Into the unknown energy(未知の力へ)

りんかく

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Symbiotic(共生的な)

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“This cosmic is my unbecoming(この宇宙は俺にふさわしくない)”
そう思う。
“Symbiotic(共生的な)”
その言葉が嫌いだった。


真っ暗な空間。目は虚ろ。
和服を着た彼は、傷だらけの状態で座り込んでいた。
「なぜあんなものが生まれた…。」
「なぜ特殊能力者が操れるはずの呪力を操れない?全く、使い物にならない。」
「紫院行鐘(しいん ゆがね)。お前のような存在は…要らない。」


「…はぁ…はぁ…」
荒い呼吸だけが室内に響く。
「…!!」
目を見開き、夢であることを悟る。
男は敷布団で眠っていた。部屋は散らかっている。
「はぁ…はぁ…はぁっ…」
呼吸を整える。
「……なんだよ。ははっ…。」
苦痛だった記憶を誤魔化し、笑う。
「また夢かよ。…チッ。」
実際に過去に起こった現実が、また夢の中でよみがえったことに苛立つ。
「良い加減にしろ…。いつまで俺を苦しめるつもりだ。」
生まれつき体術しか使えない体質により、迫害され、報われることを諦めたはずだ。
強い特殊能力者が生まれる一族の家に生まれ、その家から出て時間が経つ。
報われたい。その欲求は何故ある。なにをどう隠そうが、劣等感は膨らむ。
表面的には、なにもかもどうでもいいと思っている。
だが、自分でも分からない潜在意識では、常に愛情を渇望していた。
「…金だ。」
シャワーを浴び、ひとり呟く。
「気にする必要はない。…次の金はでかい。順当にいけば…。」
行鐘は、不敵に笑みを浮かべた。


忘れていたのは、いつも呪いに対する漠然とした形はあったということ。
それはきっと、誰も相手にしないものだ。
だからいつの間にか、自分の漠然を信じたい欲求自体を相手にすることをやめていた。


「…ああ、ああ。わかってる、次の任務だろ。」
外で、青年は電話で話をしていた。
「はいはい、そう怒るなよ。こっちだって忙しいんだから。
俺?俺は今から甘いものを食べに…。
…うわー、わかった!わかったって!」
相手をなんとかなだめ、スマートフォンを触る。
「…まったく治安維持組織も大変だな。」
そう言って、電話を切った瞬間。
そこに、背後から男が現れた。行鐘である。
反応するよりも速く、刀で胴体を貫かれる。
「…!!」
青年は驚いた顔をした。
続いて、行鐘が青年の首を狙う。
すると、青年の周囲は爆発し、青年の姿が消えた。
「さっそく首を狙ってきやがった!えげつねえな!」
少し離れた距離に瞬間移動し、青年が叫ぶ。
青年が手で押さえるその首からは、血が流れ出ていた。
「チッ…。計画通りにいかなかったな。」
行鐘が舌打ちする。
「さっさと首を切って殺すつもりだったが。」
逃げるか。
そんな考えが浮かぶ。だが。
“紫院行鐘。お前のような存在は…要らない。”
昔言われた言葉が、頭の中によみがえる。
「……」
行鐘の目つきが鋭くなり、狙っていた相手に向き直った。
「暗殺者だよな?逃げないんだな。」
相手が言う。
「お前が特殊能力者の師洞理我(しどう りが)だな。」
行鐘が相手の名前を呼ぶ。
「ああ。お前の目的はなんだ?裏の世界で、俺の首にかけられた金が目的か?」
理我は腰に両手をつき、ため息をついた。
「はあー、困るんだよな。どいつもこいつも、裏の人間は金目的で俺を狙う。」
そして、顔を上げる。
「俺は、生まれつき呪力を操る天才ってことで有名でね。暗殺者のあんたも、俺のことは知ってるんじゃないか?」
「ああ、知ってる。その上で狙った。」
「相当自信があるようだな。どんな能力だ?」
「教えてもデメリットがないから、教えてやる。
俺は生まれつき体術ととらえた能力を、肉体ととらえた領域でつかえない体質でな。呪無体質(じゅむたいしつ)という。」
「その体質か。特殊能力者の中じゃ、苦労することで知られてるな。俺の所属しているとこの上層部から、認められないって。」
「俺の場合、本来もらうはずの呪力も能力も膨大だったが、それを持たずに生まれた。
それを自然法則に代償と観測され、体術を使うためのエネルギーは膨大になっているわけだ。
一度に放出できるエネルギーは限りがあるが、体力はなくならない。肉体の再生もできる。無限にな。」
「呪力じゃない…か。それも聞いたことある。
じゃあ、お前の体術で扱っている膨大なエネルギーはなんなんだ?
体術が得意なら、その特殊な現象を起こす特殊なエネルギーがあるはずなんだが。これを他の呪無体質のやつに聞いても、本人がよく分かってないんだよ。」
「……。…さあな。観測できないエネルギーなんじゃねえのか。」
「さあなって…。」
理我は少し目を細めた。
バッと、行鐘の姿が一瞬にして消える。
「速い…。普通に移動してこれか。瞬間移動かよ。」
理我が言う。
「…悪いが、俺はこれから糖分補給する予定でね。甘いものが好きなんだ。」
続いてそう言って、手を伸ばす。
「小さな幸せを感じる生活…いいだろ?」
理我の周囲から、広範囲に円形の呪力の領域が広がる。
「…!」
理我に接近していたためつくられた呪力の領域に入った、行鐘が少し驚いた顔をした。
「呪捕縛(じゅほばく)」
理我の声と共に、ビクッと、高速移動していた行鐘の動きが固まった。
理我が、自身の近くに1つの巨大な呪力のエネルギーの玉を生み出す。
「爆追(ばくつい)」
つくられたエネルギーの玉が爆発し、複数のエネルギーに分裂する。
それが全て行鐘のいる位置を追いかけ、彼の肉体に連続して直撃した。
「…ぐっ」
行鐘が呻く。空間に固定されたまま、行鐘は腕をだらんと下げた。
「あんたが肉体の電気信号を流して呪力の情報を分解し、呪捕縛を解除する前に攻撃した。あぶない、あぶない。
あと、空間にあんたを固定する呪力を流し続けておかないとな。」
「……がはっ、かはっ…!」
行鐘が顔を歪める。血を大量の吐いた。
「事前に調べて分かっているかもしれないが…。
俺は主に、爆発を操る特性の能力を持つ。
基本的な呪力の操作の応用も行うし、爆発する現象と、逆にその爆発の収束をする現象も操る。
それを利用し、あんたの肉体の情報内で、いまさっき爆発したエネルギーの一部を爆発させ続けている。」
「……」
「さっきあんたが刺した傷も、もう大丈夫だ。傷をひとつの爆発した情報と捉え、もとの肉体の状態の情報に収束させる形で再生している。」
「……」
「話そう。なんで俺を狙う?
話す気があるなら、爆発を止める。」
「……金だよ。」
「それだけが目的か。」
理我が手を少し動かし、フッと行鐘の肉体の情報で起こっていた爆発を止める。
「爆発を止めてくれてご苦労…。金目的の生、否定するか?」
行鐘は、笑いながら言った。
「もしそうなら、お前は世にある金の重要性ってのを…知らないだけだね。」
「別に否定しているわけじゃねえよ。」
「ははっ、舐めんな。クソガキが。」
「クソガキって…。確かに俺は年下かもしれないが、そこまで年齢違わないだろ。」
「…知らねぇよ、そんなの。」
「…分からない。あんたは何を求めている?なんの欲求もないわけじゃないんだろ。」
「面倒くせぇこと、聞くんじゃねぇよ。」
「あんたは俺を認めてくれていた。だから俺に、金以外で勝ちたかった。違うか?
人によって欲求は様々だからな。」
「黙れ。」
行鐘は理我を睨んだ。
「どうした?なんか癪に触ったか?
俺は欲求があるね。甘いもの食べたい。」
「……」
「俺はあんたのこと、嫌いじゃねえよ。あんた、強いから。」
そう理我に言われる。
ふと思い出す。呪いに対する漠然とした形を。
行鐘は口を開いた。
「……お前は」
「?」
「…お前は、噂によるとエネルギーに対する観察眼があるらしいな。」
「ああ。俺は生まれつき呪力の情報をよく視える体質でね。」
「お前は電気信号の動きも視れるか?」
「まあな。」
「空間を操れるか?」
「自分の能力を応用すれば、多分。」
「存在していて観測できないエネルギーを発見することも可能か?」
「それは分からない。」
言うのか。否定されても、もう知るか。
「…俺は、空間と新しいエネルギーに関係する能力を持つ特殊能力者を探している。」
「…なぜ?」
「呪無体質が起こる法則を、この世から消滅させたい。漠然とした仮説からの策はある。」
「面白い。」
理我は笑った。
「俺も、この世界の呪無体質で苦労している能力者を少なからず見てきた。
そいつらのためにも、あんたに協力するのも良いかもしれない。」
「お前…俺を否定しないのか?」
「なんでそうなる。滅茶苦茶面白そうなこと言ってるのに、否定するわけないだろ。」
「……。」
行鐘は理我を見た。少し表情が緩む。
「…今回の暗殺は諦める。」
「賢明だな。肉体の空間の固定をやめる。」
理我は、行鐘の肉体の固定を解除した。
行鐘はため息をつき、肩の力を抜いた。


行鐘と理我は、目的の場所に向かって歩いていた。
「物心ついたころから直感的に、パラレルワールドの宇宙に俺の居場所があるのだと感じていたところがある。」
「パラレルワールド?」
行鐘の話に、理我が耳を傾ける。
「俺の仮説だ。
この世には、探せばパラレルワールドの宇宙がある。
その別の宇宙で生まれたエネルギーの情報が、俺の魂と肉体に付与されている。だから俺の特殊なエネルギーは観測されない。
それに、その観測できないエネルギーを持つ者を報われないようにしている法則がある。」
「報われないようにしている法則?」
「人間の認識を歪めている法則だ。」
「そういえば…あんたの一族、体術しか使えないあんたを虐めてたんだって?」
「お前も他人を報わせることに興味があるだろ。」
「あるよ。強くて物分かりが良く優しいやつは増えた方がいい。俺のことだ。あんたのことじゃない。」
「…フン。」
「それで、なにを手伝えばいい?」
歩いていた2人は、ひとけのない空き地に着いた。
「電気信号を計算するシュミレーションを、自分の肉体内の電気信号を操って脳内につくれ。
そのシュミレーションの中に呪力の情報も入れろよ。呪力も1つの電気信号だ。」
「脳内にシュミレーションを?」
「そして、俺の肉体にある観測できないエネルギーの特定だ。
俺は速く動く。俺のいる周囲の領域を限定して、その中で全体のエネルギーを観測しろ。
今いるこの宇宙の物質には、少なからず電気信号と呪力が存在する。それを基準に考えろ。
俺が動けば、全体のエネルギーの動きと、観測できるエネルギーの動きと、観測できない俺の肉体のエネルギーに分けることができる。
全体のエネルギーの情報から観測できるエネルギーの情報を引き、観測できないエネルギーの情報を計算する。
そして、観測できないエネルギーが発生する領域の情報を特定しろ。」
「……えー。」
「それらは自然法則のシュミレーションによって、必ずある概念のはずだ。」
「…分かった。やってみるよ。」
「流石、天才だな。」
「まあな。」
そう言うと、行鐘は走りだした。
「速っ!」
理我が目で追う。
走り終えた彼を見て、理我は唸った。
「速い。あんた、速すぎるよ。他の奴等なら絶対見逃すね、これは。」
「観測できたか?」
「ああ。なんとかな。
…電気信号を基準に観測か。その発想はなかった。」
「俺の肉体にある観測できないエネルギーの電気信号を計算したら、その情報を俺によこせ。
電気信号を使って、俺の肉体に渡してもらえばいい。」
「ほらよ。」
理我は片手を出し、行鐘の差し出した手のひらにタッチした。
「早いな。」
「だろ?
脳内の電気信号と呪力のシュミレーション、これ良いな。やれるのは計算だけだが。場合によっては使えるし、なにより俯瞰的になれる。あんたも持ってるのか?」
「ああ。
だが、電気信号のシュミレーションだけだと操れるものが限られている。俺は呪力を操れねぇからな。
呪力を操れる頭の良い奴が、電気信号と呪力を計算するシュミレーションを持って、客観的に観測したほうが正確に情報を導きだしやすい。」
「なるほどね。だから俺が必要だったのか。」
「この特定した情報から、電気信号を用いて、観測できないエネルギーがある領域へ飛ぶ。」
「魂の情報と肉体の情報は影響しあうという、この世の法則を利用してか。」
「ああ。まずはじめに特定した情報から、その観測できない領域の情報に電気信号を送る。
情報が発生した領域の物理的な情報を持っているなら、その場所に電気信号を送ることも可能のはずだ。」
「そしてその領域に送った電気信号を、自分の肉体に見立て、自分の魂の情報を瞬間移動させる。」
「その通りだ。よく分かってるな。」
互いに頷く。そして、2人はトリップした。


そこは、一見同じ空き地であった。
その場に、2人が瞬間的に移動する。
「着いたか」
「同じ場所だが、感じるものが違うな。」
理我に対して、行鐘が言う。
「人が存在していなさそうだな。
もともとここは、なにもない場所だったのかもしれない。俺達が移動してきたことによって、元いた場所の情報が共有されて影響して、移動先が同じ場所になったのかもな。」
そう言いつつ、理我はあたりを見回す。
「すげえ…見えなかったエネルギーが、なんとなく観測できる。これは1つの発見だぞ。」
理我は感動したように手を広げた。
「やはり、ここには別のエネルギーがあったな。
どうやら、本来ここから俺の持っているエネルギーは生まれたらしい。
仮にここにあるエネルギーを“妖力”として話す。
この宇宙の領域では、俺はそれを用いて特殊能力を使えるようだ。」
行鐘がそう言って、片手を広げる。
その手から目に見える光を放つ、細かな粒子の集まりのようなエネルギーが現れた。
「俺もここにいて、この空間からなくとなく理解できる。新しいエネルギーを操れはしないけどな。
その妖力ってやつは、呪力と違ってエネルギーを消費しない性質の法則があるのか?
一度に放出できるエネルギーは限られているが、持っているエネルギーは消費しない。この領域に来て、そういう感覚を一層あんたから感じるようになったが。」
「ああ、そのようだな。妖力を持つっていうのは、エネルギーがなくならない体質みたいなものだろうな。」
「ハハッ、すげえ。まさに永久機関だな。」
「……お前は自分の呪力をよく理解している。だから他人のことも理解ができる。」
「…あんたが呪無体質になった原因についてのことだが。
宇宙の空間は複数あるが、どんな領域にも通っている潜在的な自然法則のシュミレーションそのものは同じだ。
あんたは生まれつき、自然法則のシュミレーションから別の世界の要素の情報が付与された。」
「…そうだな。」
「あんたの探していた宇宙の空間は見つかった。これからどうする?」
「互いの領域で、2つのエネルギーを循環させてみるとする。」
「循環か。」
「仕組みは簡単だ。情報学から考える。
宇宙Aのエネルギーの領域に、宇宙Bの特殊なエネルギーを持つ者が移動する。
すると、宇宙Bから来た者のエネルギーがAの領域内で発生することになる。
宇宙Bから別の宇宙にきた者と、宇宙Bのエネルギーが点と点となり、自動でその点同士が線で結ばれ、宇宙Bの特殊なエネルギーが宇宙Aに流れ、循環し始める。」
「それでも、あんたのエネルギーは元々いた宇宙では観測できないじゃないか?」
「その可能性もあるがな。
お前は呪力を今ここでも操ることはできるか?」
「…できるみたいだ。…ああ、これなら大丈夫かもな。」
「ああ…それから成せる希望的な予想がある。
この宇宙の妖力が存在する情報を持っていけば、元いた宇宙に新しい妖力の法則が生まれるということだ。持っていく妖力の情報には、この宇宙空間にある妖力を観測できる領域の情報も付与していく。
そのあと、都合の良い展開になってくれるなら良いんだが。」
「ああ。妖力を持ってくることで、元いた宇宙の人間の認識そのものが変わるかもしれないということだな。
互いの宇宙の領域で、観測できなかったエネルギーが観測されるようになる。」
「そうだ。
お前が言った通り、呪力と妖力が統合され互いのエネルギーが変換されている領域が、本来から潜在的な自然法則にはあるんだろう。
俺達の元いた宇宙に妖力が循環することで、潜在的な自然法則が表面上に発現する。
それによって、妖力を持つ存在を報われないよう認識を妨げられていた人が、妖力を本来の認識で理解できる法則がでてきてもおかしくない。」
「それで…呪力と妖力の移動の具体的な方法として、なにかあるか?」
「光の粒子を使う。」
「ああ、光子か。」
「光子に妖力を俺達の肉体の電気信号を使って付与する。そして元いた宇宙の領域に移動させるんだ。そのほうが妖力のエネルギーの循環が早いかもしれない。」
「そうだな。光子は観測できるものの中で最も速く動き、常に動き続ける。その性質を利用するわけか。」
「光子に特殊なエネルギーを付与すれば、その宇宙に沢山の点ができる。それが線になり、周囲にどんどんエネルギーの情報が広がっていく。だから2つのエネルギーの循環が速い。
情報学的に考えれば、1点でもその宇宙になかったエネルギーを持ってくれば、無限に循環しはじめるかもしれないがな。だが念のため、光子を使って循環を行う。」
「わかった。」
理我は、片手を上げた。
その様子を見て、行鐘が言う。
「お前も妖力そのものを操れる力はないが、妖力の粒子自体は電気信号によって拾えるのか?」
「ああ、そうみたいだな。」
光が当たり肉体が吸収した光子に、その場の妖力を付与する。
行鐘も同様の動作を行う。
「あんたも電気信号とか、肉体にあるものは操れるんだな。」
「ああ。肉体と捉えられる情報は、全て俺の肉体だからな。」


なにもない空き地。
瞬間、2人はその場に現れた。
「よし、帰って来れたな。」
「世話になった。」
「なにいってんだ。なんか、あんたらしくないな。」
「必要な材料はもってきた。…やってみるか。」
「うまくいけば良いな。」
理我のそんな言葉と共に、行鐘は腕を持ち上げ、空に向かって指先を広げた。
光子が放たれる。


新たな情報。
その粒子は地球を回り出す。


回帰


本部“廻成(かいなり)”。
︎行鐘と理我は、特殊能力専門の治安維持組織の建物内にいた。
「そうか。この宇宙には妖力が通ったのか…。
そして行鐘。お前は妖力による、様々な特殊能力を操ることができるようになったか。」
スーツを着た男が言った。
「…生まれつき妖力を持っている別の宇宙にいたお前では、本来妖力の観測できる領域の情報が付与されていない。そのため、こっちの宇宙は、妖力のある観測できるエネルギーと自然法則から観測できなかったという仮説が立てられる。」
「理解がはやくて助かりますよ。」
廻成の上層部の男に、理我が答える。
「物理学、情報学、呪則学。…そして妖則学か。
新しい概念が加わった。あらゆる情報が洗練される。
妖則学は、これから広く知られることになるだろう。」
上層部の男は、深くうなづいた。
「これで報われる者が増える。
1つの宇宙の領域に複数の特殊なエネルギーが循環しはじめた。人間はより俯瞰的な観測ができるようになる。
ありがとう、お前等のおかけだ。」


帰り道。
理我は行鐘に話しかけていた。
「廻成の連中も優しかったな。妖力が通ったからか、以前より親切になったし理解もされやすくなったと俺も感じてるよ。
観測できない妖力の存在のせいで、妨げられていたものは沢山あったのかもな。妖力自体は良いものだが。
特殊能力専門の治安維持組織の本部にいったの、久しぶりだったろ?
あの特殊能力で有名な紫院一族出身だ。あんたも元々、本部の一員だったからな。」
「……。」
「なに黙ってんだよ。もっと笑えよ。あんた、革命を起こしたんだぞ?」
「…お前はいいのか。」
「なにがだ?」
「俺はこの世界を捨てたつもりだった。だから世も何もかも、どうでもいいふりをしていた。」
「あんた、意外と反省してるんだな。」
「……。…俺をどう考えてやがる。」
「少なくても俺は気にしねえよ。こっちの世界でも居場所が見つかって良かったじゃねえか。
まったく、報われないようにする法則か。恐ろしいね。」
「……。」
「…ん?あれは。」
理我は動きを止めた。
「呪蜃(じゅしん)だ。でかいな。」
前方に、巨大な怪物がいた。少し体を宙に浮かせている。
「あの様子からして、こっちに来るな。襲うつもりだ。
まったく、これだから呪力の法則はめんどくさいんだ。ああいう、害のある生命体を発生させる。」
「…いい。俺がやる。」
そう言って、行鐘が前に出た。
呪蜃は高く空を浮く。
「あの距離…タックルか。」
理我が言う。
その言葉が放たれるとほぼ同時に、呪蜃は勢いをつけ、高速で行鐘に迫り突進を図る。
行鐘は動じず、拳を突きだした。その拳が、怪物に触れる。
怪物は強烈な打撃を加えられ、内側からグチャッと音がした。その体組織の欠片が飛ぶ。
その勢いのまま、後方へ飛ばされた。
直後、呪蜃の体から、複数の大きな爆発が起こる。
「…なんだ?」
理我が反応する。
「あんた…仕組んだな!」
怪物は肉片となり、煙を上げて粉々になっていった。
「ははっ、すげえな。妖力を使ったのか。ギミックはなんだ?俺の影響か?」
「ああ。最初は、真似事でもいいだろ。
名付けるとしたら、振動爆。
自分から起こった振動の情報に、あらかじめ自分の意思によって、外部で爆発する情報のシステムを付与しておく。
これにより、打撃を加えたものにその振動が流れたとき、その物体を複数箇所を内部から爆発させる。」
「その技の長所は、ほんの少しでも、振動を加えたあらゆるものを爆発させられる点か。」
「そうだ。無限のエネルギーだ、他にも無限のパターンがある。」
行鐘が笑った。
そのとき。
「おいっ!いたぞ!」
突然、後ろから理我以外の声が聞こえた。
2人が立ちどまる。
「ん?あれ、紫院一族の連中じゃねえの?」
振り返り、理我が言う。
背後には、和服を着た男達が十数人立っていた。
「行鐘…!!」
男達が行鐘に駆け寄る。
「今迄、悪かった…。
行鐘。お前がここの近くにいることを聞いて、急いで駆けつけたんだ。」
「………。」
行鐘は、集まった紫院一族と向き合った。
「妖力のエネルギーが世界に通るようになって、やっと正確な認識ができるようになったようだ。
昔から、酷い差別をしていた態度をしていたな。それが理解できてなかったらしい。これは言い訳かもな。すまない。」
「……。」
「特殊能力の構造を比較的よく知り、呪力に理解ある存在は、昔からお前のことを認める傾向にあった。それも法則で決められていたのだろう。
実力不足が原因だ。我々の自分に対する理解の不足が、お前を呪ってしまったんだ。」
「……。」
「それに、自然法則のシュミレーションから、脳内に妖力の情報が降ろされたんだ。お前の妖力を大きく持つという仕組みを理解できた。
本当に申し訳ないことをした…。辛かったな。」
「….フン。」
一族の話を聞いていた行鐘は、そう笑うと去っていった。
「行鐘…。」
紫院一族のひとりであり、行鐘の叔父である紫院花芽(しいん かが)は心配そうな表情を浮かべた。
「いいんだよ。」
少し離れた場所から様子を見ていた理我が、一族に声をかける。
「理我…。」
「これで、あんたらも一歩進んだ。俺からも言いたい。あいつは報われたがってた。あいつを認めてくれてありがとうな。」
「…あいつはどう思っているか分からないが…。」
「あいつは安心しているんだよ。」
「そうだと良いが。」


行鐘は、ひとり自宅に帰っていた。
あくびをする。
「ねみぃ…」
ソファーに横になる。
「…もういいだろ。」
そう感じて、目を閉じる。


2つの宇宙にあった呪力と妖力、通常の人間が観測できる自然現象、それらのエネルギーの根源がある。
それらを統一した無限のエネルギーを、“統一霊力”と呼ぶ。


“Symbiotic(共生的な)”
やっと、その言葉を好きになれた。

And,into the unknown energy.
(そして、未知の力へ。)
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