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Episode1/Raison detre
裏幕/微風瑠奈ーもう既に在るのだー
しおりを挟む明日は心理検査をする予定になっていた。
だからなのか、忘れかけていた事を思い出してしまう。
ーーわたしの存在理由とはなにか?
ーー生きている意味とはなんなのか?
ーー重い圧力がかかっているように怠く、無気力で、布団に仰向けで倒れているだけでも死にたくなるほど辛いのに、どうしてそれを耐えてまで生きようとしていたのか?
異世界に来てから一時の間だけは、たしかにその感情を忘れていられた。
けれど、この日常に慣れてくるだけで、再びその感情が湧いてくる。
この“死にたい病”と言いたい状態のことを、医師という人間は“希死念慮”もしくは“自殺企図”、あるいは“自殺念慮”と呼ぶらしい。
そして、それらは間違った思考であり病的だという。
しかし、人間にはいずれ『死ぬ』という不可避の未来がある。
それは、早いか遅いかの違いはあれど、誰にも必ず訪れてしまうものだ。
そして死んだ時点で、わたしという存在は消えてなくなる……。
それなら、いま死のうがあとで死のうが、なにも変わりないんじゃないだろうか。
死が間違いなら、人間は存在そのものが間違いとなってしまうんじゃないだろうか。
「微風瑠奈、それか、ルーナエ・アウラでもいいよ。これから始める物語の主人公は、悪いんだけど、君ではないんだ。だからあたしは、まだ君を救うつもりはないよ。今から始まる、いや、遠の昔から始まっているはずだった、この出来事の主役は沙鳥ちゃんと舞香さんの二人なんだ。君を連れてきたのは、ハッピーエンドで終わらせられる可能性を上げるためだけだ。世界の法則の外にいて、舞香さん達を知り合いで、なおかつ強くてーーそれが君だった。君という異相(バグ)を入れて、二人の物語をトゥルーエンドからハッピーエンドに変えるんだ」
わたしは、そう告げてきた朱音との対話を思い返す。
「君は、世界五分前仮説って知ってるかい?」
「はい? なにそれ?」
「世界は五分前につくられたーーという、否定できない仮説のことだよ」
「でも、わたしは10年前の記憶だってあるんだけど……」
「その記憶も、そういう【過去があった】と刷り込まれているだけなんだ。たとえば今日、君はいろいろと大変だっただろう。けど、それも【そういう事があったという記憶】と共に【五分前につくられただけ】だとしたら?」
「……なにが言いたいのかわからないんだけど、ごめん」
「ボクの異能力は存在干渉系。その内容は、異世界と現世界を転移するというものじゃないよ。ボクが不思議に思うのは、君はーー」
「だから、なにが言いたいのさ?」
「……果たして君は、在ったほうが正しい? なんだか気まずいから、とりあえず君になにかしてあげたい気持があるんだけど……とりあえず、問題解決の為に君を呼んだのだのだから、まずは目の前の問題解決に尽力してほしい。君について思考するのはあとだ」
その会話をした翌日の事だった。
沙鳥と朱音が姿を消したのは……。
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