退魔の少女達

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人工淫魔 3

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箱の中から現れた複数の淫魔。
その数はざっと十数体というところだろうか。
それぞれ異形の姿をしており、人の姿をしているものはいない。
おそらく全て、意思を持たない低級淫魔だろう。
しかし気を抜くことはできない。
どれも今までに見たことのない形をしている。
敵の能力がわからない以上、こちらから手を出すもこともできず、サクラは刀を強く握りしめながら神経を集中させる。
サクラが出方を待っていると、一体の淫魔が動き出す。
その淫魔は口のように穴の空いた部位を、サクラの方へ向ける。

(ーー来るッ!!)

そう確信したサクラはその場から転がるように真横へ移動する。
同時にダダダダッと地面に何かが突き刺さる音が聞こえた。
そしてさっきまで自分がいた場所を見ると、そこには無数の針が刺さっていた。
どうやらあの淫魔はサボテンの針ほどの小さな針を飛ばす能力を持っているらしい。
退魔の力をもつサクラにとってあの程度の針、当たったとしても少し痛い程度で済むだろう。
だが相手は淫魔だ。
その針には何らかの毒が含まれているに違いない。
そしてその攻撃を合図に敵の猛攻が始まった。
サクラが針の攻撃に視線を奪われている内に、二本の触手が目前まで迫っていた。

「ーーくっ!!」

ほんの数センチのところまで迫っていた触手を、一薙ぎで斬りはらう。
頬を伝う汗が地面に落ちる間もなく、今度はスライム状の淫魔が足元から襲いかかる。

「ーーッ!?」

足に絡み付こうとするスライムを避けるべく足を引いたサクラだったが、バランスを崩し、腰から崩れ落ちてしまう。
そこに追い討ちをかけるように、上空から浮遊する小さな淫魔が襲いかかる。
その淫魔はまるで綿毛のようにゆっくりとサクラの肩に触れ、そしてその瞬間、淫魔から強烈な電撃が発した。

「んあぁアアアアアアッ!!」

不意の電流にサクラは目を見開き、大声を上げる。
しかしそこで動きを止めれば淫魔の餌食。
サクラは痙攣する体を無理やり動かし、肩に止まった淫魔を掴み、放り投げた。
そしてすぐさま立ち上がり刀を構える。

「はぁ、はぁ……」

不意の一撃だったが、退魔の力を持つサクラにとってあの程度の攻撃は大したダメージにはならない。
それでも、複数の敵を同時に相手にするのは精神的にも追い詰められるようで、サクラの息は上がっていた。

(それぞれの淫魔が別々の能力を持っている……? それにしても……何だか淫魔達の攻撃に、妙に見覚えがあるような……)
「奴らはね、シエラさまが研究の末に他の淫魔を模倣して作り出した、人工淫魔なんだよ! すごいでしょ?」
(人工……淫魔……?)

まるでサクラの心を読んだかのように、ガラスの向こうから自慢げにナルコが語る。

「ナルコ、勝手に情報を与えちゃダメ」
「えー、いいじゃんそれくらい。シエラさまの偉業をもっと自慢するべきだよっ! きっとシエラさまもそうした方が喜ぶよっ!」
「シエラさまも喜ぶ……かな? そうなの……かな? そうなら……嬉しいな……」
「でしょ? シエラさま、普段から引きこもってずっと固い顔ばっかしてるから、喜ばせてあげようね!」
「うん、いっぱい自慢できたよって言ってあげるの……」

二人の話はどんどん脱線してゆき、これ以上有用な情報は得られそうにない。

(他の淫魔を模倣して作り出した、って言ってたっけ。確かに見覚えのある攻撃をして来る淫魔が何体かいる……思っていた以上に厄介だ……)

何をどうしたらこうなるのかサクラには理解できないが、この部屋にいる全ての淫魔は人工的に作られたものらしい。
そして中には以前サクラが戦ったことのある淫魔の性質を持つ者もいる。
敵の能力がある程度分かるのであれば攻略しやすいが、どんな能力を持つか分からない敵には迂闊に攻撃を仕掛けるのは危険だろう。
それにもう一つ、『シエラさま』という言葉が気になる。
話を聞く限り、シエラさまと言うのは彼女達を従えるクイーンで間違いないだろう。
この地下室を支配し、人工淫魔などの研究を率先して行なっているようだ。
どんな意図でそのようなことをしているのかは分からないが、侵入してきた退魔師に対してこのような実験的行動をして来る時点で対話の通じる相手とは思えない。

(さて、どうしたものかな……)

サクラの頭がこんがらがり出す。
この場を切り抜けられたとして、果たして当初の目的を果たすことができるのだろうか。
まだ見ぬ相手は想像以上に強敵で、状況もかなりこちらが不利だ。

(いや、今はまず目の前の状況を何とかしなくちゃ)

サクラは頭を振って雑念を取り払う。
そして目の前に立ちふさがる敵達に集中した。
すると、先ほどの淫魔が再び触手をサクラに向けて伸ばしてくる。

「触手をいくら斬ってもキリがない……だったらッ!」

サクラのその触手を斬るのではなく、左手でその触手を掴んだ。
そして力強く引っ張り上げる。
淫魔はサクラの方へと引き寄せられ、そしてーー。

「セヤァッ!!」

その体を真っ二つにされる。
触手を使う淫魔が霧のように消えていった。

「よし、まず一体」
「うぁあああああああああああッ!! しーちゃんがぁああああッ!!」
「ナルコ、同様しすぎ。……あれ、しーちゃんって言うんだ」

背後から聞こえる愉快な声を聞き流し、再びサクラは他の淫魔たちに視線を向ける。
一人倒したものの、まだ敵は十体以上いる。
油断はできない。
それにしても、淫魔達の動きが妙であることにサクラは気づく。
本来、数に利がある淫魔達は一斉に襲ってきた方が有利なはずだ。
にも関わらず、淫魔たちはまるで規則を守るかのように順番に攻撃を仕掛けている。
奴らには思考する能力がなく、見つけた攻撃対象を無差別に攻撃するものとサクラは思っていたが、そうではないのかもしれない。
ならば、規律ある行動を取るその理由は……?

「ーーんグッ!?」

それは全くの無意識からの攻撃だった。
急に首を締められるような感覚に襲われ、サクラは首元を押さえる。
だが、見えない何かに阻まれ、自分の首をつかむことができない。
見えない触手のような何かがサクラの首元に絡みつき、締め上げ、呼吸を制限されていく。

「……あっ……がぁ…………いき、が……ッ!!」

声にならない声をあげるサクラ。
締め上げる触手はサクラの体を少しづつ浮かせてゆき、サクラのかかとが地面から離れ、つま先立ちを強要される。
ついにはサクラの両足は地面から完全に離れてしまい、必死にその両足をバタつかせる。
一番恐れていた、知らない能力を持った敵からの奇襲。
そしてサクラの瞳に今までサクラと一定の距離を保っていた淫魔達が、少しづつこちらに近づいてきている姿が映る。

(淫魔たちは……これを狙っていた……!?)

そうとしか考えられない。
淫魔達はこの透明な淫魔が、サクラの行動を抑えるように誘導していたのだ。
そしてサクラを拘束した今、集団で襲いかかろうとしている。

「いけー! みーちゃん! しーちゃんの仇を取るんだーーッ!!」
「触手だからしーちゃん、見えないからみーちゃん……かな?」

場外から聞こえるサクラの敗北を望む声。
今ここにサクラの勝利を望む者などどこにもいない。

「く……そ……ッ!」

酸素を失い薄れていく意識。
敵の姿は見えなくても首元に何かがいるはず、ならばと思いサクラは右手に持つ刀でそれを切り裂こうと試みる。
しかし、もう遅かった。
サクラの足元がスライム状の淫魔に絡みとられる。
その淫魔はサクラの太ももを伝い、体を伝い、刀を持つ右手を拘束する。
粘液状の体にも関わらず、その拘束力は強く、右手を上手く動かすことができない。

「ーーんッ!? んんんんんんんッ!!?」

そしてスライムはサクラの口元にも攻め入る。
今まさに空気を求めているサクラは、その口を閉じることなどできない。
スライムはそれを知ってか知らずか、サクラの口内で思うがままに暴れまわる。

「んむうううううッ!!」

こうなれば、サクラはもうくぐもった悲鳴を上げることしかできなくなる。
そして気づけばサクラの周囲は完全に淫魔に囲まれていた。
刀を振るうことのできない退魔師などただの餌でしかない。
餌を求める淫魔の手が、一つ二つとにじり寄っていく。
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