弟、異世界転移する。

ツキコ

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1章

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彼が指を鳴らす。
その音を聞きつけ、どこからともなく現れた数名がケイを取り囲む。

「え、な、なに…?」

焦点の合っていない瞳でこちらを見てくる人達。
その身体には薄い靄が纏わりついていた。

まさかこの人達は全員操られているのだろうか。

「彼を捕まえてくれ」

ゆっくりと迫るいくつもの腕。

触れられている肩から魔力が流れてきていた。
どうやら身体が動かないのは彼がケイを麻痺させたからのようだ。

戸惑うケイを彼等は何の感情もない表情で捕らえた。
まるで事前にこうなることがわかっていたかのように、ケイのために用意された拘束具。

魔力を吸収する手錠と足枷。
ただ魔力を吸収するだけでなく、その所有者へ魔力が送還されていく仕組み。
つまりケイの魔力の場合、その所有者は永遠の魔力を得たことになる。

抵抗しようと思えばできたケイがしなかったのは彼等もまた被害者であったから。
それと単純に驚いたからだ。

ケイは簡単な魔法や自分でもできるものであれば解除できるが今回は初見だったため断念。
彼等はまさしく操り人形だった。

どうやらケイの隣にいる人物はただの変人でなく危険人物らしい。

「その姿もよく似合っているよ。君は眠っているだけでいい。次に目を開けたらそこはもうベッドの上さ」

何を言っているんだ。
言葉を発したいのにうまく声が出ない。

視界に入ったその横顔はどこまでも穏やかだった。
とてもこんなことをする人には思えない。
それほどの表情だった。

ふっと目元に手を翳される。
その暗闇に誘われるようにケイは眠りに落ちていった。

眠ってはいけない。
そう思っても身体がいうことを聞くことはなく。
ただ静かに寝息をたてた。

ケイの魔力を手に入れたその者はケイと同じ力を持っていると言い換えてもいい。
要するに、今のケイに抗う術はない。

非力なケイから魔力を取れば何も残らない。
強いて挙げるなら逃げ足の速さだがそれも拘束されてしまえば意味をなさない。
普通の高校生に戻ったも同然だ。

「ああ…寝顔さえも愛らしい…いっそ食べてしまいたい…どうか早く私のものになってくれ…」

ケイを麻痺させたり強制的に眠らせたりしたことを抜くと実に穏やかな光景ではある。
眠っているケイを肩に凭れかけさせ、そっと頭を撫でる。

光景だけは穏やかだろう。
その手足に枷さえなければ。

「帰還する。周囲の者…特に赤の騎士団には気づかれるなよ」

秘密裏に行われる帰還。
2人だけで先に帰るつもりなのだろう。

操り人形達はその言葉に従い各々行動をとる。
誰にも気付かれずにこの場を立ち去ることができれば最良である。

しかし彼にとっての最優先事項はケイの確保。
手に入れられればここに用などない。
数人が追って来ても構わない。

たとえ追って来たとしても彼に手を出せる者など誰1人いないのだから。
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