退魔の少女達

コロンド

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番外編

苦痛と快楽の拷問 1

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こちらPixivにてリクエストを受けて作成した作品になります。
本編終了後にもしかしたらあったかもしれない物語、くらいの感覚でお楽しみください。

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「はぁ……」

ため息をつきながら、カナはソファに深く座る。
だらんと体を崩し、広さだけはあるものの何もない自分の部屋をぼんやりと見つめていた。

「だる~い、何もしたくな~い」

昼は学生として学業に励み、夜は退魔師として淫魔と戦う毎日。
昔から退魔師の家系として育てられたカナにしてみれば、いつかはこうなると分かっていた。
それでも、周囲に誰もいないこの時間だけは虚空に向けて愚痴の一つでも呟きたくなる。
そうしてカナは娯楽を楽しむでもなく、ただぼーっと窓の外の景色を見つめていた。
そんな時、ポケットに入れたスマホが振動する。

(着信……サクラか……)

着信画面を見て、カナの口元が緩む。
多忙な毎日の数少ない癒しといえば、少し抜けてる後輩の相手をすることくらい。

(いや、いつまでも半人前扱いはよくないな。サクラも今は立派な退魔師か……)

ついさっきまで、そのまま液状化してしまいそうな程ぐったりとしていたカナは瞬時にピンと背筋を伸ばす。

「もしもし、討伐任務終わった?」

そして通話ボタンを押し、年上の先輩らしく柔らかい口調で語りかける。

『あ、繋がった繋がった!』

だがスマホ越しに聞こえてくる声は、サクラとは違う誰かの声だった。
カナはハッとして警戒を強める。

「誰?」
『えーっと、あなたはこのサクラって子の退魔師の先輩さん……であってるよね?』
「……」
『あっ、今焦って黙ったでしょ? どうやら当たりみたいだねぇ』

電話越しに聞こえる、クスクスとこちらを嘲笑うような声。

「サクラは?」
『さ~生きてるかな~死んでるかな~?』
「おちょくらないで。私に電話してきたってことは、何か用があるんでしょ?」
『病院裏の廃ビル、って言えば分かるよね? そこまでおいで。一人でね。それとできるだけ急いだ方がいいよ~』

淫魔の話を聴きながら、スピーカー越しにかすかに聞こえる音にカナは集中する。
バチン、バチンと鞭を打つような音と共に、甲高い女性の悲鳴のような声が聞こえた。
サクラの顔が脳裏に浮かぶが、音質が悪くまだ断定はできない。

「……サクラ、そこにいるの?」
『あ、音聞こえちゃった? さぁ、どうだろうねぇ、これ以上は教えてあげな~い。待ってるよ、先輩ちゃん』
「――待てっ!」

何か言い返そうとしたところで、通話は一方的に切られた。

「くっ……!」

カナは静かになったスマホを強く握りしめる。
冷静にならなければならないと分かってはいるものの、怒りの感情が抑えられない。

「待っててね、サクラ」

帰宅後まだ着替えていない制服姿のまま、黒いコートだけを手に取ってカナは指定された場所へと急いだ。


 ***


カナは言われた通り、病院裏の廃ビルにまでやってきた。
辺りは既に暗く、街灯も少ない。
いかにも淫魔が好みそうな場所だった。

(サクラ……どこ……?)

わざわざ淫魔の方から退魔師を呼び出しているのだから、何かしらの罠があるかもしれない。
こんな場所に一人で乗り込むのは危険だが、焦る気持ちがカナの足を前に進める。
カナは右手に銃を作り出し、いつでも戦闘できる状態で廃ビルの中に入り込んだ。
柱の影から敵が襲ってくるイメージを常に持ちながら、埃まみれの床の上を足音を立てずにゆっくりと歩いていく。

「見つけたぞ、銃使いの退魔師……!」
「……っ!」

不意に背後から強い殺気を感じ、カナは無意識にその場に屈み込む。
するとさっきまでカナの頭部があった場所に、何かが通り過ぎた感覚があった。

――ダァンッ!

直後、カナのすぐ横にあったコンクリートの柱に何かが衝突し、轟音が響く。
カナは最短の動きでその柱の影に隠れる。
柱の一部が破壊され、コンクリートが剥がれ鉄筋がむき出しになっていた。

「ちっ、外したか……」
「上級淫魔か……」

カナは意識を集中させ、右手の銃をぎゅっと握る。
そして柱の影から何発か淫魔に向けて発砲した。

「無駄だ!」

淫魔の胸を狙って放たれた銃弾は、淫魔の体に着弾するより先にヒュンと音を立てて何かに弾かれる。

「弾かれた!? あ、あれは……鞭……?」
「いかにも、我は鞭の淫魔バーティス。お前と再戦できる時を待っていたぞ、銃使いの退魔師」

淫魔は堂々とした態度で名乗り上げる。
まるで全身包帯で巻かれたミイラのように体中に鞭が巻きついていて、一目見ただけでは顔の形状すら分からない見た目をしていた。
そして巻きついた無数の鞭の先端はうねうねと蠢いている。

(あの体中に巻きついた鞭を全て自分の意思で動かせるのか、厄介そう……それにしても再戦? 私のことを、知ってる……?)

カナは柱の影から淫魔の様子を伺い続ける。

「ようやく再会できたな……お前に敗北してからというものの、私はお前を倒すことだけを考えて生きてきた」

淫魔はカナが隠れている柱の方へ一歩、また一歩とゆっくり近づいてくる。

「さあ! 今日こそはこの手で蹂躙してくれる、銃使いの退魔師よ!」

バーティスと名乗った淫魔は因縁の敵を前にして、まるで怒りと歓喜の気持ちが入り混じったような昂ぶった声を上げる。
一方カナの方はというと。

(……え、誰だろう? ……まずい、思い出せない)

まるで記憶になかった。
カナが今まで倒してきた淫魔は数千を超える。
その一体一体をいちいち記憶などしていない。
だが怒りの感情ならば、カナとて負けてはいなかった。

「いつまで隠れているつもりだ!」

バーティスがカナの隠れている柱に鞭を打ち付ける。
柔軟に動く鞭の動きは、遮蔽物越しにカナの体を絡め取ろうとする。

「うるさいなぁ……」

――バァン!

響く轟音。
甲高く響くその音は、鞭が打ち付ける音ではなく、銃声だった。
バーティスの腕から伸びる鞭がちぎれ、分離した先端部分が地面を転がる。

「な……!」

カナはもう一発弾を装填し、バーティスの胸を狙い発砲する。

「この……っ!」

バーティスは先程と同じように、銃弾を鞭で弾こうとする。
だが、カナの銃弾は鞭を貫き、バーティスの横腹の辺りを貫いた。

「ぐあっ……ば、バカな……私の鞭を貫くなど――」
「さっきは防げたのに……って? 私の銃弾は精気を込めれば込めるほど、その威力が増す。申し訳ないけど、あなたは最初から私の敵じゃない」

カナはもう一度照準を定め、引き金に指をかける。
だがそこである違和感に気付く。

(あれ……こいつ、電話の声の奴と違う)

それに気付いた直後だった。

「あ~、弱いものイジメしたらだめなんだ~」

耳元で囁かれる何者かの声。
背後から近づく冷たい指先で頬を撫でられ、ゾクッとして背筋が震える。

「……ッ、誰だ!」

カナは咄嗟に背後に銃口を向けるが、そこには誰もいない。

(まるで気配を感じなかった……それにさっきの声は……っ!)
「――よそ見するなよ!」
「しまっ――」

背後の気配に気を取られている間に、バーティスの鞭がカナの真横に迫る。
急所を守るため咄嗟に左腕でその一撃を受けるも、脳が揺れるような衝撃がカナを襲う。

「ぐぁあ……ッ!?」

まるでハンマーで殴られたかのような衝撃。
カナの体は向かいの壁まで吹き飛ばされた。

「かはっ……あっ……」

背中からコンクリートに打ち付けられ、思うように呼吸ができなくなる。

「ククク……どうだ我の一撃は……」

満足そうな笑みを浮かべながら、バーティスが近づいてくる。
カナはゆっくりと立ち上がるが、まだ左腕の感覚が戻らない。

(くっ……集中しろ、私……っ!)

カナの実力であれば、相手は決して苦戦するような相手ではない。
先ほど感じた謎の気配のことは一旦無視して、一刻も早くバーティスを倒すことだけに集中する。
まだ動く右手で銃を構え、バーティスの胸を狙う。

「だ~めっ」
「なっ――!?」

また背後から気配なく何者かが現れる。
今度は背後から現れた手に視界を覆われ、さらには首筋を舐められる。

「んレロ……っ」
「離せ!」

背後か抱きつく何者かを無理やり振り払うが、背後にはもう誰もいない。
まるで幽霊のように消えてしまう何者かに翻弄されていると、急に背後から強い衝撃を受ける。

――バチンッ!

「――あがッ!?」

背後から打ち付けられた鞭の一撃。
あまりの衝撃にカナの体はくの字に曲がり、吹き飛ばされてコンクリートの床の上をバウンドしながら転がっていく。

「がっ……ゲホっ……」

漏れる嗚咽に血の味が混ざる。

「おいマジェラ、手を出すな! これは我とこの女との戦いだ!」

バーティスが不服そうに大声を上げ、その声が廃ビルの中を反芻する。
するとどこからか、はぁとため息をつく声が聞こえた。

「え~、それ本気で言ってる? あんただけだったら、もうとっくにやられてたっての!」

反芻する女性の声。
姿は見えず、その声の出所も掴めない。

「……電話の声は、お前だな……っ」

全身を襲う苦痛に耐えながら、カナはゆっくりと立ち上がる。
そしてまだ姿が見えない何者かに声をかけた。

「あ、せいか~い! 私は幻惑の淫魔、マジェラ。残念だけど退魔師さん、あなたはもう私の幻惑に囚われている。だからもう、どんなに頑張っても勝てないと思うよ~?」

こちらを逆撫でするような声色で、マジェラと名乗った淫魔はカナを挑発する。
鞭の淫魔と幻惑の淫魔。
二体の淫魔を前にして、焦るカナの頬に一筋の汗が流れる。
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