弟、異世界転移する。

ツキコ

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1章

33.5

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ケイ・ミヨシ。
迷い人の称号を持つ少年らしい。

そしてフォレストウルフに攫われたとか。
恐らくそのせいで駐屯所は騒がしくなっていた。

パトリックへの処遇はどうするか。
例の少年はどこへ連れて行かれたのか。
パトリックの話により場所の予想はついたが危険過ぎるため対応を協議していたらしい。

そしてそこへ帰ってきてしまったユリウス。
ユリウスは隠蔽、隠匿、隠密などのスキルを持ついわゆる忍者、スパイというやつだ。
姿、匂い、音。
己から発せられる全てを消す、隠すことができる。

そんな訳で団長命令が投下されてしまった。
報酬は団長と副団長のポケットマネーから出るらしい。

かなり報酬が期待できるので喜んでケイとやらの回収へ向かった。

「…なんだ、あれ」

黒髪黒目。
言われた通りの見た目の少年がいた。
なぜか聖獣と獣人に正座させられていたが。

存外にもあっさりと回収できた。
予定では情報収集だけしてあとは誰かに任せるつもりだったのだが。
まあ自分で回収できればその分の報酬ももらえるだろうからいいか。

ふと匂いが気になった。
自分では消せるから気にしなかったが彼はそうではない。

獣人やら魔獣やらはとにかく匂いでマーキングしたがる。
現に今もばっちり匂いがする。
これはよくない。
団長のところへ行く前に急遽洗うことにした。

「にーさん…」

ケイちゃんは先ほどから兄さん兄さんと呼んでくる。
きっと寝ぼけているんだろうとは思う。
思うがしかし。
新しい扉を開けそうになるので切実にやめてもらいたい。

そんなケイちゃんを寝かしつけ素早く洗ったあとまた問題が起きた。
服ごと風呂に入れたせいで服がない。
仕方ないかと考え自分の着ていた服をケイちゃんに着せる。
何もないよりはマシなはず。

そうして自室へ向け歩き出した。
自室へ向かう理由はケイちゃんの部屋がわからないのとこのままの状態で団長に渡してもまずい気しかしないからだ。

ケイちゃんを抱えながら部屋の前まできた時やけにうるさい声が聞こえた。

「け、けけけケイが……っ!!!おもっおもももももももも!!!?」

「うるさい馬鹿」

すぱんッと頭を叩かれるシモン。
随分久々に見た顔触れだ。
ちなみにシモンは恐らくお持ち帰りしたのか、と言いたいんだろう。

「よー、シモンとカイじゃん。おひさー」

「はいはい、久しぶり。よくこの状況で言えたね。シモンに殴られるんじゃない?」

「ユリウスさん……ケイに…なにしたんすか………」

「んー?ちょっとした…裸の付き合い?」

シモンはケイが好きなのか?
いい取引先を見つけたかもしれない。

「っっっ!!!!!」

「うわ、こっわ…身体洗って匂い消しただけだって…俺先輩だぞー?」

殺気を一切隠す気もないシモン。
こんなに沸点の低いやつだっただろうか。

「すみません。ケイ、返してもらっていいですか。カイさんに!!」

「なんでカイ?」

「相部屋なんだよ。隣だからって来ないでね」

「あー久々だから部屋間違えるかもな!」

ケイちゃん隣の部屋だったのか。遊びに行こう。
……また兄さんて呼んでくれないかな。

「…………ころ」

「なあー、だから俺先輩よ?諜報員よ?お前の秘密ケイちゃんに言うぞ?」

「ずるいですよ!それなら俺だってユリウスさんが使う窓全部溶接してやりますから!」

「うわ…えっげつな…やめろよお前……」

出入り口は基本的に窓。
1つしかない入口を使うより遥かに効率的だからだ。

「2人とも騒いでると副団長来るけど。というか来てるけど」

「えっ」

「あらぁ…ユリウス随分遅いお帰りねぇ?報告も無しにケイと何してたのかしらぁ?」

「ええ…なあー、俺の味方は…?」

どんどん敵が増えていく現状。
カイは静観を決め込んでいるらしい。

「ケイの情報売ろうとしているやつに味方なんていないんじゃない?」

「バレてらー…んだよ、弱点くらいいいじゃん?ちなみに最低3箇所あったけど」

「えっ」

その言葉に期待の目を向けるシモン。
やはりいい取引先になりそうだ。

「ちょっとシモン?アンタまさか買ったりしないわよね?」

「しないですよ!情報交換するだけですから!」

「どっちも同じよ!」

「それじゃケイは部屋に寝かせておくから」

「ええ、そうね。ケイのことお願いね」

そそくさと退散するようにユリウスからケイを奪う。
こんなにうるさいのにぐっすり眠っていられるのはある意味すごい。

さてと…とエディがこちらを向く。
ああ、嫌な予感しかしない。

「ユリウスにシモン!!アンタらそこに正座なさい!」

今日も騎士団は平和らしい。
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