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1章『始まり』
3話
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次の日。シャノン達を乗せていた荷車は幸いにも大きな損傷はなく、簡単な補強で使うことができたので子供たちを乗せて移動することにした。
ウルに人間大の人型ゴーレムを作ってもらい、荷車を引っ張ってもらっている。
ゴーレムを作った時は、シャノンもサーシャも目を輝かせていた。初めてゴーレムを見たらしい。魔法でこんなことできるんだと喜んでいた。
ソットリス関門までの道のりは儂たちだけなら2日ほどの道のりだけど、このペースだと4~5日かかりそうだとはウル。
どうやってあの場所まで荷車を持ってきたのは不思議だったが、この辺りは木と木の間隔も広く、十分荷車を通すことができた。だが、道があるわけでもないので移動速度はどうしても遅くなる。
子供たちもいることだし、せっかくなのでルーヴァルの狩りの練習も含めてゆっくりと行くことにした。
移動の始め、子供たちは突然の魔獣の襲撃などに驚いたり、固くなっていたが、儂とウルで簡単に対処をしているのを見て安心したようで、時が進むとずいぶんとリラックスしている。
荷車の上ではルーヴァルとサーシャがじゃれあっている。ルーヴァルは最初から2人にかなり心を許しているようにも見える。
ひょとしたら、母と一緒に亡くした兄弟のことを重ねているのかもしれない。彼と出会ってまだ数日ではあるが、非常に高い知性を感じる。
「あの…シノさん。少しいいですか?」
荷台の横を歩いていた儂に、上からシャノンは話かける。儂は「構わないよ」と返事する。
「助けていただいた恩人にこのようなことを聞くのはとても失礼かとは思ったのですが…。なぜ、この森にいたんでしょうか?ウルさんとルーと一緒とはいえ…1人ですよね?」
やや畏れ、疑念といったものを瞳にシャノンは続ける。
「…その、この大森林は凶悪な魔獣の巣って聞いていたので…。大人に見えないシノさんがこの森で散歩していた、という訳でもないですし、少し不思議に思ってしまって」
まぁそれはそうか。ここは非常に強力な魔獣がいると言われている森というのは理解できる。儂もはじめは全く敵わなかったから。確かにこんな森で旅をしているというも不自然に感じるか。
「あ~、なんて言ったらいいか…どうしても知りたいかい?」
かなり真剣な眼でシャノンは儂を見つめ頷く。さて…どうしようか。正直に話してみるか。
「そうだね。実は儂は前は違う世界に生きていたんだよ。そこで大人になって、おじいちゃんになって、悪い神様と戦った。そこで一度死んだはずだったんだけどね。…気づいたらこの大森林にある湖で目が覚めて、なぜかこの若い体になってて、そこにでウルと出会ったんだよ」
「突然だったからわたし達はびっくりしたのだわ!本当急だったのだわ~」
「はは。とりあえず、この体にも慣れなきゃいけないし、1ヶ月くらいウルと一緒に体の感覚を取り戻す訓練をやって、ようやく1週間くらい前に湖を出発して、今に至る…って感じかな。これからのことを考えようにも儂はこの世界のことを何もわからないからね。情報が必要だなと思って、人が居そうなところに向かっていたんだよ」
シャノンはポカーンと目を見開いて固まっている。
「え…違う世界…?おじいちゃんで…?神様と戦う?え?一度死んだ…??え?…えぇ…」
自分で話していてもなぜこうなっているのかはわからないが、一応、本当の話しだ。
「儂も良く分かっていないことばかりなんだ。だから、人がいる場所で情報を集めたくて、ひとまずソットリス関門に向かっているところだったんだ。」
ちなみに、なぜ関門のことを知っているのかについては、この森で亡くなった人の持ち物に地図を見つけたから、ということは伝えた。
固まっているシャノンの後ろからサーシャが顔を出す。その腕にはルーヴァルが抱えられている。
「シノ様は、大兄様と同じくらいに見えるのに、ギレーのお祖父様みたいな話し方をされるので不思議に思っていたんです。『わし』って言うのもお祖父様に似ていますし。でも、今のお話で少しだけ納得できました!あ、大兄様というのは、シャノンお兄様とは別の、もう一人のお兄様です」
「儂はあっちでは思ったより長く生きることができていたから、どうしても抜けなくてね」
苦笑いするしかなかった。こっちに来た当初は老齢の頃の話し方が抜けなかったが、時間が経つにつれて精神が肉体に引きずられているのか、少しずつ若いころにのものに寄っていった。
一人称が「儂」になっているのは、なんとなく「俺」とか「僕」というのが今更で恥ずかしいなと…感じてしまっているだけだ。
ただ、現在も見かけ相応のしゃべり方だとは思ってはいないが。
「ふふ。私はその優しそうなお話し方が好きですのでご安心ください。できれば、そのままでいてほしいです」
サーシャがにっこりと微笑む。「善処するよ」と儂は答えておく。
「ちょっとちょっと~!シノばかりずるいのだわ!!私も褒めなさいなのだわ!」
「ウルちゃん!ウルちゃんも素敵です!とても元気なお声と、背中のお羽が美しくて!」
「そうでしょそうでしょ~!もっと褒めなさ~い!!」
ウルとサーシャがキャッキャと盛り上がり始めた隙をついてルーヴァルがサーシャの懐から抜け出して儂の胸に飛び込んできた。
ルーヴァルを受け止めて、お疲れ様と頭を撫でる。とても嬉しそうに舌を出して満足そうだ。
それにしてもシャノンもサーシャも昨日は衝撃的な出来事もあって、年相応の部分が見られたのだが、1日経って落ち着いたのか、喋り方一つをとってもきちんとした教育を受けていることがわかる。
さすが領主の子息女といったところか。
コホンと咳払いが聞こえて振り返る。
「すみません。とても驚いてしまって…。飲み込むのに時間がかかってしいました。僕はまだまだ未熟です」
とがっかりした様子でシャノンは肩を落とす。
「僕は領主の子として沢山勉強してきましたが、シノさんみたいな人のことを聞いたことがありません。これまでに読んだ本などにもそういう人が居るとは書いてなかったです。でも、この森の中にいる、あんなに強力な魔獣を倒せたことに納得がいきました」
「疑問が解決できたならよかったよ。儂もまだこちらに来て日が浅い。分かる範囲でいいから道中、色々と教えてくれると助かるよ」
「はい!わかりました!僕にできる限りのことをお手伝いします!」
シャノンは「がんばります!むん!」と気合を入れていた。
道中は至って順調だった。ルーヴァルとウルが先導し、ウルの索敵にかかったら、戦闘訓練の一環でルーヴァルが突撃して、手に負えないものを儂が倒す、といった流れになっていった。
ルーヴァルは非常に成長が早く、幼いながらも、さすが雷牙狼と言える力の片鱗を見せていた。
魔獣の返り血で血まみれになったルーヴァルを見てサーシャが涙目になっていたのは印象的だった。
そうした旅路も4日を過ぎ、終盤にさしかかったところで先頭にいるルーヴァルの耳がぴくぴくし始める。
「シノ、視られてるのだわ」
ウルが耳元で小さな声で囁く。
「何人くらい?」
「5人ね。わたし達を攻撃してくるような敵意は感じないけど、かなり警戒している視線を感じるのだわ。わたし達に近づきすぎないようにしてるみたいね。大体20ルークくらいかしら。どうする?追っ払っちゃうのだわ?」
ウルは教えてもらったばかりの距離の単位を早速使っている。儂たちを見ている者たちは距離を取っているのか。いきなり襲ってこないのであれば一旦様子を見てみるか。
「まだ待とう。敵意はないんだよね?だったらこちらから手を出すことはないさ。もうすぐ森の出口が近いのなら、ひょっとしたらソットリス関門の斥候かもしれない」
「斥候って??」
「敵が近づいたときに、前もって様子を見に行く人達のことかな」
「へぇ~!!そんなことするのね。本当人間って変わってるのだわ~」
ロヴァネ公爵とギレー辺境伯に交流があるということは、捜索隊が結成されているはず。
子供たちを攫ったのが傭兵団である以上、20人もの人数が動けば必ず痕跡は残るだろうし、子供たちが最果ての大森林に連れていかれたことは既に認識してる可能性はある。
シャノンの話を聞く限り、この森は大規模な部隊であったとしても全滅を免れないほど危険な森だということでかなり難しい判断を強いられていることだろうとは思う。
「もうすぐ森を抜けるんだろう?とりあえずそれから考えよう」
フォレの湖から始まった大森林の道程もまもなく終わりを迎える。
ウルに人間大の人型ゴーレムを作ってもらい、荷車を引っ張ってもらっている。
ゴーレムを作った時は、シャノンもサーシャも目を輝かせていた。初めてゴーレムを見たらしい。魔法でこんなことできるんだと喜んでいた。
ソットリス関門までの道のりは儂たちだけなら2日ほどの道のりだけど、このペースだと4~5日かかりそうだとはウル。
どうやってあの場所まで荷車を持ってきたのは不思議だったが、この辺りは木と木の間隔も広く、十分荷車を通すことができた。だが、道があるわけでもないので移動速度はどうしても遅くなる。
子供たちもいることだし、せっかくなのでルーヴァルの狩りの練習も含めてゆっくりと行くことにした。
移動の始め、子供たちは突然の魔獣の襲撃などに驚いたり、固くなっていたが、儂とウルで簡単に対処をしているのを見て安心したようで、時が進むとずいぶんとリラックスしている。
荷車の上ではルーヴァルとサーシャがじゃれあっている。ルーヴァルは最初から2人にかなり心を許しているようにも見える。
ひょとしたら、母と一緒に亡くした兄弟のことを重ねているのかもしれない。彼と出会ってまだ数日ではあるが、非常に高い知性を感じる。
「あの…シノさん。少しいいですか?」
荷台の横を歩いていた儂に、上からシャノンは話かける。儂は「構わないよ」と返事する。
「助けていただいた恩人にこのようなことを聞くのはとても失礼かとは思ったのですが…。なぜ、この森にいたんでしょうか?ウルさんとルーと一緒とはいえ…1人ですよね?」
やや畏れ、疑念といったものを瞳にシャノンは続ける。
「…その、この大森林は凶悪な魔獣の巣って聞いていたので…。大人に見えないシノさんがこの森で散歩していた、という訳でもないですし、少し不思議に思ってしまって」
まぁそれはそうか。ここは非常に強力な魔獣がいると言われている森というのは理解できる。儂もはじめは全く敵わなかったから。確かにこんな森で旅をしているというも不自然に感じるか。
「あ~、なんて言ったらいいか…どうしても知りたいかい?」
かなり真剣な眼でシャノンは儂を見つめ頷く。さて…どうしようか。正直に話してみるか。
「そうだね。実は儂は前は違う世界に生きていたんだよ。そこで大人になって、おじいちゃんになって、悪い神様と戦った。そこで一度死んだはずだったんだけどね。…気づいたらこの大森林にある湖で目が覚めて、なぜかこの若い体になってて、そこにでウルと出会ったんだよ」
「突然だったからわたし達はびっくりしたのだわ!本当急だったのだわ~」
「はは。とりあえず、この体にも慣れなきゃいけないし、1ヶ月くらいウルと一緒に体の感覚を取り戻す訓練をやって、ようやく1週間くらい前に湖を出発して、今に至る…って感じかな。これからのことを考えようにも儂はこの世界のことを何もわからないからね。情報が必要だなと思って、人が居そうなところに向かっていたんだよ」
シャノンはポカーンと目を見開いて固まっている。
「え…違う世界…?おじいちゃんで…?神様と戦う?え?一度死んだ…??え?…えぇ…」
自分で話していてもなぜこうなっているのかはわからないが、一応、本当の話しだ。
「儂も良く分かっていないことばかりなんだ。だから、人がいる場所で情報を集めたくて、ひとまずソットリス関門に向かっているところだったんだ。」
ちなみに、なぜ関門のことを知っているのかについては、この森で亡くなった人の持ち物に地図を見つけたから、ということは伝えた。
固まっているシャノンの後ろからサーシャが顔を出す。その腕にはルーヴァルが抱えられている。
「シノ様は、大兄様と同じくらいに見えるのに、ギレーのお祖父様みたいな話し方をされるので不思議に思っていたんです。『わし』って言うのもお祖父様に似ていますし。でも、今のお話で少しだけ納得できました!あ、大兄様というのは、シャノンお兄様とは別の、もう一人のお兄様です」
「儂はあっちでは思ったより長く生きることができていたから、どうしても抜けなくてね」
苦笑いするしかなかった。こっちに来た当初は老齢の頃の話し方が抜けなかったが、時間が経つにつれて精神が肉体に引きずられているのか、少しずつ若いころにのものに寄っていった。
一人称が「儂」になっているのは、なんとなく「俺」とか「僕」というのが今更で恥ずかしいなと…感じてしまっているだけだ。
ただ、現在も見かけ相応のしゃべり方だとは思ってはいないが。
「ふふ。私はその優しそうなお話し方が好きですのでご安心ください。できれば、そのままでいてほしいです」
サーシャがにっこりと微笑む。「善処するよ」と儂は答えておく。
「ちょっとちょっと~!シノばかりずるいのだわ!!私も褒めなさいなのだわ!」
「ウルちゃん!ウルちゃんも素敵です!とても元気なお声と、背中のお羽が美しくて!」
「そうでしょそうでしょ~!もっと褒めなさ~い!!」
ウルとサーシャがキャッキャと盛り上がり始めた隙をついてルーヴァルがサーシャの懐から抜け出して儂の胸に飛び込んできた。
ルーヴァルを受け止めて、お疲れ様と頭を撫でる。とても嬉しそうに舌を出して満足そうだ。
それにしてもシャノンもサーシャも昨日は衝撃的な出来事もあって、年相応の部分が見られたのだが、1日経って落ち着いたのか、喋り方一つをとってもきちんとした教育を受けていることがわかる。
さすが領主の子息女といったところか。
コホンと咳払いが聞こえて振り返る。
「すみません。とても驚いてしまって…。飲み込むのに時間がかかってしいました。僕はまだまだ未熟です」
とがっかりした様子でシャノンは肩を落とす。
「僕は領主の子として沢山勉強してきましたが、シノさんみたいな人のことを聞いたことがありません。これまでに読んだ本などにもそういう人が居るとは書いてなかったです。でも、この森の中にいる、あんなに強力な魔獣を倒せたことに納得がいきました」
「疑問が解決できたならよかったよ。儂もまだこちらに来て日が浅い。分かる範囲でいいから道中、色々と教えてくれると助かるよ」
「はい!わかりました!僕にできる限りのことをお手伝いします!」
シャノンは「がんばります!むん!」と気合を入れていた。
道中は至って順調だった。ルーヴァルとウルが先導し、ウルの索敵にかかったら、戦闘訓練の一環でルーヴァルが突撃して、手に負えないものを儂が倒す、といった流れになっていった。
ルーヴァルは非常に成長が早く、幼いながらも、さすが雷牙狼と言える力の片鱗を見せていた。
魔獣の返り血で血まみれになったルーヴァルを見てサーシャが涙目になっていたのは印象的だった。
そうした旅路も4日を過ぎ、終盤にさしかかったところで先頭にいるルーヴァルの耳がぴくぴくし始める。
「シノ、視られてるのだわ」
ウルが耳元で小さな声で囁く。
「何人くらい?」
「5人ね。わたし達を攻撃してくるような敵意は感じないけど、かなり警戒している視線を感じるのだわ。わたし達に近づきすぎないようにしてるみたいね。大体20ルークくらいかしら。どうする?追っ払っちゃうのだわ?」
ウルは教えてもらったばかりの距離の単位を早速使っている。儂たちを見ている者たちは距離を取っているのか。いきなり襲ってこないのであれば一旦様子を見てみるか。
「まだ待とう。敵意はないんだよね?だったらこちらから手を出すことはないさ。もうすぐ森の出口が近いのなら、ひょっとしたらソットリス関門の斥候かもしれない」
「斥候って??」
「敵が近づいたときに、前もって様子を見に行く人達のことかな」
「へぇ~!!そんなことするのね。本当人間って変わってるのだわ~」
ロヴァネ公爵とギレー辺境伯に交流があるということは、捜索隊が結成されているはず。
子供たちを攫ったのが傭兵団である以上、20人もの人数が動けば必ず痕跡は残るだろうし、子供たちが最果ての大森林に連れていかれたことは既に認識してる可能性はある。
シャノンの話を聞く限り、この森は大規模な部隊であったとしても全滅を免れないほど危険な森だということでかなり難しい判断を強いられていることだろうとは思う。
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