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2章
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王城からの脱出。
亡命に近しいそれは十分に成功したと言える。
焼死体が出てきたとして、この世界ではそれが誰かなんてわからないだろう。
ただ推測しかできないはずだ。
しかしそれでいい。
彼のことは死んだことにしてくれれば好都合なのだから。
その後の国情だが、どうやら本格的に第二王子が王太子となり即位しそうである。
だからといってどうということはないのだが。
赤の騎士団には申し訳ないがケイ達魔王城組には全くもって関係ない。
現在地は魔王城裏。
ケイとマヤとノアの家である。
プラス、ヴィルヘルム。
そしてもう1人。
「魔王様、洗濯終わりましたよー」
「じゃあ水やりよろしくねぇ」
「はあ…わかりましたー」
この語尾、覚えているだろうか。
中央ギルドの受付の人…蛇の獣人と魔族のハーフ…その人である。
名前をヴィゴ。
ノアの手足となる従僕である。
「ヴィゴさん、今日もありがとうございます」
「はあ…聞いてくださいよケイくんー。うちの魔王様って人使いっていうか私使いが酷いんですよー」
「あの、俺も手伝います。お兄ちゃんがすみません…」
「いえいえー。ケイくんは気にしないでくださいー。魔王様が元通りになったのもケイくんのおかげですしー。一緒に作業してくれるのは嬉しいですけどねー」
そう、ノアはすっかり元のサイズに戻っていた。
というのもここ一帯にあるケイの魔力を無断で食べていたからである。
アンデット対策の結界、浄化のためにケイが魔力をふんだんに撒き散らしているそれをたらふく。
およそ1年をかけて急成長を遂げた。
おかげで弟みたいなショタっ子から兄らしい見た目年齢の美青年へと元通り。
ヴィゴの後に続くケイ。
自家栽培をしているので当然自分達で育てなくてはいけない。
しかし、ご覧の通り育てているのは基本的にヴィゴである。
室内には現在ノア、マヤ、ヴィルヘルムの3人が残っていた。
「ほら早く言ってきなよぉ」
「こっちはもう完成してんだぞ」
「だが…」
「ケイくんと約束したんじゃないのぉ?あーあケイくんきっとずっと我慢してるんだろうなぁ?」
「恵を泣かせたら死んでも許さねえ」
「わかっている、が、その、心の準備が…」
「はあ?もう1年経ったけどぉ?」
ここに来ておよそ1年。
大きなことは何も起きていない。
ただ平穏な時間が過ぎ去っただけだ。
「……。そういえばヴィゴもオマエもヴィーだよねぇ?そのうち呼び間違えられるんじゃない?ヴィーだしぃ」
「まあ他人だからな。俺とは違って呼び間違えられるんじゃねえか?」
「むしろあれだよねぇ。間違えて呼んだりしたら一気に距離縮まりそうだよねぇ?」
「ヴィゴも恵もよく一緒にいるしありえなくはない…」
「……言ってくる」
「はーい、いってらっしゃぁい」
テキトーな言葉で煽ればあっさり釣られる。
あと一押し、ほんの少しの勇気分くらいは手伝ってあげようという兄達の気づかいである。
ここまで来たらさっさとくっつけというのが正直なところでもある。
ケイにはいつまでもいつまでも囲われていて欲しいがそこは兄心。
大切で愛しい弟には幸せになってほしいものだ。
「…ケーキでも作っておくか…」
「え?慰め用の?」
「恵用に決まってんだろ。あとは、まあ、お前の分でもある」
「えへ~ほんとぉ?あっボク、プリンも食べたいなぁ」
亡命に近しいそれは十分に成功したと言える。
焼死体が出てきたとして、この世界ではそれが誰かなんてわからないだろう。
ただ推測しかできないはずだ。
しかしそれでいい。
彼のことは死んだことにしてくれれば好都合なのだから。
その後の国情だが、どうやら本格的に第二王子が王太子となり即位しそうである。
だからといってどうということはないのだが。
赤の騎士団には申し訳ないがケイ達魔王城組には全くもって関係ない。
現在地は魔王城裏。
ケイとマヤとノアの家である。
プラス、ヴィルヘルム。
そしてもう1人。
「魔王様、洗濯終わりましたよー」
「じゃあ水やりよろしくねぇ」
「はあ…わかりましたー」
この語尾、覚えているだろうか。
中央ギルドの受付の人…蛇の獣人と魔族のハーフ…その人である。
名前をヴィゴ。
ノアの手足となる従僕である。
「ヴィゴさん、今日もありがとうございます」
「はあ…聞いてくださいよケイくんー。うちの魔王様って人使いっていうか私使いが酷いんですよー」
「あの、俺も手伝います。お兄ちゃんがすみません…」
「いえいえー。ケイくんは気にしないでくださいー。魔王様が元通りになったのもケイくんのおかげですしー。一緒に作業してくれるのは嬉しいですけどねー」
そう、ノアはすっかり元のサイズに戻っていた。
というのもここ一帯にあるケイの魔力を無断で食べていたからである。
アンデット対策の結界、浄化のためにケイが魔力をふんだんに撒き散らしているそれをたらふく。
およそ1年をかけて急成長を遂げた。
おかげで弟みたいなショタっ子から兄らしい見た目年齢の美青年へと元通り。
ヴィゴの後に続くケイ。
自家栽培をしているので当然自分達で育てなくてはいけない。
しかし、ご覧の通り育てているのは基本的にヴィゴである。
室内には現在ノア、マヤ、ヴィルヘルムの3人が残っていた。
「ほら早く言ってきなよぉ」
「こっちはもう完成してんだぞ」
「だが…」
「ケイくんと約束したんじゃないのぉ?あーあケイくんきっとずっと我慢してるんだろうなぁ?」
「恵を泣かせたら死んでも許さねえ」
「わかっている、が、その、心の準備が…」
「はあ?もう1年経ったけどぉ?」
ここに来ておよそ1年。
大きなことは何も起きていない。
ただ平穏な時間が過ぎ去っただけだ。
「……。そういえばヴィゴもオマエもヴィーだよねぇ?そのうち呼び間違えられるんじゃない?ヴィーだしぃ」
「まあ他人だからな。俺とは違って呼び間違えられるんじゃねえか?」
「むしろあれだよねぇ。間違えて呼んだりしたら一気に距離縮まりそうだよねぇ?」
「ヴィゴも恵もよく一緒にいるしありえなくはない…」
「……言ってくる」
「はーい、いってらっしゃぁい」
テキトーな言葉で煽ればあっさり釣られる。
あと一押し、ほんの少しの勇気分くらいは手伝ってあげようという兄達の気づかいである。
ここまで来たらさっさとくっつけというのが正直なところでもある。
ケイにはいつまでもいつまでも囲われていて欲しいがそこは兄心。
大切で愛しい弟には幸せになってほしいものだ。
「…ケーキでも作っておくか…」
「え?慰め用の?」
「恵用に決まってんだろ。あとは、まあ、お前の分でもある」
「えへ~ほんとぉ?あっボク、プリンも食べたいなぁ」
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