退魔の少女達

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王女の淫魔 6

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「んっ……んっ……」
「ふッ……うッ、ぐぅううッ!!?」

淫魔はただひたすらにサクラの生命力を吸引し続けた。
生まれたばかりの淫魔は食事の意味も理由もまだ理解していないはずだが、おそらく淫魔の本能のようなものが体を動かすのだろう。
何も言わず、ただ夢中で吸い続ける。
サクラの中にある、生命力が空っぽになるまで……

「そうよ、全部吸い上げてしまいなさ――――」

シエラの言葉がそこで途切れる。

それはうまく言葉にできない不穏な感覚。
背筋が凍るような、それでいて正体が掴めない何かを確かにシエラは感じ取った。
直後、地面が光を通さない黒一色染まる。

「――――なッ!?」

強い力が渦巻く感覚に、シエラはすぐさまその場から飛び退く。

「んんっ!?」

淫魔も本能的に危機を感じ取ったのか、サクラをその場に残して真後ろに飛んだ。
その瞬間、シエラと淫魔がさっきまで立っていた場所に、影のような黒い棘が地面から勢いよく飛び出した。
1メートル以上ある棘が何十本と地面から突き出し、シエラと淫魔がさっきまで立っていた場所は針のむしろとなる。
だがその中心にいたサクラは無傷。
サクラを傷つけぬよう、棘の山は彼女を中心にドーナッツ状に這い出ていた。

支えを失いその場にぺたんと倒れこむサクラ。
その視線の先にこちらに視線を向けるカコの姿が映った。

「カコ……ちゃ……」
「……包め」

ニヤリと笑いながらカコがそう唱える。
すると今度は影がサクラの体を包み込むように包囲する。
そしてサクラの体を完全に包み込んだ影の塊は、ナメクジのように地面を這って動き出す。
形こそナメクジだが、その速度はかなり早い。

「あっ……にげるなー」
「させない」

淫魔はサクラを包んだ影を追いかけようとするが、足元からまた棘が生え、それを回避する。

「うく……っ、あぶな…………ああ、いっちゃった……」

それは一瞬の出来事。
サクラを包んだ影の塊はこの部屋の扉を勢いよく吹き飛ばし、すでにこの部屋から脱出していた。

「あれは追わなくていいわ、元々彼女はこの計画に必要ない存在だもの」
「うう……せーめーりょく……もっと……」

早速、食の喜びを覚えたのか、食事中に料理に逃げられ淫魔は不服そうだった。

「大丈夫、ほら、ご飯ならそっちにもあるわ」

シエラはそう言って、カコを指差す。

「くっ……!」

カコは再び、影の棘を作り出す。
淫魔がこちらに振り向くより先に、先手を打つ。
だが淫魔は自分の体を流体のように動かし、全ての攻撃をいともたやすくかわす。
そしてカコの両頬をぬるりとした両手で掴んだ。

「ふふっ……いただき……ます……」
「やめ……っ! ――――くっ、あぁあああああッ!!?」

研究室の中に、新たな嬌声が響く。


 ***


そこからのサクラの記憶は曖昧だ。
サクラを包んでいた影の繭は、どこかの壁にぶつかり、サクラは外に放り出される。
周りを見渡しても、そこが施設の廊下という情報以外は掴めない。
カコ達がいるあの部屋からどれほど離れたのかも分からない。

そんなとき、視界の端に形を失っていく影の繭が見える。
影が消えていくのはカコが操作できる範囲外に出たからなのか、あるいはカコ自身が影を形成させる力を失ってしまったからなのか。
サクラにそれを判別する手段はない。

「あ……がはっ…………カコ、ちゃ……ん……」

嗚咽を上げ、立ち上がろうとするも、そんな力はもう残っていない。
それでもサクラは、這うようにして前に進もうとする。
だが途中で、どっちが前なのか分からないことに気付く。
そもそも今サクラが進むべき道はどっちなのか?
カコが囚われているあの部屋に戻るべきなのか、それともせっかくカコがくれたチャンスを生かしていち早くここから逃げ出すべきなのか?

「うぅ……あ、うぅ……ッ!」

もうなにも、分からなくなって、涙が出てくる。
カコを助けようと思ってあそこまでたどり着いたのに、なにもできなかった自分の無力さに苛立つ。
あの後カコはどうなったのだろう。
考えるだけで胸が痛くなる。

「うぐッ……誰か……助けて……っ、カコちゃんを……たすけて、あげてよぉ……ッ! ……うあぁああッ!」

サクラはどんなに力を奪われても、決して心までは屈しまいと思っていた。
だがもう、心も、体も、限界だった。
それこそ年相応の少女のように、サクラはわんわんと泣き続けた。



――――。



――――――――。



「――――ラ」



誰かの声が聞こえる。

「――クラッ!」

サクラは自分が泣き疲れて眠ってしまったことに気付き、焦りとともに目を覚ます。

「――サクラッ!」

少し遅れて、自分が今誰かに抱きかかえられていることに気付く。
そして、自分を呼ぶ聞き覚えのある声。
目の前でその人物の輪郭が少しづつ確かなものになってきて、さっきまでとは違う感情で涙が溢れそうになる。

「よかった……目を、覚ました……ッ」
「あっ……ああっ!」

涙で視界はにじむけれど、自分を抱きかかえる彼女がひどく心配した様子でこちらを見つめていることは分かる。

「カナ……せん、ぱい……?」
「うん、そうだよッ!」

泣きそうな声でカナがサクラを抱きしめる。

「かな……せん、ぱい…………カナせんぱぁいッ!」

サクラもそれしか言えなくなって、ただ彼女の胸に顔をうずめて泣き続けた。
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