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疑惑(H)
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それから数日、私は虚空を見つめていた。
窓から外の景色を見つめていると、一瞬で時間が過ぎていく。
そしてふと気付くと1日が終わっているなんてこともザラだ。
「もう、放課後か……」
教室にはもう数人の生徒しか残っていない。
なんだか最近こうしてぼーっとすることが多いな。
「しーのっ!」
「ひゃぁっ!」
急に肩を掴まれ、背筋がゾクりと震える。
肩を掴んできたのは、もちろんあいつだ。
「どしたの志乃?」
私が何かしましたか? みたいな表情で悠香が後ろから顔をのぞかせる。
「きゅ、急に後ろから肩を叩かれたら、誰だってびっくりするよ!」
「別に急じゃないよ。さっきからずっと声かけてたのに返事してくれないんだもん」
「え、えっ……そうだった?」
私はそんなに放心していたのだろうか?
流石に我ながら自分のことが心配になってきた。
「それで、何か用?」
「そうそう私今日動物の餌やり当番だから、先に寮に帰ってていいよ! それだけ! じゃあちゃっちゃと終わらせてくるねー!」
それだけ言い終えると、悠香は嵐のように教室から去っていった。
「元気だなぁ……」
私は静かになった教室内で帰りの支度を始める。
それにしても……あの日以来、悠香のことを妙に意識してしまう。
悠香の声や悠香の匂いがあの夜のことを思い出させる。
最近ぼーっとしてしまうのはこのせいだろうか……いや、なんだそれ。
それじゃあまるで私が悠香のこと好きみたいじゃ――
「黒瀬ちゃん」
「わあああっ!? ……あ、蒼井さん!?」
後ろから声をかけられ、振り向くとそこには小柄な容姿の蒼井さんが立っていた。
「黒瀬ちゃん、最近ぼーっとし過ぎじゃない? 何か悩み事?」
「ん? そ、そうかな……ちょっと寝不足かも……」
まさか蒼井さんにまで心配されるとは。
きっと最近の私は他人から見ても相当だったんだろう。
「もしかして、悩みの原因って金井ちゃん?」
「うぇッ!? えぇええッ!? な、なんで悠香の名前が出てくるの?」
急に出てきた悠香の名前に、自分でもびっくりしてしまうほどのリアクションをしてしまう。
「そりゃ、二人はルームメイトだし。何かあるのかなって……私も心配なんだよね」
「な……何かって…………る、ルームメイトだからって……そ、そんなことしないよっ!」
「……ん、そんなこと? そんなことって何?」
「い、いや……それは……」
慌てふためく私だったが、頭をひねり本当に何も理解していなさそうな蒼井さんの表情を見て、どうやら二人の話が噛み合っていないということに気づく。
私は両頬をパンと叩いて、なんとか冷静さを取り戻す。
「え、えーっと……蒼井さんが心配していることと言うのは?」
「ほら、金井ちゃん最近はめっきり取り巻きの子たち消えちゃったでしょ」
「ん、ああそういえば……」
以前は何をするにも、悠香の周りには人だかりができていて、あまのじゃくな私はその輪の中に入れずにいた。
言われて気づいたが、確かに最近は悠香の周りに集まるクラスメイトの姿を見ない。
「最初のうちは都会から来たってだけで珍しがられていたけど、みんな悠香がいることに慣れただけでしょ」
きっとそんなところだろう。
そう思ったのだけど、蒼井さんはふるふると首を横に振る。
「違うよ……あれ、もしかして黒瀬ちゃん、知らないの?」
「え、知らないって……何が……?」
「金井ちゃんのことで気になるネットの記事を見つけて、クラスのみんなはそれを知っちゃったから距離をとってるの」
「な、なにそれ……」
知らなかった。
というか、クラスのほぼ全員が知っているだろうその情報を自分が知らなかったことに何かもの哀しさを感じた。
「そ、それってどんな記事なの?」
「私の口から言うのは……ちょっと嫌かも……あとで、そのページのURL送るから。どう判断するかは黒瀬ちゃんで決めてね」
そう言って蒼井さんは教室から出て行った。
私は1人教室に残される。
私の知らないところで、なにか嫌なことが起きている。
お腹のあたりがぐるぐるして気持ち悪い。
あれだけ悠香の周りに群がっていたクラスメイトたちが、その情報を知った途端一瞬で近寄らなくなった。
一体悠香は何をしたのだろう。
***
私が寮に戻るとそこにまだ悠香の姿はなかった。
いつものルーティーンでカバンを机の横に置き、スマホ片手に椅子に腰をかける。
ちょうどそのタイミングで蒼井さんからメッセージが飛んできた。
内容はURLが二つ貼り付けられているだけ。
「す、スパムかな……」
他の友達は過剰に絵文字やスタンプが使ったりするけど、蒼井さんのメッセージはそれと対極でいかにも蒼井さんらしかった。
「受け取った以上は……見ないわけにはいかないよね……」
私は室内を見渡し、どこにも悠香が隠れていないことを確認する。
そして送られたURLの一つをタップする。
すると私もたまに見るニュースサイトの一つの記事が開かれた。
「う、うわぁ……」
思わずそんな言葉が漏れる。
『淫行疑惑で解雇』『後輩に手を出した』
そんな聞きたくもない言葉の羅列を目にして、心臓がキュッと締まる。
見てはいけないものを見ているような気がして、そのままスマホの電源を落としてしまいたい衝動にかられる。
だけど……それと同じくらいに悠香が何をしたのか、どんな人物だったのか、それを知りたい自分もいる。
「だ、大丈夫……私はこの程度で、悠香のこと嫌いになったりしないし……」
そう自分に言い聞かせて、私は記事の中身に目を通していく。
悠香の事務所の後輩が、悠香から性的暴行を受けたことを告白した。
それと同時に証拠となる動画をSNS上にアップロードした。
ネット上に出回った映像が本物だったのかどうかは定かではないが、結果的に悠香がその事務所から離れることになったらしい。
内容はざっとこんな感じだった。
「悠香が性的暴行……? 悠香がそんなこと……そんな、こと……」
……しそうだ。
その点について、私はあまり疑問に感じていない。
ただその記事では悠香が悪者のように書かれていて、何だか腹立たしかった。
そこでふと思う。
私は、悠香の味方なんだろうか?
私はあの日の出来事を、私は未だにどう捉えていいのか分からずにいる。
本来なら、悠香に対して怒りの感情の一つや二つ湧いてもいいはずだ。
なのに私の中に湧いてくるこの熱い感情は、おそらく怒りとは違うものだ。
何だろう、私は……悠香にああゆうことをされることを……望んで……?
「……っ、ち、違う違うッ! それだけは絶対に違うッ!」
頭を振って必死に否定する。
何を考えているんだ私は……
私はただちょっと困惑しているだけだ。
あの日、悠香は何を思って私にあんなことをしたんだろう。
気になる……悠香が何を考えているのか、知りたい。
ああそうだ、私は悠香が何を考えているのか分からなくて、だからこんなにモヤモヤしているんだ。
私はようやく、今の自分の気持ちを理解できた気がした。
別にこんな記事を見せられても私は悠香を嫌ったりしない。
それを悠香に伝えた上で、今度悠香にこの記事のことを問い詰めよう。
そうすればきっと私の中のモヤモヤも晴れるはずだ。
そう決心して、私はその記事のページを閉じた。
だがそこで、蒼井さんから送られてきたURLがもう一つあったことを思い出す。
きっと同じような記事だろう。
私は軽い気持ちでそのもう一つのURLをタップした。
「ん……あれ?」
だけど、開かれたページはニュースサイトではなく動画サイトだった。
手ブレのひどい映像が、急に再生される。
暗い部屋の中で、揺れる人影とたなびく金の髪。
『ん、どうしたの、急に? カメラ撮ってるの?』
映像に映った人影がそう告げる。
私のよく知る声。
悠香の声だった。
『そっか……自分のエッチな姿……撮って欲しいんだね、えいっ』
『やぁああっ!』
今度は別の女性の声が聞こえ、画面が大きく揺れる。
完全に蕩けきった甘い嬌声。
その後も映像の中で女性が嬌声を上げ続け、その甲高い声が自分の鼓膜に届くたびに背筋がゾクリと震える。
「え、な、何……これ?」
混乱しつつも、私はその映像から目を離すことができなかった。
おそらくこの映像を撮っている側の女性が悠香に責められていて、女性は必死に悠香の姿を映像に納めようとしている。
どういう状況なのかは理解できないが、そんな映像が続く。
おそらくこれがネット上に流出したと言われる映像なのだろう。
ただイメージしていたものとは少し違う。
責められている側の女性が上げる気持ち良さそうな声のせいだろうか。
性的暴行というよりかは、責められている側の女性も悠香を受け入れているかのように見えた。
『ねぇ、あなたの可愛い顔写してあげる』
『や、だめっ』
悠香が画面に向けて手を伸ばし、画面が大きく揺れる。
そこで映像は途切れた。
「おわ……った……」
映像が終わり、私は自分自身が荒い呼吸を上げていたことに気づく。
体が熱く火照り、背中は汗でびっしょりと濡れていた。
見てはいけないものを見てしまったような罪悪感に、これからどうしたらいいのか分からずおどおどしていると、首筋にふっと息が吹きかかる。
「――その後どうなったと思う?」
「ひっ!?」
驚いて私は後ろを振り向くのと同時に足を捻らせ、床に尻餅をつく。
お尻に痛みを感じながらもふと顔を上げると、そこに悠香が立ち尽くしていた。
無表情に私を見下ろす彼女の視線からは、まるで感情が読み取れない。
「あーあ、バレちゃったんだ。志乃はそういうの興味ない方だと思ってたのに……」
「え……ぁ……いや、違う……」
「違う? 何が?」
何も言い返せなくなる。
いつものおちゃらじぇた明るい口調とは違う、怒気が含まれているような悠香の声。
それがこんなにも怖いものだとは知らなかった。
私は動けなくなり、その場に固まる。
「過去のことは見ないって言ったのに……嘘つき」
「あ……いや、ち、ちがっ……」
私は泣きそうになりながら、必死に違う違うと否定していた。
嘘つき、その言葉が私の胸に強く突き刺さる。
『そういえば悠香がスマホ嫌いなのって、もしかして……』
『う……うん、ネット上には私のやらかしの記録が残ってるんだよね。だから、そのー…………志乃には見て欲しくないなぁ、なんて』
『見ないよそんなの』
『ほ、ほんと? 絶対に見ないでね恥ずかしいから! 約束だよ!』
『見ない見ない、別に興味ないし』
ついこの間のやり取りを思い出して、強い罪悪感で押しつぶされそうになる。
この件について問い詰めようなんて考えていた私がバカみたいだ。
過去の詮索はやめて欲しいと悠香は望んでいたはずなのに、私は何を考えていたんだろう。
「で、でも待って! 私は――」
――私はこんなことで悠香のことを嫌いになったりしない。
そう伝えようと思った。
でもそれはできなかった。
「悪い子、だね……あむっ」
「――んっ!?」
紡ごうとしてい言葉が途切れる。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
私の口が、悠香の口に塞がれて……
――え、これ私、キス、されて……?
「んっ、んんっ!?」
私は反射的に体を離そうとする。
すると一瞬だけ口元が離れるが――
「だめっ、逃さない……んっ」
「んぁ、んんッ!」
――すぐにまた悠香に口を塞がれる。
そのまま両腕ごと抱きしめられて、もう逃げられなくなる。
悠香は一向に唇を離してくれなくて、私は抵抗したらいいのか体を預ければいいのか、それすら自分で考えることができず、ただただ体を硬直させる。
そんなとき、唇とは違う柔らかい何かが私の歯に触れる。
「んッ!? んーんッ! んぁッ」
驚いて口を開けると、ここぞとばかりにその柔らかいもの――悠香の舌が私の口内に入り込む。
「れろっ、んむぅ……っ」
「ふぁむっ、んむぁああッ!?」
私の口内は悠香にめちゃくちゃにされ、隅々まで舐めまわされる。
不快感を覚えながらも、どこか気持ちいいような気もして……分からない。
胸が痛くて、体が熱くて、知らない感覚がどんどん自分の中にあふれてきて、このまま自分の意識がどこかに飛んで行ってしまいそう。
「んっ……んぐっ……んぁあ……っ!」
数分後、ようやく悠香は満足したのか唇を離す。
よだれの糸が二人の口元を伝い、途切れる。
「んっ……あっ……ひぁ……」
自分の口から、自分の声とは思えないような情けない声が漏れる。
まるで体がとろとろに溶けてしまったかのように全身が熱く、力が入らない。
ぼやけた視界で悠香を見つめると、彼女は楽しそうな目つきで私を見下ろしていた。
「ふふっ、悪い子には……お仕置き、してあげないとね?」
窓から外の景色を見つめていると、一瞬で時間が過ぎていく。
そしてふと気付くと1日が終わっているなんてこともザラだ。
「もう、放課後か……」
教室にはもう数人の生徒しか残っていない。
なんだか最近こうしてぼーっとすることが多いな。
「しーのっ!」
「ひゃぁっ!」
急に肩を掴まれ、背筋がゾクりと震える。
肩を掴んできたのは、もちろんあいつだ。
「どしたの志乃?」
私が何かしましたか? みたいな表情で悠香が後ろから顔をのぞかせる。
「きゅ、急に後ろから肩を叩かれたら、誰だってびっくりするよ!」
「別に急じゃないよ。さっきからずっと声かけてたのに返事してくれないんだもん」
「え、えっ……そうだった?」
私はそんなに放心していたのだろうか?
流石に我ながら自分のことが心配になってきた。
「それで、何か用?」
「そうそう私今日動物の餌やり当番だから、先に寮に帰ってていいよ! それだけ! じゃあちゃっちゃと終わらせてくるねー!」
それだけ言い終えると、悠香は嵐のように教室から去っていった。
「元気だなぁ……」
私は静かになった教室内で帰りの支度を始める。
それにしても……あの日以来、悠香のことを妙に意識してしまう。
悠香の声や悠香の匂いがあの夜のことを思い出させる。
最近ぼーっとしてしまうのはこのせいだろうか……いや、なんだそれ。
それじゃあまるで私が悠香のこと好きみたいじゃ――
「黒瀬ちゃん」
「わあああっ!? ……あ、蒼井さん!?」
後ろから声をかけられ、振り向くとそこには小柄な容姿の蒼井さんが立っていた。
「黒瀬ちゃん、最近ぼーっとし過ぎじゃない? 何か悩み事?」
「ん? そ、そうかな……ちょっと寝不足かも……」
まさか蒼井さんにまで心配されるとは。
きっと最近の私は他人から見ても相当だったんだろう。
「もしかして、悩みの原因って金井ちゃん?」
「うぇッ!? えぇええッ!? な、なんで悠香の名前が出てくるの?」
急に出てきた悠香の名前に、自分でもびっくりしてしまうほどのリアクションをしてしまう。
「そりゃ、二人はルームメイトだし。何かあるのかなって……私も心配なんだよね」
「な……何かって…………る、ルームメイトだからって……そ、そんなことしないよっ!」
「……ん、そんなこと? そんなことって何?」
「い、いや……それは……」
慌てふためく私だったが、頭をひねり本当に何も理解していなさそうな蒼井さんの表情を見て、どうやら二人の話が噛み合っていないということに気づく。
私は両頬をパンと叩いて、なんとか冷静さを取り戻す。
「え、えーっと……蒼井さんが心配していることと言うのは?」
「ほら、金井ちゃん最近はめっきり取り巻きの子たち消えちゃったでしょ」
「ん、ああそういえば……」
以前は何をするにも、悠香の周りには人だかりができていて、あまのじゃくな私はその輪の中に入れずにいた。
言われて気づいたが、確かに最近は悠香の周りに集まるクラスメイトの姿を見ない。
「最初のうちは都会から来たってだけで珍しがられていたけど、みんな悠香がいることに慣れただけでしょ」
きっとそんなところだろう。
そう思ったのだけど、蒼井さんはふるふると首を横に振る。
「違うよ……あれ、もしかして黒瀬ちゃん、知らないの?」
「え、知らないって……何が……?」
「金井ちゃんのことで気になるネットの記事を見つけて、クラスのみんなはそれを知っちゃったから距離をとってるの」
「な、なにそれ……」
知らなかった。
というか、クラスのほぼ全員が知っているだろうその情報を自分が知らなかったことに何かもの哀しさを感じた。
「そ、それってどんな記事なの?」
「私の口から言うのは……ちょっと嫌かも……あとで、そのページのURL送るから。どう判断するかは黒瀬ちゃんで決めてね」
そう言って蒼井さんは教室から出て行った。
私は1人教室に残される。
私の知らないところで、なにか嫌なことが起きている。
お腹のあたりがぐるぐるして気持ち悪い。
あれだけ悠香の周りに群がっていたクラスメイトたちが、その情報を知った途端一瞬で近寄らなくなった。
一体悠香は何をしたのだろう。
***
私が寮に戻るとそこにまだ悠香の姿はなかった。
いつものルーティーンでカバンを机の横に置き、スマホ片手に椅子に腰をかける。
ちょうどそのタイミングで蒼井さんからメッセージが飛んできた。
内容はURLが二つ貼り付けられているだけ。
「す、スパムかな……」
他の友達は過剰に絵文字やスタンプが使ったりするけど、蒼井さんのメッセージはそれと対極でいかにも蒼井さんらしかった。
「受け取った以上は……見ないわけにはいかないよね……」
私は室内を見渡し、どこにも悠香が隠れていないことを確認する。
そして送られたURLの一つをタップする。
すると私もたまに見るニュースサイトの一つの記事が開かれた。
「う、うわぁ……」
思わずそんな言葉が漏れる。
『淫行疑惑で解雇』『後輩に手を出した』
そんな聞きたくもない言葉の羅列を目にして、心臓がキュッと締まる。
見てはいけないものを見ているような気がして、そのままスマホの電源を落としてしまいたい衝動にかられる。
だけど……それと同じくらいに悠香が何をしたのか、どんな人物だったのか、それを知りたい自分もいる。
「だ、大丈夫……私はこの程度で、悠香のこと嫌いになったりしないし……」
そう自分に言い聞かせて、私は記事の中身に目を通していく。
悠香の事務所の後輩が、悠香から性的暴行を受けたことを告白した。
それと同時に証拠となる動画をSNS上にアップロードした。
ネット上に出回った映像が本物だったのかどうかは定かではないが、結果的に悠香がその事務所から離れることになったらしい。
内容はざっとこんな感じだった。
「悠香が性的暴行……? 悠香がそんなこと……そんな、こと……」
……しそうだ。
その点について、私はあまり疑問に感じていない。
ただその記事では悠香が悪者のように書かれていて、何だか腹立たしかった。
そこでふと思う。
私は、悠香の味方なんだろうか?
私はあの日の出来事を、私は未だにどう捉えていいのか分からずにいる。
本来なら、悠香に対して怒りの感情の一つや二つ湧いてもいいはずだ。
なのに私の中に湧いてくるこの熱い感情は、おそらく怒りとは違うものだ。
何だろう、私は……悠香にああゆうことをされることを……望んで……?
「……っ、ち、違う違うッ! それだけは絶対に違うッ!」
頭を振って必死に否定する。
何を考えているんだ私は……
私はただちょっと困惑しているだけだ。
あの日、悠香は何を思って私にあんなことをしたんだろう。
気になる……悠香が何を考えているのか、知りたい。
ああそうだ、私は悠香が何を考えているのか分からなくて、だからこんなにモヤモヤしているんだ。
私はようやく、今の自分の気持ちを理解できた気がした。
別にこんな記事を見せられても私は悠香を嫌ったりしない。
それを悠香に伝えた上で、今度悠香にこの記事のことを問い詰めよう。
そうすればきっと私の中のモヤモヤも晴れるはずだ。
そう決心して、私はその記事のページを閉じた。
だがそこで、蒼井さんから送られてきたURLがもう一つあったことを思い出す。
きっと同じような記事だろう。
私は軽い気持ちでそのもう一つのURLをタップした。
「ん……あれ?」
だけど、開かれたページはニュースサイトではなく動画サイトだった。
手ブレのひどい映像が、急に再生される。
暗い部屋の中で、揺れる人影とたなびく金の髪。
『ん、どうしたの、急に? カメラ撮ってるの?』
映像に映った人影がそう告げる。
私のよく知る声。
悠香の声だった。
『そっか……自分のエッチな姿……撮って欲しいんだね、えいっ』
『やぁああっ!』
今度は別の女性の声が聞こえ、画面が大きく揺れる。
完全に蕩けきった甘い嬌声。
その後も映像の中で女性が嬌声を上げ続け、その甲高い声が自分の鼓膜に届くたびに背筋がゾクリと震える。
「え、な、何……これ?」
混乱しつつも、私はその映像から目を離すことができなかった。
おそらくこの映像を撮っている側の女性が悠香に責められていて、女性は必死に悠香の姿を映像に納めようとしている。
どういう状況なのかは理解できないが、そんな映像が続く。
おそらくこれがネット上に流出したと言われる映像なのだろう。
ただイメージしていたものとは少し違う。
責められている側の女性が上げる気持ち良さそうな声のせいだろうか。
性的暴行というよりかは、責められている側の女性も悠香を受け入れているかのように見えた。
『ねぇ、あなたの可愛い顔写してあげる』
『や、だめっ』
悠香が画面に向けて手を伸ばし、画面が大きく揺れる。
そこで映像は途切れた。
「おわ……った……」
映像が終わり、私は自分自身が荒い呼吸を上げていたことに気づく。
体が熱く火照り、背中は汗でびっしょりと濡れていた。
見てはいけないものを見てしまったような罪悪感に、これからどうしたらいいのか分からずおどおどしていると、首筋にふっと息が吹きかかる。
「――その後どうなったと思う?」
「ひっ!?」
驚いて私は後ろを振り向くのと同時に足を捻らせ、床に尻餅をつく。
お尻に痛みを感じながらもふと顔を上げると、そこに悠香が立ち尽くしていた。
無表情に私を見下ろす彼女の視線からは、まるで感情が読み取れない。
「あーあ、バレちゃったんだ。志乃はそういうの興味ない方だと思ってたのに……」
「え……ぁ……いや、違う……」
「違う? 何が?」
何も言い返せなくなる。
いつものおちゃらじぇた明るい口調とは違う、怒気が含まれているような悠香の声。
それがこんなにも怖いものだとは知らなかった。
私は動けなくなり、その場に固まる。
「過去のことは見ないって言ったのに……嘘つき」
「あ……いや、ち、ちがっ……」
私は泣きそうになりながら、必死に違う違うと否定していた。
嘘つき、その言葉が私の胸に強く突き刺さる。
『そういえば悠香がスマホ嫌いなのって、もしかして……』
『う……うん、ネット上には私のやらかしの記録が残ってるんだよね。だから、そのー…………志乃には見て欲しくないなぁ、なんて』
『見ないよそんなの』
『ほ、ほんと? 絶対に見ないでね恥ずかしいから! 約束だよ!』
『見ない見ない、別に興味ないし』
ついこの間のやり取りを思い出して、強い罪悪感で押しつぶされそうになる。
この件について問い詰めようなんて考えていた私がバカみたいだ。
過去の詮索はやめて欲しいと悠香は望んでいたはずなのに、私は何を考えていたんだろう。
「で、でも待って! 私は――」
――私はこんなことで悠香のことを嫌いになったりしない。
そう伝えようと思った。
でもそれはできなかった。
「悪い子、だね……あむっ」
「――んっ!?」
紡ごうとしてい言葉が途切れる。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
私の口が、悠香の口に塞がれて……
――え、これ私、キス、されて……?
「んっ、んんっ!?」
私は反射的に体を離そうとする。
すると一瞬だけ口元が離れるが――
「だめっ、逃さない……んっ」
「んぁ、んんッ!」
――すぐにまた悠香に口を塞がれる。
そのまま両腕ごと抱きしめられて、もう逃げられなくなる。
悠香は一向に唇を離してくれなくて、私は抵抗したらいいのか体を預ければいいのか、それすら自分で考えることができず、ただただ体を硬直させる。
そんなとき、唇とは違う柔らかい何かが私の歯に触れる。
「んッ!? んーんッ! んぁッ」
驚いて口を開けると、ここぞとばかりにその柔らかいもの――悠香の舌が私の口内に入り込む。
「れろっ、んむぅ……っ」
「ふぁむっ、んむぁああッ!?」
私の口内は悠香にめちゃくちゃにされ、隅々まで舐めまわされる。
不快感を覚えながらも、どこか気持ちいいような気もして……分からない。
胸が痛くて、体が熱くて、知らない感覚がどんどん自分の中にあふれてきて、このまま自分の意識がどこかに飛んで行ってしまいそう。
「んっ……んぐっ……んぁあ……っ!」
数分後、ようやく悠香は満足したのか唇を離す。
よだれの糸が二人の口元を伝い、途切れる。
「んっ……あっ……ひぁ……」
自分の口から、自分の声とは思えないような情けない声が漏れる。
まるで体がとろとろに溶けてしまったかのように全身が熱く、力が入らない。
ぼやけた視界で悠香を見つめると、彼女は楽しそうな目つきで私を見下ろしていた。
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