72 / 107
2章
29
しおりを挟む
「てめぇ…逃げてんじゃねぇぞッ!!」
「っ…!!」
魔王を追いかけるように部屋に突入してきたマヤ。
部屋に入るとほぼ同時にジャンピングパンチ。
全体重を拳に乗せるのでその威力は凄まじい。
「あー…いったいなぁ…逃げたんじゃないよ、ケイくんの姿を確認したかっただけぇ」
「恵には指1本触れさせねぇ…」
ちらりと横目でだけケイを確認する。
一瞬であってもその姿を見間違えるはずがない。
「あは。でしょ?だよねぇ?ボクもねぇ考えたんだぁ」
のそりと起き上がる魔王。
アラン達はケイの護衛に回っている。
具体的にはベッドサイドに立ち、壁となっている。
もちろん聖獣も。
「もしもボクがケイくんだったらどうするぅ?」
「は…」
煙を…魔素を纏い、容姿を変化させる。
その姿はまさしくケイ。
「うわすっげ…」
「馬鹿。感心しちゃ駄目でしょ」
「ケイはいるよな?」
「幻影みたいなものかしら…」
赤の騎士団も頷くレベル。
アランにいたってはケイの存在を確認したほどだ。
しかしここまで瓜ふたつでは…
「…兄さん」
「け、い…」
ぴしりと固まるマヤ。
無理もない。
そこにいるそれは確かに弟と同じ姿をしているのだから。
「あーあれ無理じゃね?勇者サンにはできないっしょ」
「俺もさすがに抵抗感あるわ…」
下手に手出ししない方がよいと判断しているため傍観を決め込んでいた。
しかしこれはあまりにもハードルが高い。
「怪我痛いよ兄さん…」
「!!!」
伏せ目がちに悲しげな表情でそうケイな魔王が言う。
その言葉にかっと目を見開いたのはマヤ。
そして容赦なく腹を殴る。
いくらなんでも顔は殴れなかった。
「ええっ嘘ぉ!?」
「そのタイミングで殴るんだ…」
傍観組も呆気にとられる。
まさか殴れるとは思っていなかったから。
しかも悲しそうなケイを殴るとは。
「いいか?クソ野郎。恵は怪我が痛いなんて言わねえんだよ!!」
堂々宣言。
ケイは痛いだなんて言わない。
痛くても大丈夫だと繰り返すのがケイだ。
痛いと言ってもどうにもならないことを知っているから。
心配させまいと気をつかうから。
「ああもぉ!よくケイくん殴れるねオマエ!」
「偽物を恵とは言わねえ」
「もーサイアクだよぉ!今ので魔素飛ばされちゃったじゃんかぁ!」
そう地べたに座る魔王はなんだか小さい。
すでにケイの姿ではなく。
本人の言う通り、纏っていた魔素が飛んだせいなのだろう。
「っ…」
「降参降参!降参しますぅ。だから見逃してよぉ…」
いじけたような様子の魔王。
いろいろ思うことはあるが、恐らくこの場にいた全員が思ったことがある。
「うわあ、ケイのちっちゃい版みたいですねー!」
そう、ケイにそっくりなのだ。
ケイが小さい頃はこうなんだろうな、という感じの風貌。
正直かなり可愛い。
それが魔王と知っていても、だ。
「…………………てる」
「ん?」
マヤがその姿を呆然と見つめ、呟く。
「育てる」
「え?」
今なんて言った?お前正気か?
が赤の騎士団の総意である。
「俺が教育し直す」
「え、えぇ~…」
魔素を吹き飛ばされた魔王。
長年蓄積していたものがなくなったわけで、現在はかなり弱小。
ただの子どもと大差ない。
魔素の配分間違えたと本人は嘆いているが仕方ない。
今回は運が悪かったと思うことにしてもらおう。
『……我が全員を運ぼう』
聖獣ウルフはもうタクシー感覚になりつつある。
「っ…!!」
魔王を追いかけるように部屋に突入してきたマヤ。
部屋に入るとほぼ同時にジャンピングパンチ。
全体重を拳に乗せるのでその威力は凄まじい。
「あー…いったいなぁ…逃げたんじゃないよ、ケイくんの姿を確認したかっただけぇ」
「恵には指1本触れさせねぇ…」
ちらりと横目でだけケイを確認する。
一瞬であってもその姿を見間違えるはずがない。
「あは。でしょ?だよねぇ?ボクもねぇ考えたんだぁ」
のそりと起き上がる魔王。
アラン達はケイの護衛に回っている。
具体的にはベッドサイドに立ち、壁となっている。
もちろん聖獣も。
「もしもボクがケイくんだったらどうするぅ?」
「は…」
煙を…魔素を纏い、容姿を変化させる。
その姿はまさしくケイ。
「うわすっげ…」
「馬鹿。感心しちゃ駄目でしょ」
「ケイはいるよな?」
「幻影みたいなものかしら…」
赤の騎士団も頷くレベル。
アランにいたってはケイの存在を確認したほどだ。
しかしここまで瓜ふたつでは…
「…兄さん」
「け、い…」
ぴしりと固まるマヤ。
無理もない。
そこにいるそれは確かに弟と同じ姿をしているのだから。
「あーあれ無理じゃね?勇者サンにはできないっしょ」
「俺もさすがに抵抗感あるわ…」
下手に手出ししない方がよいと判断しているため傍観を決め込んでいた。
しかしこれはあまりにもハードルが高い。
「怪我痛いよ兄さん…」
「!!!」
伏せ目がちに悲しげな表情でそうケイな魔王が言う。
その言葉にかっと目を見開いたのはマヤ。
そして容赦なく腹を殴る。
いくらなんでも顔は殴れなかった。
「ええっ嘘ぉ!?」
「そのタイミングで殴るんだ…」
傍観組も呆気にとられる。
まさか殴れるとは思っていなかったから。
しかも悲しそうなケイを殴るとは。
「いいか?クソ野郎。恵は怪我が痛いなんて言わねえんだよ!!」
堂々宣言。
ケイは痛いだなんて言わない。
痛くても大丈夫だと繰り返すのがケイだ。
痛いと言ってもどうにもならないことを知っているから。
心配させまいと気をつかうから。
「ああもぉ!よくケイくん殴れるねオマエ!」
「偽物を恵とは言わねえ」
「もーサイアクだよぉ!今ので魔素飛ばされちゃったじゃんかぁ!」
そう地べたに座る魔王はなんだか小さい。
すでにケイの姿ではなく。
本人の言う通り、纏っていた魔素が飛んだせいなのだろう。
「っ…」
「降参降参!降参しますぅ。だから見逃してよぉ…」
いじけたような様子の魔王。
いろいろ思うことはあるが、恐らくこの場にいた全員が思ったことがある。
「うわあ、ケイのちっちゃい版みたいですねー!」
そう、ケイにそっくりなのだ。
ケイが小さい頃はこうなんだろうな、という感じの風貌。
正直かなり可愛い。
それが魔王と知っていても、だ。
「…………………てる」
「ん?」
マヤがその姿を呆然と見つめ、呟く。
「育てる」
「え?」
今なんて言った?お前正気か?
が赤の騎士団の総意である。
「俺が教育し直す」
「え、えぇ~…」
魔素を吹き飛ばされた魔王。
長年蓄積していたものがなくなったわけで、現在はかなり弱小。
ただの子どもと大差ない。
魔素の配分間違えたと本人は嘆いているが仕方ない。
今回は運が悪かったと思うことにしてもらおう。
『……我が全員を運ぼう』
聖獣ウルフはもうタクシー感覚になりつつある。
19
お気に入りに追加
695
あなたにおすすめの小説
スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
なぜか第三王子と結婚することになりました
鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!?
こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。
金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です
ハッピーエンドにするつもり
長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる