退魔の少女達

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触手の淫魔 1

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甘くて淫らな、胸の奥をくすぐるような匂い。
その匂いを追ってサクラは暗い公園の中を走る。
月の光が差す開けた広場を越え、木々に囲まれた道幅の狭いウォーキングコースへと踏み込む入れる。
匂いはより一層強くなる。
ここまでくると光源となるものはもうなく、声を上げたところで誰にも届かないだろう。
いかにも淫魔が好む場所、もうどこから淫魔が出てきてもおかしくない。

先制攻撃を仕掛けたのは淫魔の方だった。
視界の悪い木々の隙間から、蛙が舌を伸ばすように触手が伸びる。

「ーーッ!」

理解するより先に体が動いた。
振り払われた一刀が触手を真っ二つに裂く。
切断された触手はもう動くことはなく、静かに霧散していく。
暗闇の中で目が効くのも、高い身体能力も、カナから授かった退魔の力によるものだ。
そしてサクラが今手に持っている刀もまた、退魔の力によるもの。
淫魔を倒すための強い力をイメージすることで、それを武器として具現させることができる。
退魔師としての基本技術だ。

淫魔の香りはまだ消えない。
奴らは触手の一本を切り落としたくらいで倒れたりはしない。
完全に消滅させるためには本体を斬らなくてはならない。
ーー不自然に揺れる枝木の音。
サクラはできるだけ周りを見渡せる道の真ん中に立ち、神経を集中させ身構える。
一瞬の静寂の後、3時の方向から同時に複数の触手が襲いかかる。

「セイッ! ハッ! ヤアッ!!」

襲いかかる触手を正確に切り落とす。
退魔師の力を経たサクラにとってこの程度の攻撃は全て捌き切れるーーはずだった。
右の足首にぬるりとした感覚が襲う。

「ーーえっ!?」

気付いた時にはサクラの右足はガッチリと触手に固定されている。
そしてその触手はサクラの真後ろから伸びていた。

(後ろにも敵がっ!?)

それに気づいたサクラの一瞬の気の緩みを、淫魔は逃さない。
正面から襲いかかる触手の一本が鞭のようなしなりでサクラの腹部を叩きつけた。

「あぐッ!?」

その強い衝撃に足が浮き、後方に吹き飛ばされる。
受け身を取ることもできないまま、木に背中から衝突する。

「がはァっ!!」

口の中から血と胃液が混ざったものが吐き出される。
そのまま地面に転がり落ちたサクラは、うつ伏せの状態からなんとか立ち上がろうとするが体がうまく動かない。
衝突の衝撃で肺の空気が全て飛んで行ったのか、呼吸すらままならない。
しかし淫魔の攻撃は止まらない。
右足に絡みついた触手の強い力で、サクラは体ごと地面から引き上げられ宙吊りにされる。

「あっ、いやっ……っ!?」

サクラは重力の力によってめくれるスカートを条件反射で抑えながら、脚をバタつかせ、なんとか脱出も試みようとする。
しかし、触手による拘束はビクともしない。
地上から3メートルほどの高さまで引き上げられると、そこで触手の動きが大きく変わる。
触手が地面に向かって鞭を打つように動く。
それも急速なスピードで。

(これ、まずいっ! 地面にっ!?)

それを悟ったとしてもサクラはそこから逃げる術がない。
ただ自分の体が地面に落ちるまでの感覚を享受することしかできなかった。

「あああああああああァッ!!」

轟音とともに、レンガの敷かれた歩道に背中から叩きつけられる。
数秒間口の中に空気が入ってこない状態が続き、意識とは別に体が仰け反る。

「んっ……ぁ、はぁっ! ……はぁ、はぁっ……」

口の中から、もはや何なのか分からない液体を吐き出すと、体全身の筋肉が緩み、サクラは宙を見上げながらただただ息を切らす。
そして今度は体がビクビクと痙攣しだす。
もう自分の体が今どうなっているのかよく分からなくなっていた。
息を整えながら頭を冷静にしようとすると、今度は激痛と言う形で体全身から危険信号が出ていることを理解しなくてはならなくなる。
もうこのまま眠ってしまいたくなる。

しかし、淫魔はそれを許さない。
右足に絡みついた触手が、もう一度サクラの体を持ち上げようとする。
宙吊りにされたサクラにはもう腕をあげる力すらなく、ぷらぷらと力なく両手を揺らす。
めくれるスカートを抑える気力もなく、薄桃色のショーツが露わになる。

「いやぁ……もう、やめて……」

淫魔に人の声を知覚できるほどの知能があるのかどうかは分からない。
いや、あったとしてもきっとサクラのその声が聞き入れられることはないだろう。
そしても無慈悲にも触手はサクラの体を地面に叩きつける。

「うあああああっ!!」

意識が霞む。
おそらく普通の人間なら死に至る程の衝撃。
退魔の力によって身体能力が強化されているとはいえ、これ以上の攻撃に耐え切れる自信がない。
それでもまたサクラの体を持ち上げ、そして叩きつける。
何度も何度も。


 ***


薄暗い意識の中、少しずつ意識が覚醒していく。
草の地面の上を引きずられている感覚がする。

淫魔は基本的に人を動けなくするよう拘束することはあっても、人を死に至らしめる攻撃を行うことはない。
その目的は女性を犯すことにあるからだ。
今回に限っては淫魔はサクラが強い力を持つ人間と判断し、執拗な攻撃を与えた。
そしてサクラが気を失った今、その体を完全に拘束し責め立てようとしていた。
淫魔側に誤算があったとすれば、退魔の力により強化されるのは単純な身体能力だけではなく、身体の回復能力も強化されるということだ。

触手に引きずられながれ、サクラの意識は少しずつ回復していく。
引きずられていくその先に、大きな影が見える。
肉の塊のような触手の本体。
この肉塊を叩き斬ればーー。
淫魔もきっと油断していただろう。
サクラも自分の体が思うように動くか自信はなかったが、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
もう一度、自分の中で強い力をイメージする。
そして、退魔の力により創造されたその刀を強く握る。
サクラは重い体を無理やり持ち上げ、脚を拘束する触手を切断した。

「ギィアアアアアアッ!!」

悲鳴をあげる淫魔。
そこにサクラは躊躇なく刀を振り下ろす。

「セヤアアアァッ!!」

肉塊は真っ二つに割れ、霧散してどこかへ消えた。
同時に、背後から強い殺気を感じた。
背後から襲いかかる触手、それをサクラは軽く切断する。
もう一体いるはずだ。
初めに淫魔と対峙した時、前方からの攻撃は全て防いでいたにも関わらず、背後から右足をすくわれてしまった。
今倒したのは恐らく背後から攻撃を仕掛けた淫魔。
そして今触手で攻撃を仕掛けてきたのがもう一体の淫魔。
サクラはボロボロの体を無理やり動かし、走る。
攻撃して来る方角からおおよその敵の位置は掴んだ。

(ここで仕留める!)

木々の合間から複数の触手が攻撃を仕掛けて来るが、サクラはそれを軽くかわし、時には切断して前に進む。
見えた。
大きな影。
さっきと同じ触手の本体である醜い肉塊。
走る速度を止めることなく、サクラはそれを叩き斬る態勢に入る。
サクラと淫魔の距離が目と鼻の先まで迫ったその時、淫魔は粘性のある液体を口から吹きかける。
その液体はサクラに直撃した。

「ぐっ……このくらいっ!!」

しかしその程度でサクラは止まらない。

「うおおおおおおっ!!」

物ともせずサクラは淫魔の体に大振りの一刀を入れる。
またあの甲高い鳴き声と共に、霧散していく姿が見えた。

「はぁ、はぁ……やった、倒した……勝った、んだよね」

勝利の余韻に力が抜けたのか、サクラはその場で尻餅をつく。
今回ばかりは死を覚悟した。
それでも諦めない心が勝利に繋がったのだと、そう思うことにした。

「ちょっと、休憩しよう」

近くにあった木を背にし、サクラはそこに力なく体を寄せる。

(今日だけで淫魔を三体も、先輩褒めてくれるかな?)

意識を保ちながら、荒い息が整うのを待つ。
だが、時間が経てば経つほど段々と体が火照り、むしろ息が荒くなっていく。
サクラは無意識の内に自分の手が、自分の胸と股間を触ろうとしてしていることに気づく。

「……っ!? 私、何を!?」

すんでのところで自意識を取り戻す。
そして思う。
先ほど淫魔にかけられたあの液体には、媚薬効果あったのではないかと。
淫魔の傾向を見るにその可能性は高い。

「だめだ、早く……家に帰らないと」

熱い体と重い足を上げ、林の中から帰路を探す。
満身創痍の体を引きずり、そのまま家に帰って寝ればそれで今日の1日は終わり。
そのはずだったーー。

ツンと鼻孔の奥をくすぐる濃い匂い。
その匂いの意味に気付いた時、サクラはとっさに口と鼻を抑えてしまう。
先ほどまでとは比べ物にならない程の甘くて強い淫魔の匂いだ。
今までに経験したことのない震えがサクラを襲う。
この奥に今まで対峙したことのない、強力な淫魔がいる。
高鳴る胸をなんとか抑える。
今すぐ逃げたい気分だった。
今のボロボロの状態で淫魔と戦ったとして、勝てるビジョンがまるで見えない。
でも。
それでも。
今の自分は数ヶ月前のただの学生だった自分ではない、退魔師なのだ。
目の前の淫魔を倒すために力を得た存在なのだ。
今この瞬間も淫魔の責めに耐え忍んでいる女性がいるかもしれない。
ならば、逃げるという選択肢はそこにない。
戦わなければーー。

サクラは胸の前で拳を強く握り、覚悟を決める。
そして、淫魔の匂いのする方へと歩みを進める。
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