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Ep.5-2《現実からの刺客》

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なんで、どうして……
そんな思いが杏奈の頭の中で渦巻く。
そうして杏奈が本棚に手をついたままの体勢で凍りついている間に、現実世界のリリアは杏奈の体を後ろからギュッと抱き寄せ、耳元で囁く。

「私のことはフロンティアの時と同じでリリアって呼んでいいよ。それにしても……うーん、生アーニャちゃんの肌スベスベ、いい匂いだぁ…………おおっと、アーニャちゃんじゃなくて杏奈ちゃん、ね。失礼」

杏奈がまだ困惑して声も発せられずにいる合間に、リリアは杏奈の体を好き勝手に触る。
太ももや頬を撫でたり、匂いを嗅がれたり。

「ひっ……や、め……っ」

杏奈はそんなリリアの正気を疑った。
ここは仮想空間のフロンティアでも無ければ、無法地帯のベータアリーナでもない。
現実世界の、しかも公共施設だ。
そんな場所でいきなり人の肌に触れてくるという行為そのものが理解できなかった。

そして何より抵抗しようと思う気持ちはあるのに、体が動かない。
仮想空間の体ではなく現実世界の痩せ細った杏奈の体では、リリアの力にまともに抵抗することもできない。

「やっぱり頬骨の形がアーニャちゃんとそっくり。目の大きさはアーニャちゃんの方がちょっとだけ誇張されてる感じかな? ふふ、やっぱりアーニャちゃんは杏奈ちゃんの体をかなり忠実に再現されたモデルなんだね」

形を確かめるように首筋や頬を撫でられ、顔の作りを凝視される。

「な、なんで……あなたが……ッ! むぐっ!?」

杏奈がなんとか声を出したところで、リリアの手で口が塞がれる。

「杏奈ちゃん、図書館ではシーだよ? 少ないけど人はいるんだから、みんな気になってこっち見ちゃうよ?」

耳元でそう囁かれる。
溜まっていた感情が溢れ出たのか、杏奈は想像以上に大きな声を出してしまったらしい。
杏奈は焦って周囲に人影がないことを確認する。

「そうだね、聞きたいことたくさんあるよね。まずはどうやって私が杏奈ちゃんを見つけたか、でしょ? ねぇね、どうやって見つけたと思う? 頑張って探したんだよー」

何か思い当たる節はないかと頭を巡らす。
フロンティア内で個人情報を晒した覚えはないが、アーニャとて専門知識には疎いので大会参加の受付時などに運営側に個人情報が漏れてしまったのかもしれない。
などと考える。
そしてリリアは杏奈が口を開くより先に答えを口にする。

「正解はね、杏奈ちゃんの妹ちゃん経由、だよ」

「は、え……?」

急に出てきた妹の存在に、杏奈は困惑する。

「ほら、杏奈ちゃん言ってたじゃん。自分のモデルは妹に作ってもらったって。私可愛い女の子に目がないから、アーニャちゃんのモデルを作った人、すなわち妹ちゃんが誰なのか前から気になってたんだよね。少なくとも私の知人や有名なモデラーの作るモデルとはちょっと違う。頬の形とか首筋のつなぎ目とか、結構作る人によって個性が出るんだよ」

そこまでモデルの造形に興味を持っていなかった杏奈は、そう言われてもすぐには理解できなかった。

「それで調べてみたらね、案外簡単に出てきたよ。妹ちゃんSNSに黒ずきんのアーニャの制作過程、ずっと上げてたみたいだからさ。そこからSNSの投稿内容を追っていくと、普段通ってる学校、年齢、住んでる地域、だいたい特定できちゃった。妹ちゃんちょっとネットリテラシー低めだから気をつけた方がいいよ?」

それは本当に気をつけた方がいいと、杏奈は心の中で頷く。
そこまでの情報を特定できたなら、姉である杏奈のことも特定できたと言っても過言ではないだろう。
自分のモデルを作ったのが妹だと口を漏らさなければ……と、杏奈は過去の自分の言動を深く反省する。

「元々バレーの選手で全国大会にも出場経験のあるお姉ちゃんが、足の怪我をきっかけに試合に出れなくなって、鬱になって引きこもりになっちゃって…………そんなお姉ちゃんがフロンティアマッチに興味を持っていることを知って、なんとか元気付けようと最高に可愛くてカッコいいモデルを作るんだって、そう書いてあったよ。知ってた?」

「……え」

初めて聞く話に、杏奈は目を丸くする。
確かに杏奈が落ち込んでいた時期に、妹に腕を引かれるようにフロンティアの世界にやってきたのは事実で、内容に合点がいく。
一瞬、胸が熱くなるが、今その話は重要じゃない。

「そ、そんなことより、私に会いに来て、何をするつもり……なの?」

「そりゃ単純に、フロンティアに帰ってきて欲しいんだよ。せっかく見つけた推しがこんな夜逃げみたいな形でいなくなるの、嫌だもん」

杏奈は未だにリリアの本心を掴めずにいた。
その言葉がどこまで本気なのか分からない。

「そ、それは……無理……」

無意識にそんな言葉を口走っていた。
少なくとも今の呪いを抱えたままではフロンティアに帰れない、それは事実だった。

一瞬の沈黙の後、リリアは杏奈の太ももをスッと撫で、その指がスカートの中に侵入してくる。

「……んぅうッ!?」

「へぇ~、そういう事言うんだ。じゃあ帰ってくるって言ってくれるまで、イタズラしちゃおっかな~」

何かのスイッチが入ったのか、そこからリリアのボディタッチが激しさを増す。

「ま、待って……っ、う、嘘でしょ、こんな、とこで……っ、あ、あぁう……っ!」

ショーツと太ももの合間を指でなぞられ、Tシャツ越しに胸を揉まれる。
静かな図書館の一角で、唐突に杏奈への責めが始まった。

「ひぐっ……ひ、人を、呼びますよ……っ!」

「どうぞ、でも来ないと思うよ。私みたいなギャルに指摘するのって結構勇気いるからね。受付の人、パッと見気が弱そうだったから。きっと今頃見て見ぬ振りしてるんじゃないかなー? さっき近くを通ったおじさまも多分こっちに気づいて、空気読んであっちの方行っちゃったしねー」

まるでこんな状況に慣れているかのような口振りでリリアは語る。

「それに傍から見れば仲良しレズカップルがイチャイチャしだしただけに見えるかもしれないよ。杏奈ちゃんは公共の場でイチャイチャしだすカップルに、目障りだからやめてくださいって声かけれる? できないでしょ? 大抵の人は見て見ぬ振りしちゃうよね」

何も言い返すことができなかった。
きっと杏奈が助けてと大声で叫んだりでもしない限り、事が大きくなるまでは見て見ぬ振りをする人が大半だろう。
だから杏奈は大声で助けを求めればいいのだが、どうしてかそれができない。
普段声を出さないせいで喉が乾いているせいか、あるいは恐怖や羞恥の気持ちが正常な判断を鈍らせているのか。

「い、や……やめてぇ……っ」

そんな隣りにいる人にしか聴こえないような、小さな声しか出ない。

「あれれ、アーニャちゃんと戦ってた時みたいな強気な態度はどうしたの?」

「……っ、なさ、い…………ご、ごめんな、さい……っ」

初めて会う人に体を触られるという恐怖感から、気づけば無意識に謝罪の言葉を口にしていた。
目に涙を浮かべながら、何度も謝罪の言葉を口にする。
これが黒ずきんのアーニャではなく、ただの人間の藤島杏奈にできる精一杯の抵抗だった。

「ああ、泣いちゃった…………可愛い。でもね、強く気高い黒ずきんのアーニャは、この程度の責めで弱音を吐いたりしないんだよっ」

「んくぁあ……ッ!? ンッ、~~~~っ!」

Tシャツの裾を捲られて、ブラ越しに胸を弄られる。
咄嗟に漏れた大きな声に、慌てて杏奈は自分の口を手で塞ぐ。

「ずっと気になってたんだよね。呪いの影響ってさ、現実の体にも影響あるのかって。どう? やっぱり杏奈ちゃんも胸、弱いのかな? ほら、ほらぁ……!」

「やぇ……っ、あぁうッ!」

「くふっ、くふふっ、スベスベでちょっと硬めでハリのあるおっぱい。触っただけで分かる、このおっぱい今まで誰にも触らせたことないでしょ?」

「……くっ、うぅう……っ!」

杏奈は頬を紅潮させながら、ギュッと歯を噛みしめる。
そんな口を閉じてただ快楽に耐え続けようとする杏奈の体を、リリアはより強く抱きしめた。

「ああもう、図星のときすぐ黙っちゃうの可愛すぎ……っ! あぁ好き。杏奈ちゃん好きぃ…………今からたくさん……気持ちよくなろうね」

興奮した様子を隠しきれなくなってきたリリアは、杏奈の首筋にキスをしながら杏奈のブラとショーツの隙間に指を差し込む。

「――――ッ、ひぁああッ!?」

どんどんと激しくなるリリアの責めを受けて、杏奈はもうまともに声を押さえることもできない。
足が震えて、声も震えて、ただ何もできずにリリアの責めを耐え続けることしかできなかった。
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