よって弱さは偽と証明できる

りんかく

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特殊力/特殊則(とくしゅそく ぶんの とくしゅりき)

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無限の可能性は愉悦できる。
無限の能力のパターンの可能性を持つ特殊能力者にとって、それは分かりやすい感覚である。
この世には、観測できない無限のエネルギーが存在する。そして、それによって全ては構成されている。
つまり、無限のエネルギーが全てを俯瞰的に考えるときの基準になり得る。


「世界はなんて、ここまで広くて狭いんだ。
俺は醜い。人が醜いと俯瞰的に思うほど観測する世界は自虐的になっていって面白い。フン。」
喫茶店の中。本を読みつつ、他の人間の雰囲気を眺めながら青年は笑った。
そんなひねくれた言葉を話すと、彼は本をテーブルの上に置いた。本のタイトルは、物理学の法則に関連するものである。
通常の人間が観測できる物理学の内容だが、そんな知識に触れている時間も、彼にとって1つの趣味であった。
「いたな」
近くで声が聞こえた。青年がその声のした方を向く。
「悪い、遅くなった」
「いい、俺も今来たところだ」
黒いワイシャツを着た男が軽く謝罪し、青年が返事をする。
「今って、嘘つくなよ。本読んでたろ。」
「気にしなくて良いんだよ」
「悪いな。ところで、本題なんだが…深磁路(みじろ)」
名前を呼ばれた青年、深磁路は男と目を合わせる。
「…試合に出ろってか?」
「ああ。察しが良いな。」
黒いワイシャツの男は、深磁路の言葉に頷いた。
「治安維持組織“草雲(くさぐも)”に所属する特殊能力者同士の戦闘の試合がある。是非お前に出てほしい。」
「鷲島(わしじま)さん。あんたは良い先輩だよ。
だが、俺は以前人を殺して生計を立ててた。たい最近、草雲に入ったばかりだ。
そんな楽しげなこと、俺がしていいのか?」
「なにいってる。お前はまだ若い。他の連中の良い刺激にもなるはずだ。」
「……」


無限のエネルギーの存在のほか、この世には通常の人間が観測できない自然法則が複数存在する。
特殊能力者は、通常の人間が観測できる法則以外の概念でも利用できる可能性がある。
その法則のうち、この世の全ては情報として扱えるというものがある。
また、特殊能力を起こしている領域は、その特殊能力者の魂の情報と肉体の情報がある領域と扱うことのできる法則がある。そのため特殊能力者は、その領域内の情報を自身の一部分のように掌握できる可能性を持つ。


「お疲れ様です」
律儀に歯車見(ししゃみ)は鷲島に一礼した。
「次は来間凪(らいま なぎ)ともう1人の対戦ですね。もう1人の名前、誰でしたっけ。あの、新しい…」
「深磁路。深磁路弾(みじろ だん)だ。」
「そうでした。彼は名前しか聞いたことがないのですが。
来間の特殊能力は、炎を操る能力でしたよね。
深磁路という人の特殊能力はなにか、ご存知ですか?」
「彼は僅かに物体を浮かせることができる、“微浮遊(びふゆう)”という特殊能力を持つ。」
鷲島は呟くように言った。
「微浮遊?僅かに浮く…申し訳ないが、あんまり強そうではないですね」
「ああ。本来かなり弱い能力だ。それ故に、彼は自虐的でよく皮肉をいう性格になったんだろうと思うことがよくある。」
「それなのに、なぜ深磁路を試合に誘ったんですか?」
「…奴はふつうの特殊能力者とは違う。一筋縄ではいかないんだ」
「ふつうの特殊能力者とは違う…?」
「微浮遊…それは重力を僅かに操る能力“重力微操作”、空間を僅かに操る能力“空間微操作”が融合して成り立つ仕組みとなっていた。それは深磁路本人が後天的に自覚して判明したことだ。」


殺風景な広く黒い土だけが広がる試合場で、深磁路はもう1人の特殊能力者と向かい合っていた。
深磁路と来間の2人は目を合わせた。
「お前、新しく草雲に入ってきた奴か。名前はなんと言う」
「深磁路。お前は?」
「…来間だ。俺は組織内で有名だろうから、俺の特殊能力は知っているだろう?
炎を操る能力だ。
お前の特殊能力はなんだ?」
「俺の特殊能力は、少しものを浮かせる能力だな」
「…お前、昔に一般人を殺していたらしいな」
「ああ」
「好きなのか?そういうのが」
「そんなことはない。生まれつき家がな。」
「…お前は今迄何を思って生きてきた?」
「殺すかどうかは置いておいて、戦うのは好きだなとな」
「あまり良くはないな」
「悪いな」
「…」
来間は深磁路を睨みつけた。
「…嫌いだ」
「おい!そろそろ時間だ。始めるぞ。」
試合の審判の担当があらわれ、2人に声をかけた。
「準備はいいか?」
審判が声を張り上げる。
「用意…はじめ!」

まず最初に動いたのが来間だった。
片手から丸い火の玉を出し始める。
深磁路は動こうとしない。
「…?」
来間は直ぐに異変に気付いた。
「空間が歪んでいる…?」
来間の視界にいる深磁路の姿が歪んでいる。
来間は深磁路に向かって手にあった球体の炎を放射した。
深磁路が手を目の前の空間にかざし、その火の玉をかわす。
来間は眉をひそめた。
「おかしい、速さを手加減しているわけではないんだが」
来間は続けて4つの火の玉を背後から出した。
「複数ならどうだ?」
その全てを深磁路へ放つ。
深磁路は1番近くに飛んできた火の玉の1つに触れた。
そして、炎が消える。
それと同時に、他の炎も消えた。
「…どんな細工をしている…?」
深磁路が来間のいる前へと歩き出す。
「そろそろ俺のターンだな」
深磁路が言う。
来間が気付く前に、深磁路は一瞬にして来間の肉体に手が届く距離まで来ていた。
「…!速い…!」
一瞬でどう移動した、という疑問が来間の頭の中に起こった瞬間。
深磁路の拳が来間のみぞおちにめり込む。
「…!!…ガハッ!!」
来間の顔が苦痛に歪み、彼は十数メートル遠くの距離まで吹き飛ばされた。
「審判、どうだ?」
深磁路が審判に声をかける。
審判も困惑を隠しきれていない。


「強い…!」
鷲島と共にモニターで観戦していた歯車見はそうこぼした。
「来間は優秀な草雲の特殊能力者です。能力の炎の威力は非常に強い。スピードもある。
深磁路はそれを簡単に避けているように見えますが、一体…。何故可能なんですか?」
「彼は様々な方法を利用する」
鷲島が言う。
「方法…?」
「ああ。
この世界の物理学と情報学から得られる法則を用いる。
さきほど使ったものから挙げれば、
1つ目が、空間を歪ませて見せる方法。
“空間微操作”によって、自分のいる領域Aに僅かな浮遊を起こす。
それと同時に、将来“空間微操作”で浮遊させた領域Bから観測したときに領域Aを歪んで見せ距離感を掴めなくさせる情報を領域Aに付与する。空間が歪んで見せることができるのは、“空間微操作”の応用だ。」
「応用…」
「また、
2つ目が、空間同士にあるものを触れさせない方法。
“空間微操作”の応用により、自分のいる領域Aの空間と触れないようにしたい領域Bの空間の互いの情報を掌握する。
そして、遠くさせるシステムを電気信号の情報でつくり、その能力を準備しておく。
電気信号は肉体内にあるものから用いる。

3つ目が、自分に向かって現れる攻撃を打ち消す方法。
“空間微操作”の応用により、攻撃が起こっている空間の領域Bの情報を掌握する。その領域B内にある電気信号の情報を操り、攻撃の情報を打ち消す。

4つ目が、相手の攻撃を吸収し、自分の攻撃に威力を出す方法。
“空間微操作”の応用により、掌握した相手の攻撃の領域B内の情報に流れるエネルギーを電気信号により意図的に循環させ、自分の肉体の一部に見立て、そのエネルギーを抽出•保存•利用する。」
「僅かに空間を操ることができるだけで、そんなことができるんですか…」
「5つ目が、時間を遅らせる方法。
前提として、“重力微操作”と、
物理法則において重力が大きくなると、物質の情報の時間が遅くなるという自然現象を利用する。
実際に攻撃をされたとき、自分に攻撃をしようと向かってきた物体の周囲の重力を“重力微操作”により大きくする。
そのほんの僅かに時間が遅くなった空間を領域Bとし、その領域の情報に少しだがより時間の遅れを増幅させる電気信号でつくった情報を付与させ影響させる。
それにより周囲と比較した時の領域Bの情報の伝達の遅さのズレ、ラグを生じさせる。
この時間の遅れ増幅の情報を創造できる理由は、能力を操る本人の意識に影響している。
重力を操る能力を持ちその影響をよく観測している意識であることと、
特殊能力が起こっている領域は彼の魂の情報•肉体の情報と扱えるため、その領域内でつくられている自然法則の情報を直感で想像しやすいことがある。

これらにより、有利な状況をつくることができる。」
「……よく分かりません…。そんな能力の利用方法ががあるんですか。」
「ああ。深磁路の存在は、この世の特殊能力の可能性は無限大にあるということを教えてくれる。
やつのポテンシャルは高い。全知全能になるまであり得る。」
「全知全能?」
「ああ。彼の夢だ」


「勝負あり!試合終了!」
審判が叫んだ。
「勝者、深磁路!」

試合が終わり、深磁路は歩きながら来間から離れていく。
「…待て」
来間が深磁路を呼び止めた。
声をかけられた深磁路は立ち止まり、少し振り返る。
「…さきほど、電気信号の情報で俺の時間の遅れを増幅させた部分があったのか…?そんなこと他の特殊能力者にはできない」
「ああ、そうだ。よく分かったな。お前、結構観察眼が豊かだな」
来間の問いに、深磁路が答える。
「だからといって、電気信号だけでは特定の領域の時間を遅らせる情報をつくることはできない。
自分の特殊能力で重力を大きくした領域だけ、時間の遅れを“増幅できる”情報をつくることのできるだけだ。
それに電気信号でつくるシステムに関しても、なんでもつくれるわけじゃない。システムを成立させられるのも一時的だしな。
目標は電気信号だけでなんでもやれるようになることだが、そこらへんが、なかなかな。」
「お前、それでも嘘ついてたな。ものを少し浮かせるだけ以外でも特殊能力があった。電気信号を操る能力が。」
「電気信号は肉体の一部として扱う。それで操ることができる。こういう説明は省いて良いんだよ」
「お前、ふざけてるのか?」
「良いだろ」
「大半の特殊能力者はそこまで頭は回らない。
特殊能力を操作するとき力や速さを大きくするだけにどとまる。お前が異常なだけだ。」
「おいおい、そんなこというなよ。俺だって電気信号を使いこなせるわけじゃない。
電気信号を完璧に使いこなせれば、何になると思う?」
「…?」
「全知全能だよ」
「…全知全能?」
「ああ。法則も、現象も、物質も、この世のなにもかもが電気信号でつくられている。観測できない電気信号も含めてな。これは物理学的に考えてもそれは可能だ。
俺はそれになって、苦手な人間のことを好きになりたい。
全知全能になったら、感覚的にも数学的にも、どんな概念であれ好きになれるだろうから、そのついでにな」
「お前、人嫌いなのか」
「特殊能力が弱いせいで性格が悪くなった。ほんと、こまるよ。
全知全能になればこの感性がもっと豊かになってくれるんだろうと思う。
俺は人に優しくなりたいんだ。」
「…お前のおかけで特殊能力には見えない可能性があるということを知れた。感謝する。」
「それは良かったな。」


無限の可能性は愉悦できる。
無限の可能性そのものを憎むような人間は、きっといないだろう。
その概念どんなときも魅力的に写り、報われたい人間が気付きを得る瞬間を観測している。
自然法則のシュミレーションは言うだろう。
“よって弱さは偽と証明できる”と。


「俺は醜い。人も醜い。俯瞰的に考えて、醜くて面白い。
だが、弱い。完璧な全知全能ではない。
全知全能になったら、より純粋に面白くなれる。」
喫茶店の中。テーブルに座って本を読みつつ、青年は独り言を呟く。
「弱い部分があるうちは…。自然法則に完全に助けられる全知全能にならないうちは、誰しもが孤立系の宇宙の中にいる。無限のエネルギーはない。完全な開放系の宇宙ではない。
まだ可能性がある。
まあ、全知全能になっても自虐的な感性は持っているものなのかもしれないが。」
本を閉じ、窓の外に映る雑踏に目を移す。
「今の俺はどうだろう。ある意味、無限の可能性というエネルギーを持ってはいる。
全知全能になれる、それもある気がする。」
テーブルに置いてあったコーヒーを一口飲む。
「せいぜい、自虐に自惚れて、俯瞰的にいこうじゃないか。」
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