退魔の少女達

コロンド

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番外編

サクラのちょっとツイてない一日 1

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『もしもし、そっちは大丈夫、サクラ?』

 スマホ越しに聞こえるカナの声を前に、サクラは深く息を吸ってから声を発する。

「はっ……はい、バッチリです!」
『そう、息が荒いようだけど本当に大丈夫?』

 サクラは自身の胸に手を当てながら、もう一度深く息を吸う。

「ま、まぁついさっきまで淫魔と戦ってたとこですからね……! そ、それよりカナ先輩の方は大丈夫ですか?」
『私もさっき討伐を終えたとこ。報告に聞いてたほど強い淫魔ではなかったね。それにしても今日だけで二体も同時に淫魔の発見報告があるなんて……退魔師は本来二人以上で行動しないといけない決まりがあるんだけど……ごめんね、どうにも人手不足でさ』
「いえいえ! 私だってもう一人で淫魔退治くらいできますから!」
『ふふっ、サクラが頼りになる存在になってくれて嬉しいよ』

 こちらを労うカナの声に、サクラの口元が綻ぶ。

『それじゃ今日は気をつけて帰ってね』
「はい、カナ先輩もお気をつけて」

 互いにそんな言葉を交わした後、サクラはカナが通話を切るのを待つ。
 そしてツーツーと会話が途切れたことを知らせる電子音が聞こえた直後、スマホを持っていた右手がダランと垂れる。

「はぁ……っ、あっ……んぁあ……っ」

 指の力が抜けて握っていたスマホを土の上に落とすと、サクラは今まで我慢してきたものを一気に吐き出すように甘い吐息を漏らす。

「くぅ……ちょっと、強がっちゃったかなぁ……んっ、あっ……」

 近くにあった木にもたれかかり、そのままゆっくりとその場に崩れ落ちる。

 ――数分前のこと。
 連絡を受けて一人で指定の森の中までやってきたサクラは、そこで目的の淫魔を発見した。
 相対した虫型の淫魔は決して強い相手ではなかった。
 事実、サクラはほぼ無傷のままその淫魔を一刀両断し、切り祓うことに成功した。
 だが淫魔が体を切断されたその瞬間、まるで水風船が割れたかのように淫魔の体から大量の液体が吹き出した。
 それは少し触れただけでただならぬ催淫効果を持つ淫魔の体液。
 それを正面から浴びてしまったサクラは一瞬にした全身が火照り、足が震えてその場に立つことすらままならなくなる。
 内側からこみ上げるような快楽の熱と痺れに耐えながら、サクラはなんとかスマホを手に取りカナに連絡を取ったのだった。
 サクラは先程の電話でカナに助けを求めることもできたが、必要のない見栄と強がりから助けを求めるタイミングを逃してしまった。

「と、とにかく……着替えよ……」

 サクラの制服にはべっとりとした粘液が付着していて、たとえ人気のない夜だとしてもこんな姿で公の場を歩きたくはない。
 重い足を上げて周囲を見渡すと、草陰の中に淫魔との戦闘前に放り投げたカバンを見つけた。
 サクラはそれを手に取ると震える手でチャックを開け、中からジャージを取り出す。

「誰も、見てないよね……?」

 十メートルほど先に公道があるが、ここは昼間でも誰も入らない森の中。
 誰もいないと分かっていながらも、存在しない周りの視線を気にしながらサクラはセーラー服を脱ぎ始める。
 生暖かい粘液はすでにセーラー服の内側にまで浸透していて、濡れた服が体に肌に張り付いて気落ちが悪い。

「んッ……くぁ、あ……っ!」

 しかもただ居心地が悪いだけではなく、服が擦れるたびに敏感になった肌に甘い痺れが走る。
 濡れた制服はまるで生き物のように手首に絡みつく。
 そんな中サクラは息を荒くしながらも力任せにセーラー服を脱ぎ、カバンに入れていたビニール袋を広げてそこに放り込む。

「はぁ、はぁ……キャミもぐしゃぐしゃ……」

 セーラー服の下に着ていた無地のキャミソールも同様に粘液で濡れきっていた。
 腹部に張り付く布の感覚に体を震わせながら、サクラはキャミソールも脱ぎ捨てていく。
 そうして上半身は胸を守る布はブラだけになり、ひんやりとした風が腹部に触れるとその些細な刺激すら愛撫のように感じてしまう。

「……っ、下着まで……どうしよ……」

 身につけていた薄桃色のブラも少し濡れていたが、替えの下着は持ち合わせていないことに気づき、少し気分は悪いが着たままにすることにした。
 そうして今度はハンドタオルを手に取り、上半身を拭いていく。

「ふっ……んぁ……っ、いッ!?」

 細かい繊維が肌を刺激し、少し力を入れただけで体がビクンと跳ねる。

「ふぁ……っ、からだ、拭いてるだけ、なのに……っ、んんっ!」

 想像以上に敏感になっている自分の体に驚きながらも、サクラは歯を噛み締めながら体を拭いていく。
 ただ服を脱いで上半身の汚れを拭いただけなのに、とてつもない疲労感に視界が霞む。
 悶えながらもなんとか上半身はあらかた拭き終えたが、まだ下半身の汚れが残っていることに辟易する。
 上半身の衣服に比べると比較的脱ぎやすいスカートを脱ぎ捨て、想像以上に粘液で濡れている下半身を前に目を背けたくなる。

「うわぁ……でも、こっちも拭かないと……んっ、あぁ……っ!」

 軽く太ももの辺りをタオルで撫でると、まるで性感帯を刺激したかのように体が痺れる。
 粘液の媚薬効果が時間経過と共に体に浸透してきているのか、どんどん体が熱くなっていく感覚があった。

「早く、拭かないと…………んっ、あっ、ああっ……!」

 焦りを感じながら、サクラは濡れた下半身を拭いていく。
 濡れて足に密着したソックスを脱ぐことは諦めて布の上から足を拭き、腰周りはあまり刺激を与えたくなかったので軽く拭く程度に留めた。

「よ、よし、早く着替えよ」

 一通り体を拭いたサクラはジャージを手に取り、急いでそれを身につけていく。
 もちろん服を着るという一連の動作も、今のサクラにとって容易なことではない。

「ぁう……っ、なんでうちのジャージ……こんなに内側ザラついて……んっ、ンン~~ッ!」

 学校指定のジャージは内側がザラついた肌触りで、普段は何とも思わないものの今はまるで全身を刺激する拷問を受けているような気分だった。
 それでもサクラは何とかジャージを身につける。
 着替えが終わる頃には全身が汗だくで、着替えた直後なのに全身を覆う不快感は拭えないままだった。
 そうしてサクラはどんよりした気分のまま、近場の駅へと向かう。
 ここはサクラの家まで電車で30分ほどの場所。
 退魔の力を持つサクラはときに数十キロの距離を走って移動することもあるが、今の彼女にそんな気力も体力も残っていない。

「椅子、座れるといいなぁ……」

 そう呟くサクラだったが残念ながら電車の座席は全て埋まっていた。

(そうだよねぇ……今って混む時間帯だもんね……)

 時刻は夜の20時頃。
 電車内には仕事終わりのサラリーマンや部活終わりの学生の姿が散見された。
 サクラが扉のすぐ横のスペースに寄りかかると、ちょうど電車の扉が閉まる。
 直後電車は動き出し、電車内がガクンと揺れる。

「ふぁ……っ、んっ……」
(声、我慢しなきゃ……)

 眠い日は電車が揺れる感覚を揺籠のように感じる時もあるが、今のサクラにとっては不規則に体が揺れるこの感覚は不愉快でしかない。
 体が揺れて服が体に軽く触れるだけで、まるで誰かに体を撫でられているかのように感じてしまう。
 まるで風邪を引いた日に乗る電車のように体が熱く、意識が遠のきそうになる。
 体の内側から込み上げる快楽に耐えながらじっとしていると、電車が次の駅に近づき減速を始める。
 それと共に電車内に次の駅での乗換案内のアナウンスが流れる。

(あれ、そういえばここって乗り換えが多い駅で……あっ……)

 この電車はサクラにとって普段あまり乗ることのない路線かつ、普段あまり乗らない時間帯。
 どの駅でどれだけの人が乗り入れをするのか、知識を持ち合わせていなかったサクラは目の前の光景に驚愕する。
 電車が止まるのと同時に、その扉の向こう側には十数人の長い列が出来ていた。
 そしてドアが開いたその瞬間、サクラが乗っている車両に大勢の人間が雪崩れ込んでくる。

「んきゅぅ……っ!?」
(だ、だめ……押しちゃだめ……っ!)

 人の波に押されぎゅうぎゅう詰めになっていく電車内で、サクラは自身の口を手で押さえ、漏れてしまいそうになる声を必死に抑える。

(ま、まずい……どうしよう、今、体ちょっと触れるだけで……)

 前後左右人で埋め尽くされ、少し体を動かしただけで誰かと体が密着する。
 そんな中、電車のドアが締まりそうになったタイミングで走ってきたサラーリーマンが電車内に入り込み、サクラの体がさらに押し込まれる。

「んぎゅ――ッ!?」

 もはやどう足掻いても誰かと体が密着してしまう状態。

「くっ、――――っ!」

 サクラの口から漏れる小動物の鳴き声のような悲鳴。
 周囲の騒音で掻き消されてしまうほどの小さな声ではあるものの、それを自分の意思で抑えることができない。
 今すぐこの場から逃げ出したい気分だったが、電車のドアはすでに締まり、そこはもう逃げ場のない密室と化していた。

(まずい、このまま電車が動き出したら――)

 電車が動き出す。
 その揺れで人の群れが、一斉にガクンと体を揺らす。

「~~~~ッ!?」

 揺れる衣服、密着する体。
 淫魔に犯されるのとはまた別の地獄が始まる。
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