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2章
20話
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レオとヴァリは急いいたが、食べ終わったのはかなりギリギリだった。
「食べた後に全力ダッシュはきついよ、ヴァリ…」
「のんびりしすぎたな…。しかし、シノはあれだけ走ったのに息一つ乱れてないな?」
「走るのには慣れてるからね。ウルとルーヴァルについていく必要があるから」
ヴァリは感心したようにシノをじっと見つめ、コツがあれば教えてくれという。
「よーし、揃ってるな!」
訓練場の入り口から教師が入ってきた。ライナスを先頭に、その後ろにロレンゾが控えて付いている。
「あれ?どうしてライナス先生が?」
「ライナス先生が訓練場に来るなんて初めてじゃないか?…今日は特別な訓練でもあるのか?」
「いや、まさか…。でも、普段は1組2組の訓練を担当してるから、何か重要なことがあるんじゃないか?」
ライナスの姿を見た他の生徒がざわめきはじめ、少しの緊張感に訓練場が包まれる。この反応を見ると、ライナスが現れたこと自体がかなり特殊なケースのようだ。
「あー、静粛に。君達の実技は僕が見ていますが、昨日の編入生の状況を考慮した上でライナス先生が一度見ておいたほうがいいだろう、という事になりました」
ロレンゾが儂にちらりと視線を向け、状況の説明をしているが、儂の影響だったか。昨日は少しやりすぎてしまった感じは否めない。そして、周りの視線もこちらに集中する。
「あいつか。昨日、傀儡人形を派手にぶっ壊してたよな?」
「何かおかしいと思ったんだよな。学校に入る前であんなことができるわけがない」
「やっぱり何か不正か何かあったのよ。あんなのおかしすぎるから、強力な攻撃の魔術具か何か持ってたんじゃないかしら」
生徒たちは口々に昨日の出来事について話始める。
「あー、そういやシノは結構やばいことしてたよな。あれを魔術具とかは思わないけどビビったぜ」
「あの炎見た時は体中の毛が逆立っちゃったよ」
レオとヴァリが間にいる儂に対して顔を向けてきた。その瞳は畏れや疑問というより、どうやったらあんなことができるのか?といった興味が含まれていた。
ライナスが騒然とした様子を見て手を叩き、「静かに」と言い、場を収める。
「編入生のシノ君が気になるのはもちろんあるが、学年総監である俺は君達の成長度合いも把握する必要がある。遅かれ早かれ訓練を見に来ることになったのだ。気にせず、現在のベストを尽くすように」
ライナスは非常に威厳のある態度で生徒皆に対して納得のいく理由を伝え、6組の生徒の表情が真剣なものになった。
「よし、これまでは基礎訓練を行っていたと思うがいい機会だ。次のステップに進むとしよう。4人1組でグループを作るように。あぁ、少しくらい人数が多くても構わん。最低4人だ」
素早く動け!とライナスから指示が出ると、一斉に生徒が動き出す。
「へぇ、小隊を作っての訓練か」
「初めての内容だね!ちょっと楽しみかも。ずっと1人で鍛練してきてたからさ!」
ヴァリとレオは興味を抑えきれないようだ。
パーティ演習になるのだろうか。今回は特にパーティバランスの指示などもなかったから、まずは最低4人でのグループ行動をさせる、もしくはグループ同士での戦いをさせるかもしれない。
「とりあえず、儂らで組むか。ちょっと前衛に偏りすぎてるからできれば後衛がいてくれた方がいいけど…」
誰かいないものか、訓練場を見渡すと、生徒たちの集団から少し離れた壁際にポツンと1人、ナディアが腕を組んで立っていた。
周りの生徒は誰もナディアに声をかけようとしていない。
「レオ、ヴァリ。彼女を誘ってもいいか?」
儂は2人に声をかけたあと、ナディアに視線を向ける。
『知恵の加護』を持っていて、座学に関しては問題なく、苦手な魔法を補うために実技を中心に授業を受けているとのことだった。
属性魔法は苦手かもしれないが、属性に頼らない支援系の魔法を使えるのではないだろうか?
そうなると、前衛中心になってしまう儂らにとっては非常にバランスの取れたものになるだろう。
「おっけー!私は問題なし!ナディアが良いって言ってくれればいいけど」
「俺も異論はない」
2人の了承を取って、ナディアの元へ向かう。
「おい、あの編入生がナディアのところに行くぜ?」
「学力はあっても剣術も魔法も不得手な上級貴族ですのよ?お役に立てるわけはないでしょうに…」
「ぼっちで寂し気な上級貴族に擦り寄って取り入ろうって魂胆か?」
「呪い姫に近づくなんて畏れ知らずですね」
立ち振る舞いや雰囲気から、貴族のグループと見られる場所から小声で話す声が風に乗って聞こえてきた。
今回の授業でそれぞれ思い思いにグループを作っているようだが、どうしても平民と貴族に分かれてしまうようだ。
学園は平等を謳ってはいても、当事者たる生徒はそのように感じてはいないようだ。
儂個人としては、身分差なんてどうでもいいと考えてはいるが、どうしても社会に出てしまえば一定の線引きが必要になってくるのは理解できるのだけれど。
「…なんですの?」
ナディアがこちらに顔を向けずに言葉を投げかけてきた。構わず儂は彼女を訓練を一緒にしないかと誘う。
「本気で言ってるんですの?」
信じられないといった表情でこちらを見ている。その顔には困惑に満ちた表情がありありと見て取れる。
「もちろん本気だよ。今日はパーティを組めという状況らしいからね。儂らは1人足りないけど、他に加わってくれる人もいないようだからさ。君はまだお誘いが無いようだったから」
「…わたくしを哀れんでいるんですの?」
キッと強い目でこちらを睨んでくる。
「あちらの者たちが言っていた通り、わたくしは魔法が不得手なのです。それに、体質的なものなのか、非力で剣術などにも向いていません。わたくしにできるのは書類整理や計算くらいでお役に立てないとは思いますわよ」
彼女はどうやら、属性魔法が使えないことに対して大きなコンプレックスを抱いているようだ。それに、非力というのはどういうことだろう?
身体強化の魔法は属性に関係がないため、魔力があれば使えるはずだ。
「身体強化でさえもうまく使えないのですわ。支援系の魔法でも使えれば、と思っていましたが、こちらもうまく発動でず、呪いのような、逆の効果になってしまうのですわ」
何をやってもうまくいかず、足を引っ張るだけだと悔しそうな表情で右手を強く握っている。訓練中に呪いのような効果が発動してしまったことから、『呪い姫』と陰で呼ばれるようになったという。
様子を見ていたロレンゾがこちらにやってくる。
「彼女は1年生でありながら、最上級生と比較しても同じくらいの大きな魔力量を持っているのですが、うまく魔法の発動ができないのですよ。詠唱や、発動に必要な魔法陣を正確に刻んでいるにも関わらずね。なぜか魔法が誤作動を起こしてしまうのです」
なんとか彼女が魔法を扱えるように、と手を尽くしているが、現状上手くいっていないという。
「彼女の持つ『知恵の加護』は数十年に1人現れるかどうかの希少な加護で、属性の加護がなくとも、中級程度の魔法まで扱うことができます。身体強化や支援についても本来であれば使用できるはずなのですが…」
加護の研究をしている方とも連携して対応を行っているが、芳しくないのだとロレンゾは肩を落としている。
「そういう事ですから、わたくしを誘っても意味はありませんことよ。わたくしはこのまま1人で魔法について自習を続けますわ」
ふんっ!と髪を揺らしてそっぽを向く。そのあと小さく「レオネアやヴァリクスに合わせる顔もありませんし」という呟きが聞こえた。
魔力が多くて魔法が使えない、というのは聞いたことが無い。何かしらの問題が発生していると思うが…。魔法についてならウルだな。
「ウル、彼女を見て何か感じるか?どうしても魔法が使えないということなんだが…」
肩に座っているウルはちょっと考えるようにあごに手を当てる。
「そうねぇ~。魔力量が多いっていうのは間違いないのだわ。でも使えない理由は簡単なのだわ。人が用意した魔法式にあってないんじゃないかしら?」
ウルがナディアに向かって伝えるが、そんな簡単な理由なはずが無いという。ロレンゾも、しっかりと魔術具で魔力量を計っているためそれはないと言っている。
「ナディアだったかしら?あなたの体に満ちてる魔力量は普通の人のそれじゃないのだわ。魔術具っていうのがどういうのかわからないけど、その道具ではわからなかっただけじゃないかしら?」
肩から飛び上がり、儂の頭の上に座ってウルは続ける。
「その体に満ちている魔力をうまく操ることができれば魔法が使えると思うのだわ?シノが良いって言うのならわたしが扱いを教えてあげてもいいのだわ!」
「…わたくしが…魔法を使えるようになる…?小さいころから…どれだけやっても出来なかったのに…?」
ナディアが呆然とした表情でウルを見ている。
「あ~、僕たちも彼女に対して様々な角度から指導をしたがうまくいかなかった。魔力の扱いについてもだ。シノ君の従魔、ウルだっけ?ウル君が指導することができる…っていうのはどういうことなんだい?」
ロレンゾがウルの発言を聞いて、眉を寄せながら怪訝な表情をしている。
「ロレンゾ先生、ウルは食いしん坊で騒がしいやつですが、精霊そのものと言っていい存在です。彼女の魔法は少し特別で、人や、魔術具が感知することができない部分も感じ取ることができます」
「こら!シノ!酷い言い方なのだわ!!」
憤慨したウルが儂の頭をポコポコと叩いてくる。
ロレンゾは、まだ納得していないような表情をしている。彼はウルに視線を向け「ナディアは魔法が使えるようになるのかい?」と聞く。
「もちろんなのだわ!このわたしに任せるがいいのだわ!」
ドーンと儂の頭の上でウルは胸を張る。
ロレンゾは少しの間考え込むように黙っていたが、その表情が柔らかく崩れる。
「そうか、ではその言葉を信じてみるとしよう。ナディア、今日は彼の誘いを受け入れなさい。もし成功すれば彼女自身に新たな道が開けるだけでなく、きっと他の生徒たちにも良い影響を与えるでしょう」
当のナディアは不満げな顔をしているが、こくりと頷いた。
「分かりましたわ。今日はシノ、貴方の誘いに乗ってあげますわ」
肩にかかる長い髪かき上げながら、すたすたとレオとヴァリの元へ歩いていく。
「おー!ナディア!!よろしくね!」
「よかったな、ぼっちにならなくてよ」
「煩いですわね!成り行きですわよ!成・り・行・き!!!」
レオとヴァリに合流したナディアの表情には、先ほどまでの思い詰めた感じはなく、前向きな色合いを感じた。
「全員チームを組めたようだな?じゃぁ始めるぞー」
ライナスの大きな声が訓練場に響き、授業が始まった。
「食べた後に全力ダッシュはきついよ、ヴァリ…」
「のんびりしすぎたな…。しかし、シノはあれだけ走ったのに息一つ乱れてないな?」
「走るのには慣れてるからね。ウルとルーヴァルについていく必要があるから」
ヴァリは感心したようにシノをじっと見つめ、コツがあれば教えてくれという。
「よーし、揃ってるな!」
訓練場の入り口から教師が入ってきた。ライナスを先頭に、その後ろにロレンゾが控えて付いている。
「あれ?どうしてライナス先生が?」
「ライナス先生が訓練場に来るなんて初めてじゃないか?…今日は特別な訓練でもあるのか?」
「いや、まさか…。でも、普段は1組2組の訓練を担当してるから、何か重要なことがあるんじゃないか?」
ライナスの姿を見た他の生徒がざわめきはじめ、少しの緊張感に訓練場が包まれる。この反応を見ると、ライナスが現れたこと自体がかなり特殊なケースのようだ。
「あー、静粛に。君達の実技は僕が見ていますが、昨日の編入生の状況を考慮した上でライナス先生が一度見ておいたほうがいいだろう、という事になりました」
ロレンゾが儂にちらりと視線を向け、状況の説明をしているが、儂の影響だったか。昨日は少しやりすぎてしまった感じは否めない。そして、周りの視線もこちらに集中する。
「あいつか。昨日、傀儡人形を派手にぶっ壊してたよな?」
「何かおかしいと思ったんだよな。学校に入る前であんなことができるわけがない」
「やっぱり何か不正か何かあったのよ。あんなのおかしすぎるから、強力な攻撃の魔術具か何か持ってたんじゃないかしら」
生徒たちは口々に昨日の出来事について話始める。
「あー、そういやシノは結構やばいことしてたよな。あれを魔術具とかは思わないけどビビったぜ」
「あの炎見た時は体中の毛が逆立っちゃったよ」
レオとヴァリが間にいる儂に対して顔を向けてきた。その瞳は畏れや疑問というより、どうやったらあんなことができるのか?といった興味が含まれていた。
ライナスが騒然とした様子を見て手を叩き、「静かに」と言い、場を収める。
「編入生のシノ君が気になるのはもちろんあるが、学年総監である俺は君達の成長度合いも把握する必要がある。遅かれ早かれ訓練を見に来ることになったのだ。気にせず、現在のベストを尽くすように」
ライナスは非常に威厳のある態度で生徒皆に対して納得のいく理由を伝え、6組の生徒の表情が真剣なものになった。
「よし、これまでは基礎訓練を行っていたと思うがいい機会だ。次のステップに進むとしよう。4人1組でグループを作るように。あぁ、少しくらい人数が多くても構わん。最低4人だ」
素早く動け!とライナスから指示が出ると、一斉に生徒が動き出す。
「へぇ、小隊を作っての訓練か」
「初めての内容だね!ちょっと楽しみかも。ずっと1人で鍛練してきてたからさ!」
ヴァリとレオは興味を抑えきれないようだ。
パーティ演習になるのだろうか。今回は特にパーティバランスの指示などもなかったから、まずは最低4人でのグループ行動をさせる、もしくはグループ同士での戦いをさせるかもしれない。
「とりあえず、儂らで組むか。ちょっと前衛に偏りすぎてるからできれば後衛がいてくれた方がいいけど…」
誰かいないものか、訓練場を見渡すと、生徒たちの集団から少し離れた壁際にポツンと1人、ナディアが腕を組んで立っていた。
周りの生徒は誰もナディアに声をかけようとしていない。
「レオ、ヴァリ。彼女を誘ってもいいか?」
儂は2人に声をかけたあと、ナディアに視線を向ける。
『知恵の加護』を持っていて、座学に関しては問題なく、苦手な魔法を補うために実技を中心に授業を受けているとのことだった。
属性魔法は苦手かもしれないが、属性に頼らない支援系の魔法を使えるのではないだろうか?
そうなると、前衛中心になってしまう儂らにとっては非常にバランスの取れたものになるだろう。
「おっけー!私は問題なし!ナディアが良いって言ってくれればいいけど」
「俺も異論はない」
2人の了承を取って、ナディアの元へ向かう。
「おい、あの編入生がナディアのところに行くぜ?」
「学力はあっても剣術も魔法も不得手な上級貴族ですのよ?お役に立てるわけはないでしょうに…」
「ぼっちで寂し気な上級貴族に擦り寄って取り入ろうって魂胆か?」
「呪い姫に近づくなんて畏れ知らずですね」
立ち振る舞いや雰囲気から、貴族のグループと見られる場所から小声で話す声が風に乗って聞こえてきた。
今回の授業でそれぞれ思い思いにグループを作っているようだが、どうしても平民と貴族に分かれてしまうようだ。
学園は平等を謳ってはいても、当事者たる生徒はそのように感じてはいないようだ。
儂個人としては、身分差なんてどうでもいいと考えてはいるが、どうしても社会に出てしまえば一定の線引きが必要になってくるのは理解できるのだけれど。
「…なんですの?」
ナディアがこちらに顔を向けずに言葉を投げかけてきた。構わず儂は彼女を訓練を一緒にしないかと誘う。
「本気で言ってるんですの?」
信じられないといった表情でこちらを見ている。その顔には困惑に満ちた表情がありありと見て取れる。
「もちろん本気だよ。今日はパーティを組めという状況らしいからね。儂らは1人足りないけど、他に加わってくれる人もいないようだからさ。君はまだお誘いが無いようだったから」
「…わたくしを哀れんでいるんですの?」
キッと強い目でこちらを睨んでくる。
「あちらの者たちが言っていた通り、わたくしは魔法が不得手なのです。それに、体質的なものなのか、非力で剣術などにも向いていません。わたくしにできるのは書類整理や計算くらいでお役に立てないとは思いますわよ」
彼女はどうやら、属性魔法が使えないことに対して大きなコンプレックスを抱いているようだ。それに、非力というのはどういうことだろう?
身体強化の魔法は属性に関係がないため、魔力があれば使えるはずだ。
「身体強化でさえもうまく使えないのですわ。支援系の魔法でも使えれば、と思っていましたが、こちらもうまく発動でず、呪いのような、逆の効果になってしまうのですわ」
何をやってもうまくいかず、足を引っ張るだけだと悔しそうな表情で右手を強く握っている。訓練中に呪いのような効果が発動してしまったことから、『呪い姫』と陰で呼ばれるようになったという。
様子を見ていたロレンゾがこちらにやってくる。
「彼女は1年生でありながら、最上級生と比較しても同じくらいの大きな魔力量を持っているのですが、うまく魔法の発動ができないのですよ。詠唱や、発動に必要な魔法陣を正確に刻んでいるにも関わらずね。なぜか魔法が誤作動を起こしてしまうのです」
なんとか彼女が魔法を扱えるように、と手を尽くしているが、現状上手くいっていないという。
「彼女の持つ『知恵の加護』は数十年に1人現れるかどうかの希少な加護で、属性の加護がなくとも、中級程度の魔法まで扱うことができます。身体強化や支援についても本来であれば使用できるはずなのですが…」
加護の研究をしている方とも連携して対応を行っているが、芳しくないのだとロレンゾは肩を落としている。
「そういう事ですから、わたくしを誘っても意味はありませんことよ。わたくしはこのまま1人で魔法について自習を続けますわ」
ふんっ!と髪を揺らしてそっぽを向く。そのあと小さく「レオネアやヴァリクスに合わせる顔もありませんし」という呟きが聞こえた。
魔力が多くて魔法が使えない、というのは聞いたことが無い。何かしらの問題が発生していると思うが…。魔法についてならウルだな。
「ウル、彼女を見て何か感じるか?どうしても魔法が使えないということなんだが…」
肩に座っているウルはちょっと考えるようにあごに手を当てる。
「そうねぇ~。魔力量が多いっていうのは間違いないのだわ。でも使えない理由は簡単なのだわ。人が用意した魔法式にあってないんじゃないかしら?」
ウルがナディアに向かって伝えるが、そんな簡単な理由なはずが無いという。ロレンゾも、しっかりと魔術具で魔力量を計っているためそれはないと言っている。
「ナディアだったかしら?あなたの体に満ちてる魔力量は普通の人のそれじゃないのだわ。魔術具っていうのがどういうのかわからないけど、その道具ではわからなかっただけじゃないかしら?」
肩から飛び上がり、儂の頭の上に座ってウルは続ける。
「その体に満ちている魔力をうまく操ることができれば魔法が使えると思うのだわ?シノが良いって言うのならわたしが扱いを教えてあげてもいいのだわ!」
「…わたくしが…魔法を使えるようになる…?小さいころから…どれだけやっても出来なかったのに…?」
ナディアが呆然とした表情でウルを見ている。
「あ~、僕たちも彼女に対して様々な角度から指導をしたがうまくいかなかった。魔力の扱いについてもだ。シノ君の従魔、ウルだっけ?ウル君が指導することができる…っていうのはどういうことなんだい?」
ロレンゾがウルの発言を聞いて、眉を寄せながら怪訝な表情をしている。
「ロレンゾ先生、ウルは食いしん坊で騒がしいやつですが、精霊そのものと言っていい存在です。彼女の魔法は少し特別で、人や、魔術具が感知することができない部分も感じ取ることができます」
「こら!シノ!酷い言い方なのだわ!!」
憤慨したウルが儂の頭をポコポコと叩いてくる。
ロレンゾは、まだ納得していないような表情をしている。彼はウルに視線を向け「ナディアは魔法が使えるようになるのかい?」と聞く。
「もちろんなのだわ!このわたしに任せるがいいのだわ!」
ドーンと儂の頭の上でウルは胸を張る。
ロレンゾは少しの間考え込むように黙っていたが、その表情が柔らかく崩れる。
「そうか、ではその言葉を信じてみるとしよう。ナディア、今日は彼の誘いを受け入れなさい。もし成功すれば彼女自身に新たな道が開けるだけでなく、きっと他の生徒たちにも良い影響を与えるでしょう」
当のナディアは不満げな顔をしているが、こくりと頷いた。
「分かりましたわ。今日はシノ、貴方の誘いに乗ってあげますわ」
肩にかかる長い髪かき上げながら、すたすたとレオとヴァリの元へ歩いていく。
「おー!ナディア!!よろしくね!」
「よかったな、ぼっちにならなくてよ」
「煩いですわね!成り行きですわよ!成・り・行・き!!!」
レオとヴァリに合流したナディアの表情には、先ほどまでの思い詰めた感じはなく、前向きな色合いを感じた。
「全員チームを組めたようだな?じゃぁ始めるぞー」
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