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銃器の淫魔 2
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授業中、サクラはずっと胸を押さえていた。
ーー何も起こるな、何も起こるな。
そう思いながら、ただひたすらに時間が過ぎるのを待つ。
授業終了を知らせるチャイムが鳴るのと同時に、安堵のため息が漏れる。
「……カナ先輩に会いに行かなきゃ」
そう呟いて、サクラは席を離れた。
学校の中を小走りで駆ける。
上級生の教室には近ずきにくい雰囲気があるが、今はそんな事を気にしていられない。
カナの教室を目指してひた走る。
だが、目標としていた人物は急に目の前に現れた。
角を曲がったその瞬間、同じように小走りで馳けていた人影とぶつかりそうになり立ち止まる。
「おっと」
「あっ、すいま……せん……」
目の前にいる人物がカナだと気づく。
そして、そのカナの顔がもう触れてしまいそうなほど近くにある。
そのままキスでもしてしまいそうな距離で、二人は固まる。
「わっ!」
「ご、ごめんなさいっ!」
そして数秒後まるで二人は急にスイッチを入れられたかのように、同時に後ろへ下がった。
「びっくりしたー、今キスしようとしてなかった?」
「あの、二人って付き合ってるんでしょ? いつも二人で帰ってるし」
「二人とも顔真っ赤だし」
人通りの多い校内、周囲からガヤの声があちらこちらから聞こえてくる。
「ば、場所を変えよう!」
「はっ、はい!」
二人はその場から退散するように、人気のない場所へ駆けていく。
その行動がさらに噂を増長させるとも知らずに。
***
「気づいてるよね、サクラ。この感じ」
「はい、淫魔の気配をひしひしと感じます。でも、どこにいるのかまではちょっと……」
「私もだよ、上手く姿を隠している。なんだか喧嘩を売られているみたいだ。やれるもんならやってみろ、ってさ」
「でも、まだ昼間ですよ……もしかして淫魔の狙いは……」
「私たちだけを、狙いに来たのかもね」
サクラは息を飲む。
淫魔自身が退魔師に直接戦いを仕掛けてくるなど考えたこともなかった。
「……ど、どうしますか?」
「もしも狙いが私たち二人なら、私たちはできるだけ離れずにいた方がいい。そして校内で人気のない場所をしらみ潰しに調査していこう。午後の授業はサボることになるけど、担任の先生にはカナって言う不良の先輩に連れ回されたと、後で説明しておけばいいさ」
「ああ、そのことなんですけど。担任の先生からはカナ先輩は優秀なので、折角仲がいいなら色々な事を教わりなさいと言われました」
「……むむむ」
自慢気に話すサクラに対してカナは面倒くさそうな顔をする。
「とりあえず、昼休みが終わるまではここにいようか」
「そうですね……」
今後の方針が決まったところで、二人の間に沈黙が訪れる。
人気のない所を探して入り込んだ空き教室は会話が途切れた途端、妙に静寂を強調させる。
「と、ところでカナ先輩……!」
耐えきれなくなり、サクラは沈黙を破る。
「ん、どうしたの?」
「あの……その、ふ、二人で空き教室なんかに入ったら、その、噂されそうな気が……」
「……」
もじもじするサクラをカナは細目で見つめ、そしてその小さな頭を軽くチョップした。
「……えい」
「あいたッ! なんでっ!」
「……なんとなく」
軽い照れ隠しだった。
あの夜、精気供給のためとはいえ互いにキスをした日のことを、二人は出来るだけ話題に上げないようにしている。
とくに口裏を合わせたわけではないが、互いに正面からは話しにくい話題のようだ。
それでもあの日以来、二人の距離感に前とは明らかに違い、二人で何かをしたり、それを誰かに見られてしまう度になんだか小恥ずかしい気分になってしまう。
二人は互いに目を合わせられなくなり、また静寂にに包まれる。
「きゃああああああああッ!!」
そんな時、甲高い女性の悲鳴が二人の耳に届く。
二人は条件反射で空き教室を飛び出し、悲鳴のする方へと走り出した。
そして二人はカナの教室の前までたどり着く。
教室の前には人だかりができていて、カナとサクラはそれをかき分け教室の中へと入っていく。
教室の真ん中には一人の女性が倒れ、そこを囲うように人だかりができている。
「あっ、カナちゃん! どうしよう!? メイちゃんが急に倒れちゃって……ッ!」
カナのクラスメイトは震えた声でカナに声をかける。
「大丈夫、落ち着いて、ね」
パニックに陥っている女子生徒の肩をカナが優しつく掴んでそう言うと、女子生徒の震えが少しづつ収まっていく。
次にカナは倒れている女子生徒に目をやる。
「……ぁ……あぅ…………あぁ」
顔を赤らめビクビクと体を痙攣させているが、生きてはいるようだ。
そしてそれはカナにとって何度も見てきた光景の一つだった。
カナは女性を抱きかかえ、同時に素早い動きで内股に触れる。
(……ごめんね、少し触れるよ)
指先に伝う、失禁とは違うぬめりとした感覚。
カナはそれで確信した。
「ごめん、どいて。保健室に連れて行く」
カナが大声でそう言うと、人だかりに道が開く。
人だかりの一部と化していたサクラは、小走りでカナを追いかける。
「淫魔のせいだ、間違いない」
走りながらカナはサクラにだけ聞こえる声で呟く。
「あんな大勢がいる教室内で、ですか?」
「ああ、手口は分からないけど、何かをやったんだ。人通りの少ない場所でこっそり活動するのが淫魔の基本的な手口だけど、そんなの自分達には関係ないぞって言われているみたいだ」
「そ、そんな……」
サクラは未だに冷静さを保てているカナのことを恐ろしくすら感じる。
こんな昼間から大勢が集まる学校内で、平気で襲いかかってくる。
今までとは明らかに違う敵を前に、明らかにサクラは怯んでいた。
「大丈夫だよ、サクラ。今は私とサクラ、二人いるんだ。負ける気なんてしないだろ、なぁ?」
「……ふふっ、ですね!」
まるで根拠のない言い分だが、隣にカナがいる。
サクラが心を落ち着かせるにはそれだけで十分だった。
二人はあの忌々しい保健室に到着し、その扉を開ける。
中には誰もいない。
ベッドを遮るカーテンは全て開かれており、開放感のある空間が広がっている。
カナは空いているベッドに抱きかかえている女子生徒を優しく置いた。
「窓が開いてる……」
風で強くなびくカーテンが気になり、サクラは窓の方へと移動する。
同時に、女子生徒に布団をかけたカナはサクラの方へ目を向ける。
その瞬間、視界の端、窓の向こう側に見える中庭を挟んで向かい側の教室から、キラリと光沢する金属のようなものが見えた。
それが何なのかを理解するより前に、カナは動き出す。
淫魔との戦いを通して身についた、ただの勘だった。
「サクラッ!」
叫び、窓とサクラの間を遮るように、カナはサクラのことを抱きしめた。
「え……?」
困惑するサクラ。
その直後、パァンと乾いた音が鳴った。
それはカナが具現化する武器の銃声とよく似ていた。
「ン゛ン゛ーーーーッ!!」
直後、カナは口を閉じながら絶叫し、体を震わせる。
その感覚はカナに抱きしめられているサクラにもダイレクトに伝わる。
サクラは何が起きたのか分からず、ただただ困惑する。
ただ次の瞬間、カナの肩越しに見える窓の向こうに、こちらを狙う何者かの影を見た。
だがそれに気付いたその瞬間、次の発砲音が鳴る。
発砲された後の弾丸を避けることもできず、気付いた時にはカナの首筋にそれが当たる。
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
カナはもう声を抑えることもできず、崩れそうになる体を必死に奮い立たせる。
「……はっ!?」
そこでようやく、サクラは自分が庇われたのだと気づく。
とにかく次の銃撃を避けるためにカナの体を抱きかかえ、射線外になる位置へと移動した。
カナの体を床に降ろし、銃弾が当たったと思われる首筋を確認する。
しかし傷のようなものは見当たらない。
「だめッ! ……触るの、だめ……ッ!」
「……えっ?」
カナの口から漏れる弱気な甘い声に、サクラは困惑する。
カナの顔は真っ赤に火照り、スカート越しに股間を押さえつけている。
「うぁっ……あつい……」
息を荒くし、体を震わせ、苦しそうな、あるいはもどかしそうな表情を見せるカナに、なんだか見てはいけないものを見ているような気がして、サクラは視線を逸らしてしまう。
だが、敵の攻撃方法もおよそ見当がついた。
おそらくは強力な媚薬効果を持った弾丸を射撃しているのだろう。
カナは壁を背に立ち上がろうとするが、ガクガクと震える足のせいで足を真っ直ぐにさせる前にまた崩れてしまう。
そしてサクラがそれを支える。
「大丈夫ですか、カナ先輩!?」
「んっ……だい、じょうぶ……少し足がふらつくだけ……」
そうは言うが、今のカナはとても一人で立ち上がれそうには見えない。
「ごめんなさい……私なんかを庇ったせいで……」
「なんか、体が勝手に動いただけだよ……それより、サクラは大丈夫? ……なんとも、ない?」
「はい、先輩のおかげでなんともありません」
その言葉を聞いて、カナの顔は柔らかくなる。
今にも泣きそうな顔をしていたサクラだったが、カナが無事だと分かると少しづつ冷静さを取り戻していく。
そして今自分がやるべきことは何か、自問自答し立ち上がる。
「私、あの淫魔を追います! 迷惑をかけた分は行動で返します!」
「……ッ!? だめだ、危険すぎる……」
「分かってます。でも敵の目当ては私たちなんですよね。ここで動かずにいたら次はどんな手を使って来るかわかりません。不利な状況だとは思いますが、それでもこちらから攻めないと勝ち目はないと思います。違いますか?」
カナは苦虫を噛み潰したような顔をする。
反論が何一つ思い浮かばなかった。
やがてカナはため息をつき、諦めたような顔に変わる。
「わかったよ、今足手まといなのは私の方だからね。……退魔師の使命、全うして来なさい」
「……はい!!」
力強く返事をするのと同時にサクラは走り出す。
奴らが行動に出たおかげか、濃い淫魔の匂いが鼻をくすぐる。
(今なら奴を追えるーーッ!)
サクラは一切足を止めずに匂いの出どころへと足を進めた。
ーー何も起こるな、何も起こるな。
そう思いながら、ただひたすらに時間が過ぎるのを待つ。
授業終了を知らせるチャイムが鳴るのと同時に、安堵のため息が漏れる。
「……カナ先輩に会いに行かなきゃ」
そう呟いて、サクラは席を離れた。
学校の中を小走りで駆ける。
上級生の教室には近ずきにくい雰囲気があるが、今はそんな事を気にしていられない。
カナの教室を目指してひた走る。
だが、目標としていた人物は急に目の前に現れた。
角を曲がったその瞬間、同じように小走りで馳けていた人影とぶつかりそうになり立ち止まる。
「おっと」
「あっ、すいま……せん……」
目の前にいる人物がカナだと気づく。
そして、そのカナの顔がもう触れてしまいそうなほど近くにある。
そのままキスでもしてしまいそうな距離で、二人は固まる。
「わっ!」
「ご、ごめんなさいっ!」
そして数秒後まるで二人は急にスイッチを入れられたかのように、同時に後ろへ下がった。
「びっくりしたー、今キスしようとしてなかった?」
「あの、二人って付き合ってるんでしょ? いつも二人で帰ってるし」
「二人とも顔真っ赤だし」
人通りの多い校内、周囲からガヤの声があちらこちらから聞こえてくる。
「ば、場所を変えよう!」
「はっ、はい!」
二人はその場から退散するように、人気のない場所へ駆けていく。
その行動がさらに噂を増長させるとも知らずに。
***
「気づいてるよね、サクラ。この感じ」
「はい、淫魔の気配をひしひしと感じます。でも、どこにいるのかまではちょっと……」
「私もだよ、上手く姿を隠している。なんだか喧嘩を売られているみたいだ。やれるもんならやってみろ、ってさ」
「でも、まだ昼間ですよ……もしかして淫魔の狙いは……」
「私たちだけを、狙いに来たのかもね」
サクラは息を飲む。
淫魔自身が退魔師に直接戦いを仕掛けてくるなど考えたこともなかった。
「……ど、どうしますか?」
「もしも狙いが私たち二人なら、私たちはできるだけ離れずにいた方がいい。そして校内で人気のない場所をしらみ潰しに調査していこう。午後の授業はサボることになるけど、担任の先生にはカナって言う不良の先輩に連れ回されたと、後で説明しておけばいいさ」
「ああ、そのことなんですけど。担任の先生からはカナ先輩は優秀なので、折角仲がいいなら色々な事を教わりなさいと言われました」
「……むむむ」
自慢気に話すサクラに対してカナは面倒くさそうな顔をする。
「とりあえず、昼休みが終わるまではここにいようか」
「そうですね……」
今後の方針が決まったところで、二人の間に沈黙が訪れる。
人気のない所を探して入り込んだ空き教室は会話が途切れた途端、妙に静寂を強調させる。
「と、ところでカナ先輩……!」
耐えきれなくなり、サクラは沈黙を破る。
「ん、どうしたの?」
「あの……その、ふ、二人で空き教室なんかに入ったら、その、噂されそうな気が……」
「……」
もじもじするサクラをカナは細目で見つめ、そしてその小さな頭を軽くチョップした。
「……えい」
「あいたッ! なんでっ!」
「……なんとなく」
軽い照れ隠しだった。
あの夜、精気供給のためとはいえ互いにキスをした日のことを、二人は出来るだけ話題に上げないようにしている。
とくに口裏を合わせたわけではないが、互いに正面からは話しにくい話題のようだ。
それでもあの日以来、二人の距離感に前とは明らかに違い、二人で何かをしたり、それを誰かに見られてしまう度になんだか小恥ずかしい気分になってしまう。
二人は互いに目を合わせられなくなり、また静寂にに包まれる。
「きゃああああああああッ!!」
そんな時、甲高い女性の悲鳴が二人の耳に届く。
二人は条件反射で空き教室を飛び出し、悲鳴のする方へと走り出した。
そして二人はカナの教室の前までたどり着く。
教室の前には人だかりができていて、カナとサクラはそれをかき分け教室の中へと入っていく。
教室の真ん中には一人の女性が倒れ、そこを囲うように人だかりができている。
「あっ、カナちゃん! どうしよう!? メイちゃんが急に倒れちゃって……ッ!」
カナのクラスメイトは震えた声でカナに声をかける。
「大丈夫、落ち着いて、ね」
パニックに陥っている女子生徒の肩をカナが優しつく掴んでそう言うと、女子生徒の震えが少しづつ収まっていく。
次にカナは倒れている女子生徒に目をやる。
「……ぁ……あぅ…………あぁ」
顔を赤らめビクビクと体を痙攣させているが、生きてはいるようだ。
そしてそれはカナにとって何度も見てきた光景の一つだった。
カナは女性を抱きかかえ、同時に素早い動きで内股に触れる。
(……ごめんね、少し触れるよ)
指先に伝う、失禁とは違うぬめりとした感覚。
カナはそれで確信した。
「ごめん、どいて。保健室に連れて行く」
カナが大声でそう言うと、人だかりに道が開く。
人だかりの一部と化していたサクラは、小走りでカナを追いかける。
「淫魔のせいだ、間違いない」
走りながらカナはサクラにだけ聞こえる声で呟く。
「あんな大勢がいる教室内で、ですか?」
「ああ、手口は分からないけど、何かをやったんだ。人通りの少ない場所でこっそり活動するのが淫魔の基本的な手口だけど、そんなの自分達には関係ないぞって言われているみたいだ」
「そ、そんな……」
サクラは未だに冷静さを保てているカナのことを恐ろしくすら感じる。
こんな昼間から大勢が集まる学校内で、平気で襲いかかってくる。
今までとは明らかに違う敵を前に、明らかにサクラは怯んでいた。
「大丈夫だよ、サクラ。今は私とサクラ、二人いるんだ。負ける気なんてしないだろ、なぁ?」
「……ふふっ、ですね!」
まるで根拠のない言い分だが、隣にカナがいる。
サクラが心を落ち着かせるにはそれだけで十分だった。
二人はあの忌々しい保健室に到着し、その扉を開ける。
中には誰もいない。
ベッドを遮るカーテンは全て開かれており、開放感のある空間が広がっている。
カナは空いているベッドに抱きかかえている女子生徒を優しく置いた。
「窓が開いてる……」
風で強くなびくカーテンが気になり、サクラは窓の方へと移動する。
同時に、女子生徒に布団をかけたカナはサクラの方へ目を向ける。
その瞬間、視界の端、窓の向こう側に見える中庭を挟んで向かい側の教室から、キラリと光沢する金属のようなものが見えた。
それが何なのかを理解するより前に、カナは動き出す。
淫魔との戦いを通して身についた、ただの勘だった。
「サクラッ!」
叫び、窓とサクラの間を遮るように、カナはサクラのことを抱きしめた。
「え……?」
困惑するサクラ。
その直後、パァンと乾いた音が鳴った。
それはカナが具現化する武器の銃声とよく似ていた。
「ン゛ン゛ーーーーッ!!」
直後、カナは口を閉じながら絶叫し、体を震わせる。
その感覚はカナに抱きしめられているサクラにもダイレクトに伝わる。
サクラは何が起きたのか分からず、ただただ困惑する。
ただ次の瞬間、カナの肩越しに見える窓の向こうに、こちらを狙う何者かの影を見た。
だがそれに気付いたその瞬間、次の発砲音が鳴る。
発砲された後の弾丸を避けることもできず、気付いた時にはカナの首筋にそれが当たる。
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
カナはもう声を抑えることもできず、崩れそうになる体を必死に奮い立たせる。
「……はっ!?」
そこでようやく、サクラは自分が庇われたのだと気づく。
とにかく次の銃撃を避けるためにカナの体を抱きかかえ、射線外になる位置へと移動した。
カナの体を床に降ろし、銃弾が当たったと思われる首筋を確認する。
しかし傷のようなものは見当たらない。
「だめッ! ……触るの、だめ……ッ!」
「……えっ?」
カナの口から漏れる弱気な甘い声に、サクラは困惑する。
カナの顔は真っ赤に火照り、スカート越しに股間を押さえつけている。
「うぁっ……あつい……」
息を荒くし、体を震わせ、苦しそうな、あるいはもどかしそうな表情を見せるカナに、なんだか見てはいけないものを見ているような気がして、サクラは視線を逸らしてしまう。
だが、敵の攻撃方法もおよそ見当がついた。
おそらくは強力な媚薬効果を持った弾丸を射撃しているのだろう。
カナは壁を背に立ち上がろうとするが、ガクガクと震える足のせいで足を真っ直ぐにさせる前にまた崩れてしまう。
そしてサクラがそれを支える。
「大丈夫ですか、カナ先輩!?」
「んっ……だい、じょうぶ……少し足がふらつくだけ……」
そうは言うが、今のカナはとても一人で立ち上がれそうには見えない。
「ごめんなさい……私なんかを庇ったせいで……」
「なんか、体が勝手に動いただけだよ……それより、サクラは大丈夫? ……なんとも、ない?」
「はい、先輩のおかげでなんともありません」
その言葉を聞いて、カナの顔は柔らかくなる。
今にも泣きそうな顔をしていたサクラだったが、カナが無事だと分かると少しづつ冷静さを取り戻していく。
そして今自分がやるべきことは何か、自問自答し立ち上がる。
「私、あの淫魔を追います! 迷惑をかけた分は行動で返します!」
「……ッ!? だめだ、危険すぎる……」
「分かってます。でも敵の目当ては私たちなんですよね。ここで動かずにいたら次はどんな手を使って来るかわかりません。不利な状況だとは思いますが、それでもこちらから攻めないと勝ち目はないと思います。違いますか?」
カナは苦虫を噛み潰したような顔をする。
反論が何一つ思い浮かばなかった。
やがてカナはため息をつき、諦めたような顔に変わる。
「わかったよ、今足手まといなのは私の方だからね。……退魔師の使命、全うして来なさい」
「……はい!!」
力強く返事をするのと同時にサクラは走り出す。
奴らが行動に出たおかげか、濃い淫魔の匂いが鼻をくすぐる。
(今なら奴を追えるーーッ!)
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