35 / 107
1章
33.5
しおりを挟む
ケイ・ミヨシ。
迷い人の称号を持つ少年らしい。
そしてフォレストウルフに攫われたとか。
恐らくそのせいで駐屯所は騒がしくなっていた。
パトリックへの処遇はどうするか。
例の少年はどこへ連れて行かれたのか。
パトリックの話により場所の予想はついたが危険過ぎるため対応を協議していたらしい。
そしてそこへ帰ってきてしまったユリウス。
ユリウスは隠蔽、隠匿、隠密などのスキルを持ついわゆる忍者、スパイというやつだ。
姿、匂い、音。
己から発せられる全てを消す、隠すことができる。
そんな訳で団長命令が投下されてしまった。
報酬は団長と副団長のポケットマネーから出るらしい。
かなり報酬が期待できるので喜んでケイとやらの回収へ向かった。
「…なんだ、あれ」
黒髪黒目。
言われた通りの見た目の少年がいた。
なぜか聖獣と獣人に正座させられていたが。
存外にもあっさりと回収できた。
予定では情報収集だけしてあとは誰かに任せるつもりだったのだが。
まあ自分で回収できればその分の報酬ももらえるだろうからいいか。
ふと匂いが気になった。
自分では消せるから気にしなかったが彼はそうではない。
獣人やら魔獣やらはとにかく匂いでマーキングしたがる。
現に今もばっちり匂いがする。
これはよくない。
団長のところへ行く前に急遽洗うことにした。
「にーさん…」
ケイちゃんは先ほどから兄さん兄さんと呼んでくる。
きっと寝ぼけているんだろうとは思う。
思うがしかし。
新しい扉を開けそうになるので切実にやめてもらいたい。
そんなケイちゃんを寝かしつけ素早く洗ったあとまた問題が起きた。
服ごと風呂に入れたせいで服がない。
仕方ないかと考え自分の着ていた服をケイちゃんに着せる。
何もないよりはマシなはず。
そうして自室へ向け歩き出した。
自室へ向かう理由はケイちゃんの部屋がわからないのとこのままの状態で団長に渡してもまずい気しかしないからだ。
ケイちゃんを抱えながら部屋の前まできた時やけにうるさい声が聞こえた。
「け、けけけケイが……っ!!!おもっおもももももももも!!!?」
「うるさい馬鹿」
すぱんッと頭を叩かれるシモン。
随分久々に見た顔触れだ。
ちなみにシモンは恐らくお持ち帰りしたのか、と言いたいんだろう。
「よー、シモンとカイじゃん。おひさー」
「はいはい、久しぶり。よくこの状況で言えたね。シモンに殴られるんじゃない?」
「ユリウスさん……ケイに…なにしたんすか………」
「んー?ちょっとした…裸の付き合い?」
シモンはケイが好きなのか?
いい取引先を見つけたかもしれない。
「っっっ!!!!!」
「うわ、こっわ…身体洗って匂い消しただけだって…俺先輩だぞー?」
殺気を一切隠す気もないシモン。
こんなに沸点の低いやつだっただろうか。
「すみません。ケイ、返してもらっていいですか。カイさんに!!」
「なんでカイ?」
「相部屋なんだよ。隣だからって来ないでね」
「あー久々だから部屋間違えるかもな!」
ケイちゃん隣の部屋だったのか。遊びに行こう。
……また兄さんて呼んでくれないかな。
「…………ころ」
「なあー、だから俺先輩よ?諜報員よ?お前の秘密ケイちゃんに言うぞ?」
「ずるいですよ!それなら俺だってユリウスさんが使う窓全部溶接してやりますから!」
「うわ…えっげつな…やめろよお前……」
出入り口は基本的に窓。
1つしかない入口を使うより遥かに効率的だからだ。
「2人とも騒いでると副団長来るけど。というか来てるけど」
「えっ」
「あらぁ…ユリウス随分遅いお帰りねぇ?報告も無しにケイと何してたのかしらぁ?」
「ええ…なあー、俺の味方は…?」
どんどん敵が増えていく現状。
カイは静観を決め込んでいるらしい。
「ケイの情報売ろうとしているやつに味方なんていないんじゃない?」
「バレてらー…んだよ、弱点くらいいいじゃん?ちなみに最低3箇所あったけど」
「えっ」
その言葉に期待の目を向けるシモン。
やはりいい取引先になりそうだ。
「ちょっとシモン?アンタまさか買ったりしないわよね?」
「しないですよ!情報交換するだけですから!」
「どっちも同じよ!」
「それじゃケイは部屋に寝かせておくから」
「ええ、そうね。ケイのことお願いね」
そそくさと退散するようにユリウスからケイを奪う。
こんなにうるさいのにぐっすり眠っていられるのはある意味すごい。
さてと…とエディがこちらを向く。
ああ、嫌な予感しかしない。
「ユリウスにシモン!!アンタらそこに正座なさい!」
今日も騎士団は平和らしい。
迷い人の称号を持つ少年らしい。
そしてフォレストウルフに攫われたとか。
恐らくそのせいで駐屯所は騒がしくなっていた。
パトリックへの処遇はどうするか。
例の少年はどこへ連れて行かれたのか。
パトリックの話により場所の予想はついたが危険過ぎるため対応を協議していたらしい。
そしてそこへ帰ってきてしまったユリウス。
ユリウスは隠蔽、隠匿、隠密などのスキルを持ついわゆる忍者、スパイというやつだ。
姿、匂い、音。
己から発せられる全てを消す、隠すことができる。
そんな訳で団長命令が投下されてしまった。
報酬は団長と副団長のポケットマネーから出るらしい。
かなり報酬が期待できるので喜んでケイとやらの回収へ向かった。
「…なんだ、あれ」
黒髪黒目。
言われた通りの見た目の少年がいた。
なぜか聖獣と獣人に正座させられていたが。
存外にもあっさりと回収できた。
予定では情報収集だけしてあとは誰かに任せるつもりだったのだが。
まあ自分で回収できればその分の報酬ももらえるだろうからいいか。
ふと匂いが気になった。
自分では消せるから気にしなかったが彼はそうではない。
獣人やら魔獣やらはとにかく匂いでマーキングしたがる。
現に今もばっちり匂いがする。
これはよくない。
団長のところへ行く前に急遽洗うことにした。
「にーさん…」
ケイちゃんは先ほどから兄さん兄さんと呼んでくる。
きっと寝ぼけているんだろうとは思う。
思うがしかし。
新しい扉を開けそうになるので切実にやめてもらいたい。
そんなケイちゃんを寝かしつけ素早く洗ったあとまた問題が起きた。
服ごと風呂に入れたせいで服がない。
仕方ないかと考え自分の着ていた服をケイちゃんに着せる。
何もないよりはマシなはず。
そうして自室へ向け歩き出した。
自室へ向かう理由はケイちゃんの部屋がわからないのとこのままの状態で団長に渡してもまずい気しかしないからだ。
ケイちゃんを抱えながら部屋の前まできた時やけにうるさい声が聞こえた。
「け、けけけケイが……っ!!!おもっおもももももももも!!!?」
「うるさい馬鹿」
すぱんッと頭を叩かれるシモン。
随分久々に見た顔触れだ。
ちなみにシモンは恐らくお持ち帰りしたのか、と言いたいんだろう。
「よー、シモンとカイじゃん。おひさー」
「はいはい、久しぶり。よくこの状況で言えたね。シモンに殴られるんじゃない?」
「ユリウスさん……ケイに…なにしたんすか………」
「んー?ちょっとした…裸の付き合い?」
シモンはケイが好きなのか?
いい取引先を見つけたかもしれない。
「っっっ!!!!!」
「うわ、こっわ…身体洗って匂い消しただけだって…俺先輩だぞー?」
殺気を一切隠す気もないシモン。
こんなに沸点の低いやつだっただろうか。
「すみません。ケイ、返してもらっていいですか。カイさんに!!」
「なんでカイ?」
「相部屋なんだよ。隣だからって来ないでね」
「あー久々だから部屋間違えるかもな!」
ケイちゃん隣の部屋だったのか。遊びに行こう。
……また兄さんて呼んでくれないかな。
「…………ころ」
「なあー、だから俺先輩よ?諜報員よ?お前の秘密ケイちゃんに言うぞ?」
「ずるいですよ!それなら俺だってユリウスさんが使う窓全部溶接してやりますから!」
「うわ…えっげつな…やめろよお前……」
出入り口は基本的に窓。
1つしかない入口を使うより遥かに効率的だからだ。
「2人とも騒いでると副団長来るけど。というか来てるけど」
「えっ」
「あらぁ…ユリウス随分遅いお帰りねぇ?報告も無しにケイと何してたのかしらぁ?」
「ええ…なあー、俺の味方は…?」
どんどん敵が増えていく現状。
カイは静観を決め込んでいるらしい。
「ケイの情報売ろうとしているやつに味方なんていないんじゃない?」
「バレてらー…んだよ、弱点くらいいいじゃん?ちなみに最低3箇所あったけど」
「えっ」
その言葉に期待の目を向けるシモン。
やはりいい取引先になりそうだ。
「ちょっとシモン?アンタまさか買ったりしないわよね?」
「しないですよ!情報交換するだけですから!」
「どっちも同じよ!」
「それじゃケイは部屋に寝かせておくから」
「ええ、そうね。ケイのことお願いね」
そそくさと退散するようにユリウスからケイを奪う。
こんなにうるさいのにぐっすり眠っていられるのはある意味すごい。
さてと…とエディがこちらを向く。
ああ、嫌な予感しかしない。
「ユリウスにシモン!!アンタらそこに正座なさい!」
今日も騎士団は平和らしい。
41
お気に入りに追加
695
あなたにおすすめの小説
スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
【完結】浮薄な文官は嘘をつく
七咲陸
BL
『薄幸文官志望は嘘をつく』 続編。
イヴ=スタームは王立騎士団の経理部の文官であった。
父に「スターム家再興のため、カシミール=グランティーノに近づき、篭絡し、金を引き出せ」と命令を受ける。
イヴはスターム家特有の治癒の力を使って、頭痛に悩んでいたカシミールに近づくことに成功してしまう。
カシミールに、「どうして俺の治癒をするのか教えてくれ」と言われ、焦ったイヴは『カシミールを好きだから』と嘘をついてしまった。
そう、これは───
浮薄で、浅はかな文官が、嘘をついたせいで全てを失った物語。
□『薄幸文官志望は嘘をつく』を読まなくても出来る限り大丈夫なようにしています。
□全17話
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
なぜか第三王子と結婚することになりました
鳳来 悠
BL
第三王子が婚約破棄したらしい。そしておれに急に婚約話がやってきた。……そこまではいい。しかし何でその相手が王子なの!?会ったことなんて数えるほどしか───って、え、おれもよく知ってるやつ?身分偽ってたぁ!?
こうして結婚せざるを得ない状況になりました…………。
金髪碧眼王子様×黒髪無自覚美人です
ハッピーエンドにするつもり
長編とありますが、あまり長くはならないようにする予定です
バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!
あ
BL
16才の初川終(はつかわ しゅう)は先天性の心臓の病気だった。一縷の望みで、成功率が低い手術に挑む終だったが……。
僕は気付くと両親の泣いている風景を空から眺めていた。それから、遠くで光り輝くなにかにすごい力で引き寄せられて。
目覚めれば、そこは子どもの頃に毎日読んでいた大好きなファンタジー小説の世界だったんだ。でも、僕は呪いの悪役の10才の公爵三男エディに転生しちゃったみたい!
しかも、この世界ってバッドエンドじゃなかったっけ?
バッドエンドをハッピーエンドにする為に、僕は頑張る!
でも、本の世界と少しずつ変わってきた異世界は……ひみつが多くて?
嫌われ悪役の子どもが、愛されに変わる物語。ほのぼの日常が多いです。
◎体格差、年の差カップル
※てんぱる様の表紙をお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる