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呪いと共に愛があり
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周囲に、煙が上がっていた。
ひとけのない、開けた場所。あたりには雑草が茂り、廃墟が建っている。
「…なぜ俺を狙う?」
そこに立っていた男は、黒髪の男と向き合い、そんな言葉を投げかけていた。
「新角仁(しんかく じん)。お前には多額の金がかけられている。」
黒髪の男が言う。
「お前も、それを狙って来たのか。俺に対する懸賞金が高くなったからか?特に最近は、特殊能力者の暗殺者をよく見かける。」
そう言い返す仁は、飄々と笑っていた。
「俺は、できるだけ人に優しくしたいんだが。」
「狙われるようなことをするから、首に金がかけられるんじゃねぇのか。それか、生まれつき狙われる才能があるのか。俺に狙われる奴は、そのどちらかだ。
お前は俺と同じ目をしている。お前は俺と同じ、人を殺す世界に生きる人間だ。」
「…さあ?どうだろうな。」
黒髪の男の身体が動いた。
常人には捉えられない高速のスピードで、仁に接近する。
そして、刀で相手を切り付ける。
仁の右肩から血が吹き出した。
「異常なスピード…速いな。普通の人間では、対応できない。」
仁が言う。
次は喉。それで終わりだ。
黒髪の男はそう思い、仁の喉元に視線を向けた。
動き出そうとした、そのとき。
「うっ…!」
突然、黒髪の男は声を上げた。
ジンジンと、痛みが走るような強烈な快感が腹に起こる。
「これ…は…。」
強い快感に力が抜け、片膝をつく。
「はぁっ…はぁっ…。」
口に手を当てる。
「ゴホッ…ゴホッ!」
黒髪の男は咳き込み、血を吐いた。
「名前は、歌蛾和銅(うたが わどう)。能力は、高い身体能力。いいや、正確に言えば、能力というより体質か。」
仁が言う。
「これは…快感の信号を相手に与えることをスイッチに、肉体を負傷させる能力か?
そして、その情報を相手に伝える条件を満たすと同時に、相手の簡単な情報を把握できる…。」
「大体そうだ。やれることは肉体の損傷だけじゃないがな。」
仁が返事をする。
「…しかし、凄まじい分析力だな。
和銅、お前はきっと、戦闘経験が豊富なんだろう。
お前は分かっているだろうが、この世には、魂の情報と肉体の情報が影響しあう法則がある。
どんな残酷な人間として有名な人間であろうと、俺の能力とは必ず共鳴する。皆、生物だからな。」
「……はぁっ…。」
「抵抗することはすすめないぞ。
肉体は素直で、魂もそれに影響される。拒絶したところで、苦しくなるだけだからな。」
新角仁の特殊能力の能力名
『愛感焦波(あいかんしょうは)』
信号を受けた相手の肉体に強烈な快感を与える、愛感焦波という信号を操る能力。
遠距離からでも、空間に放った信号を狙った相手に伝えることができる。
世界には魂の情報と肉体の情報が影響しあう法則がある。
それを利用し、与えた快感によって相手の意思関係なく、相手の魂と肉体のそれぞれの情報に干渉し、愛感焦波の能力者を肯定的な存在であると観測させる部分をつくる。このとき、肉体のほうが魂よりも肯定的に認識させやすい。
相手の肉体が洗脳されている度合いによって、相手の肉体そのものを操作し、肉体に傷を発現させ負傷させることなどができる。
「お前は肉体が自然法則によって非常に強化されている体質なんだろう。
そのぶん肉体は敏感だ。この世の法則にも、五感で感じる感覚にも。
…どういうことか分かるか?」
仁が、和銅に問いかける。
「……はぁっ…はぁっ…」
「俺との相性…最高だよ。」
「……フッ…。舐めやがって。」
最悪だ。
和銅は笑みを浮かべたまま、相手を睨んだ。
「…まずいな。」
そうこうしているうちに、どんどん肉体は洗脳されていく。快感が増すたび、肉体は操作される。
「よくも…こんな…。」
和銅は、ゆっくりと立ち上がった。
「…だが、俺の肉体の性質である高い身体能力の情報は、快楽の波長だけじゃ制御できないらしいな。」
「正解だ。よく、その感覚の中で考えられたな。」
相手が答える。
和銅は、仁に蹴りを放った。
異常な威力。
その蹴りが仁の顔面にヒットする。
「……。」
仁は無言で、口から血を吐き捨てた。
「強いな…。」
互いに距離を取り、2人が同時に同じ言葉を放つ。
「お前の肉体で攻撃を受けたら、ふつうの人間は頭が弾け飛んでいる。」
「ああ。そうだ。」
そう和銅が答える。呼吸は荒い。
快感の周波数が、身体中に存在している。
「うぐっ……!」
和銅は腹を押さえた。快感がまた、激しくなる。
「はぁっ…。チッ…!クソッ…!」
舌打ちし、和銅が相手を睨む。
動けない。
「はぁっ…はぁっ…!」
力が抜ける。
快感に、肉体が制御されている。動けば動くぶんだけ快感が強くなり、肉体に力を込めることができない。
和銅は、刀を相手に向かって投げつけた。
仁が手で、飛んできた刀を払う。
こいつ、電気信号を操るのに長けているな。
和銅は頭の中で呟く。
様々な面で、肉体の電気信号の操作に慣れていないと、そう上手く俺のスピードで投げた物体を目視し払うことはできねぇ。
だが。
相手の背後に、和銅はいた。
仁の腹に、拳をめり込ませる。
入ったな。手ごたえありだ。
その確信を持ったその瞬間、異常なほど大きな快感の波が起こり始める。
「ぐっ!ぐぅっ……!ゔぅぅ……っ!」
「ゴホッ…。」
和銅が快楽に喘ぎ、一方で仁が咳き込み、腹を押さえる。
相手にダメージを与えるほど快楽が増幅されるシステムでも、肉体につくられたか?
そんな考えが浮かび、和銅は眉間にしわを寄せた。
「…お前の攻撃は、集中していなければ一度受けただけで、かなりのダメージになる。
互いに相手を虐めるぶんだけ、互いに不都合が起こる。一旦距離を取ろう。」
そう言い、仁は袖で口元を拭う。
そして、仁は姿を消した。
奴の肉体が消えた。電気信号の操作によるものか。
そう察した和銅の肉体から、快感の感覚がなくなっていく。
「俺の肉体から快感が消滅した…か。……逃げたな。」
和銅は、ため息をついた。
「切り替えて、またもう一度狙いに行くとするか。一度顔を合わせたときに、殺すつもりだったが…。
……急ぐことはない。あいつは有名だ。奴の行動は直ぐにばれる。」
それに、快感の耐性をつくらなければならない。
時間をかけるか、新たな能力、システムを自分の中に持って対策するしかない。
ひとり、和銅は頭の中でそう考えた。
和銅は、歩道を歩いていた。
道に、多くの他の人間が歩いている。
昔から、人が嫌いだった。
育てられた環境のせいでもあるのだろう。
自分は、よく他人を突き放す。そして、よく身勝手な態度をとる。
その理由は、なんとなく分かっていた。
人を愛せる、その自信がないからだ。
その昔、愛されなかったから、誰も愛せなかった。
快感は新たな人間の思考に、新たな原点を生み出す。
「はぁっ…はぁっ…」
その夜、和銅は家の中で呻き声を上げていた。
「はは…。…なんだこれ…。」
敷布団の中でうずくまる。
笑って誤魔化そうとするが、どう考えてもおかしい。
さきほどまで気にしていなかったが、次第にその感覚は大きくなってきていた。
「はぁっ…はぁっ……うそ…だろ…。」
身体が震える。震えるぶんだけ、苦痛が増幅される。
その苦痛は、快楽そのものだった。
「はぁっ……はぁーっ…はぁーっ…。」
苦しい。
呼吸を静かにしようと息を深く吐き出そうとしても、リズムが掴めない。
まさか、あいつが…。
「苦しそうだな。」
聞き覚えのある声が聞こえる。
「……お前…なぜここにいる?なぜ…俺の居場所がわかった?」
和銅は、薄目を開けて言った。
「…新角仁。」
名前を言う。
和銅が見上げた先の壁の直ぐ前に、仁が立っていた。
「俺の能力は、放った信号によって掌握した人間のいる、その空間の座標を調べることもできる。」
「それによる……瞬間移動も可能なのか。」
「ああ。」
仁が、和銅のいる布団のある場所に近づく。
「俺は同性とのセックスが好きでな。
ごつごつとした肉体を抱くのは、背徳感があって気持ちが良い。」
仁が話し出す。
「……近寄るな。俺は今……機嫌が…悪いんだ。」
「お前、男同士の性行為は好きか?
特に気持ちよくなりたいときは、男のほうが良い時もある。」
「…だとしたら、なんだ?」
「お前はどう思うか、聞いているんだが。
安心しろ。お前が攻撃しないなら、こちらもその肉体を損傷させることはしない。」
「……もういい…分かった。
お前は俺を…抱きたいんだろ?それで、こんなクソみたいな感覚をまた発現させたわけだ。
…はやく感覚を鎮めたい。さっさとやれ。そして…二度と顔を見せるな。」
もし戦うのなら、勝つのは俺だ。
仁が支配できない情報である身体能力は、自分の方が相手より上だ。
たが、感覚や肉体の組織などの情報は、ほぼ完全に相手に制御されているのだろう。
そのため、相手に攻撃する意思がないなら、無理に戦闘をして肉体を損傷させるのは避けたかった。
「ずいぶん弱っているな。
…俺はお前を、結構気に入ってるんだぞ。まだ距離を取ろうと決めるのは早い。」
そう言って、仁は和銅に首筋に手を触れた。
「うっ…!…やめろ…遊ぶなっ…!」
和銅が呻く。
弱っている。そうかもしれない。
いつの間にか、肉体だけではなく、魂も洗脳されかけているのかもしれなかった。
仁が、敷布団のすぐ近くに座り、和銅の身体の上にかけてあった毛布をめくる。
「気持ち良くしてやる。今迄、感じたことないくらいに。」
そう言って、仁は和銅の腹を、右手の手のひら全体を使って強く押した。
腹の中で、激しい快感が起った。
「ゔぁっ………!!」
ひどい声が出る。
和銅は、身体を震わせた。
「はぁーっ…はぁーっ…」
目をつむり、片方の手の甲で口を押さえる。
絶頂のあと、屈辱感と強い多幸感が入り混じった感覚を覚えた。
「気持ち良いだろ?」
「……はぁっ…。…くた…ばれ……。」
和銅は、必死に理性を保とうとする。
そうしなければ、自分が自分でいられなくなる。このままでは快楽に負けて、ただの獣になってしまう。
好きでそうなるのは良いが、信頼もしていない男の目の前でそうなるなど、屈辱的だ。
だが、どこかで相手から攻撃されずにただ渡される快感に、安心している自分がいる。
「以前言ったはずだ。肉体は素直だと。
お前のような残酷な人間は、激しい刺激を好く。今は慣れていないだけだ。
魂も次第に、肉体の感覚に適応して慣れていく。」
「はぁっ…はは。…お前…少し…黙ってろ…。」
「こうやっている間は、俺は攻撃しない。
快感をもらっているだけで感じる信頼のほか、攻撃しないということでの信頼感があるはずだ。分かるな。
その信頼は、魂の情報と肉体の情報からしっかりと存在する。それが俺の能力だからな。」
下腹部の奥から感じる快感が、大きくなる。
「もう…ダメだ…。…い…逝く…っ!」
和銅は、がくがくと身体を痙攣させた。
「…そうだ。リラックスしろ。」
「はぁっ…はぁっ…。お前…他の人間にも…こういうことをしているのか……。」
「まあな。だが、もしお前と仲良くなれるなら、そういった自分の行動を制限してもいい。」
「…だから、賞金を…かけられて狙われるんだ。」
「その他にも理由はある。俺は趣味で殺人を行っている。」
「それは…お前を狙う計画を立てる上で…把握している。どうやら、お前は殺人鬼らしいな。お前は…人を殺すのが好きなのか?」
「…まあな。」
「俺のことも殺すつもりか?」
「そんなことはない。」
「やってみろ。もし、俺のことを殺す意思があると思える行動をしたら…俺がお前を殺してやる。」
「怖いこと言うんだな。」
「殺人鬼が…なにを言ってやがる…。」
「……。」
そんな会話の後、和銅は肉体に今迄以上に違和感を感じ始める。
「はぁっ…。お前……なにか俺に…。…俺に…なにした?」
和銅は、自分の肉体の変化に気付いた。
呼吸が荒くなってくる。
その反応を見た仁は、上半身の服を脱ぎ始めた。
「俺は、魂と肉体の情報を掌握した相手の中で、特定のことで快感を感じたいという潜在欲求を生み出すこともできる。」
そう仁が答える。
「……発情させて…良いようにするつもりか…。」
「先に言ったほうが良かったか?」
「…もういい。……一時的のことだ。」
「悪かったよ。
だが、その方が気持ち良くなれるからな。
快感だけではなく、潜在的な欲求もあるからこそ、物事は気持ち良く感じることができるものだ。セックスに限らずな。」
「…はぁっ…はやく……はやくしろ…。…もう…耐えられない……。」
和銅は、苦しそうに身体を横倒しにした。
「そうだな。はやくしてやる。そして、じっくりとしよう。」
仁が、和銅の顔を撫で、その彼の身体の上に覆い被さる。
「…はやくしろっ…。……苦しいっ…。」
和銅は完全に、魂も肉体も洗脳されている状態だった。
別にいい。
元から、なにもかも捨てている。
この世に生まれて生きてきて、心から尊いと思い、それで安心できたものなどない。俺にとって、なにもかもが石ころだった。
俺は、強い特殊能力者が生まれる家系で生まれた。だが、生まれ持った能力は、身体能力が高いというだけだった。
そのため、自分に対する評価は決して高くなかった。一族の汚点だと、貶されることもよくあった。
食欲、愛情、承認欲求、金、性的行為。成人をする前に家を出て、身体だけ大きくなるにつれ、そういった快感への依存は膨らんでいった。
表面上、それをプライドで押さえ込んでいた部分があっただけだ。
暗殺業で、莫大な金を稼ぐようになってからも頭の中にあるのは、飢え。
本当に愛してくれるなら、女でも男でも構わない。それが本音だった。
攻撃しないなら、攻撃されない。それだけで安全な関係が築け、気持ち良くなれるなら。
一瞬でも、なにもかも忘れられるなら…。
獣になれる。
強烈な快楽の呪いの波に嬲られ、和銅は激しく喘いだ。
和銅は、布団から上半身を起き上がらせていた。
「クソッ……。」
やりたいようにされた。行為の相手である自分を尊重し、本当に優しいような態度で振る舞われた。それが一層、腹立つ。
「そんなに落ち込むことはない。」
悔しがる和銅に、仁が声をかける。
「お前の能力ほど…人を人間不信にさせる性質を持つものは、なかなかないだろうな。」
「そんなこと言うなよ。」
「……お前は俺をどうしたい…。」
「お前と付き合いたい。お前は筋肉質の大男だが、性格は可愛いからな。」
「…可愛いだと?」
「それに、お前は愛情が足りてない。俺の憶測だが、お前は幼少期の家で愛情をもらわずに育っただろう?
愛情をくれてやる。それも含めてだ。」
「……。」
「お前はどう思う?」
「……俺のこと殺そうとしたら、殺す。分かっているだろうな?
そのときは、俺が勝つ。」
「そうか。では、改めて自己紹介しよう。
俺の名前は新角仁だ。よろしくな。歌蛾和銅。」
仁が、和銅の背中に触れる。
和銅は、困ったように顔に片手を当てた。
果たして、ろくでなし同士、通じるところはあるのだろうか。
これから、すがる時間を作るのも良いだろう。
こいつなら、身体を渡した時だけ、俺をただの動物にさせてくれる。
「お前の生み出す快楽はただのお前の勝手か、それとも俺の飢えを満たすこともできるのか。きっと直ぐに分かる。
…分かるまで、付き合ってやる。」
「…期待は裏切らない。」
和銅の言葉に、優しく仁が返答した。
孤独だったお前に、俺の周波数で快楽を。そして、愛を。
この世の法則は無限にあり、1つずつ決まっている。
ある意味呪いだ。呪いがあり、その上で全ては成り立っている。
特殊能力者に限らず、この世に無限にある呪いのような法則を扱うことで、はじめて報われる。どんな小さなことであってもだ。呪いを扱えるぶんだけ、良い。
俺の能力だってそうだ。
一見呪いのように見えても、それを用いて、幸福なことに意味がある。
お前にも、そう思わせてやる。
そう頭の中で念じ、仁は和銅の黒髪の頭を撫でた。
快楽の周波数。
それは優しい呪いである。
どんな存在であれ、快楽の要素のある情報により安定する。
例え、どんな法則が存在する領域であっても。
ひとけのない、開けた場所。あたりには雑草が茂り、廃墟が建っている。
「…なぜ俺を狙う?」
そこに立っていた男は、黒髪の男と向き合い、そんな言葉を投げかけていた。
「新角仁(しんかく じん)。お前には多額の金がかけられている。」
黒髪の男が言う。
「お前も、それを狙って来たのか。俺に対する懸賞金が高くなったからか?特に最近は、特殊能力者の暗殺者をよく見かける。」
そう言い返す仁は、飄々と笑っていた。
「俺は、できるだけ人に優しくしたいんだが。」
「狙われるようなことをするから、首に金がかけられるんじゃねぇのか。それか、生まれつき狙われる才能があるのか。俺に狙われる奴は、そのどちらかだ。
お前は俺と同じ目をしている。お前は俺と同じ、人を殺す世界に生きる人間だ。」
「…さあ?どうだろうな。」
黒髪の男の身体が動いた。
常人には捉えられない高速のスピードで、仁に接近する。
そして、刀で相手を切り付ける。
仁の右肩から血が吹き出した。
「異常なスピード…速いな。普通の人間では、対応できない。」
仁が言う。
次は喉。それで終わりだ。
黒髪の男はそう思い、仁の喉元に視線を向けた。
動き出そうとした、そのとき。
「うっ…!」
突然、黒髪の男は声を上げた。
ジンジンと、痛みが走るような強烈な快感が腹に起こる。
「これ…は…。」
強い快感に力が抜け、片膝をつく。
「はぁっ…はぁっ…。」
口に手を当てる。
「ゴホッ…ゴホッ!」
黒髪の男は咳き込み、血を吐いた。
「名前は、歌蛾和銅(うたが わどう)。能力は、高い身体能力。いいや、正確に言えば、能力というより体質か。」
仁が言う。
「これは…快感の信号を相手に与えることをスイッチに、肉体を負傷させる能力か?
そして、その情報を相手に伝える条件を満たすと同時に、相手の簡単な情報を把握できる…。」
「大体そうだ。やれることは肉体の損傷だけじゃないがな。」
仁が返事をする。
「…しかし、凄まじい分析力だな。
和銅、お前はきっと、戦闘経験が豊富なんだろう。
お前は分かっているだろうが、この世には、魂の情報と肉体の情報が影響しあう法則がある。
どんな残酷な人間として有名な人間であろうと、俺の能力とは必ず共鳴する。皆、生物だからな。」
「……はぁっ…。」
「抵抗することはすすめないぞ。
肉体は素直で、魂もそれに影響される。拒絶したところで、苦しくなるだけだからな。」
新角仁の特殊能力の能力名
『愛感焦波(あいかんしょうは)』
信号を受けた相手の肉体に強烈な快感を与える、愛感焦波という信号を操る能力。
遠距離からでも、空間に放った信号を狙った相手に伝えることができる。
世界には魂の情報と肉体の情報が影響しあう法則がある。
それを利用し、与えた快感によって相手の意思関係なく、相手の魂と肉体のそれぞれの情報に干渉し、愛感焦波の能力者を肯定的な存在であると観測させる部分をつくる。このとき、肉体のほうが魂よりも肯定的に認識させやすい。
相手の肉体が洗脳されている度合いによって、相手の肉体そのものを操作し、肉体に傷を発現させ負傷させることなどができる。
「お前は肉体が自然法則によって非常に強化されている体質なんだろう。
そのぶん肉体は敏感だ。この世の法則にも、五感で感じる感覚にも。
…どういうことか分かるか?」
仁が、和銅に問いかける。
「……はぁっ…はぁっ…」
「俺との相性…最高だよ。」
「……フッ…。舐めやがって。」
最悪だ。
和銅は笑みを浮かべたまま、相手を睨んだ。
「…まずいな。」
そうこうしているうちに、どんどん肉体は洗脳されていく。快感が増すたび、肉体は操作される。
「よくも…こんな…。」
和銅は、ゆっくりと立ち上がった。
「…だが、俺の肉体の性質である高い身体能力の情報は、快楽の波長だけじゃ制御できないらしいな。」
「正解だ。よく、その感覚の中で考えられたな。」
相手が答える。
和銅は、仁に蹴りを放った。
異常な威力。
その蹴りが仁の顔面にヒットする。
「……。」
仁は無言で、口から血を吐き捨てた。
「強いな…。」
互いに距離を取り、2人が同時に同じ言葉を放つ。
「お前の肉体で攻撃を受けたら、ふつうの人間は頭が弾け飛んでいる。」
「ああ。そうだ。」
そう和銅が答える。呼吸は荒い。
快感の周波数が、身体中に存在している。
「うぐっ……!」
和銅は腹を押さえた。快感がまた、激しくなる。
「はぁっ…。チッ…!クソッ…!」
舌打ちし、和銅が相手を睨む。
動けない。
「はぁっ…はぁっ…!」
力が抜ける。
快感に、肉体が制御されている。動けば動くぶんだけ快感が強くなり、肉体に力を込めることができない。
和銅は、刀を相手に向かって投げつけた。
仁が手で、飛んできた刀を払う。
こいつ、電気信号を操るのに長けているな。
和銅は頭の中で呟く。
様々な面で、肉体の電気信号の操作に慣れていないと、そう上手く俺のスピードで投げた物体を目視し払うことはできねぇ。
だが。
相手の背後に、和銅はいた。
仁の腹に、拳をめり込ませる。
入ったな。手ごたえありだ。
その確信を持ったその瞬間、異常なほど大きな快感の波が起こり始める。
「ぐっ!ぐぅっ……!ゔぅぅ……っ!」
「ゴホッ…。」
和銅が快楽に喘ぎ、一方で仁が咳き込み、腹を押さえる。
相手にダメージを与えるほど快楽が増幅されるシステムでも、肉体につくられたか?
そんな考えが浮かび、和銅は眉間にしわを寄せた。
「…お前の攻撃は、集中していなければ一度受けただけで、かなりのダメージになる。
互いに相手を虐めるぶんだけ、互いに不都合が起こる。一旦距離を取ろう。」
そう言い、仁は袖で口元を拭う。
そして、仁は姿を消した。
奴の肉体が消えた。電気信号の操作によるものか。
そう察した和銅の肉体から、快感の感覚がなくなっていく。
「俺の肉体から快感が消滅した…か。……逃げたな。」
和銅は、ため息をついた。
「切り替えて、またもう一度狙いに行くとするか。一度顔を合わせたときに、殺すつもりだったが…。
……急ぐことはない。あいつは有名だ。奴の行動は直ぐにばれる。」
それに、快感の耐性をつくらなければならない。
時間をかけるか、新たな能力、システムを自分の中に持って対策するしかない。
ひとり、和銅は頭の中でそう考えた。
和銅は、歩道を歩いていた。
道に、多くの他の人間が歩いている。
昔から、人が嫌いだった。
育てられた環境のせいでもあるのだろう。
自分は、よく他人を突き放す。そして、よく身勝手な態度をとる。
その理由は、なんとなく分かっていた。
人を愛せる、その自信がないからだ。
その昔、愛されなかったから、誰も愛せなかった。
快感は新たな人間の思考に、新たな原点を生み出す。
「はぁっ…はぁっ…」
その夜、和銅は家の中で呻き声を上げていた。
「はは…。…なんだこれ…。」
敷布団の中でうずくまる。
笑って誤魔化そうとするが、どう考えてもおかしい。
さきほどまで気にしていなかったが、次第にその感覚は大きくなってきていた。
「はぁっ…はぁっ……うそ…だろ…。」
身体が震える。震えるぶんだけ、苦痛が増幅される。
その苦痛は、快楽そのものだった。
「はぁっ……はぁーっ…はぁーっ…。」
苦しい。
呼吸を静かにしようと息を深く吐き出そうとしても、リズムが掴めない。
まさか、あいつが…。
「苦しそうだな。」
聞き覚えのある声が聞こえる。
「……お前…なぜここにいる?なぜ…俺の居場所がわかった?」
和銅は、薄目を開けて言った。
「…新角仁。」
名前を言う。
和銅が見上げた先の壁の直ぐ前に、仁が立っていた。
「俺の能力は、放った信号によって掌握した人間のいる、その空間の座標を調べることもできる。」
「それによる……瞬間移動も可能なのか。」
「ああ。」
仁が、和銅のいる布団のある場所に近づく。
「俺は同性とのセックスが好きでな。
ごつごつとした肉体を抱くのは、背徳感があって気持ちが良い。」
仁が話し出す。
「……近寄るな。俺は今……機嫌が…悪いんだ。」
「お前、男同士の性行為は好きか?
特に気持ちよくなりたいときは、男のほうが良い時もある。」
「…だとしたら、なんだ?」
「お前はどう思うか、聞いているんだが。
安心しろ。お前が攻撃しないなら、こちらもその肉体を損傷させることはしない。」
「……もういい…分かった。
お前は俺を…抱きたいんだろ?それで、こんなクソみたいな感覚をまた発現させたわけだ。
…はやく感覚を鎮めたい。さっさとやれ。そして…二度と顔を見せるな。」
もし戦うのなら、勝つのは俺だ。
仁が支配できない情報である身体能力は、自分の方が相手より上だ。
たが、感覚や肉体の組織などの情報は、ほぼ完全に相手に制御されているのだろう。
そのため、相手に攻撃する意思がないなら、無理に戦闘をして肉体を損傷させるのは避けたかった。
「ずいぶん弱っているな。
…俺はお前を、結構気に入ってるんだぞ。まだ距離を取ろうと決めるのは早い。」
そう言って、仁は和銅に首筋に手を触れた。
「うっ…!…やめろ…遊ぶなっ…!」
和銅が呻く。
弱っている。そうかもしれない。
いつの間にか、肉体だけではなく、魂も洗脳されかけているのかもしれなかった。
仁が、敷布団のすぐ近くに座り、和銅の身体の上にかけてあった毛布をめくる。
「気持ち良くしてやる。今迄、感じたことないくらいに。」
そう言って、仁は和銅の腹を、右手の手のひら全体を使って強く押した。
腹の中で、激しい快感が起った。
「ゔぁっ………!!」
ひどい声が出る。
和銅は、身体を震わせた。
「はぁーっ…はぁーっ…」
目をつむり、片方の手の甲で口を押さえる。
絶頂のあと、屈辱感と強い多幸感が入り混じった感覚を覚えた。
「気持ち良いだろ?」
「……はぁっ…。…くた…ばれ……。」
和銅は、必死に理性を保とうとする。
そうしなければ、自分が自分でいられなくなる。このままでは快楽に負けて、ただの獣になってしまう。
好きでそうなるのは良いが、信頼もしていない男の目の前でそうなるなど、屈辱的だ。
だが、どこかで相手から攻撃されずにただ渡される快感に、安心している自分がいる。
「以前言ったはずだ。肉体は素直だと。
お前のような残酷な人間は、激しい刺激を好く。今は慣れていないだけだ。
魂も次第に、肉体の感覚に適応して慣れていく。」
「はぁっ…はは。…お前…少し…黙ってろ…。」
「こうやっている間は、俺は攻撃しない。
快感をもらっているだけで感じる信頼のほか、攻撃しないということでの信頼感があるはずだ。分かるな。
その信頼は、魂の情報と肉体の情報からしっかりと存在する。それが俺の能力だからな。」
下腹部の奥から感じる快感が、大きくなる。
「もう…ダメだ…。…い…逝く…っ!」
和銅は、がくがくと身体を痙攣させた。
「…そうだ。リラックスしろ。」
「はぁっ…はぁっ…。お前…他の人間にも…こういうことをしているのか……。」
「まあな。だが、もしお前と仲良くなれるなら、そういった自分の行動を制限してもいい。」
「…だから、賞金を…かけられて狙われるんだ。」
「その他にも理由はある。俺は趣味で殺人を行っている。」
「それは…お前を狙う計画を立てる上で…把握している。どうやら、お前は殺人鬼らしいな。お前は…人を殺すのが好きなのか?」
「…まあな。」
「俺のことも殺すつもりか?」
「そんなことはない。」
「やってみろ。もし、俺のことを殺す意思があると思える行動をしたら…俺がお前を殺してやる。」
「怖いこと言うんだな。」
「殺人鬼が…なにを言ってやがる…。」
「……。」
そんな会話の後、和銅は肉体に今迄以上に違和感を感じ始める。
「はぁっ…。お前……なにか俺に…。…俺に…なにした?」
和銅は、自分の肉体の変化に気付いた。
呼吸が荒くなってくる。
その反応を見た仁は、上半身の服を脱ぎ始めた。
「俺は、魂と肉体の情報を掌握した相手の中で、特定のことで快感を感じたいという潜在欲求を生み出すこともできる。」
そう仁が答える。
「……発情させて…良いようにするつもりか…。」
「先に言ったほうが良かったか?」
「…もういい。……一時的のことだ。」
「悪かったよ。
だが、その方が気持ち良くなれるからな。
快感だけではなく、潜在的な欲求もあるからこそ、物事は気持ち良く感じることができるものだ。セックスに限らずな。」
「…はぁっ…はやく……はやくしろ…。…もう…耐えられない……。」
和銅は、苦しそうに身体を横倒しにした。
「そうだな。はやくしてやる。そして、じっくりとしよう。」
仁が、和銅の顔を撫で、その彼の身体の上に覆い被さる。
「…はやくしろっ…。……苦しいっ…。」
和銅は完全に、魂も肉体も洗脳されている状態だった。
別にいい。
元から、なにもかも捨てている。
この世に生まれて生きてきて、心から尊いと思い、それで安心できたものなどない。俺にとって、なにもかもが石ころだった。
俺は、強い特殊能力者が生まれる家系で生まれた。だが、生まれ持った能力は、身体能力が高いというだけだった。
そのため、自分に対する評価は決して高くなかった。一族の汚点だと、貶されることもよくあった。
食欲、愛情、承認欲求、金、性的行為。成人をする前に家を出て、身体だけ大きくなるにつれ、そういった快感への依存は膨らんでいった。
表面上、それをプライドで押さえ込んでいた部分があっただけだ。
暗殺業で、莫大な金を稼ぐようになってからも頭の中にあるのは、飢え。
本当に愛してくれるなら、女でも男でも構わない。それが本音だった。
攻撃しないなら、攻撃されない。それだけで安全な関係が築け、気持ち良くなれるなら。
一瞬でも、なにもかも忘れられるなら…。
獣になれる。
強烈な快楽の呪いの波に嬲られ、和銅は激しく喘いだ。
和銅は、布団から上半身を起き上がらせていた。
「クソッ……。」
やりたいようにされた。行為の相手である自分を尊重し、本当に優しいような態度で振る舞われた。それが一層、腹立つ。
「そんなに落ち込むことはない。」
悔しがる和銅に、仁が声をかける。
「お前の能力ほど…人を人間不信にさせる性質を持つものは、なかなかないだろうな。」
「そんなこと言うなよ。」
「……お前は俺をどうしたい…。」
「お前と付き合いたい。お前は筋肉質の大男だが、性格は可愛いからな。」
「…可愛いだと?」
「それに、お前は愛情が足りてない。俺の憶測だが、お前は幼少期の家で愛情をもらわずに育っただろう?
愛情をくれてやる。それも含めてだ。」
「……。」
「お前はどう思う?」
「……俺のこと殺そうとしたら、殺す。分かっているだろうな?
そのときは、俺が勝つ。」
「そうか。では、改めて自己紹介しよう。
俺の名前は新角仁だ。よろしくな。歌蛾和銅。」
仁が、和銅の背中に触れる。
和銅は、困ったように顔に片手を当てた。
果たして、ろくでなし同士、通じるところはあるのだろうか。
これから、すがる時間を作るのも良いだろう。
こいつなら、身体を渡した時だけ、俺をただの動物にさせてくれる。
「お前の生み出す快楽はただのお前の勝手か、それとも俺の飢えを満たすこともできるのか。きっと直ぐに分かる。
…分かるまで、付き合ってやる。」
「…期待は裏切らない。」
和銅の言葉に、優しく仁が返答した。
孤独だったお前に、俺の周波数で快楽を。そして、愛を。
この世の法則は無限にあり、1つずつ決まっている。
ある意味呪いだ。呪いがあり、その上で全ては成り立っている。
特殊能力者に限らず、この世に無限にある呪いのような法則を扱うことで、はじめて報われる。どんな小さなことであってもだ。呪いを扱えるぶんだけ、良い。
俺の能力だってそうだ。
一見呪いのように見えても、それを用いて、幸福なことに意味がある。
お前にも、そう思わせてやる。
そう頭の中で念じ、仁は和銅の黒髪の頭を撫でた。
快楽の周波数。
それは優しい呪いである。
どんな存在であれ、快楽の要素のある情報により安定する。
例え、どんな法則が存在する領域であっても。
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