退魔の少女達

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海月の淫魔 2

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体の痺れがまだ治らない。
今のサクラは目の前に迫る無数の触手を、ただ見つめることしかできない。
ゆっくりと触手が近づく。
その触手の一本一本が帯電しており、一本でも触れればまたサクラの体に電流が走る。
もしあの触手で体を拘束されれば、もうサクラに逃れる術はない。

(動け……動けッ! 私の体ッ!)

状況を変えるならば今しかない。
今動かなければ、あとはもう蹂躙され続ける未来しかない。
自分の体に鞭を打ち、痙攣したままの右手を落とした刀の方へと伸ばす。
触手の一つがサクラの体に触れるまで、わずか数センチのところまで迫る。
その瞬間、体がふっと軽くなり、無意識に刀を振り上げていた。
手元から感じる、引きちぎるような感覚。
刀は間違いなく触手を切断していた。

「痛ッタァ!」

パティと名乗る淫魔が、まるで指先を軽く切ったかのようなゆるい悲鳴を上げる。
切断した触手の先端は、視界の隅で打ち上げられた魚のように、意志なく暴れている。
どうやら触手の部分は体よりも柔らかいためか、サクラの刀でも切断できるようだ。
そして体の自由も取り戻した。
意志を具現化させる退魔の力は、武器を作り出すためだけの力ではない。
自由に動く自分の姿を強くイメージすることで、常人よりもずっと早い回復力を得ることができる。
今のサクラは、カナが使っていた癒しの術を無意識に利用していた。
まだ体の節々に痺れが残るものの、立って刀を振るうことはできる。

「イタタ……刀で切りつけて来るとか信じらんない。また生えて来るけど……」

しかしまだ触手の一本を切断したに過ぎず、その上パティ本人はさほどダメージを受けていないように見える。
いくら触手を何十本と切断したとしても、その本体を切断できないのであれば勝機はない。

(奴の狙いは私の精気……だったら!)

サクラは持っている刀を逆手に持ち直す。
そしてパティに向けて放り投げた。

「あぶなっ!」

パティはぬるりと軟体動物のような動きでそれを避ける。
そしてパティがサクラの方へ視線を戻すと、すでにサクラは玄関の方へと走り出していた。

「あっ、こらー!」

前回の戦闘では、駆けつけたときにすでに何人もの女性が襲われていたため、退却などできる状況ではなかった。
だが今回は前回の状況とは違い、淫魔の狙いは退魔師であるサクラただ一人。
ならば、正面から戦う必要などない。
ーー勝てないのであればこの場から逃げ出す。
それが最も有効な判断であるとサクラは判断した。
パティの動きはぬらりくらりとしていて、さほど早くはない。
玄関のドアを開き、外に出た時点でこの勝負はサクラの勝ち。
少なくとも、サクラはそう思っていたーー。

ドアノブに手をつけたその瞬間。バチン、と大きな音がなる。
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
触れた指先が弾けるような感覚。
静電気にしてはあまりにも強過ぎるその痺れ。

「退路を塞ぐのは基本だよねー」
「ーーッ!」

背中を撫でる柔らかい触手の感覚。

(まずいーーッ!)

体を捻らせて、早く触手から離れなければーー。
そう思うのと同時に背中に強い刺激が走る。

「あああああああああァアアアッ!!」

数秒にわたる長い放電。
体に電流を送られている間は一切の体の自由を奪われ、ビクビクと痙攣させることしかできない。
放電が終わると、サクラは膝から崩れ落ち、そのまま玄関の床にうつ伏せに倒れた。

「ぅぁ……あ…………ぁう……」

体の痙攣は止まらず、衣服からは焦げ臭い匂いがする。

「そのドアノブはもう帯電済みなのでした~残念!」
(帯電……済み……?)

飛びそうになる意識の中、サクラは思考を巡らす。
あの鉄製のドアノブには電気が帯電していたため、それに触れたサクラに電流が流れた。
そしてその隙をつかれ、パティは距離を詰めてサクラの背中に直接電流を与えた。
では、ドアノブに電気を帯電させたのはいつなのか。
カナがここを出てから、サクラがドアノブに手をつけるまでの短い期間、サクラはずっとパティと対峙していたはずだ。
だとしたら、きっとサクラが一度目の電流を受けた後、体全身から放電する様を見せつけたあの時に帯電させたのだろう。

「窓を割って逃げ出してたらワンチャンあったかもねー」

床に手を当て何とか体を持ち上げようとするも、ビクンと大きな痙攣が来るたびに体勢を崩し、また床に頬をつけてしまう。

「まだ……負けてない…………まだ……ッ!」

それでもサクラは意志を強く保とうと集中する。
そうすることで、もう一度自身を回復させようとする。

「うわぁ、まだ諦めてない。サクラお姉ちゃん諦め悪過ぎ」

一本の触手が鞭のようにしなり、サクラの横腹を叩く。

「おぐッ……!」

内臓をえぐるような鈍い痛みに、声が漏れる。

「それにしても退魔師のゾンビみたいな回復力は厄介だなぁ、普通なら最初の一発で終わりのはずだったのに……あ、そうだ、奪っちゃえばいいんだ」

触手がサクラの肩のあたりに巻きつき、無理やり仰向けの体勢に変えられる。
そして目の前には微笑むパティの顔が見える。

「それではサクラお姉ちゃんが無駄なあがきをしないように、その精気は没収させてもらいまーす」
パティの唇が近づく。
「ぃ、いやっ、ダメッ! ーーッ!? ふむぅっ!!? 」

ゼリーの様なやわらかい感覚に口を塞がれる。

「ふむっ、はむっ……んっ、おいし、んむっ……」
「んぐっ!? ぁっ、んんっーー!!」

背筋を通って精気を奪われるような感覚に、電流による痙攣とは違うテンポで体が跳ねる。
サクラの体が動かせないことをいいことに、パティはサクラの口内を舌で滅茶苦茶に責めたてる。
いやらしさとは少し違う、無邪気な子供が自分の欲求を満たしたいがための自分本位な責め。
小さくてヒンヤリとしたゼリーのような舌に、サクラの舌はやりたい放題に絡めとられる。

「んむっ、ぷはっ……はぁ、すごぃ、なにこれぇ、おいしいぃ……」

一度口を離したパティは、うっとりとした目で恍惚の表情を見せる。

「もっと……もっと、絞り出してあげるねぇ」

唇をいやらしく舌で舐め回しながら、またその唇がサクラの唇に近づく。
パティが口を開けたその瞬間、舌先からパチリと小さく放電するのが見えた。

(……ッ!?)

サクラは危機を感じ、その場から逃れようとするも拘束されている体は、せいぜい数センチほどしか動かすことができない。
首を横にそらして必死の抵抗を見せるも、二つの触手に顔を挟まれ、無理やり正面を向かされる。

「ひ……ッ! やッ、んむぅっ……」

抵抗むなしく、またサクラの唇が奪われる。
そして、舌と舌とが触れ合ったその瞬間ーー。

「ンンーーッ!!?」

バチンと体に強い刺激が走り、舌先が強く痺れる。

「ひグッ! ……んっ、ンァッ! ふむっ、んギッ!?」

パティの舌がツンツンと不規則に突くようにサクラの舌を責め、それに触れるたびにサクラの体は面白いようにビクンビクンと跳ねる。
サクラはパティの舌から逃げるように舌を動かすが、口内に舌を入れられた時点でもはやサクラに逃げ場はない。
口を塞がれ言葉を発することができないサクラは、パティの目を見て「もうやめて」と涙目で訴えかける。
それをパティがどう解釈したのかは分からないが、その様を見てパティはいやらしく微笑む。

そして、それを合図にパティの舌が、カエルの舌のように長く伸びる。
狭い口内の中、伸びきった舌はサクラの舌を絡みとり、ガッチリと拘束した。

「ン゛ン゛ン゛ン゛ーーーーーーーッ!!」

瞬間的な刺激ではなく、舌が接触している箇所から継続的に電流を受け続ける。
あまりの刺激にサクラの背が反り上がり、腰が地面から浮く。

「はむっ、んっ……うぅん……っんぁっ…………んっ……」
「ンンーーッ!! やめっ、んむっ!? んァッ、ン゛ーーーーーッ!」

甘い蜜に吸い付くかのような嬌声をあげるパティに対して、サクラがあげる声はくぐもった悲鳴に近い。
手を振り、首を振り、足をジタバタさせて、サクラは必死にもがく。
対してパティはそんなサクラの抵抗など何ともないかのように、絡めた舌でサクラの舌をしごき上げ、精気を吸い取る。

「ンぎいぃイイッ! むぁっ、ひっ! ひぬっ、ひんじゃ、んっ、んン゛ン゛ッ!!」

かつてないほどに体がビクビクと震える。
その震えが電流によるものなのか、精気を奪われることによるものなのか、あるいは口内を官能的に責められているからなのかはもう分からない。
サクラは自分の体が今どういう状態なのか、理解することすらできずにいた。

そしてついに限界を迎える。

「ングゥウウウウウウーーーーーーーーッ!!」

サクラの体は一際強く跳ね、腰が宙に浮いたまま痙攣する。

「ふあぁあッ!! んっ、あぁ……ッ! ……ぁ………ん…………んぁ……」

そして今度は急に全身から力を失い、ぐったりとしたまま動かなくなった。

「ぷはっ、意識飛んじゃったのかな? 流石にこれ以上はおねーちゃん死んじゃうかも」

反応がなくなったサクラを見て、パティはようやくその唇を解放した。

「ふぅー、いやぁ、我を忘れてしゃぶりついちゃったよ。蜜のようにとろけてあまーい精気、マガトゥラちゃんが美味しそうに食べてたのも頷けるなー」

パティが満足げに語る横で、サクラの体は未だにヒクヒクと痙攣が止まらない。
口をパクパクさせ、大きく開いたその瞳にはもうほとんど光が宿っていない。

「うーん、どうしよこれ、まだ死んではいない……よね。持ち帰って飼い慣らしてもいいけど、養殖モノは味が落ちるっていうしなぁー」
「……て……ない……」
「ん?」

もう完全に意識を失ったと思っていたサクラの方から、ささやくような、小さな声が聞こえる。

「ま……だ……」
「まだ?」
「まだ……負けて…………な……い……」

それは意識と無意識の境界の中で、自然と口から出た言葉だった。

「ふ……ふひっ、フヒヒッ! あぁダメだ、下品な笑い声が漏れちゃう。そっか、そっかそっか! おかわりをくれるって言うんなら、私は喜んでいただいちゃうよ!」

サクラの肩に巻きついた触手が、サクラの体を持ち上げ無理やり立たせる。
つま先だけが地面につく状態まで持ち上げられたサクラの体は、まだ全身に力が戻っていないのかぷらぷらと揺れる。
だがその瞳には消えかけていた光が戻りつつある。

「うん、いい眼だね。かっこいい眼だよ。フヒヒッ、次はどんな風にいじめてあげようかなぁ~」

パティは上機嫌に思考を巡らす。
同時に、この心だけは屈しないとサクラは意志を固めた。
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