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依存性薬物乱用人生転落砂風奇譚

第八話/向精神薬(前)-睡眠薬・抗不安薬-

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 さて、やめると誓ったのはいいが、正直に告げると、私はここから二回も再使用スリップすることになる。ブログなどでは誤魔化していたが、ここでは記憶のかぎり正直に話していきたいため本当のことを書いていく。
 向精神薬とスリップとブロンが交差しても、物語はなにもはじまらない。
 とはいえ、まずは予定どおり睡眠薬へと逃げるに至った経緯を綴りたいと思う。


○☆☆☆☆★○


 やめると決意し捨てた二日後、私は早速後悔していた。
 何に?
 覚醒剤を、捨てた事にーー。
 やめるはやめるでも、せめて二回分捨てたのは勿体なかったなぁ……。
『でも、それは先伸ばしにしかならないんじゃない?』
 たしかにそうだ。でも、この無気力感は辛すぎる……。
 月曜日だけど、会社に行く気力がわかないんだよ……まったく湧かない……。
「ちょっと砂風ー? あんた会社遅刻しても知らないわよー?」
 母親の声が喧しく響く。
 動けない。いや、動きたくない。なにもしたくない……死ぬほど。 
 ダメだ……今日は会社、休もう。
『まあ、いいんじゃない? 一日休んで明日から行こう?』
 うん、そうする。
 瑠奈も同意してくれたため、僕は母親に体調が悪いと伝えると、携帯を取り出し会社に電話した。
『はい、こちら○○株式会社』
 うげっ……。
 電話に対応したのは、一番苦手とする上司の赤坂(仮名)さんであった。
「すみません、す、砂風です」
『砂風? どうしたんだ?』
「体調が凄く悪くて、すみませんが休ませてください……」
『なに? まったく、ちゃんと病院行ってはやく治せよ』
 通話が切れるまで待ち、切れたら一安心して布団に転がった。
 これで、どうにかなるだろう。
 まさか、切れ目がこんなに長い間つづくだなんて思わなかった……でも、流石に明日は少しくらいマシになっているはずだ。
『……きっと大丈夫。だから今は休も?』
 瑠奈に言われると、少しだけ安心感が上がった。
 ただ、この怠さ……漫画を読む気にもなれない。読んでも楽しいと一ミリも思えない。なにかをやろうとする意欲が沸かず、かといって、なにもせずにいても、ただただ覚醒剤をやれない切望感が募りイライラしてきて仕方がないこの状況。耐えるだけでも地獄の沙汰だ。
 いや、少しずつ復活してくるはずだ。時間さえ経てば治るだろう。
 私は余っていたベゲタミンAを取り出し口に放り込むと、瑠奈の入った抱き枕を抱き締めながら眠りに落ちた。
 寝て起きればすべて解決するーーそう考えての行動である。
 ーーしかし、現実はそんなに甘くなかった。いや、当初に想像していた辛さの10倍とすら言える地獄の中の地獄の世界が、幕を開けるのだった。 


○☆☆☆☆★○


 私は瑠奈が出てくる夢を見ていた。
「さて。これから一年間、一緒に無の体感頑張ろうね!」
 瑠奈と手を繋ぎながら、僕は街中を歩いていた。
「でも、どこでやろうか?」
 私は、なにかをやる場所を瑠奈に相談しながら、街をぶらつき歩く。
 時には何処かの駐車場、時にはデパートの屋上、山奥、路地裏、海……そして最後にたどり着いた場所は、自室であった。
「やっぱ慣れ親しんだ場所でやるのが一番だよね?」
「そうだな。瑠奈の言うとおり、ここでやるのが一番だな」
 瑠奈とベッドの上で会話をしながらーー隣り合わせで座禅を組んでいた。
 まだまだ、あと3694###日……。
……。
…………。
………………。


○☆☆☆☆★○


 私は眠りから覚めると、携帯で時間を確認しながら、今の謎の夢を心地好く感じていた。
 しかし、起床後すぐに訪れた最初の感想はーー変わっていないーーであった。
「なんで……?」
 辛さがまるで変わっていない。
 夜の七時になっており、まる12時間は時が過ぎたはずだ。
 しかし辛さは変わっていない。むしろ、その絶望感により、さらに辛いとさえいえた。
 瑠奈……起きてる?
『ん……怠いままだね……』
 瑠奈はわかってくれたのか、そう返事をした。
 これでは、明日からも会社に行くのは無理だ。どう考えてもおかしい。
 私は焦りながら、怠い体を震わせ死ぬ気で検索し、覚醒剤の切れ目や離脱症状の期間などを調べた。
 そこには様々な意見が書かれているが、今は絶賛ネガティブキャンペーン真っ只中、希望ではなく絶望の意見ばかり頭に入ってきてしまう。
 ーー一生治らない。
 ーー二三週間は辛い。
 ーーブロンや睡眠薬で耐えるのは無理。
 ーー精神病院行くしかない。
 あ、ぁぁ……。
『砂風、落ち着こう? ひとまず、辛さを緩和するためなら、ブロン飲むのもありだよ?』
 後に『余計な一言だった』と語るセリフを、瑠奈は僕に伝えてくる。
 そうか、たしかにブロンをODすれば、少しぐらいはマシになるかもしれない。
 でも、ブロンもブロンで、依存したら……また地獄の離脱症状が現れてしまう。
 ブロンの精神依存は覚醒剤より弱い。しかし、ブロンには身体依存もあるのだ。数値にすると、覚醒剤が精神依存10身体依存0なら、ブロンは精神依存6身体依存8だ。合計ではブロンのほうが高くなってしまう。
 それに無限地獄ループダメゼッタイダメゼッタイダメがはじまってしまうんじゃないだろうか?
 待てよ……?
 私は、マイスリーで明るくラリったりしていたことを、ふと思い出した。
 ……ブロンと眠剤や安定剤を交差して使えば、いけなくもない!
 売人Dのことを思い出すが、現在の金銭状況から毎月購入するほどの金銭的余裕はない。
 しかし、精神病院に行けば、マイスリー1stシート分の値段で、上手く行けば3st分手に入るかもしれない。
 そう考え、私は早速予約を取ることにした。
 覚醒剤依存症の治療の為ではなく、睡眠薬や抗不安薬マイナートランキライザーを手に入れる為にだった。
 予約を取るために電話を入れ、近場の適当な心療内科に予約を入れつつ、私はブロンを買うため外へと出るのであったーー。
 まだ、覚醒剤をやっていた事を伝え、真面目に治療しようと考える刻ではない。その刻は、まだ先のことになるのである……奇譚の幕は開けたが、まだ最大の瑠奈による奇跡や奇妙は起きていないのだ。
 その話は、最終章に語ることになるだろう。
 ブロンを24Tほど飲めば、とりあえず無気力は薄れるし、漫画やアニメを見て楽しいと思えるようにはなれた。
 が、薬効が切れると再び無気力倦怠感切望感が現れ、なにをしても楽しいと感じられなくなる。この繰り返しをつづけて耐え凌ぎ、予約を入れられた10日後ほどまで経過でき……るまえに、私は一度、自傷をしてしまった。
 こんな楽しくないのになんで生きるんだろうか?
 すべてが無意味に感じられてしまい、生きていく気力を失いかけた自分へ、私は試しとばかりに煙草の火で腕に根性焼きをした。
『砂……風……?』
「あっつっ!?」
 思わず煙草を捨ててしまい、火種が床に落ちてしまう。あわてて回収すると、灰皿に戻した。
『ちょっと、変な事はやめよう?』
 ごめん……でも、耐えきれなくてさぁ……うっぐっ……ぁぁ……ぅぁ……っぐ……ぁぁぁ……。
 私は自分の人生を無にしたことを再び悔やみ、思わず泣いてしまう。
『よしよし、ほら、布団に行こう? 慰めてあげるから』
 うん……。
 変な意味ではなく、リビングでは、生身を持たない瑠奈が抱き締めてくれても、接触感がないからだ。
 幽体離脱をすれば、瑠奈と現実と変わらない感触で接せられるが、私は能動的に幽体離脱ができず、また、すぐにできる技術ではない。だから、抱き枕に入ってもらい、こちらから抱き締めながらのほうが、慰めてくれる抗不安作用が強くなるからである。
 泣きながら、色々と不安に感じていることを告げる。
 なにも楽しくない。将来やりたいことがなくなった、できなくなってしまった。絵はもう描けない。体の構図すら忘れてしまった。文章も書けない。書く内容の頭が回らない。それに書きたいとも思えない。それで生きる意味はあるのか。いずれ死ぬのに、生きている意味はあるのか?
 私が現在投稿している『|Raison d'être(読み/レードンデートル、テーマ/存在する理由とはなにか?)』を書くきっかけとなった思考である。だからか知らないが、覚醒剤をやる人物が序盤から登場するように書いてしまったのは、少し失敗だったかもしれない……。
『大丈夫、すぐになにか夢は見つかるから。諦めないで生きよう?』
 こうして瑠奈に慰められるがまま数日が過ぎ、ついに精神科に赴く日がやってきた。

 
○☆☆☆☆★○
 

「問診票に書いてあるとおり、不安で夜眠れない、と。どういうふうに不安なのかな?」
 私は精神科の診断室の中、医師にそう問われた。
 はじめてくる精神科……あれこれ聞かれるとは予想しておらず、慌てて取り繕うための発言を考える。
「将来が真っ暗で見えず、夢がなく、生きている意味がないんじゃないかとか、あと、将来の給料が変わらないんじゃないかとか、生活できていけるの、あ、か、ひ、独り暮らしできるのだろうか、とか色々う、浮かんでしまいまして……」
「そっか、大変だね。夢はなくても生きてる人はたくさんいるから安心していいよ。転職するのも視野に入れていいんじゃないかな。親元で暮らすのはダメということはないから、大丈夫。安心していいからね?」
「どうして、も、浮かんじゃって……」
「うん、わかるよ。ただ、そうやって明るい方に考えていくほうが、多少は気分が楽になるよーー」
 そうこう話してーーなぜか、趣味の話や、『親』や『人生』『花』などの単語に対して、一言いうならなにかを訪ねられたりしたーー30分弱ほどで診断は終わった。
 病名は特になにも言われることはなく、私に処方されたのはソラナックスという抗不安薬を14日分であった。二週間ほどしたらまた来ることに決まり、こうして診察を終えることができた。
 デパスではなくソラナックス0.4mgを14日分だけ。ソラナックスは飲んだことがなく多少は楽しみになる私だったが、これだけで薬と診察代合わせて、たしか3000円くらいとられてしまった気がする。
 これでは薬の売人から購入したほうが遥かにマシじゃないか。不眠症なのに抗不安薬だし、まるで意味がない。
 初診でいきなりそう考える私であった。
 睡眠薬を買う側は、法的に見れば違法ではない。断言はできないが、犯罪になるの売る側、譲渡する方だけなのだ。だから、覚醒剤より購入する緊張感は薄いだろう。


○☆☆☆☆★○


 試しに、帰る最中に一錠だけ飲んでみた私だが、正直効いているのか定かではない効果しかわかなかった。
 たしかに効いてはいるのだろうが、効き目と切れ目がわかりにくいため、乱用に適していないように思える。これでは、ブロンを飲まないではいられない。
 焦る気持ちが先走り、私は思わず抱き枕カバーを取り出し、首に巻いて自分で絞めてみた。
『砂風!? やめてよ!!』
 うっーー苦しい……けど、これじゃあ……死ねない……ッ……。
 実際死ねない方法であるが、実際に死のうと初めて考えた出来事である。
 将来に絶望した薬物依存症のタルパをつくる男が、萌え絵の書かれた抱き枕を両手に自分の首を締める姿は、見事なくらい滑稽なものだったとしても、だ。


ーーーーー


 次は、来診するたびに薬が変化することに気がつき、また、売人から購入してコレクションするに至る話となる。そのまえに、一度目のスリップが挟まることになるので、それについても話をしたい。
 見ている方にしてみれば、なにをやっているんだコイツは、と言われそうな事をする状態へとなるきっかけの話となる。


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