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寄生の淫魔 3
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室内のカーペットに押し倒され、五人の女性に取り押さえられる。
手首や足首、肩や太ももまで押さえられ、もはや誰の手がどこにあるのかも分からない状態。
それでも、サクラの瞳は未だ濁らず勝利への活路を探していたーー。
(何か、何か仕掛けがあるはずーー)
全身をいやらしくまさぐられながらも、サクラは必死に視線を巡らせ、勝利につながる何かを探し続けた。
だがやはり、敵がどんな能力を持っているのかは分からない。
彼女たちは一見それぞれが個別の意思で動いているように見えるが、実のところ統率のとれた動きでサクラの四肢を押さえ、サクラの行動権を支配していく。
誰かが先導している訳でもないのに。
そこにサクラは何かが引っ掛かるのを感じた。
(……もし、相手が五人じゃなくて一人だとしたら……)
彼女たちは5体の淫魔ではなく、本体は一人なのではないか。
ショートカットのメイと呼ばれた彼女と金髪のエミリと呼ばれた女性には刀による攻撃が一切効かなかった。
ならば残る3人の中に本体がいる。
サクラはそう仮説を立てる。
となれば3人の中で最も怪しい人物は誰なのか。
思考が飛んでしまいそうになる状況の中、サクラは一人の人物に当たりをつける。
サクラに声をかけ、この場まで連れてきたミユキだ。
そしてそこでサクラはハッと思い出す。
ミユキを斬りつけようとしたあの時、刀を防いだのはミユキではなくエミリだった。
もしミユキがエミリたちと同様に刀が効かないなら、エミリが横から出てきて刀を防ぐ必要などなかったはずだ。
(ーーッ!! 間違いないッ!!)
サクラは力を振り絞り、右腕の拘束を振りほどこうとする。
きっともうサクラに抵抗する気力はないと油断していたのだろう。
思いの外簡単に右手の拘束は解かれた。
そして間髪入れずにその手に刀を具現化させる。
刀身を伸ばし、腕の力だけでミユキに向けて振り抜いた。
「ぐ……ッ!」
「ーーッ!?」
完全に不意をついた一撃。
そう思った。
しかしその刀身は横から体を出してきたエミリに阻まれる。
同時にサクラの瞳に不可解なものが映る。
エミリの背筋から首元のあたりにかけて、虫のような見慣れないものが映った。
そこから感じる禍々しい気配。
サクラの中で全てのピースが繋がった。
サクラはすぐさま刀を持ち直し、もう一度振り抜く。
狙いはエミリの首筋にあるあの虫だ。
「セヤァッ!!」
「あッーー」
甲殻を切り裂く感覚。
切り裂かれた虫が地面に落ちる前に、その体は霧のように消え去った。
同時にエミリの瞳から光が消え、その場にバタリと倒れる。
その状況に息を飲む彼女たち。
サクラは今こそ好機であると確信し、彼女たちが呆気にとられている隙をついて拘束から抜け出す。
「セイ、ヤァ、ハァッ!!」
そして彼女たちの首筋に張り付いた虫を順に斬りつけていく。
首筋の虫を失った彼女たちは一人、また一人と倒れていく。
気づけば四人がその場に倒れ、立っているのはサクラとミユキだけになっていた。
そして壁に背をつけるミユキに向けて刀を突きつける。
「あなたが最後です」
「ひっーー!」
その刀身を前に明らかに恐怖の表情を見せるミユキ。
彼女の背には虫のようなものは見当たらない。
どうやた彼女が他の四人を操っていた淫魔で間違いないらしい。
「ふ、不覚です。まさかあの状況からこんなことになるとは……」
観念したのかミユキは両手を上げて降伏の姿勢を見せる。
随分と諦めの早いミユキの態度が、逆にサクラを不安にさせる。
サクラは刀を突きつけたまま、ミユキの一挙一動に視線を巡らす。
「でも退魔師さん、あなたが求めているのはこんなちっぽけな淫魔一人の命ではないでしょう?」
「……というと?」
「あなたはこのキャンパス内を根城にしているクイーンを探している。違いますか?」
まさにその通りだったため、サクラは息を飲む。
その表情からサクラの目的を察したミユキは、口角がわずかに上がる。
「情報を売って上げてもいいですよ」
「……見返りに自分を見逃してほしいってところですか?」
「ええ、話が早くて助かります」
クイーンの存在は喉から手が出るほど入手したい情報だ。
だが目の前の淫魔は自分を落としれようとした存在。
そう簡単に信用することなどできない。
サクラは思案し、一瞬視線を落とす。
「……油断、したな」
本人しか聞こえないような小さな声でミユキは呟く。
その瞬間、ミユキの右手に禍々しい気配が一気に集中する。
そこに生成されたのは、今倒れている彼女たちの首筋に寄生していたものと同じ虫だ。
ミユキはサクラのその一瞬の隙をつき、サクラに向けて右手を伸ばした。
ーーしかし、一瞬の閃光が目の前をよぎり、気づけばミユキの腕は宙に舞っていた。
「やっぱりあなたは信用できません」
「……あ、が……」
ミユキの体に走るいくつもの剣撃。
少し遅れてミユキの体はバラバラに崩れ、そして霧のように消えていった。
サクラは油断などしていなかった。
ミユキが本当に信頼に足るのかどうかを常に探っていた。
そして結果はこれだ。
ミユキはサクラに情報を渡すつもりなど毛頭なかったことだろう。
淫魔の気配が消え、一瞬で室内は静寂に包まれた。
「なんとか倒せたけど、手がかりはゼロか……カコちゃんに怒られそうだなぁ……」
キャンパス内の生徒に紛れて淫魔が活動している。
それ以上の情報は得ることができなかった。
「そうだ、操られていた人たちは……ッ!」
サクラは床に倒れる四人の女性の容態を確認していく。
「よかった……大丈夫そう」
幸い四人とも息はしていることが確認できた。
彼女たちをどうするか、サクラは一瞬思案し、そしてそのまま放置することに決めた。
目が覚めた後の彼女たちの記憶がどうなっているかは分からない。
もしかしたら操られていた時の記憶が残っていて、クイーンについての情報を引き出せるかもしれないが、本来これは一般人が立ち入るべき領域を大きく外れている。
もし曖昧にでも記憶が残っていたとしても、それは夢だったと認識してもらい、彼女たちには一刻も早く日常生活に帰ってもらうべきである。
サクラはそう考えた。
サクラは彼女たちをできるだけ楽な体勢で寝かせ、その場を後にしようとした。
しかし部屋を出ようとした直前、妙なものが目に入る。
ここは元々古い空き部屋だったのか、室内はホコリっぽくほとんどの本や備品の類は経年劣化により変色している。
そんな中、入口手前の机の上にポンと置かれた青いファイルだけは妙に小綺麗で、そこに違和感を覚えた。
「何かの論文、かな……?」
サクラはそのファイルを手に取りパラパラとページを捲る。
数百ページにも及ぶ厚手のファイルの中にはいくつもの論文がファイリングされているようで、「精神」や「思考」といったワードが多く目に入る。
「脳科学や心理学の論文をまとめたファイル……かな? ん……っ? んんッ!?」
特にクイーンに繋がる情報はないと落胆しかけたその瞬間、目を疑う文字が目に入る。
『淫魔』
1ページ数十行からなる言葉の羅列の中に、確かにその言葉が紛れているのを確認した。
そしてサクラはその周辺の文章の内容を読み込む。
偶然の言葉の一致ではない。
明らかにサクラが知る淫魔について、何らかの研究が行われた結果が記されている。
「これは、クイーンに繋がるかもしれない……」
そう思いサクラはそのファイルを持ち出し、その場を後にした。
手首や足首、肩や太ももまで押さえられ、もはや誰の手がどこにあるのかも分からない状態。
それでも、サクラの瞳は未だ濁らず勝利への活路を探していたーー。
(何か、何か仕掛けがあるはずーー)
全身をいやらしくまさぐられながらも、サクラは必死に視線を巡らせ、勝利につながる何かを探し続けた。
だがやはり、敵がどんな能力を持っているのかは分からない。
彼女たちは一見それぞれが個別の意思で動いているように見えるが、実のところ統率のとれた動きでサクラの四肢を押さえ、サクラの行動権を支配していく。
誰かが先導している訳でもないのに。
そこにサクラは何かが引っ掛かるのを感じた。
(……もし、相手が五人じゃなくて一人だとしたら……)
彼女たちは5体の淫魔ではなく、本体は一人なのではないか。
ショートカットのメイと呼ばれた彼女と金髪のエミリと呼ばれた女性には刀による攻撃が一切効かなかった。
ならば残る3人の中に本体がいる。
サクラはそう仮説を立てる。
となれば3人の中で最も怪しい人物は誰なのか。
思考が飛んでしまいそうになる状況の中、サクラは一人の人物に当たりをつける。
サクラに声をかけ、この場まで連れてきたミユキだ。
そしてそこでサクラはハッと思い出す。
ミユキを斬りつけようとしたあの時、刀を防いだのはミユキではなくエミリだった。
もしミユキがエミリたちと同様に刀が効かないなら、エミリが横から出てきて刀を防ぐ必要などなかったはずだ。
(ーーッ!! 間違いないッ!!)
サクラは力を振り絞り、右腕の拘束を振りほどこうとする。
きっともうサクラに抵抗する気力はないと油断していたのだろう。
思いの外簡単に右手の拘束は解かれた。
そして間髪入れずにその手に刀を具現化させる。
刀身を伸ばし、腕の力だけでミユキに向けて振り抜いた。
「ぐ……ッ!」
「ーーッ!?」
完全に不意をついた一撃。
そう思った。
しかしその刀身は横から体を出してきたエミリに阻まれる。
同時にサクラの瞳に不可解なものが映る。
エミリの背筋から首元のあたりにかけて、虫のような見慣れないものが映った。
そこから感じる禍々しい気配。
サクラの中で全てのピースが繋がった。
サクラはすぐさま刀を持ち直し、もう一度振り抜く。
狙いはエミリの首筋にあるあの虫だ。
「セヤァッ!!」
「あッーー」
甲殻を切り裂く感覚。
切り裂かれた虫が地面に落ちる前に、その体は霧のように消え去った。
同時にエミリの瞳から光が消え、その場にバタリと倒れる。
その状況に息を飲む彼女たち。
サクラは今こそ好機であると確信し、彼女たちが呆気にとられている隙をついて拘束から抜け出す。
「セイ、ヤァ、ハァッ!!」
そして彼女たちの首筋に張り付いた虫を順に斬りつけていく。
首筋の虫を失った彼女たちは一人、また一人と倒れていく。
気づけば四人がその場に倒れ、立っているのはサクラとミユキだけになっていた。
そして壁に背をつけるミユキに向けて刀を突きつける。
「あなたが最後です」
「ひっーー!」
その刀身を前に明らかに恐怖の表情を見せるミユキ。
彼女の背には虫のようなものは見当たらない。
どうやた彼女が他の四人を操っていた淫魔で間違いないらしい。
「ふ、不覚です。まさかあの状況からこんなことになるとは……」
観念したのかミユキは両手を上げて降伏の姿勢を見せる。
随分と諦めの早いミユキの態度が、逆にサクラを不安にさせる。
サクラは刀を突きつけたまま、ミユキの一挙一動に視線を巡らす。
「でも退魔師さん、あなたが求めているのはこんなちっぽけな淫魔一人の命ではないでしょう?」
「……というと?」
「あなたはこのキャンパス内を根城にしているクイーンを探している。違いますか?」
まさにその通りだったため、サクラは息を飲む。
その表情からサクラの目的を察したミユキは、口角がわずかに上がる。
「情報を売って上げてもいいですよ」
「……見返りに自分を見逃してほしいってところですか?」
「ええ、話が早くて助かります」
クイーンの存在は喉から手が出るほど入手したい情報だ。
だが目の前の淫魔は自分を落としれようとした存在。
そう簡単に信用することなどできない。
サクラは思案し、一瞬視線を落とす。
「……油断、したな」
本人しか聞こえないような小さな声でミユキは呟く。
その瞬間、ミユキの右手に禍々しい気配が一気に集中する。
そこに生成されたのは、今倒れている彼女たちの首筋に寄生していたものと同じ虫だ。
ミユキはサクラのその一瞬の隙をつき、サクラに向けて右手を伸ばした。
ーーしかし、一瞬の閃光が目の前をよぎり、気づけばミユキの腕は宙に舞っていた。
「やっぱりあなたは信用できません」
「……あ、が……」
ミユキの体に走るいくつもの剣撃。
少し遅れてミユキの体はバラバラに崩れ、そして霧のように消えていった。
サクラは油断などしていなかった。
ミユキが本当に信頼に足るのかどうかを常に探っていた。
そして結果はこれだ。
ミユキはサクラに情報を渡すつもりなど毛頭なかったことだろう。
淫魔の気配が消え、一瞬で室内は静寂に包まれた。
「なんとか倒せたけど、手がかりはゼロか……カコちゃんに怒られそうだなぁ……」
キャンパス内の生徒に紛れて淫魔が活動している。
それ以上の情報は得ることができなかった。
「そうだ、操られていた人たちは……ッ!」
サクラは床に倒れる四人の女性の容態を確認していく。
「よかった……大丈夫そう」
幸い四人とも息はしていることが確認できた。
彼女たちをどうするか、サクラは一瞬思案し、そしてそのまま放置することに決めた。
目が覚めた後の彼女たちの記憶がどうなっているかは分からない。
もしかしたら操られていた時の記憶が残っていて、クイーンについての情報を引き出せるかもしれないが、本来これは一般人が立ち入るべき領域を大きく外れている。
もし曖昧にでも記憶が残っていたとしても、それは夢だったと認識してもらい、彼女たちには一刻も早く日常生活に帰ってもらうべきである。
サクラはそう考えた。
サクラは彼女たちをできるだけ楽な体勢で寝かせ、その場を後にしようとした。
しかし部屋を出ようとした直前、妙なものが目に入る。
ここは元々古い空き部屋だったのか、室内はホコリっぽくほとんどの本や備品の類は経年劣化により変色している。
そんな中、入口手前の机の上にポンと置かれた青いファイルだけは妙に小綺麗で、そこに違和感を覚えた。
「何かの論文、かな……?」
サクラはそのファイルを手に取りパラパラとページを捲る。
数百ページにも及ぶ厚手のファイルの中にはいくつもの論文がファイリングされているようで、「精神」や「思考」といったワードが多く目に入る。
「脳科学や心理学の論文をまとめたファイル……かな? ん……っ? んんッ!?」
特にクイーンに繋がる情報はないと落胆しかけたその瞬間、目を疑う文字が目に入る。
『淫魔』
1ページ数十行からなる言葉の羅列の中に、確かにその言葉が紛れているのを確認した。
そしてサクラはその周辺の文章の内容を読み込む。
偶然の言葉の一致ではない。
明らかにサクラが知る淫魔について、何らかの研究が行われた結果が記されている。
「これは、クイーンに繋がるかもしれない……」
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