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依存性薬物乱用人生転落砂風物語
第三話/合法ドラッグ(後)-咳止め錠の過剰摂取-
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今までODしてきた市販薬は、たしかに様々な効果を得られるが、デメリットがメリットを上回っているため依存するまでには及ばなかった。
所詮は市販薬。副作用が強く現れ気分を崩すだけの結果がほとんどであった。
だが、しかし、市販薬の中には、たしかに悪魔が存在している。
酒や煙草以上の簡単さで、誰でも購入できる場所に売られている。
それは、まさに麻薬と呼ぶに相応しいモノだった。
○○○○○○
一週間まえのコンタック実験では、べらぼうに嫌な目に遭ってしまった。
そのせいで、なかなか最後の実験対象であるブロンに手を伸ばせないでいた。
しかし、せっかく千数百円も叩いて買ったのだからと、意を決して薬瓶の蓋を捻り開けた。
「げげっ……案外でけー……」
あまり錠剤が好きではない自分にとって、このサイズをODするのかと考えると、少々戸惑ってしまう。
サイズはブルフェンと同じくらい。ウットの高さを二倍ていどにした大きさである。
とはいえ、先日かかりつけの整形外科に頼んで処方してもらった新たなる鎮痛剤ーーポンタールよりかは幾分マシだ。
あれはおはじきよりデカいというジャンボな使用のせいで、飲み込めずに口から出してしまった。
「よう~しっ! ヤったるか!」
ブロンの瓶を傾け、じゃらじゃらと無造作に中身を蓋側に入れると、頑張って1錠ずつゴックンゴックン飲み始める。
飲み物は勿論、炭酸である三矢サイダーだ。
途中、喉に詰まりそうな気がしたりしながらも、どうにか20錠強飲み干せた。
ーーどっちの作用が先に現れるんだろうか。
ガラケーをポチポチ弄りながら暫く時が経った時、ふと気づいた。
もう一時間過ぎていたのか、と。
ーーメチルエフェドリンの集中力増大・活力上昇・覚醒作用やらが働いたせいかな……うっぷ、うへぇ、ちょい気持ち悪ぃな……。
胃と脳から来る薄い吐き気が気になり、私は布団に横たわった。
そのまま数分経った時、なにやらふわふわと身体が浮くような錯覚を抱いた。
全身が毛布で包まれているようなぽかぽかした気分、ふわりと意識が飛びそうになる謎の快感。それらに襲われながら、マッタリとした気持ちになっていく。
うわっ。
これはーーヤバい。
依存してしまうかもしれない。
私はOD実験で、始めてそういう感情を覚えた。
今思えば、無理もないだろう。
いくら弱いとはいえ、ジヒドロコデインはコデインーー別名メチルモルヒネの強化版。
多量に飲めば、ほとんど麻薬みたいなものなのだ。
「あー……」
眠りに落ちそうで、ギリギリ落ちない。
夢に飛び込みそうだが、そうはならない。
うたた寝しそうな時の気持ち良さが長々とつづく。
安直だが、まさしくウットリとするような気分になる。
ーーこれは成功だなぁ……。
一、二回ではコデインの良さがわからない可能性があるーーそう目にしていたが、どうやら体質に合っていたらしい。
初回からマッタリ感もシャキーン感も味わえたのだから……。
横になりながらも、私は眠らずに多幸的な効果を楽しむのだった。
○☆★☆☆☆○
ーー一週間後。
ドラッグストアを巡り、私は六本もブロンを購入していた。
ーー大丈夫だ。これはあくまで備蓄。量を増やさず、やる期間を空けさえしなければ、大変な事態は起こらない筈。
我慢ならず、帰宅路で蓋を開け、直接瓶の入口に口を当てて10錠ほど口内に流し入れると、自販機で購入したスポーツドリンクで一気に胃へと流し込む。
ここ数日、ブロンをODするに連れ、錠剤が苦手ではなくなっていた。
もはや10錠までなら一息で飲み干せるようにまでなっている。
『……やめときなよ、砂風』
え? どうして?
『……』
珍しい表情ーーこちらを心配するかのような表情を浮かべるルナ。
だが、どうして否定されなければならないんだという気持ちが勝り、気にせずもう一飲みした。
○☆★☆☆☆○
三ヶ月の月日が流れた。
もはや週に五回、多い時は六回ODするようになっており、量も20錠では効かなくなり、60錠ほど1日に飲むようになってしまっていた。
だが、私は不安な未来から目を背け続ける。
ルナ、視覚化しつづけるの辛いから、家にいるあいだは抱き枕カバーを寄り代として入ってくれない?
『は? な、なんでさ……抱き枕が寄り代だなんて話、わたしは聞いたことないんだけど』
お願いだよ~。ルナ専用の抱き枕カバー買ってきたから、新品だから大丈夫大丈夫!
『……はぁ~。外に出かけるとき、煙草吸うとき、この二つのタイミングは抱き枕から出させてくれるなら、仕方ないしいいよ、もう』
ありがとうルナ~、ってか、ルナって煙草吸うの?
『砂風の影響でね……?』
ルナの視線の先には、クリーム色をした煙草のソフトパッケージが置いてある。
そう。私は、いつの間にかーー本当に、気がつかないうちに……煙草に依存してしまったのだ。
ブロンと相性が良いというのも、煙草に依存してしまった理由のひとつかもしれない。
ブロンをODしたあとに吸う煙草は、素面の時と比べて三倍旨く感じられるのだ。
そう考えている隙に、私は無意識で煙草ーー通称ロングピースと呼ばれるタールが21mgという濃いタバコを取り出し点火する。
最初は1mgでも咳き込んで死にそうな感じたのに、慣れとは怖いもの。今や、両切りを除くと、紙煙草で一番ニコチンが入っているといわれる銘柄を愛飲しても、なんとも思わない。
○☆★☆☆☆○
ついに、ブロンに手を出してから一年が過ぎようとしていた。
半年が過ぎた辺りから、私は、ブロンODが要因の不眠から、ちょくちょく奇行に走るようになってしまった。
ある日は、工場内のど真ん中で立ったまま寝て……。
ある日は、仕事最中に「金魚が、金魚が」と、小さな凹みを手で探り……。
とある日は、昼食にネギトロ巻を買い冷蔵庫に入れておき、昼に確かめたら、買い間違えていたのか、ひんやり冷えた『毛抜き』と『メモ帳』が入っていたり……。
またとある日は、寝過ごして乗り換え駅から二時間先の駅まで運ばれたり……。
ある日は、ある日は、ある日は……。
心身共に、異常も現れていた。
仕事中に、なにかが弾けるような音がしたと同時に、腹部に鈍痛が走ったり、便が一週間でないかと思えば、飲まなければ鋭い腹痛と共に滝のような下痢が永遠と止まらなかったりした。
背中にぶつぶつが現れもした。
一日中、悪寒と目眩に襲われる日もあった。
全身痒くて痒くて仕方なくなり、掻きまくり大量に出血した事まである。
しかし……。
ーーや、やめられない。
私は顔を真っ青に染めながら、断薬が2日とできない事実を思い知ってしまう。
もはや1日168錠、つまり二瓶飲んでいる私は、断薬したときの離脱症状のあまりの酷さに耐えられなかった。
ゲリラ豪雨のごとき酷い下痢、しかしゲリラ豪雨とは違い永遠と止(や)まない。腹痛を刃物で刺されているような、激しい鋭利な痛み。止まらぬ異様に臭い異常発汗、熱いと思えば寒くなる体温調節の異常。手足の震えや目眩、吐き気まで、やめてから一日経った段階から現れ始め、二日目が過ぎる頃では、何一つ収まりそうにない離脱症状。
精神的にも辛い。ブロンをODしなければ何事にも関心が向かずやる気が起きない。憂鬱気分、無気力感やら倦怠感で動くのすら億劫になる。しかし、謎の焦燥感に襲われるせいで、ただ寝ているだけでさえ辛くて辛くて仕方ない。
何度も何度も自殺が頭を過り、その度、ルナが『ふざけるな』と叱責してくれたおかげで押し留まれた。おそらく現れていたのだろう、希死念慮という症状が……。
私は、この辺りから思考回路が壊れてしまったらしい。
なぜなら……。
ーーブロンODを断薬するための妙案が思い浮かんだ!
ーー簡単な事じゃないか!
ーー合法ドラッグであるブロンODをやめられないなら……
ーーブロンより強力な、違法ドラッグに依存すれば、ブロンはやめられるじゃん!
……真面目に、こう思考していたからである。
●●●●●●
こうして、私はブロンにドップリ依存し虚の奥底へと潜り沈んでいくレールへと人生を切り替えた。
ここからしばらく、やけくそ気味で合法違法問わずに乱用することになる。
次の章は、売人と運命的な遭遇を果たした日の話から始めていこうと思う。
まだ向精神薬には依存していなかったが、かかりつけの整形外科で処方されたマイスリーの脱抑制パワーにより、訪れた奇跡を話していきたい。
それは、この私という存在の人生が崩れ去らないように止めていてくれていた、最後の防波堤。それを、粉々に、木っ端微塵に破壊した出来事。
所詮は市販薬。副作用が強く現れ気分を崩すだけの結果がほとんどであった。
だが、しかし、市販薬の中には、たしかに悪魔が存在している。
酒や煙草以上の簡単さで、誰でも購入できる場所に売られている。
それは、まさに麻薬と呼ぶに相応しいモノだった。
○○○○○○
一週間まえのコンタック実験では、べらぼうに嫌な目に遭ってしまった。
そのせいで、なかなか最後の実験対象であるブロンに手を伸ばせないでいた。
しかし、せっかく千数百円も叩いて買ったのだからと、意を決して薬瓶の蓋を捻り開けた。
「げげっ……案外でけー……」
あまり錠剤が好きではない自分にとって、このサイズをODするのかと考えると、少々戸惑ってしまう。
サイズはブルフェンと同じくらい。ウットの高さを二倍ていどにした大きさである。
とはいえ、先日かかりつけの整形外科に頼んで処方してもらった新たなる鎮痛剤ーーポンタールよりかは幾分マシだ。
あれはおはじきよりデカいというジャンボな使用のせいで、飲み込めずに口から出してしまった。
「よう~しっ! ヤったるか!」
ブロンの瓶を傾け、じゃらじゃらと無造作に中身を蓋側に入れると、頑張って1錠ずつゴックンゴックン飲み始める。
飲み物は勿論、炭酸である三矢サイダーだ。
途中、喉に詰まりそうな気がしたりしながらも、どうにか20錠強飲み干せた。
ーーどっちの作用が先に現れるんだろうか。
ガラケーをポチポチ弄りながら暫く時が経った時、ふと気づいた。
もう一時間過ぎていたのか、と。
ーーメチルエフェドリンの集中力増大・活力上昇・覚醒作用やらが働いたせいかな……うっぷ、うへぇ、ちょい気持ち悪ぃな……。
胃と脳から来る薄い吐き気が気になり、私は布団に横たわった。
そのまま数分経った時、なにやらふわふわと身体が浮くような錯覚を抱いた。
全身が毛布で包まれているようなぽかぽかした気分、ふわりと意識が飛びそうになる謎の快感。それらに襲われながら、マッタリとした気持ちになっていく。
うわっ。
これはーーヤバい。
依存してしまうかもしれない。
私はOD実験で、始めてそういう感情を覚えた。
今思えば、無理もないだろう。
いくら弱いとはいえ、ジヒドロコデインはコデインーー別名メチルモルヒネの強化版。
多量に飲めば、ほとんど麻薬みたいなものなのだ。
「あー……」
眠りに落ちそうで、ギリギリ落ちない。
夢に飛び込みそうだが、そうはならない。
うたた寝しそうな時の気持ち良さが長々とつづく。
安直だが、まさしくウットリとするような気分になる。
ーーこれは成功だなぁ……。
一、二回ではコデインの良さがわからない可能性があるーーそう目にしていたが、どうやら体質に合っていたらしい。
初回からマッタリ感もシャキーン感も味わえたのだから……。
横になりながらも、私は眠らずに多幸的な効果を楽しむのだった。
○☆★☆☆☆○
ーー一週間後。
ドラッグストアを巡り、私は六本もブロンを購入していた。
ーー大丈夫だ。これはあくまで備蓄。量を増やさず、やる期間を空けさえしなければ、大変な事態は起こらない筈。
我慢ならず、帰宅路で蓋を開け、直接瓶の入口に口を当てて10錠ほど口内に流し入れると、自販機で購入したスポーツドリンクで一気に胃へと流し込む。
ここ数日、ブロンをODするに連れ、錠剤が苦手ではなくなっていた。
もはや10錠までなら一息で飲み干せるようにまでなっている。
『……やめときなよ、砂風』
え? どうして?
『……』
珍しい表情ーーこちらを心配するかのような表情を浮かべるルナ。
だが、どうして否定されなければならないんだという気持ちが勝り、気にせずもう一飲みした。
○☆★☆☆☆○
三ヶ月の月日が流れた。
もはや週に五回、多い時は六回ODするようになっており、量も20錠では効かなくなり、60錠ほど1日に飲むようになってしまっていた。
だが、私は不安な未来から目を背け続ける。
ルナ、視覚化しつづけるの辛いから、家にいるあいだは抱き枕カバーを寄り代として入ってくれない?
『は? な、なんでさ……抱き枕が寄り代だなんて話、わたしは聞いたことないんだけど』
お願いだよ~。ルナ専用の抱き枕カバー買ってきたから、新品だから大丈夫大丈夫!
『……はぁ~。外に出かけるとき、煙草吸うとき、この二つのタイミングは抱き枕から出させてくれるなら、仕方ないしいいよ、もう』
ありがとうルナ~、ってか、ルナって煙草吸うの?
『砂風の影響でね……?』
ルナの視線の先には、クリーム色をした煙草のソフトパッケージが置いてある。
そう。私は、いつの間にかーー本当に、気がつかないうちに……煙草に依存してしまったのだ。
ブロンと相性が良いというのも、煙草に依存してしまった理由のひとつかもしれない。
ブロンをODしたあとに吸う煙草は、素面の時と比べて三倍旨く感じられるのだ。
そう考えている隙に、私は無意識で煙草ーー通称ロングピースと呼ばれるタールが21mgという濃いタバコを取り出し点火する。
最初は1mgでも咳き込んで死にそうな感じたのに、慣れとは怖いもの。今や、両切りを除くと、紙煙草で一番ニコチンが入っているといわれる銘柄を愛飲しても、なんとも思わない。
○☆★☆☆☆○
ついに、ブロンに手を出してから一年が過ぎようとしていた。
半年が過ぎた辺りから、私は、ブロンODが要因の不眠から、ちょくちょく奇行に走るようになってしまった。
ある日は、工場内のど真ん中で立ったまま寝て……。
ある日は、仕事最中に「金魚が、金魚が」と、小さな凹みを手で探り……。
とある日は、昼食にネギトロ巻を買い冷蔵庫に入れておき、昼に確かめたら、買い間違えていたのか、ひんやり冷えた『毛抜き』と『メモ帳』が入っていたり……。
またとある日は、寝過ごして乗り換え駅から二時間先の駅まで運ばれたり……。
ある日は、ある日は、ある日は……。
心身共に、異常も現れていた。
仕事中に、なにかが弾けるような音がしたと同時に、腹部に鈍痛が走ったり、便が一週間でないかと思えば、飲まなければ鋭い腹痛と共に滝のような下痢が永遠と止まらなかったりした。
背中にぶつぶつが現れもした。
一日中、悪寒と目眩に襲われる日もあった。
全身痒くて痒くて仕方なくなり、掻きまくり大量に出血した事まである。
しかし……。
ーーや、やめられない。
私は顔を真っ青に染めながら、断薬が2日とできない事実を思い知ってしまう。
もはや1日168錠、つまり二瓶飲んでいる私は、断薬したときの離脱症状のあまりの酷さに耐えられなかった。
ゲリラ豪雨のごとき酷い下痢、しかしゲリラ豪雨とは違い永遠と止(や)まない。腹痛を刃物で刺されているような、激しい鋭利な痛み。止まらぬ異様に臭い異常発汗、熱いと思えば寒くなる体温調節の異常。手足の震えや目眩、吐き気まで、やめてから一日経った段階から現れ始め、二日目が過ぎる頃では、何一つ収まりそうにない離脱症状。
精神的にも辛い。ブロンをODしなければ何事にも関心が向かずやる気が起きない。憂鬱気分、無気力感やら倦怠感で動くのすら億劫になる。しかし、謎の焦燥感に襲われるせいで、ただ寝ているだけでさえ辛くて辛くて仕方ない。
何度も何度も自殺が頭を過り、その度、ルナが『ふざけるな』と叱責してくれたおかげで押し留まれた。おそらく現れていたのだろう、希死念慮という症状が……。
私は、この辺りから思考回路が壊れてしまったらしい。
なぜなら……。
ーーブロンODを断薬するための妙案が思い浮かんだ!
ーー簡単な事じゃないか!
ーー合法ドラッグであるブロンODをやめられないなら……
ーーブロンより強力な、違法ドラッグに依存すれば、ブロンはやめられるじゃん!
……真面目に、こう思考していたからである。
●●●●●●
こうして、私はブロンにドップリ依存し虚の奥底へと潜り沈んでいくレールへと人生を切り替えた。
ここからしばらく、やけくそ気味で合法違法問わずに乱用することになる。
次の章は、売人と運命的な遭遇を果たした日の話から始めていこうと思う。
まだ向精神薬には依存していなかったが、かかりつけの整形外科で処方されたマイスリーの脱抑制パワーにより、訪れた奇跡を話していきたい。
それは、この私という存在の人生が崩れ去らないように止めていてくれていた、最後の防波堤。それを、粉々に、木っ端微塵に破壊した出来事。
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