退魔の少女達

コロンド

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番外編

サクラのちょっとツイてない一日 2

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 満員電車の中、サクラは足の筋肉をピンと張り詰め、揺れる車内の動きに抗う。
 ほんの少しでも誰かと体が触れれば、その瞬間まるで感電したかのように甘い痺れが体に走る。

「はぁ……っ、くぁ……」

 だんだんと息が荒くなる。
 今のサクラは人の息や空調から出る風でさえ、まるで愛撫をされているかのように錯覚してしまうほどに全身が敏感になっていた。
 体を揺らさないように必死に耐えるが、サクラが耐えたところで他の人が体を揺らせばその瞬間、体は接触する。

「んぐ……っ」

 隣に立つサラリーマンの腕が、サクラの肩に軽く触れる。
 満員電車の中ではこの程度の体の接触はよくあることだが、その少しの接触でサクラの体はビクンと跳ねる。
 せめて声だけは出さないように、サクラは必死に耐え続けた。

「あの、大丈夫ですか?」
「ふぇ?」

 そんなとき、正面に立っていたスーツを着た女性に声をかけられる。

「すごく具合が悪そうなので……」

 そう言う彼女は純粋にサクラのことを心配しているような表情をしていた。

「だ、大丈夫です……」

 今はそうとしか言い返せない。
 声をかけてくれた女性とて、まさかこの場でサクラが快楽に悶えているとは思っていないだろう。

(だめ……顔、見ないで……)

 快楽に悶える顔を見られたくなくて、サクラはそっと視線を逸らす。
 それでもスーツの女性は耳まで真っ赤に紅潮したサクラの顔を心配そうに見つめ続けていた。
 周囲から見れば今のサクラはせいぜい風邪気味で体調があまり良くない少女程度にしか見えていないだろう。
 電車が揺れるたびに体を密着させてくる周囲の人たちも、こちらの表情を心配そうに見つめてくるスーツの彼女も、そこに悪意は一切ない。
 むしろこの状況の中、異常なのはサクラただ一人。

「はぅ……くっ……んぁ……っ!」

 前後左右、どこに逃げても誰かと体が接触してしまい、小さな嬌声が漏れ続ける。
 体のどこを触られても感じてしまうという状況で、この密着状態は地獄そのもの。
 それでもなんとか耐え続けてきたサクラだったが、電車がカーブに差し掛かったところで車内が大きく揺れる。

「くぁぅ……ッ!?」

 一回り大きなボリュームの声がサクラの口から漏れる。
 一瞬、車内の視線がこちらに集中する。

(あっ、いや……今の、ちがっ……!)

 まるで悪いことをして教壇に立たされているかのような気分。
 だが今のサクラはそんなことよりも、全身を襲う強い痺れと共に下半身がギュッと熱くなる感覚に焦りを覚える。

(ち……ち、違うよね……今の……)

 サクラは心の中で必死に何かを否定する。
 必死に我慢はし続けてきたが、お腹の奥から少しだけ何かがあふれてしまったような感覚に身悶えする。

(太もも、濡れて……る……? わ、わかんない……)

 下半身が濡れていく感覚があった。
 だが全身ぐっしょりと汗だくになっている今のサクラにはそれが汗なのか、あるいは別の液体なのか分からない。
 目視で確認しようにも、こんなギュウギュウ詰めの状態では視線を自身の下半身に送ることもできない。
 自分が今どうなっているのかも分からず、もう頭がおかしくなってしまいそうだった。
 まるで何かの拷問でも受けているかのような気分で、サクラはただ身悶えしながら電車が目的の駅まで着くのを待ち続けた。


 ***


 時間にしておよそ30分。
 体感では一時間以上のように感じたが、電車は無事目的の駅へと辿り着いた。
 満身創痍の体でサクラは駅のホームに降り立つ。
 ぼんやりとする意識の中、肩で息をしながら人波が捌けるまでホームの壁に寄りかかっていた。

(はぁ……はぁ……もう、しばらくは電車……乗らない……)

 それでもようやく地獄の時間が終わったのはサクラにとってありがたい事だった。
 そのまま体をフラフラと揺らしながら夜道を歩き、無事に帰宅する。
 玄関のドアを締めた瞬間、サクラはその場に崩れ落ちた。

「はぁ……はぁ……疲れたぁ……」

 尋常ではない疲労感。
 このままぼーっとしていたら、そのまま気を失ってしまいそうだった。
 だがその前にやることが残っている。
 周りの視線を気にしなくてよくなったサクラはゾンビのようにゆらゆらとした動きで浴室へ向かう。
 汗で濡れたジャージや下着を刺激を与えぬようゆっくりと脱ぎ捨て、浴室に入るとすぐさまシャワーの蛇口を回した。
 シャワーからあふれる水がちょうどいい温度のお湯に変わるのを待ち、体を洗い流そうと思ったその瞬間、サクラの体が止まる。

(だ、大丈夫……このくらいの刺激……)

 シャワーヘッドからあふれるお湯に、指先からゆっくり触れる。

「んふっ……んぅ……っ!」

 水量はほどほどに抑えてはいるものの、指先に当たる水滴の一つ一つに感覚神経が強く反応してしまう。

(この、くらいなら……)

 とはいえ今までサクラが戦ってきた淫魔の攻撃に比べれば、音を上げる程の刺激ではない。
 そのままサクラは少しずつ手を伸ばし、手の甲、手首、腕へとだんだんと体に近づいていくようにシャワーのお湯を当てていく。
 そしてシャワーヘッドから流れるお湯が肩にかかったところで流れる水が体を滴り、全身を刺激していく。
 そしてその滴る水が歪な線を描くようにサクラの胸を通り、いくつも枝分かれする水滴の一つが胸の先端を通り過ぎる。

「ひいっ!?」

 意図せぬ体の刺激に体がゾクッと震え、サクラは手に持っていたシャワーヘッドを落としてしまう。
 手からするりと落ちたシャワーヘッドは床の上で無規則に暴れまわり、サクラの下半身を刺激していく。

「うぁあっ!? だめぇええっ!」

 サクラはその場にうずくまり、暴れるシャワーヘッドを慌てて抑える。

「はぁ、はぁ……っ」

 ふと鏡を見ると、顔を真っ赤に紅潮させながら涙目で息を切らす自分の姿が映っていた。
 ただ体を洗い流そうとしていただけなのに、それさえ上手くできない自身の情けない姿が見るに耐えなくてサクラはそっと顔をそらす。

(こんなこと、やってる場合じゃ……はやく……全身洗わないと……)

 気を取り直し、サクラは再びシャワーから出るお湯を体に当てる。
 体の敏感な部分に直接水が当たるのは極力避けて、いつもの何倍以上の時間をかけながらも全身を洗い流していく。

「はぁ、ここ……どうしよ……」

 水の刺激にも慣れてきたところで、下半身の方も念入りに洗い流していきたいところだが、手が止まる。
 浴室に入る前、ショーツを脱いだときから気づいていたことだが、サクラの股間部分は明らかにシャワーから出る水とは粘性の違う液体で濡れきっていた。

(――もし、今ここで……思いっきり強く、シャワーの水を当てたら……)

 淫魔の体液を浴びてからもう一時間近く、サクラはずっとムズムズと疼くような快楽に耐え続けてきた。
 そんな彼女の女性器に思いっきり強くシャワーから出る水を押し当てたら、きっと失神するレベルの快楽を得ることができるだろう。
 何より今ここに人の視線はない。
 電車の中とは違う、完全にプライベートな空間。
 ここで自慰行為をしたところで、誰からも責められることはない。
 そんな思いを抱かずにはいられなかった。

「だ、だめ……それは、だめ……っ!」

 だがサクラは思い留まる。
 たとえ戦いの後だとしても、今ここで自慰行為をしてしまえば淫魔に屈したような気がして嫌だった。
 どんな快楽を与えられようと、退魔師ならばそれに抗う意思を持たなければならない。
 そうでなければいつしか敵を前にして、心が快楽に負けてしまう日が来るかもしれない。
 たとえ戦いの後だとしても、退魔師は淫魔の力に屈してはならない。

「はぁ……っ、くぅ……っ!」

 歯を食いしばりながら、サクラは自身の敏感な部分には直接水が当たらないようにして下半身を洗い流していく。
 何度も体がビクビクッと震える中、耐えて、耐えて、耐え続けた。


 ***


「あぅ……疲れた……」

 ぐったりと、それでいて体に刺激を与えないようにゆっくりと、サクラはベッドに横たわる。
 就寝用の下着に着替えるのも、寝間着に着替えるのも一苦労で、もう立ち上がる気力もない。
 シャワーによる熱なのか快楽による熱なのかは分からないが、とにかく全身が熱くてだるかった。
 高熱にうなされているときの感覚に近く、サクラはそのまま気絶するように意識を手放していく。

「だい、じょうぶ……こんなの、寝たら……なおる、から……」

 これが退魔師の少女の日常。
 この程度のトラブルは彼女にとっては日常茶飯事。
 淫魔と戦うということは快楽に決して負けない、人ならぬ精神力が必要なのだ。
 そしてまた明日も彼女は退魔師として、淫魔と戦い続ける。





 ――だがその日の夜は何かが違った。



 淫魔の体液は即効性の媚薬効果を持ち、時間経過と共にその効果は薄れていく。
 大抵の場合は睡眠を取り、朝になる頃には快楽の熱は消えていることが多い。
 と言うのがサクラの経験則に基づく淫魔の体液の効果である。
 そう、それはあくまで経験則。

 深い眠りから浅い眠りへ移りかけていたその瞬間、体がビクンと弾けるような刺激が走った。

「ぅあっ……えっ……!?」

 乾いた喉から、嗚咽のような声が漏れる。
 今自分の体に何が起きているのかも分からず、サクラは腰を強く突き上げている自分の状況に困惑する。
 そしてその困惑と同時にやってくるのは、頭を溶かすような痺れと熱だった。

「な、なに……あっ、ぅあっ!? あ”あ”ッ!? あ”ッ、があ”あ”あ”あ”あ”ッ!?」

 気づけばサクラは目を見開きながら叫んでいた。
 叫ばずにはいられなかった。
 寝起き共に襲い来るあまりにも強い刺激に、そうでもしなければ耐えきれなかった。
 尋常ではなくビクビクと腰が震え、下半身が熱い液体で濡れていく感覚がする。
 いつもとは違う、悪夢の夜が始まる。
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