退魔の少女達

コロンド

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番外編

湖畔の襲撃 2

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淫魔は楽しげな表情で触手の腕をふらふら揺らす。
そして無数にある触手の足を伸ばし、サクラの体を絡め取ろうとする。

(くっ……このっ……)

伸びた触手を刀で斬り払おうとするが柔らかい手応えが返ってくるのみ。

「弱い弱い、水を得た私にそんなへなちょこな攻撃効かないよっ! ほら、大人しくしなよっ!」

触手の一本が鞭のような動きでしなり、サクラの腹部を強く叩く。
水中にバチンと強く音が響く。

「ごはっ!」
(ま、まず……息が……っ)

大量の酸素が口から漏れる。
焦って息を整えることに集中している間に、サクラの体に触手が絡みつく。

「んっ……むぐ……っ!」

気づけば触手に体を拘束され、直立の体勢で動けなくなってしまう。
足を開くこともできず、腕は手首が少し動かせる程度。
サクラは必死に手首の力だけで触手を切り落とそうとするが、ゴム質の触手に傷をつけることもできない。

「ざ~んねん、また私に捕まっちゃったね」

苦しむサクラの顔を覗き込むように、パティが顔を近づける。

「あのときは体のほとんどが消えちゃって、100分の1くらいにまで体縮めてなんとか逃げ帰ったんだよねー。このサイズに戻るまで、すっごい時間かかったんだから」
「んっ……ぐっ……」

体を締め付けられるたびに、酸素が口から漏れ出していく。
今のサクラにとって、なぜパティが目の前にいるかどうかよりも、早くこの状況を打開することの方が重要だった。

「私あの時のこと、けっっっこう根に持ってるんだよねー。と、言うわけでー……あの時の続き…………しよっか」

パチンと音を立て、パティの口の奥から火花が散る。

「……ッ!」

背筋が凍る。

(や……いや………っ!)

パティの顔が近づいてくるたびに、心臓がバクバクと跳ね上がる。
思い出したくない恐怖の記憶が、胸の奥からどんどんあふれてくる。

「まずはその精気、いただくね…………あむっ」
「んんッ!?」

ひんやりとしたゼリーのような唇がサクラの唇を塞ぐ。
サクラは必死に歯を食いしばって口を閉ざすが、パティの舌はいともたやすくそれをこじ開ける。

「んっ……んぁむぅ……っ」
「ん、んんーッ! ……ん、ンぁあ……ッ」

人とは明らかに違う柔らかくて長い舌が、サクラの舌を絡めとり、口の中を好き勝手に舐め回す。
口内を好き勝手にされて甘い感覚を覚えた直後、サクラの体がビクビクと痙攣する。

「ンぃいいッ!?」
「んっ……んっ……」

精気を奪われる感覚。
強制的にやってくる痺れるような快楽に、サクラの目がひん剥く。
呼吸をするようなリズムで、ビクビク……ビクビク……と、体が何度も何度も跳ねる。

「やっぱりサクラちゃんの精気、サイコーに美味しい…………ん、もっと……ぁあむっ」
「ンァ……っ、がほ……っ!」

精気吸収される度にサクラの口からは精気だけでなく酸素もあふれ、だんだん意識が遠のいていく。

そしてその感覚は不意にやってきた。

「んっ………んぁ……んっ、ン”ッ!? ン”ン”ン”ン”ーーーーッ!?」

舌を絡め取られる甘い感覚とは一転、パティの舌先から電流が流れ始める。
パティの舌先は、サクラの喉の奥や舌の裏などを好き勝手にツンツンと責め立て、しまいには長いくて細い舌でサクラの舌を締め上げる。

「ン”ぇッ!? ン”がぁあああッ!!」

ボコボコと大量の酸素が口から漏れていく。
ほとんどの酸素を奪われてしまった上に、脳に直接電流を流されるような感覚がやってきて意識が霞む。
それでもサクラはこの状況を打開する策を必死に考えていた。
もうすでに絶望的な状況だが、今この現状を打開しなければ状況はどんどん悪くなる。

(水中で、しかも今動かせるのは手首だけ……刀のように長い武器はうまく使えない……もっと、刀身をナイフのように短く……刃はより鋭く……)

頭の中で思い浮かべた武器を形にしていく。
霞んだ意識の中、サクラは作り出したそのナイフを一本の触手に突き立てた。

「痛ぁあッ!?」

触手を切り裂く手応え。
パティが悲鳴をあげるのと同時に、全身の拘束が一瞬緩む。

(今ッ!)

ここぞとばかりにサクラは手にしたナイフで触手を切り払っていく。

「いっ……なんで、人間は水の中じゃ力を出せないはずじゃ……ッ!」

サクラとて、以前パティと相対した時よりも多くの経験を積み、成長している。
パティはそれを想定していなかった。

「う……ぐ…………て、撤退!」

急に劣勢となったパティは、背を向けてその場から逃げ出そうとする。

(逃さないっ!)

狙いを定め、サクラは手に持ったナイフをパティに向けて投げつけた。

「うぁああっ!」

投げたナイフがパティの後頭部に突き刺さる。

(くっ、もう……限界……っ!)

だがそこで、呼吸の限界がくる。
サクラはパティの生死を確認できぬまま、水面に向けて泳ぎだした。
間に合え……間に合え……と自身を鼓舞しながら、必死に手足を動かす。

「ぷはぁっ! はぁ……はぁ……」

バチャンと大きな音を立て、サクラは水面から顔を出す。
心臓が強く鼓動し、呼吸する度に肺が痛む。
いつ意識を失ってもおかしくない状況だった。
それでもまた空気を吸うことができたことに、サクラはひとまず安堵した。

「はぁ……はぁ……一回、陸に上がろう……」

全身の99%を失っても生きていたパティのことだ、おそらくまだ生きていることだろう。
だがたとえパティが生きていたとしても、水中で戦うのは危険すぎる。
それに体力も限界で、一度休息が必要な状況だった。

足のつくところまで泳ぎ、浅瀬にまでつくとおぼつかない足取りでゆっくりと陸に向けて歩いていく。
だが水面が膝のあたりまで来たところで、足元がぬちゃりと沈んだ。

「なに……っ?」

最初はぬかるみに嵌ったのかと思ったが、様子がおかしい。
まるで地面が生きているかのようにサクラの足を飲み込んでいく。
足元から太ももにかけて這いずるように、何かがサクラの体を取り込んでいく。

「これは……っ!?」

あたり一面から、ザバァッと水面から異形の生命体が姿を現し、一斉にサクラに襲い掛かる。

「ん、く……っ! さっきのッ!」

それは先ほど現れたスライム状の淫魔。
パティとの戦闘で失念していたが、このスライムはパティとは全く別の淫魔だ。
足を捉えられ、刀を振って抵抗しようとするも、全方位から波のように襲い掛かるスライム状の敵に斬撃は柔らかく受け止められる。

「んっ……ぐぅう……っ!?」

サクラの体は一瞬で全身を粘性のある液体に包まれる。
そのままサクラを包み込むようスライムが密集し、どんどん膨れ上がっていく。
密集したスライムの中でサクラは手を伸ばし、もがく。
しかしどんなに足掻いても、もう外の空気に触れることすらできない。

「クヒヒッ、退魔師ちゃん、つかまえたヨ」

聞きなれない声とともに水面から人影が現れる。

「ワタシの名前はヌラルゥ。バカな退魔師をココにおびき寄せて捕食するのが得意な淫魔だヨ。クヒヒッ」

ヌメヌメとした粘液状の体を持つその淫魔は、奇妙な笑い方でサクラを見つめる。
不意に現れた2体目の淫魔。
そこでサクラはようやく、自分が淫魔の巣窟に足を踏み入れてしまったのだと気づいた。

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