あの蜘蛛は。きっと人がこの場所を立ち入り禁止にしている間に、ここでゆっくりと成長を続けていたんでしょう。そうして今ではA級魔獣さえも支配して、この領域の王になったってところかな」
「そ、そんな……」
全くの想定していなかった事態にノエルはただただ混乱し恐怖する。
「グランベアの動きが妙だったのにも納得が行ったよ。あいつ本来なら自分の巣に他の魔獣が入ることを嫌がるし、上半身だけになって動いたのも、もう最初からゾンビ化して操られていたんだね」
「ど、どうするんですか。流石にあんな化け物フレイヤさんでもッ!」
「だめ、ノエル動かないで!」
ノエルが一歩踏み出したところで、フレイヤが焦ったように叫ぶ。
「見てノエル。大蜘蛛の周囲を」
「あれは……繭……?」
大蜘蛛の周辺には白い糸で包まれた大量の繭のようなものがあった。
それのいくつかがモゾモゾと動き出し、中から先ほど戦闘したスライムやエビルアイなどの低級魔獣が這い出てくる。
「あいつら全部大蜘蛛に洗脳された奴らだね。かなりたくさんいる。もし私たちがこの場から逃げたらどうなると思う?」
「……きっと私たちを追って、町まで来るんじゃないかと」
それが考えうる限り、一番最悪なケースだった。
「そう、だからノエルは守護剣と一緒にそこから動かないで。見たところこの部屋の入り口はそこだけ。そこから動かなければ魔獣が外に出ることもないから」
「ふ、フレイヤさんはどうするつもりですか?」
「えー、私はS級冒険者だよ?」
フレイヤはノエルの方をちらっと見て微笑む。
「そ、そんな……あんな化け物の大軍と一人で戦うつもりですか!?」
「まあ見てなよ。私のかっこいいところ見せてあげるからさ」
そう言ってフレイヤは天を指差すように腕を上げる。
その動きに合わせて、ノエルを守る守護剣以外の全ての魔剣が宙に浮かぶ。
こんな複数の禍々しい魔剣を同時に扱えるのは、冒険者の中でもフレイヤの他にいないだろう。
だが繭から這い出る魔獣の数と比べると、宙に浮かぶ剣の数は心許なく見えた。
――それでも、きっとフレイヤならなんとかしてくれる。
ノエルは両手を合わせ、そう祈るようにフレイヤの背中を見つめた。
***
繭から這い出る魔獣の数は10や20ではなかった。
まるで無限の魔獣の貯蔵庫。
確実に着実に魔獣を一体一体葬っているはずなのに、視界に映る魔獣の数はどんどん増えていく。
「フレイヤさん! 足元!」
「え、あッ、んぁ……ッ!?」
右足にぬめりとした感覚を覚えた直後、ひりつくような痛みがやってくる。
足に絡みついていたのは切断したにも関わらず、意思を持って動くイビルアイの触手だった。
人の体をも溶解する体液がフレイヤの足に付着する。
「ぐっ、この……ッ!」
剣で触手を突き刺しながら、絡まった触手を蹴り飛ばす。
「ひ、ヒール!」
まだ致命傷はないものの明らかに疲弊しきったフレイヤの顔を見て、ノエルはすかさず回復術をかける。
「ありがと、ノエル。それにしても、こいつらいくらなんでも多すぎ…………ふぅ、だったらもう…………直接叩くしかない!」
これまでは敵との間合いを意識しながら慎重に戦っていたフレイヤが勝負に出る。
浮遊術で自分の体ごと浮かせ、敵の親玉、大蜘蛛の前にまで直進する。
「まとめて喰らえ!」
そうして大蜘蛛めがけて、周囲を浮遊させている魔剣を全て一気に射出した。
狙うは比較的装甲の薄そうな眼球や関節。
――だが。
「なっ!?」
浮遊していた剣の動きが大蜘蛛に当たる直前に停止する。
その動きを見て、フレイヤは粘着性のある細く頑丈な糸がネット状になって大蜘蛛の周りを覆っていたことに気づく。
その糸は魔剣の炎を持ってもすぐには焼ききれないほどの驚異的な強度を持っていた。
そして大蜘蛛は、完全に無防備になったフレイヤに向けて粘性のある糸を射出する。
「しまっ……!」
自信を浮遊させてしまっていたため急な回避はできず、その粘性のある糸にフレイヤの右手が絡め取られる。
そして再び蜘蛛糸が射出され、今度は左手を絡め取る。
こうなればもうフレイヤに自由はなく、空中でフレイヤの体がぷらぷらと揺れる。
そして絡みついた糸はフレイヤの体に付着した直後急速に硬化し、まるで鎖のような強度にまで達する。
「く、そ……っ!」
絡みついた剣をもう一度呼び戻そうとするが、蜘蛛の巣にかかった蝶のようにガタガタと揺れるだけだった。
そんな空中で両手を拘束されたフレイヤの前に、あの忌まわしい触手を操る魔獣イビルアイが現れる。
「なに、を……あっ、触るなぁあッ!!」
感情を持たない魔獣は、ただ表情を変えることなく、その無数の触手をフレイヤの体に絡ませる。
腕、足、腹部、首、体の上から下まで、粘液で塗れた触手がフレイヤの体を汚していく。
「んぁ……ッ、あ”ッ!? あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」
宙に舞うフレイヤの濁った絶叫。
露出した太ももや二の腕に、焼けるような熱さがやってくる。
地面に足をつけることすらできないフレイヤは、必死に体を揺らしてもがく。
だがもがけばもがくほど、イビルアイの体液が体中に浸透していく。
「あ、ああッ、フレイヤさんッ! ひ、ヒール!」
ゆっくりと爛れていく肌を上塗りするように、すかさずノエルは回復呪文を唱える。
あの絡みつく触手と体液を体から離さない限り、いくら回復呪文を唱えても根本的な解決にはならないが、兎にも角にもフレイヤの命が最優先だった。
フレイヤはS級冒険者といえど、行動の多くを浮遊術に頼っているが故に本人の体は決して頑強な作りになっていない。
筋肉量だけでいえば、普段からギルドの受付と酒場での仕事を兼業しているノエルの方が多いくらいだ。
ノエルは実際に彼女の体を触ってそれを確信していた。
だからこそ、早急にこの状況をなんとかしなければならないと焦るノエルだが――
「やめっ、どこを触って……ンぁああッ!?」
「ヒール! くっ、私には……こうすることしか……」
フレイヤの悲鳴が聞こえるたびにノエルは回復呪文を唱える。
この場でノエルができることはこれくらいしかなかった。
「ぐっ、このぉおおッ!」
フレイヤが雄叫びのような声を上げると、炎の魔剣がより大きく燃え上がる。
今は他の剣を回収することを捨て、魔力を炎の魔剣一点に絞る。
するとついに魔剣は付着していた蜘蛛の糸を焼き切り、フレイヤの手元に戻ってくる。
「切り裂け!」
剣はその言葉に従い、フレイヤにまとわりつく魔獣を切り裂いた。
――ブシュウゥッ!!
魔獣の体は切り裂かれ、ぬめぬめとした体液が全身に付着する。
「くっ、汚……っ。いや今は早くこの糸を……」
炎の剣を操作し、両手に絡みついた糸を切断していく。
まるで自分の腕のように浮遊する剣を操作し、まずは右手の糸を切断する。
「よし」
ぷらんと揺れるフレイヤの体。
残すは左手を拘束する糸を――
そう思い、糸の先に視線を向けた瞬間。
糸を伝ってこちらに落下してくる大量の水滴――――いや、スライムの姿が視界に映る。
「まずっ……んッ、んぐぅウウウッ!?」
そしてそのスライムはその粘性のあるその体でフレイヤの体を包み込んだ。
宙吊りのまま口と鼻を塞がれ、呼吸もできない状態で溺れ苦しむ。
「ヒール! ヒール! くっ……どうしたら」
フレイヤが息絶えないようノエルは回復魔法をかけ続けるが、この状況の打開方法が見つからない。
回復術では傷を治すことはできても、肺に酸素を送ることはできない。
このままではフレイヤが窒息死してしまう。
周囲を見渡すと既にノエルの周りに少しずつ低級の魔獣が集まり始めていた。
だが守護剣の力により一定以上は近づけないようで、ノエルはこの剣の力を実感する。
本来この剣は持ち主を守る盾の役割を持つのだろう。
それを今はノエルに託しているため、フレイヤは防御手段を持たない状態で戦っている事になる。
フレイヤがこの剣を持っていたら、あんな低級の魔獣に苦戦することもなかったはずなのに――
そんな思いがノエルの心を苦しめる。
「……くっ、フレイヤさん……私はどうしたら……」
歯を噛み締めながら上を見上げると、もがき苦しむフレイヤの姿が瞳に映る。
「んがっ……ごほっ……」
エビルアイの体液と同様、フレイヤの体全身を包むあのスライムは消化液に近い粘液で形成されていた。
そのためフレイヤが必死にもがくたびに、少しづつ衣服が形を保てなくなっていく。
消化の難しい剣の鞘やベルトの金属部分などは器用に引き剥がし、体内の外に排出される。
フレイヤの装備が引き剥がされてゆくたびに、カラン、カランと乾いた音が地面に響く。
もはや衣服の半分以上が残っていない状態にまでフレイヤの衣服は溶かされてしまっていた。
「ん……ご……ぉっ! ……おごッ!?」
体の内側から攻撃されているのか、フレイヤの腹部がボコッボコッと何度も脈打つように動く。
これ以上はもう、呼吸の限界。
意識が保てなくなる。
そう感じたフレイヤは一つの決心をする。
宙に浮かぶ炎の剣を操作して、自身の腹部に押し当てた。
「んぁッ!? あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!」
スライムの体は一気にボコボコと蒸発し始め、逃げるようにフレイヤの体から離れていく。
「……ッ、がはっ、ごほ……ッ!」
そうしてようやくフレイヤは呼吸を取り戻す。
咳き込むたびに粘性のある液体が口から溢れて、フレイヤはしばらく咳き込み続けた。
炎の剣を操作して、左手を拘束していた糸も焼き切る。
そしてフレイヤは自身の浮遊術を駆使してゆっくりと地面に着地する。
だが自身にかけた浮遊術を解いた瞬間、想像以上に足に力が入らず膝から崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……ノ……ノエル……回復、お願い……」
フレイヤは弱々しい声でそう呟く。
彼女の腹部は自身が押し当てた魔剣のせいで、生々しい火傷の跡が残っていた。
「は、はい……! ヒール!」
そう唱えると、癒しの光がフレイヤを包み火傷の痛みも癒えていく。
火傷の跡が全て回復できるかは分からないが、フレイヤの瞳に少しづつ生気が戻っていく。
「ありがと、ノエル。今からこいつら全員根絶やしにするから、待ってて」
その言葉がどこまで本気でどこまで虚勢なのか、ノエルには分からない。
だが今のノエルはその言葉を信じ、祈るしかない。
「はいっ、頑張ってくださいノエルさん! 私も回復術で支援します!」
「ふふっ」
微笑みながら、フレイヤはノエルに背を向ける。
「さあ、どっからでも来なさい!」
炎の剣を浮遊させ、周囲の魔獣どもを睨みつけるフレイヤ。
そんな彼女の前に、新たに繭から出てきた大蜘蛛の傀儡がどさりと落ちる。
それがゆっくりと立ち上がった瞬間、自信に溢れていたフレイヤの表情が凍る。
「な……こんな……っ!?」
大蜘蛛を見たときすら動揺しなかったフレイヤが、声を震わせる。
「ア、アァ……」
意味を持たない掠れた声を上げながら立ち上がったそれは、生気のない瞳でじっとこちらを見つめてくる。
それはフレイヤがわがままを言って回復術師を連れてきてまで救いたかった、人そのものだった。
4
S級魔獣、パペッティアラクニド。
成長するとその体長は優に10メートルを超え、柔軟性と強靭性を併せ持つ糸で巣を作る大蜘蛛。
糸を出す器官の近くには注射針のような器官があり、ここから捕食対象に卵を植え付ける。
植え付けられた卵が孵るとパペッティアラクニドの幼体が宿主の脳に寄生し、卵を植え付けた母親の意思通りに宿主を動かす。
一度寄生された宿主は以後パペッティアラクニドの意のままに動く傀儡となり、死してなお動き続ける。
さらには寄生対象の手足に糸を括り付け操り人形のように直接動かし、より繊細な動きをさせることも可能。
その場合は頭が潰れようが体が千切れようが動き続ける。
あのA級魔獣、グランベアのように。
***
繭から出てきた全裸の男が、ゆらりゆらりと体を揺らしながら、フレイヤに近づく。
一歩、二歩と近づくたびに、フレイヤも同じ数だけ後退する。
大蜘蛛に洗脳された男を前にどうしたらいいのか分からず、動揺しているのは明らかだった。
「の、ノエル! これ……っ! 回復術でなんとかならない……?」
「む、無理です! 私に使えるのはヒールだけで、洗脳解除などの術は使えないんです! それともし、使えたとしても……」
ノエルは遠回しに、その男の命を諦めるべきだとフレイヤに伝える。
もちろんフレイヤとて、その男の目を見ればそこに生気が宿っていないことくらい分かっていた。
「いや、でも……っ」
それでも冒険者全体から見たらまだ幼子も同然の彼女が、その一瞬で全てを割り切ることなど不可能だった。
あの男が生きている可能性が1パーセントでもある限り、助けてあげたいという気持ちが優先されてしまう。
フレイヤは未だ決断できずにいた。
そんな彼女を遠くから見ていたノエルは、敵を前にたじろぐその姿にどこか違和感さえ覚える。
どこかフレイヤの横暴さに似つかないような気がしたからだ。
(そう言えばフレイヤさん、最初から回復術師を連れていくことに固執していた……あんな横暴な性格に見えて、人の命を一番に大事にする。それがフレイヤさんなんだ……)
ノエルの中でフレイヤのイメージが上書きされる。
フレイヤに対する尊敬の気持ちが上がる一方で、この状況下において彼女のその性格は状況を悪化させた。
「フレイヤさん、後ろッ!!」
「……ッ!? しまっ……!?」
不意に背後を取られ、フレイヤは気付いた時には羽交い締めにされていた。
振り返るとそこにいたのは前方にいた男と同様、瞳に生気のない操られた男。
操られている人間は一人ではなかった。
「こ、このっ……離せ!」
剣で薙ぎ払うこともできず、フレイヤは暴れようとしたところで前にいた男もフレイヤに掴みかかった。
そして両手でフレイヤの顔を掴む。
「や、やめ、むぐっ、んん……ッ!?」
何が起きたのかも理解できぬまま、フレイヤは唇を奪われる。
どこの誰かも、生きているのかいないのかも分からない男に。
加えて、背後にいた男はフレイヤの耳を舐めはじめた。
「なっ……んっ、ふぁッ!? ンぁあ……っ!」
予測してなかった男たちの行動に、フレイヤは困惑しながら悶える。
口を離そうとしても二人の男に押さえられて逃げ道がない。
その表情からフレイヤの嫌悪感が見えるものの、その体は男たちから口で責められるたびにピク……ピクッと不規則に震えていた。
「あ、あの男たち……何を……?」
ノエルですら彼らの行動が理解できなかった。
その男たちの動きは、敵を倒すことを目的としているようには見えない。
「大蜘蛛は私たちを敵と認識して、支配した生物を操り排除しにきている…………と思っていたけど……もしその前提が間違っているとしたら……」
ノエルが状況を整理している間に、男たちはわずかに残ったフレイヤの衣服や下着に手をつけ、それを脱がそうとする。
「んんッ!? な、何を……い、いやっ……やめぇ……っ!」
フレイヤが抵抗すると、今度は後ろの男がフレイヤの胸を触り始める。
体を震わせながら甘い声を上げて悶えるフレイヤ。
傀儡となってもなお、人間に備わっている生理現象は残っているのか男達の男性器が肥大していく。
「あの人たち……ま、まさか……生殖を……ッ!? 強い力を持つフレイヤさんの体を苗床にして……っ!?」
ノエルの仮説が最悪な方向で繋がる。
「フレイヤさん、早く逃げて! その人たち、フレイヤさんのことを――」
「あッ!? あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」
ノエルの言葉は、フレイヤの絶叫でかき消される。
「う、うそ……」
その光景にノエルは言葉を失う。
男はすでにフレイヤの下着をずらし、彼女の膣口に男性器を挿入していた。
さらには背後の男も、フレイヤのアナルに男性器を挿入する。
「んぁアアアッ!? い、痛ぁああッ!!」
ミチミチと音を立てながら、フレイヤの小さな穴が無理やり広げられていく。
そこにフレイヤを思う気持ちなど一切なく、男たちは無表情でフレイヤの体を犯す。
そして抽送が始まった。
「あぐぅううッ!? そ、それ動かさないで……っ、んっ、あぁああッ!!」
嬌声というよりは悲鳴に近いフレイヤの声が洞窟の中に響く。
フレイヤの秘所からは愛液と共に血が流れ、涙を流しながら必死にもがく。
そんな暴れる彼女を押さえるため男たちはフレイヤの腰や手首を強く掴みながら、何度も何度も抽送を繰り返す。
「あぐッ……かっ……あっ……ッ!」
さらには首も絞められ、息をすることさえままならない。
意識を持たない男たちはただ機械的に、才能あるS級冒険者の体に子種を注ぐという行為に徹する。
「な、何で……フレイヤさん! 早く、その男を斬り捨ててください! 魔獣に操られた人間を殺めたとしても、それであなたを責める人は誰もいません! このままだと……フレイヤさんの体が……っ!」
泣きじゃくった声でノエルは叫ぶ。
それでもフレイヤは男たちに刃を向けることはなかった。
「ごめん……ノエル……私、人は斬れない」
弱々しい声でノエルの目を見てそう呟くフレイヤ。
彼女はどこか諦めのような表情を浮かべていた。
「ぐっ……そんなっ……!」
何か言い返そうとして口を開けたものの、何も言葉が出てこなくて、ノエルは悔しそうにギュッと口を閉じる。
フレイヤにそう言われてしまえば、もうノエルは何も言い返すこともできない。
ノエルは涙を流しながら、男たちに犯される彼女の姿を見守り続ける。
「んぐッ!? んぁああああっ!!」
男たちが同時に腰を強く突き上げると、フレイヤは強く背筋を反らせ体を強く震わせる。
頭のてっぺんからつま先までピンと体が伸びて、痺れるような快感が全身を貫き、絶頂する。
同時に男たちも射精し、膣内と腸内が白濁液で満たされる。
「あ……あぁ……」
全てを出し切った男たちは急に興味を失ったようにフレイヤの体から男性器を引き抜く。
支えを失ったフレイヤはその場に膝から崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
ふらつく体、霞む意識。
地面に手をつき、呼吸を整える。
二人の男はそんな彼女の体を両腕を掴み、無理やり立たせる。
「……こ、今度は、何を」
足元にぬめりとした感覚がして下を見ると、フレイヤの足元にスライムが纏わりついていた。
「ま、また……っ! い、いやっ!」
体を振って逃げようとすると、男たちがフレイヤの体を押さえつける。
その間にもスライムはまだギリギリ残っているブーツの中へと侵入し、密閉された空間の中で、フレイヤの足の裏や指の合間を優しく責め尽くす。
「ふぁあっ……!? くぅ……そこっ、いやぁあ……っ!」
同時にスライムはフレイヤの足に纏わりつきながら、上半身の方にも近づいていく。
触れた場所から痛みとは違う熱さが伝わってきて、その感覚がフレイヤを困惑させる。
「んっ、あぁ……っ! なに、こいつ……さっきのと違う……?」
「そ、そいつはピンクスライムです……ッ! 濃度の高い媚薬成分を含んで、あらゆる生物に生殖を行う魔獣で――」
ノエルの声が届く前に、スライムがフレイヤの腰回りに到達する。
その瞬間、ゆっくりと動いていたはずのスライムは急激に動きを変える。
「えっ、あッ!? ふぁあああああッ!?」
まずは強引に直腸を媚薬粘液で満たされる。
アナルからどんどんスライムが侵入し、フレイヤは体の中に異物がどんどん入り込んでくる感覚に吐き気を覚えながらも、体の内側がどんどん熱くなっていくのを感じて悶え苦しむ。
「あっ、あぁああうッ!? は、入ってくる、な……あ、あぁあああッ!! そっちもダメぇえええッ!!」
続いてスライムが膣内に入り込む。
処女を失い、まだ痛みが引かない膣内を生暖かい感覚が満たす。
膣内でうねうねと動くその感覚に痛みはなく、ただひたすらに快感を感じる部分だけに刺激を与え続ける。
まるで膣内で小魚が泳ぎ回っているような、そんな未知の感覚にフレイヤの体がビク……ビクンッと不規則に震える。
そんな快楽に打ち震えるフレイヤにとどめを刺すかのように、スライムはその粘液の体を器用に動かし、クリトリスの皮を剥いて一番感じる部分をしごき上げた。
「……んっ……いぎッ!? ンぁああああああああッ!!」
その瞬間、全身がビクンと跳ねる。
スライムがフレイヤの体を責め始めてからものの数秒、フレイヤの体はいともたやすく絶頂へと導かれてしまう。
「んぁっ……あっ……! んぁああ……ッ!」
ドクン、ドクンと小刻みに震える膣内。
半透明なスライムの体内が、フレイヤの股間部分を責めている場所だけ白く濁る。
盛大に溢れるフレイヤの愛液を、スライムは美味しく頂いているかのようだった。
5
そのままスライムはフレイヤの体全身を捕食するように上半身をも包み込んでいく。
まだ成長途上の胸を覆いこんだところで、新たな影が寄ってくる。
それはあの触手の化け物、エビルアイ。
その個体は他のエビルアイと違い、赤い血管のようなものが浮き出ていた。
(あれは……確か発情期の特徴でいつもよりも横暴に……いや、そんなことを考えている場合じゃない!)
「フレイヤさん! エビルアイが近づいています! 早く剣で切り倒してください!」
フレイヤの性格上、人間の男たちを犠牲にする選択を取ることができないことはノエルも理解していた。
以前と同じように自身の体に炎の魔剣を押し当ててスライムに攻撃しないのは、男たちがフレイヤの体に密着し、その体を押さえているからだろう。
だからこそ、せめてフレイヤの体に纏わりつく前に倒すことができればと思い、ノエルは叫んだ。
「だ、だめ……上手く、動かせな……」
だが、意識が朦朧としているフレイヤは浮遊術で上手く剣をコントロールすることができず、その間にエビルアイはフレイヤの体に触手を伸ばす。
その勢いは凄まじく、スライムの上から大小様々な太さの触手がフレイヤの足の先から太もも、腰周り、腹部、胸部、腕、指に一瞬で纏わりつく。
そして絡んだ触手を一気に締め上げた。
「がっ、あっ、うぁああああああああッ!?」
スライムのただただ快楽を与えるだけの甘い責めとは一転、触手に全身を締め付けられ体がギシギシと軋む。
胸が圧迫されることで肋骨は軋み、肺に酸素が入らず呼吸がままならない。
さらには腹部が圧迫されることで、直腸に入り込んでいたスライム一気にアナルから排出され、膣内に入り込んでいたスライムも膣口から勢いよく吐き出される。
――プシャ、プシャ、プシャアアアアッ!
「ひがぁあっ、かっ……がふっ……!?」
下半身からは潮や愛液と共にスライムを吐き出し、口からは血と胃液の混じったものを吐き出す。
快楽と激痛が入り混じり、頭が真っ白になる。
あまりにも大量の情報が一瞬のうちに入ってきて、フレイヤはまだ自分の体がどうなっているのかを完全に理解できずにいた。
そのままエビルアイの締め付けはどんどん強くなり、フレイヤは悲鳴を上げることすらできなくなっていく。
意識が薄れ、死すらも覚悟する。
「ヒール!」
そんな時、ノエルの声が響く。
「だめぇっ! 諦めないでくださいフレイヤさん!」
「の、え……る……?」
泣きじゃくった声でそう叫ぶノエルの声が聞こえ、落ちかけていたフレイヤの意識が戻る。
淡い光が体を包み、全身にほとばしる痛みも少しずつ和らいでいく。
「そう……だ、私は……こんな、ところでぇ……っ!」
こんなところで負けるわけにはいかない。
指先を震わせながら、落ちた剣の方へゆっくりと手を伸ばす。
――その指先がビクンと跳ねる。
「んぎぃっ!? ひぐぅうううッ!!」
突如、まるで串刺しにするかのような勢いで秘所に触手が挿入された。
絶叫のような嬌声が響き渡り、まだ膣内に残っていたスライムが秘所から一気に飛び散る。
そして触手はそのままグリグリと回転したり伸縮したり、人間の男性器では絶対にできない動きでフレイヤを責め立てる。
本来なら痛みを感じてもおかしくないほどの乱暴な動き。
だが媚薬成分を持つスライムに体中を責め尽くされたため、もはや何をされても快楽として感じてしまう。
「ふぁあっ、いぎぃいいいッ!! その動き、やめ――」
そしてエビルアイは触手が勢いよくねじりながら、フレイヤの膣口から一気に触手を引き抜く。
その瞬間、今日一番の痺れるような快楽がフレイヤを襲う。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」
――ブシャアアア!!
獣のような絶叫を上げながら、盛大に絶頂する。
背骨が折れてしまいそうな勢いで背筋を反らせ、溢れる愛液と潮が止まらない。
頭がチカチカして、失神と意識の覚醒を短い間に何度も繰り返す。
プシャ……プシャ……と音を立てながらまだ震え続けているフレイヤの秘所に、スライムが近づく。
「んぁあああッ!? や、いや……ああ……っ」
緩やかな動きでまた膣内を満たすスライム。
あんなに不快だったのに、今ではその感覚が暖かくて、気持ちいいと感じてしまう。
まるで快楽の揺り籠。
「ふぁあ……っ、やめて……もう、気持ちいいの……だめぇ……んっ、ああ……っ!」
また膣内が強力な媚薬スライムに満たされて、フレイヤは静かに何度も絶頂する。
だがそんな幸せな時間は長く続かない。
今度は二本に増えた触手が、フレイヤの二つの穴を同時に貫く。
「――ッ!? い”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」
響く絶叫。
甘い絶頂の後にやって来るのは痺れるような絶頂。
さながら拷問のような責めに、またフレイヤの頭が真っ白になる。
抵抗することも、思考することさえも許さない。
挿入された触手が先程までとは違う動きで脈打ち始める。
「――ッ!? な、何!? なにか入って……あ、ああっ! 入ってくるなぁああーーーー
っ!!」
触手がドクン、ドクンと脈打つたびに、フレイヤの腹部が膨らんでいく。
「あれはまさか……卵を産み付けているの……!?」
ノエルの予測どおり、それはエビルアイの産卵行動。
フレイヤの膣内と腸内に、いくつもの卵を産み付けていく。
「ンぁ、あっ、あがぅッ!?」
触手が脈打つタイミングに合わせて、苦しそうな嗚咽が漏れる。
まるで妊婦のように膨らんでいくフレイヤの腹部。
内側から圧迫されていく今まで感じたこともない感覚に、フレイヤはただただ涙を流す。
そしてしばらくしてエビルアイは全ての卵を出し切ると、何の予備動作もなく二つの触手を一気に引き抜いた。
「ンぁあ”あ”あ”ッ!? で、出る、ああっ……止めらな……いやぁあああっ!」
頭を劈く強い痺れがやってきた後に、無理やり押し込まれていた卵が膣口とアナルから一気に吹き出す。
フレイヤの体の中から、密着するスライムの体の中へ、ボコボコとまるでフレイヤ自身が卵を生んでいるかのようにエビルアイの卵が排出されていく。
卵が狭い膣口やアナルを通り過ぎるたびに、弾けるような快楽がフレイヤを襲う。
「あ……ぁ……っ」
触手を引き抜かれた後も、しばらくの間排卵は止まらずに続いた。
間隔はどんどん長くなるが、不定期に体がビクっと震え、その度にエビルアイの産みつけた卵が体外に吐き出される。
卵が一つ排出されると、代わりにスライムが体の中に入り込んできて、もう頭がおかしくなりそうだった。
人に、スライムに、触手に、徹底的に生殖行為の対象とされ、今のフレイヤはまるで苗床の闇鍋状態。
「くっ……こんな……っ!」
その人の尊厳を踏みにじる行いの数々に、もはやノエルは見ていられなくなって視線を逸らす。
だが、奴らはそんな思いが通じる相手ではない。
もはや満身創痍のフレイヤの前に、またいくつもの魔獣が寄ってたかる。
巨大な針を持つ蜂型の魔獣。
太い腕部と局部を持った猿型の魔獣。
媚毒を持つ蛇の魔獣の大軍。
全てノエルの知らない、禍々しい形をした魔獣ばかり。
それらが全て、生殖のためだけにフレイヤに近づいていく。
「ふ、フレイヤ……さん……だめ、早く……逃げて……」
フレイヤはもう反応しない。
わずかに意識は残っているものの、もう抵抗する意思も力も残っていなかった。
***
「あ……が………あぅ……」
もはや何かもわからぬ液体が、フレイヤの穴という穴から溢れ出す。
どれだけ魔獣に生殖行動を受けたのだろう。
「ふ、フレイヤさん! 気をしっかり! 今回復術をかけますから!」
杖を構え、回復呪文を唱えようとするノエル。
「のえ……る……」
そんなノエルに光のない瞳でフレイヤは語りかける。
「もう……やめ……っ、て……あ……あっ……」
「――っ!」
その言葉はもう、殺してくれと同義の言葉。
もうノエルもパニックになって、どうしたらいいか分からない。
フレイヤの瞼がゆっくりと閉じていく。
ここで回復術をかけなければ、ものの数秒でフレイヤの命の灯火が消えてしまうだろう。
「だ……だめ……っ! ヒール!」
それをノエルは容認できない。
気づけば回復の呪文を唱えていた。
すると淡い光がフレイヤを包み、消えかけていたフレイヤの意識が戻って来る。
それと同時に消えかけていた体に与えられた痛みや快楽、それらの感覚も一緒に思い出してしまう。
「……あ……あっ、ああっ!? あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」
そして響く絶叫。
傷が癒え、フレイヤの体力が回復すると、また別の魔獣がやってきて生殖行為を行う。
その力が尽きるまで、また痛みと快楽に悶え苦しみ、力尽きたらノエルが回復の呪文を唱える。
その繰り返し。
どうすればよかったのだろう。
どうするのが正しかったのだろう。
もはや殺してくれと懇願するフレイヤに、ノエルはただただ回復術をかけ続けた。
『蹂躙される冒険者にひたすら回復魔法をかけ続けるお話 終わり』
応援ありがとうございます!
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