3 / 3
受け取り方の違い
しおりを挟む
小さいころ勉強をしていると決まって両親に怒られた。
「女の子が賢くなっても何の得もない」
「勉強する暇があったら可愛くなる努力をしろ」
二言目にはそれだった。
なぜ賢くなってはいけないのかと聞いても、
まともな答えは返ってこない。
お前は考えなくていい、ただ言われたことだけしていろ。
私の考えは聞いてすらもらえなかった。
大学に行きたいと言った時はとくにひどかった。
「女の子は結婚して家庭に入るから大学は意味がない」
「お金の無駄」
特待生を狙える成績だったのに願書すら出させてもらえなかった。
必死に大学に行くメリットを説明したけど、
理解する気すらないようでとにかく就職しろの一辺倒。
結局、高卒で就職したのが今の会社だ。
最初の上司は厳しい人だった。
ミスしていればさんざんに怒鳴るし、
理屈のおかしいことを言うとずっと追及される。
よく他の子から「最悪な人が上司になったね」と同情された。
でも私としてはそこまで悪い環境じゃなかった。
たしかに説明の矛盾点を追及されるのは大変だったし、
怒鳴られるのは嫌だった。
けど私の話を聞いて理解しようとしてくれた。
考えの間違いを指摘して、
出来るようになるまで指導してくれた。
親のように「何も出来なくていい」と言って、
放り出すようなことはなかった。
怒鳴られることがなくなったころに、
上司が異動になった。
周りからは心配されたけどもう十分一人でやっていける。
それぐらい私はいろいろなことが出来るようになった。
・・・
数年後、同じ部署に新入社員が配属された。
井原君と言う男の子だった。
同じ部署の工藤さん(女性)が上司になるので立場的には同僚となる。
傍目で見る限り仲良く仕事をしているようで、
怒られている所を見たことがないぐらいだった。
そして井原君が入社して一年経った頃のことだ。
「これ発注したいんですけど」
「あの、発注書は?」
「え?」
井原君が発注したいと言う部材は、
発注書を書いて私経由で上長に提出するものだった。
発注書が必要なことも書き方も全て入社一か月以内に教わるものなので、
なぜ持ってこずに頼みに来たのか不思議だった。
「発注書が必要なので持ってきてもらえますか?」
「あ、そうなんですか」
返事はするけど動かない。
持ってくるのを忘れたのかと思ったけど、
もしかして書くのを忘れてたんだろうか?
「あの、作成まだなら作ってきてもらえますか?」
「発注書はどこにあるんですか?」
「え?」
「教えてください」
発注書知らないってもう入社して一年経つよね。
今までどうやって仕事してたんだろう。
「知らないなら調べた方が……」
「だから今聞いてるじゃないですか」
え、この状況で聞くことを"調べる"っていうの?
答えを教えてもらうのは"調べる"ことではないと思うけど……。
私が返事に困っていると、
工藤さんが井原君に発注書を渡した。
「ああ、これだったんですね、すぐ書いてきます」
「あ、はい」
工藤さんは井原君が去るのをにこやかに見守った後、
こちらに振り返って怒り出した。
「発注書ぐらい渡してあげればいいでしょ!!」
「まさか知らないなんて思いませんでした」
「あなたが知ってるんだからフォローしてあげればいいでしょ!!」
工藤さんは、
「私がフォローしない」「後輩を育てる気がない」と
30分ぐらいなじって去っていった。
私が悪かったんだろうか。
素直に発注書を渡してあげればよかったんだろうか。
でも2年目で発注書を自分で提出できないって致命的だと思う。
それに他人に答えを聞くことを"調べる"と言っているのも怖い。
他人が努力して得た知識や経験で答えを教えてもらっているのに、
それを受け取るだけのことを"調べる"と言っている。
さっきのやり取りだと井原君がそれを当たり前と思っているようだ。
"出来ない"から"フォローしてもらってる"のを
"フォローしてくれない"から"出来ない"と理解していないだろうか。
奇しくもこの懸念は当たってしまった。
4年後工藤さんが結婚退職して井原君が一人で仕事をすることになったけど、
井原君は仕事を理解していなかった。
それでも教えられた手順通り行っているならまだよかった。
実際は教わった仕事を自己流にアレンジして行っていて、
理解していない状態でやり方を変えているので、
いろいろ問題が起きた。
けれども井原君はその問題の原因すら理解できなかった。
「理解してないって文句言うなら理解してる人がやればいいのに」「僕が問題解決できないのは知ってるでしょ?」「先輩は後輩をフォローして当然では?」「答え知ってるなら教えてくれればいいのに」「僕がやるよりあなたがやった方が早いですよね」
井原君が問題を起こして周りがフォローする。
しかもフォローしてもお礼を言われるどころか
「判断が遅い」と文句を言われることもあった。
そのため次第に誰も助けようとしなくなった。
結局井原君は退職していった。
・・・
しばらくして代わりの新人が配属された。
「桑島と申します、よろしくお願いいたします」
教育担当は私になった。
井原君のようなことが起きないように頑張らないと。
まずは簡単な仕事から教える。
手書きのアンケート用紙の内容をexcelに入力する作業だ。
作業自体は単純だけどいくつか注意しないといけないポイントがある。
「アンケート用紙の内容をexcelファイルに入力してほしいの」
「先輩、これはそのまま入力すればいいんですか?」
答えを教えるのは簡単。
でも自分で考える癖をつけた方がいい。
「うーん、どうやるのが正解だと思う?」
「こんな感じでやってみたらどうですか?」
手書きのアンケート用紙をスキャナーを使ってPCに取り込み、
文字を自動で読み取らせて(OCR機能)コピペしている。
おお、すごいな、この子。
でも今回は失敗かな。
「どうしてこれが正解だと思ったの?」
「手順が一番楽で早いですから」
なるほど、たしかに手作業で入れるより段違いに早い。
ただこの方法には問題があるんだよね。
「今回は手作業で入れる方がいいかな」
「なるほど……それはどうしてです?」
「読み取り間違いが困るから」
OCR機能の問題、それは読み取り間違いが多いこと。
特に手書きの文章は読み取りづらい。
「先に自動で入れて後で見直したらどうでしょう?」
良い意見。ちゃんと話を理解して対応策を考えてる。
ただちょっと知識が不足しているかな。
「校正するってことだね、その校正ってかなり難易度高くなるの」
みんな軽く考えているけど、
校正という仕事はかなり大変だ。
人間は最初と最後の文字があっていれば自動補完してしまう。
有名なのはこの文章だ。
[こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です]
普通に読めてしまう。
これぐらい入れ替わっていれば気づくけど、
一字入れ替わってるぐらいなら気づかずに読んでしまう。
校正はこういうのに全て気づかないといけない。
しかもOCR機能の場合、さらに2つ問題がある。
一つ目は入力時の違和感が存在しないこと。
例えばさっきの文章のように、
明らかに間違っている文言を入力しようとしたら、
その時点で気づく可能性が高い。
けどOCRで入力してしまうとそういうことは気づかない。
二つ目に漢字のチェックが面倒になる。
例えば手書きは[客]と書かれているのに入力は[容]になっていたりする。
これはOCR機能特有の現象。
これを見つけるのが至難の業だった記憶がある。
上記の内容を説明すると、
桑島君が感心した声をあげた。
「よく知ってますね」
「昔アルバイトでちょっとね」
かつてアルバイトで文字校正の仕事をしていた。
OCR機能で入力された文章は本当に大変だった。
手書きだと絶対にありえない間違いがあるから、
どこを注意すればいいかが全然違う。
「理解しました。今回は手入力しますね」
「うん、お願い」
ちゃんと理解してくれたかな。
自分で考えて相手に伝えて間違いを指摘してもらう。
相手に間違いを指摘されるのは嫌なものだけど、
それをされないと間違えたままになる。
そんなことをしなくても、
正解を教えてもらえば済むと思う人も多い。
けどそれじゃ自分の考えは変わらない。
私もそうだ。
親の言う正解をずっと教えられてきたけど、
今でも全然理解できていない。
それこそ社会に出た今でも、
親の言うことは間違っていると思っている。
・・・
しばらく入力作業をしてもらったけど、
途中で桑島君が相談に来た。
「先輩、間に合いそうにありません」
悲痛な顔で相談に来た。
思ったより入力が進まなかったらしい。
手書きの文字は読みづらいから仕方ない。
もちろん手伝いはするけど、
その前になぜ私にお願いするのかは確認しておかないと。
「どうすればいいと思う?」
「助けてください」
「どうして?」
「……先輩だから?」
間違ってはいないけど抜けている言葉があるね。
先輩だからって手伝わないといけない理由はない。
もっと明確な言葉がある。
「他の人も先輩だよ?」
「あ、指導してくれる先輩だからです」
「そうだね、指導する人は責任取らないと駄目だからね」
「なるほど」
「助けを乞う相手と理由はしっかり考えないと駄目だよ」
「どうしてです?」
「"助けてもらう"のであって"助けさせてやる"ではないから」
それを理解していないと大変なことになる。
僕を助けて当然という態度でいれば、
次第に助けてくれる人はいなくなる。
また相手を考えず助けを乞うても何もしてくれない。
助ける義理も義務も責任も権限もないのだから。
・・・
数カ月後
桑島君は大分仕事を覚えてくれた。
きちんと自分の考えを説明できるし、
私が思いつかない発想があったりして面白い。
わからないことをちゃんと質問できるのも良いことだ。
「先輩、これ発注お願いします」
「……どうしてこの納期なの?」
「え、発注先が提示してきたのがこの納期だったので」
「この納期で間に合うのか他部署に確認は?」
「すみません、してませんでした」
「ならすぐする」
「はい」
だいぶ考えられるようになったけどたまに抜けている。
どういう所で抜けやすいか纏めて、
注意するポイントとして教えてあげよう。
ポイントをまとめるついでにちょっと休憩もしようかな。
そう思い休憩室に行くと、
ちょうど同期がお茶を飲んでいた。
「頑張ってるね」
「うん、いろいろ努力してるのが伝わってくるよ」
「奈美もね」
「私はそこまで……」
私は褒められるほどのことはしていない。
頑張っているのは桑島君だ。
「ただちょっと指導が厳しいって声も聞こえるよ」
「そこまで厳しいつもりはないんだけど」
「まあ、奈美は上司が厳しかったからね」
言い方は注意しているつもりだけど、
もっとポイントを絞って要点だけを指摘しないといけない。
相手の感情否定とか人格批判にならないようにしないと。
「まあ、コミュニケーションは取ったほうが良いよ」
「ありがとう、頑張ってみる」
コミュニケーションか。
といっても仕事中に雑談する訳にもいかないし、
どうしても定時後になるよね。
となるとご飯を食べにいくぐらいかな?
でも上司とご飯って楽しいんだろうか……。
休憩所から戻ると桑島君が一生懸命働いている。
よく頑張ってるよね。
下手に話しかけて邪魔しちゃいけないけど、
これもコミュニケーションの一環かな。
「どうかな?」
「あ、先輩、順調ですよ」
「それはよかった」
「何かありました?」
「本当に気が向いたらで良いんだけど定時後一緒にご飯行く?」
「いいんですか?」
「無理しなくていいからね」
「今日で考えておけばいいですか?」
「え、あ、うん」
「楽しみにしています」
よかった、思いのほか食いつきがよかった。
上司とのご飯なんて気を使うだろうし、
少しでも楽しくいてもらえるように頑張らないと。
あ、上司がご飯誘うんだからおごるぐらいは当たり前よね。
後でお金下ろしておかないと。
定時後
どこかいいお店ってあるのかな。
外食なんて全然しないし事前に調べる時間もなかったし……。
「先輩、お店決まりました?」
「ごめん、まだ……」
あああ、どうしよう。
せっかく誘ったのに待たせてしまってる。
こんなのじゃ気分を悪くするだけだ。
あまり慣れない作業で混乱していると、
桑島君が声をかけてきた。
「先輩、僕のお勧めのお店行きませんか?」
「でも、私が誘ったのに……」
「先輩が誘ってくれた、僕はお店を紹介した、ほらWin-Win」
「ふふっ、何に勝つのよ」
普段と違う桑島君の態度を見て気が楽になった。
本人がそういうなら構わないよね。
案内されたのはけっこう大きな居酒屋だった。
「ここ、僕の知り合いがやっているお店なんですよ」
「すごいね、繁盛してる」
早速席に着くとお通しが出てきた。
「何頼みます?」
「好きなの頼んでいいよ」
「ならこれとこれと……お酒はどうします?」
「私お酒飲めないんだよね、すぐ酔っちゃって」
「すぐ酔えるなら安上がりでいいじゃないですか」
「駄目駄目、前後不覚になるから」
飲み物はウーロン茶をお願いした。
桑島君も私に付き合ってソフトドリンクを頼んでいた。
注文が来るまでの時間に何か話さないと。
桑島君が話したくなるような楽しい話題って何だろう。
何を話すか悩んでいると桑島君の方から話し始めた。
「先輩は長いんですか?」
「え、あ、そうだね、もう10年目かな」
「え!? でも若いですよね?」
若い、かぁ。
改めて年齢を考えるともう28。
時間がたつのは早いなぁ。
「28だからそこまで若くもないよ」
「全然そうは見えないです」
お世辞かな?
そんなに気を使わなくてもいいのに。
この話をきっかけに、ある程度プライベートなことも話した。
「今日はご馳走様でした、楽しかったです」
「うん、それならよかった」
「また誘ってくださいね、今度は割り勘で」
「そうだね、また今度」
なんとか円満にコミュニケーション出来たと思う。
「今度」か。
でも社交辞令かもしれないし、無理して誘わない方が良いよね。
・・・
数か月後のとある日、課長から呼び出された。
「突然で申し訳ないんだが、桑島君が購買に行くことになった」
「え?」
「英語を話せる人が不足していてどうしても欲しいそうだ」
「そうですか……」
いろいろ仕事を覚えてきてこれからって感じだったのに。
でもスキルが活かせるならその方がいい。
早速桑島君のところに行くと、
既に机を片付け始めていた。
「聞きましたか」
「うん、すぐなの?」
「らしいですね」
「そうなんだね……」
「いろいろお世話になりました」
「まだ早いよ」
桑島君は引き継ぎの終わった数日後に異動していった。
また一人になってしまった。
仲良く出来ていたと思ったのに残念。
・・・
2年後
桑島君は購買でトップクラスに活躍しているらしい。
私の下ではきっとそこまで活躍させてあげられなかった。
適材適所ということだろう。
そして私の所にもようやく新人が配属された。
名前は坂本君と言う。
ただどうにも上手く教育できていない。
自分で考えさせようとしてるんだけど、
まったく自分の考えを言ってくれない。
それは行動も同じで、
何を考えてその行動をしたのか教えてくれない。
少しでも出来ることをやってもらおうと、
仕事を厳選して理解しやすい仕事を割り振っていく。
説明を理解したかは都度確認するようにして、
一歩ずつでも前に進むようにする。
出来るだけのことはやってきたつもりだった。
しかし、ある日のことだった。
坂本くんがA社に発注を出すといって見積もりを持ってきた。
これはB社と同時に見積もりを取っていて、
B社の方が少し値段が安かったものだ。
あえてA社を選んだ理由が気になったので質問した。
「ここはどうしてA社を選んだの?」
「A社のほうが良さそうだったので……」
「どうしてそう思うの?」
「A社の方が納期が早いので……」
「B社の方が料金安いよね?」
「まあそうですけど……」
「納期急いでる仕事なの?」
「分かりました。B社にします」
「え? 何が分かったの?」
「料金安い方がいいってことですよね、分かりました」
「……分かったならいいけど」
納期が重要じゃない仕事で、
料金より納期を優先する意味はない。
A社の方がアフターサービスがいいとかの理由があるなら、
教えてもらおうと思ったのだけど。
この時はそれぐらいの印象だった。
しばらくたった後お茶でも飲もうと思い休憩室に向かう。
入り口まで来ると休憩室の中から声が聞こえた。
「あのクソお局が!!」
「まあまあ、いつもの癇癪でしょ」
大きな声を出しているのは坂本君で、
他に女性の誰かがいるようだ。
「細かいことをチクチクと、それで何が変わるんだよ」
「揚げ足取りたいんでしょ」
「答えが分かってるなら教えろってな」
「若者にマウント取りたいんだろうね」
「あんたの頭ん中の正解なんて知らねーっつーの」
え……、私のこと?
明らかにさっきの話のことだ。
「あれはもはやパワハラだろ、八つ当たりに付き合ってられるかよ」
「相談窓口みたいなのあるよね、そこ行ったら?」
「いい案だけどバレないかな?」
「一応機密保持はするらしいよ」
駄目だ、このままだと涙が。
急いでトイレに駆け込んだ。
入ると同時に涙があふれてくる。
あんな風に思われてたなんて。
単に分からなかったから聞いたつもりだった。
相手の考えを聞いていたのも、
理解できてるか確認してたつもりだった。
パワハラだなんてまったく思ってなかった。
この日はすぐに早退した。
そして数日後、課長から坂本君の異動を告げられた。
「坂本君がどうしても生産管理に行きたいという話でね」
休憩所の話を聞いていなければ納得したかもしれない。
でも休憩所の話を踏まえると異動したかっただけだろう。
「私の教育が良くなかったということですか」
「うーん、まあ坂本君には合わなかったのかもしれないね」
課長は言葉を濁しつつも否定はしなかった。
やっぱりそういうことなんだ。
私の足元がボロボロと崩れ落ちていく気がした。
その後、課長が何を言っていたかは記憶にない。
気づいた時には自分の席に戻っていた。
そういえば桑島君も同じように購買に行っていたな。
あのころは素直に信じていたけど、
同じように私からのパワハラに耐えられなくて、
異動していったんだろうな……。
呼び出されたのが定時間際だったので、
チャイムと同時に会社を飛び出す。
もうすべてを忘れたい。
そう思って居酒屋に入り、
慣れないお酒をがぶ飲みしていた。
私のしてきたことは間違っていた。
教育するどころか拒絶された。
完全に上司失格だろう。
いや、それどころか人として失格だ。
……会社、やめてしまおうか。
もう居場所なんてない。
涙がとめどなくあふれてくる。
でも店の中で声を出す訳にはいかない。
顔を伏せてタオルを口元に置いて少しでも声を抑える。
「あれ? 先輩が居酒屋なんてめずらs……先輩?」
「桑島君……」
なんというタイミングだろうか。
顔を合わせるのがつらい。
きっと私の顔なんて見たくないだろうに、
わざわざ声をかけてくれるんだね。
「え? お酒飲んでます?」
「ちょっとね」
顔を合わせないことで拒絶の意志を伝えたつもりだけど、
桑島君は気にせず私の横に座った。
「何かあったんですか?」
「特になにもないよ」
「ない訳ないですよね?」
私の顔を掴んで無理やり顔を向けさせられる。
涙でメイクがボロボロの顔を見られて、
限界が来てしまった。
「後輩がね、異動したいって」
「……」
「上司失格だって。パワハラだって」
「先輩、店出ましょう」
「どうして?」
「どうしてもです」
腕を掴まれてレジに連れていかれる。
桑島君はそのまま手早く精算まで済ませて外に出た。
私のお勘定を桑島君に払わせてしまった……。
後でお金渡さないと。
「よさそうな場所がないので僕の家に案内しますね」
有無を言わせぬ態度で私を引っ張っていく。
酔いが回ってるから頭が回らない。
どうして私は桑島君に連れられているんだろう。
桑島君の家に連れていかれてソファに座らされる。
「水です、飲んでください」
「ありがとう」
持ってきてもらった水を飲む。
外の冷たい空気に当たったのと水を飲んだことで、
ようやく少し落ち着いた。
「落ち着きましたか?」
「うん、ありがとう」
「まだ倒れそうになってるじゃないですか」
「思ったより酔いが回るのが早かったね」
「普段お酒飲まない人が飲むからですよ、危ない所だったなぁ」
桑島君は昔と変わらない対応だった。
どうせ最後になるだろうし直接聞こう。
「桑島君は私が嫌で購買に行ったの?」
「そんな訳ないです、向こうからの要望です」
少し怒りながらきっぱりと言い切る。
よかった、少なくても桑島君は違ったんだ。
でも私のパワハラについては、
部下だった桑島君が一番詳しいはず。
「ちょうどいいので私の悪い所を教えてほしい」
「先輩に悪い所なんてないですよ」
「本音での意見が欲しいの」
「……なら一般論として言わせて頂きますね」
桑島君が前置きして話し出した。
「先輩、必ずこちらの考えを聞きますよね?」
「そうだね」
「それで考えの間違いを指摘する」
「うん」
「それなら正解を先に言えよと思う人が多いです」
「でもそれじゃ」
自分の考えのどこが間違っているのか理解できない。
正解を聞くだけで自分の間違いを全て理解できるなら、
学校の勉強なんて100点取れるだろう。
そう思ったのが明らかに顔に出ていたのだろう。
桑島君が話を続ける。
「わかります、考えの間違いを理解できないということですよね」
「うん」
「でもそもそも先輩の理解が間違っているんです」
「え?」
「彼らは先輩の頭の中の答えを予想する問いかけだと思ってます」
「そんな問いかけに何の意味が」
「先輩が怒るための材料探しですね」
「怒る材料探し……?」
「つまり八つ当たりされてるという認識です」
もしそう思われているなら私の質問は何の意味もない。
自分の考えではなく正解っぽい何かを答えているだけ。
「そう思われる理由は他にもあります」
「他にも……」
「こちらが強く言うと引き下がりますよね」
「そうだね、嫌だと思っているならやめなきゃって思うから」
「弱いものにだけ強いと思われます」
「そんな……」
「まとめると弱いものに八つ当たりしているということですね」
そんな風に思われていたんだ。
それなら私は最低の人間だ。
「僕が思うに先輩は愛が重すぎるんですよ」
「愛……?」
「出来るようにしてあげたいって思ったんでしょ?」
「そう……」
「でも彼らは出来るようになりたいなんて思ってないんですよ」
「え、でも出来るようになりたいって言ってたよ?」
本人がそう言っていた。これは間違いない。
でもそれを見て少し残念そうな表情になる。
「それは夢を語っているだけで努力する気なんてないんですよ」
「夢があるなら努力するものだよ?」
「そこが理解が間違っている点です」
首を大きく振って否定する。
「努力なんてしたくない、でも夢は叶えたいということです」
「え?」
「例えるなら「なにもせずお金持ちになりたい」です」
意味が分からない。
努力せずに夢がかなう可能性はほぼ0だ。
そんなものに期待するの?
「でもそれじゃ夢がかなわない時どうするの?」
「その時は人のせいにすればいいんです」
「人の!?」
何言ってるの!?
自分が出来なかったのに人のせいにするなんてありえない。
「ありえないって顔してますね」
「実際ありえないよ、だって自分の夢だよ!?」
「思い出してください、彼らの夢が失敗した時誰が責任取ってますか?」
……私だ。
教育が悪いんだから私が責任を取らないと、って……。
「成功したら自分のおかげ、失敗したら他人のせい、理解できますか?」
そんな、そんなことって。
「先輩がしないといけなかったのは相手の考えの本質を知ることです」
「あ……」
「上辺の考えを知って理解した気になっていたのが失敗点です」
親も私のためだと言っていた。
私を理解した気でいたからそう言っていたのかもしれない。
私も親がやっていたことと同じことをやっていたんだ……。
「ごめんね……、桑島君も嫌だったね」
「一般論を言っただけで僕個人の考えは違います」
ちょっと不愉快そうな顔をして答える。
「たしかに先輩は厳しかったです、それは認めます」
「やっぱり……」
「でも購買に行って、教えてもらったことは役に立っていると実感しました」
「え?」
そういうと桑島君は購買に行ってからのことを話し始めた。
みんな優しかったこと。
分からないと言えば一からじっくり教えてくれること。
失敗しても責められず誰かがフォローしてくれること。
考えを否定されないこと。
「素晴らしい職場だね」
私はどれも出来ていなかった。
優しくないしすぐに答えを教えず考えさせる。
失敗したら原因追及するし成果は必ず自分で出させていた。
相手の考えも否定して自分の考えを押し付けた。
なんてひどい上司だったんだろう。
そんな私の教育が役に立ったなんてとても思えない。
「そう思いますか? なら先輩に一つ質問をしましょう」
桑島君が険しい表情で口を開く。
「どこで自分の考えの間違いを矯正するのでしょうか?」
え? そんなの指摘されれば……。
あ、考えを否定されないなら自分の考えの間違いに気づけない。
でも気づく方法は他にもある。
「成果を出せないからそこで気づくんじゃないかな」
「周りがフォローしてるから成果は出せなくても困りません」
「一から教えてもらう時に気づくと思う」
「正解を教えてもらうだけでは自分の間違いに気づきませんよ」
ここでようやく気付いた。
井原君の時と同じだ。
「出来ない人はどうすれば出来るようになりますか?」
もちろん努力すれば出来るようになるだろう。
でも……。
「先輩は否応なしに努力させますが購買では自由意志です」
それはつまり努力する気がある人しか成長しないということだ。
優しいようで非常にドライな対応。
「僕は先輩から厳しいながらも努力のやり方や重要性を教わりました」
「うん」
「それが先輩の愛だったと思っています」
「ありがとう、救われた気がするよ」
私の顔から流れる涙を桑島君が指で拭う。
「だからこそ先輩からの愛をないがしろにされた現状が許せない」
「え?」
「先輩の愛は僕一人が受け取ればいいんです」
そう言って唇を合わせてきた。
唇に触れる人の温かさ、いつ以来だろうか。
荒々しく舌が口の中に入ってくる。
まるで口の中を蹂躙するかのように舌が暴れまわる。
桑島君の怒りが伝わってくるようだった。
でもしばらくすると落ち着いて舌を絡めてきた。
温度差のあった舌が段々同じ温度になってくる。
舌が溶けあっていくようで心地よい。
「先輩が苦しむ必要なんてないんです」
真剣なまなざしで私に言う。
「でも……」
「仕事が厳しいのとパワハラは違います」
そう言われても自分では分からない。
「きっと愛があるかどうかの差ですよ」
「愛?」
「そうです」
そう言ってまた唇を合わせてきた。
今度は優しく口の中を舌が動く。
歯の一つ一つを丁寧に。
奥の方に入れようとして届かず苦労しているのは、
まるで子どもみたいでかわいい。
しばらくしてようやく諦めたみたいで唇を離す。
「届きませんでした」
「限界があるよ」
ちょっと悔しそうな表情で私を抱きかかえると、
そのままベッドに寝かせられる。
「脱がしますよ」
「うん」
初めて男の人に素肌を晒す。
なのにこんなに落ち着いているのはお酒のおかげだろうか。
それとも桑島君が相手だからだろうか。
「綺麗です」
「お世辞はいいよ」
「お世辞じゃないです」
年上だし美人でもないしスタイルも良くない。
綺麗だなんて言われる要素はない。
「あっ」
思ったより大きな手。
その手が私の胸を触っている。
「小さくてごめんね」
「先輩のだから大きさなんてどうでもいいです」
嬉しそうに触っているのを見ると私も嬉しくなる。
やわやわと動かしているけど、
全然ハリがないのできっと楽しくないだろうな。
せめて5年若ければまだ……。
すると桑島君がまた唇をあわせてきた。
今度はついばむように何度も。
胸を触られながらキスされると、
どちらに意識を集中していいか分からなくなる。
「かわいいですよ」
「年上に言う言葉じゃないかな」
「好きな人には年上でも言っていいんですよ」
そう言いながら胸を揉み始めた。
「んっ」
やわやわと感触を確かめるように触られるのと違う。
今まで感じたことのない刺激なので、
ちょっと体が強張ってしまう。
「揉まれるのは嫌ですか?」
「恥ずかしい、そんなこと答えられないよ」
「いつも相手の考えを聞けと言われてましたからね」
「もう」
すこし緊張が解けた。
そうだ、別に嫌じゃない。
ただ緊張しているだけ。
しばらく合間にキスをされながら胸を揉まれる。
段々体が熱くなってきた。
触られている奥底から熱が発生しているような気分。
これが気持ちいいって感覚なんだろうか。
たまに指が乳首に当たるとお腹の辺りがうずく。
もっと触ってほしいと思ってしまう。
つい彼の手を掴んで乳首に持っていってしまった。
彼は少し驚いた様子だったけど、
理解できたようで乳首を触り始める。
「ん、あっ、んん」
こするように触られるたびに声が止まらない。
こんなに気持ちいいものだったんだ。
それとも彼に触られているからだろうか?
彼の顔をしっかり見る。
優しいけど意志は強そうな顔。
まっすぐ前を向いて、
いつも一生懸命に仕事をしていたのが記憶に残っている。
乳首が硬くなっているのが自分でも分かる。
もっと触ってほしい。
涙ではなく快感で潤んだ眼で彼を見るとキスしてきた。
違う、違うの。
キスは嬉しいけどもっと……。
胸を揉まれた時の感覚も変わってきた。
愛おしさのようなものがあふれてくる。
「あっ」
乳首を唇で挟まれた。
今までにないビリビリとした刺激がある。
それが体の中心まで届いて熱くさせる。
吸われるとその刺激がさらに大きくなる。
声が出るほどではない。
でも明らかに快感が高まってきている。
たまに舌で舐められるとふわっとした感覚になる。
こんなに気持ちいいんだ。
自分でしたことがなかったので全然知らなかった。
昔付き合ってた彼氏とはキスまでだったけど、
もしこんなに気持ちいいのを知ってたら最後までしていたかもしれない。
一生懸命胸を舐めている彼は赤ちゃんのようで、
ついあやしたくなる。
彼の子どももきっとこんな感じで一生懸命吸うんだろうな。
そんな想像をしてしまう。
あっ、パンツが濡れてる、
まるで触ってほしいと主張するように。
「下も」
両方してほしい。
言葉にならなかったけどわかってもらえたようで、
無言でうなづくと下半身に片手を伸ばしてきた。
「んっ!?」
胸の比じゃない刺激で体が跳ねた。
まるで電流が走ったみたい。
自分で触れてもこんなになったことはない。
彼に触られているから?
「あっ、あっ、あっ」
パンツの上から撫でられるだけで、
頭がスパークするような感覚になる。
「駄目、駄目、変に、変になっちゃう」
「それが気持ちいいってことですよ」
そう言って胸への刺激も再開し始めた。
さっきまでと違って胸への刺激も過敏になっている。
「んっ、あっ、んっ、ん」
訳がわからない。
今何をされているのかも理解できない。
ただただ頭が真っ白になっていく。
「んっ、駄目、何か、んっ、んんんーー」
頭の中どころか目の前も真っ白になる。
意識もすべて飛んでただ気持ちよさだけが残る。
これが達するってやつなのかな。
話で聞いたことしかないので分からない。
真っ白になった目の前がだんだん見えるようになると、
微笑んでいる彼の姿が目に映る。
真っ白の頭の中に彼の笑顔が書き込まれていく。
彼が欲しい。
全部受け止めたい。
「入れてほしい」
「わかりました」
彼が少し離れて机を開けている。
コンドームを探しているようだ。
「いいよ」
「駄目です、ちゃんとしないと」
「そのままを感じたいの」
彼が戻ってきて服を脱ぎ始める。
初めて見た男性のあれはとても大きく感じた。
もうしっかり直立しておりすぐにでも入れられそうだ。
「入れます」
「うん」
そろそろと中に入ってくる彼。
「くっ」
「だ、大丈夫ですか?」
「いいの」
思ってたよりは痛くない。多分お酒のせいかも。
彼は心配そうに見ているので笑顔で返す。
もう私は気持ちよくしてもらったのだから、
今度は私が気持ちよくしてあげたい。
彼は私に覆いかぶさってるけど、
力がかからないように少し体を離している。
気を使ってくれているのは嬉しい。
でも彼の体温も感じたい。
彼の体を引き寄せる。
驚いた顔でこちらを見るので唇を奪う。
さっきとは逆に彼の口の中を蹂躙する。
時々跳ねるように動くのは気持ちいいんだろう。
「入ってるだけで気持ちいいです」
「よかった、初めてだからあんまり分からなくて」
本当は口でもしてあげたかった。
でもやり方が全然分からない。
勉強不足なのが悔しい。
「動いても大丈夫ですか?」
「うん、来て」
ゆっくりと彼が動く。
蕩けそうな表情で動いているので、
きっと気持ちいいんだろう。
私の方はまだ若干痛みがある。
だけど彼が動くたびに、
心の隙間が埋められるような気持ちになる。
頭の中が彼で塗りつぶされていく。
彼を受け入れているという事実が、
心の中を幸福感で満たしていく。
こういう行為は快楽のためにするのだと思ってた。
こんなに満たされる気持ちになるんだ。
彼の動きが早くなる。
私で気持ちよくなる彼を見ていると、
最後まで受け止めたいと思ってしまう。
でも妊娠したら……。
私が大丈夫と言っても彼はきっと責任を感じるだろう。
そんなことを考えていたら突然彼の動きが止まった。
そして私の顔をじっと見てくる。
「ど、どうしたの? 気持ちよくなかった?」
「先輩と出会ってすぐ好きになりました」
突然話し始めたのも驚いたけど内容にもびっくりだ。
思っていたよりずっと前だった。
「そんな時期に何かあった?」
「最初に文字の入力と校正のこと教えてくれましたよね」
そういえばそんなことを教えてた。
今考えるとなぜあんなことを教えてたんだろう。
「真剣に教えてくれる顔が綺麗だと思ったのがきっかけです」
「え、それだけ?」
「それで僕のことを真剣に考えてくれる姿に愛を感じたんです」
成長してほしいという気持ちはあったけど、
好意とか愛情は特になかったと思うんだけど……。
「結婚を前提にお付き合いしてください」
「なぜこんなタイミングに?」
「生で入れた時点で僕の覚悟は決まっていますよ」
ああ、妊娠したらどうあれ責任を取ると言いたいんだ。
でも責任を取るにしろ交際の申し込みにしろ、
このタイミングで言う必要ないよね。
入れる前ならともかく。
このちょっと抜けた感じが懐かしい。
しかも今、真剣な顔で返事を待ってるけど、
私に入れた状態なんだよね。
ちょっと下半身に力を入れてみる。
「あふっ、って何するんですか」
「ふふっ」
ちょっと声を出してすぐ取り繕う姿がかわいい。
うん、この人しかいない。
「末永くよろしくお願いします」
そういって足で彼の腰をしっかりホールドする。
「え、あの……?」
「覚悟は決まってるのよね?」
彼の覚悟が決まっているなら、
なおさら最後まで受け止めてあげたい。
「もちろんです」
そう言うと彼は腰を動かし始めた。
私が少しでも気持ちよくなれるポイントを探すように、
いろいろ角度や動きを変化させている。
実際はあまり気持ちよさは感じない。
ただ彼の気持ちが嬉しくて笑顔になる。
その私の笑顔を気持ちよさと勘違いしたようで、
一定のリズムで動き始めた。
そこからあっという間に射精した。
中で脈動するのがうっすら感じられる。
満足した顔をする彼を見て思わず抱きしめてしまう。
しばらく抱きあった後、
彼が私の体から離れて横になる。
「先輩に追いついてから告白しよう、そう思っていました」
「そうなんだ」
「でも今日、明らかに会社辞めようとしてましたよね?」
「そんなことないよ」
嘘だ。辞めようと思っていた。
「知ってましたか? 先輩が「そんなことないよ」っていう時は大体嘘なんですよ」
「そんなk、あっ」
「口癖になっているんですね」
笑われてしまった。
なにかすべて見透かされてるみたい。
でも言い換えれば私を理解してくれているということ。
「僕が一緒に頑張るから仕事続けませんか?」
「うん」
私の悪い所は教えてもらった。
後は改善していくだけだ。
そして支えてくれる人がいる。
これだけ条件が揃っているなら頑張れる。
・・・
数日後、また課長から呼び出される。
坂本君の異動が早まったのだろうか。
会議室に入ると課長と彼がいた。
「急で悪いんだけど桑島君が君の下に配属されることになった」
「え!?」
「またお願いしますね、先輩」
「購買で頑張ってたんじゃないの!?」
「彼の熱烈な要望でね」
もう決定したことらしい。
課長からいろいろ説明を受けて二人で会議室から出る。
「どうしてこんなことを?」
「言ったでしょう、一緒に頑張るって」
言ってたけどまさか異動までしてくるなんて。
「一緒に部下を育てましょう、少し早い子育てみたいなものです」
「女の子が賢くなっても何の得もない」
「勉強する暇があったら可愛くなる努力をしろ」
二言目にはそれだった。
なぜ賢くなってはいけないのかと聞いても、
まともな答えは返ってこない。
お前は考えなくていい、ただ言われたことだけしていろ。
私の考えは聞いてすらもらえなかった。
大学に行きたいと言った時はとくにひどかった。
「女の子は結婚して家庭に入るから大学は意味がない」
「お金の無駄」
特待生を狙える成績だったのに願書すら出させてもらえなかった。
必死に大学に行くメリットを説明したけど、
理解する気すらないようでとにかく就職しろの一辺倒。
結局、高卒で就職したのが今の会社だ。
最初の上司は厳しい人だった。
ミスしていればさんざんに怒鳴るし、
理屈のおかしいことを言うとずっと追及される。
よく他の子から「最悪な人が上司になったね」と同情された。
でも私としてはそこまで悪い環境じゃなかった。
たしかに説明の矛盾点を追及されるのは大変だったし、
怒鳴られるのは嫌だった。
けど私の話を聞いて理解しようとしてくれた。
考えの間違いを指摘して、
出来るようになるまで指導してくれた。
親のように「何も出来なくていい」と言って、
放り出すようなことはなかった。
怒鳴られることがなくなったころに、
上司が異動になった。
周りからは心配されたけどもう十分一人でやっていける。
それぐらい私はいろいろなことが出来るようになった。
・・・
数年後、同じ部署に新入社員が配属された。
井原君と言う男の子だった。
同じ部署の工藤さん(女性)が上司になるので立場的には同僚となる。
傍目で見る限り仲良く仕事をしているようで、
怒られている所を見たことがないぐらいだった。
そして井原君が入社して一年経った頃のことだ。
「これ発注したいんですけど」
「あの、発注書は?」
「え?」
井原君が発注したいと言う部材は、
発注書を書いて私経由で上長に提出するものだった。
発注書が必要なことも書き方も全て入社一か月以内に教わるものなので、
なぜ持ってこずに頼みに来たのか不思議だった。
「発注書が必要なので持ってきてもらえますか?」
「あ、そうなんですか」
返事はするけど動かない。
持ってくるのを忘れたのかと思ったけど、
もしかして書くのを忘れてたんだろうか?
「あの、作成まだなら作ってきてもらえますか?」
「発注書はどこにあるんですか?」
「え?」
「教えてください」
発注書知らないってもう入社して一年経つよね。
今までどうやって仕事してたんだろう。
「知らないなら調べた方が……」
「だから今聞いてるじゃないですか」
え、この状況で聞くことを"調べる"っていうの?
答えを教えてもらうのは"調べる"ことではないと思うけど……。
私が返事に困っていると、
工藤さんが井原君に発注書を渡した。
「ああ、これだったんですね、すぐ書いてきます」
「あ、はい」
工藤さんは井原君が去るのをにこやかに見守った後、
こちらに振り返って怒り出した。
「発注書ぐらい渡してあげればいいでしょ!!」
「まさか知らないなんて思いませんでした」
「あなたが知ってるんだからフォローしてあげればいいでしょ!!」
工藤さんは、
「私がフォローしない」「後輩を育てる気がない」と
30分ぐらいなじって去っていった。
私が悪かったんだろうか。
素直に発注書を渡してあげればよかったんだろうか。
でも2年目で発注書を自分で提出できないって致命的だと思う。
それに他人に答えを聞くことを"調べる"と言っているのも怖い。
他人が努力して得た知識や経験で答えを教えてもらっているのに、
それを受け取るだけのことを"調べる"と言っている。
さっきのやり取りだと井原君がそれを当たり前と思っているようだ。
"出来ない"から"フォローしてもらってる"のを
"フォローしてくれない"から"出来ない"と理解していないだろうか。
奇しくもこの懸念は当たってしまった。
4年後工藤さんが結婚退職して井原君が一人で仕事をすることになったけど、
井原君は仕事を理解していなかった。
それでも教えられた手順通り行っているならまだよかった。
実際は教わった仕事を自己流にアレンジして行っていて、
理解していない状態でやり方を変えているので、
いろいろ問題が起きた。
けれども井原君はその問題の原因すら理解できなかった。
「理解してないって文句言うなら理解してる人がやればいいのに」「僕が問題解決できないのは知ってるでしょ?」「先輩は後輩をフォローして当然では?」「答え知ってるなら教えてくれればいいのに」「僕がやるよりあなたがやった方が早いですよね」
井原君が問題を起こして周りがフォローする。
しかもフォローしてもお礼を言われるどころか
「判断が遅い」と文句を言われることもあった。
そのため次第に誰も助けようとしなくなった。
結局井原君は退職していった。
・・・
しばらくして代わりの新人が配属された。
「桑島と申します、よろしくお願いいたします」
教育担当は私になった。
井原君のようなことが起きないように頑張らないと。
まずは簡単な仕事から教える。
手書きのアンケート用紙の内容をexcelに入力する作業だ。
作業自体は単純だけどいくつか注意しないといけないポイントがある。
「アンケート用紙の内容をexcelファイルに入力してほしいの」
「先輩、これはそのまま入力すればいいんですか?」
答えを教えるのは簡単。
でも自分で考える癖をつけた方がいい。
「うーん、どうやるのが正解だと思う?」
「こんな感じでやってみたらどうですか?」
手書きのアンケート用紙をスキャナーを使ってPCに取り込み、
文字を自動で読み取らせて(OCR機能)コピペしている。
おお、すごいな、この子。
でも今回は失敗かな。
「どうしてこれが正解だと思ったの?」
「手順が一番楽で早いですから」
なるほど、たしかに手作業で入れるより段違いに早い。
ただこの方法には問題があるんだよね。
「今回は手作業で入れる方がいいかな」
「なるほど……それはどうしてです?」
「読み取り間違いが困るから」
OCR機能の問題、それは読み取り間違いが多いこと。
特に手書きの文章は読み取りづらい。
「先に自動で入れて後で見直したらどうでしょう?」
良い意見。ちゃんと話を理解して対応策を考えてる。
ただちょっと知識が不足しているかな。
「校正するってことだね、その校正ってかなり難易度高くなるの」
みんな軽く考えているけど、
校正という仕事はかなり大変だ。
人間は最初と最後の文字があっていれば自動補完してしまう。
有名なのはこの文章だ。
[こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です]
普通に読めてしまう。
これぐらい入れ替わっていれば気づくけど、
一字入れ替わってるぐらいなら気づかずに読んでしまう。
校正はこういうのに全て気づかないといけない。
しかもOCR機能の場合、さらに2つ問題がある。
一つ目は入力時の違和感が存在しないこと。
例えばさっきの文章のように、
明らかに間違っている文言を入力しようとしたら、
その時点で気づく可能性が高い。
けどOCRで入力してしまうとそういうことは気づかない。
二つ目に漢字のチェックが面倒になる。
例えば手書きは[客]と書かれているのに入力は[容]になっていたりする。
これはOCR機能特有の現象。
これを見つけるのが至難の業だった記憶がある。
上記の内容を説明すると、
桑島君が感心した声をあげた。
「よく知ってますね」
「昔アルバイトでちょっとね」
かつてアルバイトで文字校正の仕事をしていた。
OCR機能で入力された文章は本当に大変だった。
手書きだと絶対にありえない間違いがあるから、
どこを注意すればいいかが全然違う。
「理解しました。今回は手入力しますね」
「うん、お願い」
ちゃんと理解してくれたかな。
自分で考えて相手に伝えて間違いを指摘してもらう。
相手に間違いを指摘されるのは嫌なものだけど、
それをされないと間違えたままになる。
そんなことをしなくても、
正解を教えてもらえば済むと思う人も多い。
けどそれじゃ自分の考えは変わらない。
私もそうだ。
親の言う正解をずっと教えられてきたけど、
今でも全然理解できていない。
それこそ社会に出た今でも、
親の言うことは間違っていると思っている。
・・・
しばらく入力作業をしてもらったけど、
途中で桑島君が相談に来た。
「先輩、間に合いそうにありません」
悲痛な顔で相談に来た。
思ったより入力が進まなかったらしい。
手書きの文字は読みづらいから仕方ない。
もちろん手伝いはするけど、
その前になぜ私にお願いするのかは確認しておかないと。
「どうすればいいと思う?」
「助けてください」
「どうして?」
「……先輩だから?」
間違ってはいないけど抜けている言葉があるね。
先輩だからって手伝わないといけない理由はない。
もっと明確な言葉がある。
「他の人も先輩だよ?」
「あ、指導してくれる先輩だからです」
「そうだね、指導する人は責任取らないと駄目だからね」
「なるほど」
「助けを乞う相手と理由はしっかり考えないと駄目だよ」
「どうしてです?」
「"助けてもらう"のであって"助けさせてやる"ではないから」
それを理解していないと大変なことになる。
僕を助けて当然という態度でいれば、
次第に助けてくれる人はいなくなる。
また相手を考えず助けを乞うても何もしてくれない。
助ける義理も義務も責任も権限もないのだから。
・・・
数カ月後
桑島君は大分仕事を覚えてくれた。
きちんと自分の考えを説明できるし、
私が思いつかない発想があったりして面白い。
わからないことをちゃんと質問できるのも良いことだ。
「先輩、これ発注お願いします」
「……どうしてこの納期なの?」
「え、発注先が提示してきたのがこの納期だったので」
「この納期で間に合うのか他部署に確認は?」
「すみません、してませんでした」
「ならすぐする」
「はい」
だいぶ考えられるようになったけどたまに抜けている。
どういう所で抜けやすいか纏めて、
注意するポイントとして教えてあげよう。
ポイントをまとめるついでにちょっと休憩もしようかな。
そう思い休憩室に行くと、
ちょうど同期がお茶を飲んでいた。
「頑張ってるね」
「うん、いろいろ努力してるのが伝わってくるよ」
「奈美もね」
「私はそこまで……」
私は褒められるほどのことはしていない。
頑張っているのは桑島君だ。
「ただちょっと指導が厳しいって声も聞こえるよ」
「そこまで厳しいつもりはないんだけど」
「まあ、奈美は上司が厳しかったからね」
言い方は注意しているつもりだけど、
もっとポイントを絞って要点だけを指摘しないといけない。
相手の感情否定とか人格批判にならないようにしないと。
「まあ、コミュニケーションは取ったほうが良いよ」
「ありがとう、頑張ってみる」
コミュニケーションか。
といっても仕事中に雑談する訳にもいかないし、
どうしても定時後になるよね。
となるとご飯を食べにいくぐらいかな?
でも上司とご飯って楽しいんだろうか……。
休憩所から戻ると桑島君が一生懸命働いている。
よく頑張ってるよね。
下手に話しかけて邪魔しちゃいけないけど、
これもコミュニケーションの一環かな。
「どうかな?」
「あ、先輩、順調ですよ」
「それはよかった」
「何かありました?」
「本当に気が向いたらで良いんだけど定時後一緒にご飯行く?」
「いいんですか?」
「無理しなくていいからね」
「今日で考えておけばいいですか?」
「え、あ、うん」
「楽しみにしています」
よかった、思いのほか食いつきがよかった。
上司とのご飯なんて気を使うだろうし、
少しでも楽しくいてもらえるように頑張らないと。
あ、上司がご飯誘うんだからおごるぐらいは当たり前よね。
後でお金下ろしておかないと。
定時後
どこかいいお店ってあるのかな。
外食なんて全然しないし事前に調べる時間もなかったし……。
「先輩、お店決まりました?」
「ごめん、まだ……」
あああ、どうしよう。
せっかく誘ったのに待たせてしまってる。
こんなのじゃ気分を悪くするだけだ。
あまり慣れない作業で混乱していると、
桑島君が声をかけてきた。
「先輩、僕のお勧めのお店行きませんか?」
「でも、私が誘ったのに……」
「先輩が誘ってくれた、僕はお店を紹介した、ほらWin-Win」
「ふふっ、何に勝つのよ」
普段と違う桑島君の態度を見て気が楽になった。
本人がそういうなら構わないよね。
案内されたのはけっこう大きな居酒屋だった。
「ここ、僕の知り合いがやっているお店なんですよ」
「すごいね、繁盛してる」
早速席に着くとお通しが出てきた。
「何頼みます?」
「好きなの頼んでいいよ」
「ならこれとこれと……お酒はどうします?」
「私お酒飲めないんだよね、すぐ酔っちゃって」
「すぐ酔えるなら安上がりでいいじゃないですか」
「駄目駄目、前後不覚になるから」
飲み物はウーロン茶をお願いした。
桑島君も私に付き合ってソフトドリンクを頼んでいた。
注文が来るまでの時間に何か話さないと。
桑島君が話したくなるような楽しい話題って何だろう。
何を話すか悩んでいると桑島君の方から話し始めた。
「先輩は長いんですか?」
「え、あ、そうだね、もう10年目かな」
「え!? でも若いですよね?」
若い、かぁ。
改めて年齢を考えるともう28。
時間がたつのは早いなぁ。
「28だからそこまで若くもないよ」
「全然そうは見えないです」
お世辞かな?
そんなに気を使わなくてもいいのに。
この話をきっかけに、ある程度プライベートなことも話した。
「今日はご馳走様でした、楽しかったです」
「うん、それならよかった」
「また誘ってくださいね、今度は割り勘で」
「そうだね、また今度」
なんとか円満にコミュニケーション出来たと思う。
「今度」か。
でも社交辞令かもしれないし、無理して誘わない方が良いよね。
・・・
数か月後のとある日、課長から呼び出された。
「突然で申し訳ないんだが、桑島君が購買に行くことになった」
「え?」
「英語を話せる人が不足していてどうしても欲しいそうだ」
「そうですか……」
いろいろ仕事を覚えてきてこれからって感じだったのに。
でもスキルが活かせるならその方がいい。
早速桑島君のところに行くと、
既に机を片付け始めていた。
「聞きましたか」
「うん、すぐなの?」
「らしいですね」
「そうなんだね……」
「いろいろお世話になりました」
「まだ早いよ」
桑島君は引き継ぎの終わった数日後に異動していった。
また一人になってしまった。
仲良く出来ていたと思ったのに残念。
・・・
2年後
桑島君は購買でトップクラスに活躍しているらしい。
私の下ではきっとそこまで活躍させてあげられなかった。
適材適所ということだろう。
そして私の所にもようやく新人が配属された。
名前は坂本君と言う。
ただどうにも上手く教育できていない。
自分で考えさせようとしてるんだけど、
まったく自分の考えを言ってくれない。
それは行動も同じで、
何を考えてその行動をしたのか教えてくれない。
少しでも出来ることをやってもらおうと、
仕事を厳選して理解しやすい仕事を割り振っていく。
説明を理解したかは都度確認するようにして、
一歩ずつでも前に進むようにする。
出来るだけのことはやってきたつもりだった。
しかし、ある日のことだった。
坂本くんがA社に発注を出すといって見積もりを持ってきた。
これはB社と同時に見積もりを取っていて、
B社の方が少し値段が安かったものだ。
あえてA社を選んだ理由が気になったので質問した。
「ここはどうしてA社を選んだの?」
「A社のほうが良さそうだったので……」
「どうしてそう思うの?」
「A社の方が納期が早いので……」
「B社の方が料金安いよね?」
「まあそうですけど……」
「納期急いでる仕事なの?」
「分かりました。B社にします」
「え? 何が分かったの?」
「料金安い方がいいってことですよね、分かりました」
「……分かったならいいけど」
納期が重要じゃない仕事で、
料金より納期を優先する意味はない。
A社の方がアフターサービスがいいとかの理由があるなら、
教えてもらおうと思ったのだけど。
この時はそれぐらいの印象だった。
しばらくたった後お茶でも飲もうと思い休憩室に向かう。
入り口まで来ると休憩室の中から声が聞こえた。
「あのクソお局が!!」
「まあまあ、いつもの癇癪でしょ」
大きな声を出しているのは坂本君で、
他に女性の誰かがいるようだ。
「細かいことをチクチクと、それで何が変わるんだよ」
「揚げ足取りたいんでしょ」
「答えが分かってるなら教えろってな」
「若者にマウント取りたいんだろうね」
「あんたの頭ん中の正解なんて知らねーっつーの」
え……、私のこと?
明らかにさっきの話のことだ。
「あれはもはやパワハラだろ、八つ当たりに付き合ってられるかよ」
「相談窓口みたいなのあるよね、そこ行ったら?」
「いい案だけどバレないかな?」
「一応機密保持はするらしいよ」
駄目だ、このままだと涙が。
急いでトイレに駆け込んだ。
入ると同時に涙があふれてくる。
あんな風に思われてたなんて。
単に分からなかったから聞いたつもりだった。
相手の考えを聞いていたのも、
理解できてるか確認してたつもりだった。
パワハラだなんてまったく思ってなかった。
この日はすぐに早退した。
そして数日後、課長から坂本君の異動を告げられた。
「坂本君がどうしても生産管理に行きたいという話でね」
休憩所の話を聞いていなければ納得したかもしれない。
でも休憩所の話を踏まえると異動したかっただけだろう。
「私の教育が良くなかったということですか」
「うーん、まあ坂本君には合わなかったのかもしれないね」
課長は言葉を濁しつつも否定はしなかった。
やっぱりそういうことなんだ。
私の足元がボロボロと崩れ落ちていく気がした。
その後、課長が何を言っていたかは記憶にない。
気づいた時には自分の席に戻っていた。
そういえば桑島君も同じように購買に行っていたな。
あのころは素直に信じていたけど、
同じように私からのパワハラに耐えられなくて、
異動していったんだろうな……。
呼び出されたのが定時間際だったので、
チャイムと同時に会社を飛び出す。
もうすべてを忘れたい。
そう思って居酒屋に入り、
慣れないお酒をがぶ飲みしていた。
私のしてきたことは間違っていた。
教育するどころか拒絶された。
完全に上司失格だろう。
いや、それどころか人として失格だ。
……会社、やめてしまおうか。
もう居場所なんてない。
涙がとめどなくあふれてくる。
でも店の中で声を出す訳にはいかない。
顔を伏せてタオルを口元に置いて少しでも声を抑える。
「あれ? 先輩が居酒屋なんてめずらs……先輩?」
「桑島君……」
なんというタイミングだろうか。
顔を合わせるのがつらい。
きっと私の顔なんて見たくないだろうに、
わざわざ声をかけてくれるんだね。
「え? お酒飲んでます?」
「ちょっとね」
顔を合わせないことで拒絶の意志を伝えたつもりだけど、
桑島君は気にせず私の横に座った。
「何かあったんですか?」
「特になにもないよ」
「ない訳ないですよね?」
私の顔を掴んで無理やり顔を向けさせられる。
涙でメイクがボロボロの顔を見られて、
限界が来てしまった。
「後輩がね、異動したいって」
「……」
「上司失格だって。パワハラだって」
「先輩、店出ましょう」
「どうして?」
「どうしてもです」
腕を掴まれてレジに連れていかれる。
桑島君はそのまま手早く精算まで済ませて外に出た。
私のお勘定を桑島君に払わせてしまった……。
後でお金渡さないと。
「よさそうな場所がないので僕の家に案内しますね」
有無を言わせぬ態度で私を引っ張っていく。
酔いが回ってるから頭が回らない。
どうして私は桑島君に連れられているんだろう。
桑島君の家に連れていかれてソファに座らされる。
「水です、飲んでください」
「ありがとう」
持ってきてもらった水を飲む。
外の冷たい空気に当たったのと水を飲んだことで、
ようやく少し落ち着いた。
「落ち着きましたか?」
「うん、ありがとう」
「まだ倒れそうになってるじゃないですか」
「思ったより酔いが回るのが早かったね」
「普段お酒飲まない人が飲むからですよ、危ない所だったなぁ」
桑島君は昔と変わらない対応だった。
どうせ最後になるだろうし直接聞こう。
「桑島君は私が嫌で購買に行ったの?」
「そんな訳ないです、向こうからの要望です」
少し怒りながらきっぱりと言い切る。
よかった、少なくても桑島君は違ったんだ。
でも私のパワハラについては、
部下だった桑島君が一番詳しいはず。
「ちょうどいいので私の悪い所を教えてほしい」
「先輩に悪い所なんてないですよ」
「本音での意見が欲しいの」
「……なら一般論として言わせて頂きますね」
桑島君が前置きして話し出した。
「先輩、必ずこちらの考えを聞きますよね?」
「そうだね」
「それで考えの間違いを指摘する」
「うん」
「それなら正解を先に言えよと思う人が多いです」
「でもそれじゃ」
自分の考えのどこが間違っているのか理解できない。
正解を聞くだけで自分の間違いを全て理解できるなら、
学校の勉強なんて100点取れるだろう。
そう思ったのが明らかに顔に出ていたのだろう。
桑島君が話を続ける。
「わかります、考えの間違いを理解できないということですよね」
「うん」
「でもそもそも先輩の理解が間違っているんです」
「え?」
「彼らは先輩の頭の中の答えを予想する問いかけだと思ってます」
「そんな問いかけに何の意味が」
「先輩が怒るための材料探しですね」
「怒る材料探し……?」
「つまり八つ当たりされてるという認識です」
もしそう思われているなら私の質問は何の意味もない。
自分の考えではなく正解っぽい何かを答えているだけ。
「そう思われる理由は他にもあります」
「他にも……」
「こちらが強く言うと引き下がりますよね」
「そうだね、嫌だと思っているならやめなきゃって思うから」
「弱いものにだけ強いと思われます」
「そんな……」
「まとめると弱いものに八つ当たりしているということですね」
そんな風に思われていたんだ。
それなら私は最低の人間だ。
「僕が思うに先輩は愛が重すぎるんですよ」
「愛……?」
「出来るようにしてあげたいって思ったんでしょ?」
「そう……」
「でも彼らは出来るようになりたいなんて思ってないんですよ」
「え、でも出来るようになりたいって言ってたよ?」
本人がそう言っていた。これは間違いない。
でもそれを見て少し残念そうな表情になる。
「それは夢を語っているだけで努力する気なんてないんですよ」
「夢があるなら努力するものだよ?」
「そこが理解が間違っている点です」
首を大きく振って否定する。
「努力なんてしたくない、でも夢は叶えたいということです」
「え?」
「例えるなら「なにもせずお金持ちになりたい」です」
意味が分からない。
努力せずに夢がかなう可能性はほぼ0だ。
そんなものに期待するの?
「でもそれじゃ夢がかなわない時どうするの?」
「その時は人のせいにすればいいんです」
「人の!?」
何言ってるの!?
自分が出来なかったのに人のせいにするなんてありえない。
「ありえないって顔してますね」
「実際ありえないよ、だって自分の夢だよ!?」
「思い出してください、彼らの夢が失敗した時誰が責任取ってますか?」
……私だ。
教育が悪いんだから私が責任を取らないと、って……。
「成功したら自分のおかげ、失敗したら他人のせい、理解できますか?」
そんな、そんなことって。
「先輩がしないといけなかったのは相手の考えの本質を知ることです」
「あ……」
「上辺の考えを知って理解した気になっていたのが失敗点です」
親も私のためだと言っていた。
私を理解した気でいたからそう言っていたのかもしれない。
私も親がやっていたことと同じことをやっていたんだ……。
「ごめんね……、桑島君も嫌だったね」
「一般論を言っただけで僕個人の考えは違います」
ちょっと不愉快そうな顔をして答える。
「たしかに先輩は厳しかったです、それは認めます」
「やっぱり……」
「でも購買に行って、教えてもらったことは役に立っていると実感しました」
「え?」
そういうと桑島君は購買に行ってからのことを話し始めた。
みんな優しかったこと。
分からないと言えば一からじっくり教えてくれること。
失敗しても責められず誰かがフォローしてくれること。
考えを否定されないこと。
「素晴らしい職場だね」
私はどれも出来ていなかった。
優しくないしすぐに答えを教えず考えさせる。
失敗したら原因追及するし成果は必ず自分で出させていた。
相手の考えも否定して自分の考えを押し付けた。
なんてひどい上司だったんだろう。
そんな私の教育が役に立ったなんてとても思えない。
「そう思いますか? なら先輩に一つ質問をしましょう」
桑島君が険しい表情で口を開く。
「どこで自分の考えの間違いを矯正するのでしょうか?」
え? そんなの指摘されれば……。
あ、考えを否定されないなら自分の考えの間違いに気づけない。
でも気づく方法は他にもある。
「成果を出せないからそこで気づくんじゃないかな」
「周りがフォローしてるから成果は出せなくても困りません」
「一から教えてもらう時に気づくと思う」
「正解を教えてもらうだけでは自分の間違いに気づきませんよ」
ここでようやく気付いた。
井原君の時と同じだ。
「出来ない人はどうすれば出来るようになりますか?」
もちろん努力すれば出来るようになるだろう。
でも……。
「先輩は否応なしに努力させますが購買では自由意志です」
それはつまり努力する気がある人しか成長しないということだ。
優しいようで非常にドライな対応。
「僕は先輩から厳しいながらも努力のやり方や重要性を教わりました」
「うん」
「それが先輩の愛だったと思っています」
「ありがとう、救われた気がするよ」
私の顔から流れる涙を桑島君が指で拭う。
「だからこそ先輩からの愛をないがしろにされた現状が許せない」
「え?」
「先輩の愛は僕一人が受け取ればいいんです」
そう言って唇を合わせてきた。
唇に触れる人の温かさ、いつ以来だろうか。
荒々しく舌が口の中に入ってくる。
まるで口の中を蹂躙するかのように舌が暴れまわる。
桑島君の怒りが伝わってくるようだった。
でもしばらくすると落ち着いて舌を絡めてきた。
温度差のあった舌が段々同じ温度になってくる。
舌が溶けあっていくようで心地よい。
「先輩が苦しむ必要なんてないんです」
真剣なまなざしで私に言う。
「でも……」
「仕事が厳しいのとパワハラは違います」
そう言われても自分では分からない。
「きっと愛があるかどうかの差ですよ」
「愛?」
「そうです」
そう言ってまた唇を合わせてきた。
今度は優しく口の中を舌が動く。
歯の一つ一つを丁寧に。
奥の方に入れようとして届かず苦労しているのは、
まるで子どもみたいでかわいい。
しばらくしてようやく諦めたみたいで唇を離す。
「届きませんでした」
「限界があるよ」
ちょっと悔しそうな表情で私を抱きかかえると、
そのままベッドに寝かせられる。
「脱がしますよ」
「うん」
初めて男の人に素肌を晒す。
なのにこんなに落ち着いているのはお酒のおかげだろうか。
それとも桑島君が相手だからだろうか。
「綺麗です」
「お世辞はいいよ」
「お世辞じゃないです」
年上だし美人でもないしスタイルも良くない。
綺麗だなんて言われる要素はない。
「あっ」
思ったより大きな手。
その手が私の胸を触っている。
「小さくてごめんね」
「先輩のだから大きさなんてどうでもいいです」
嬉しそうに触っているのを見ると私も嬉しくなる。
やわやわと動かしているけど、
全然ハリがないのできっと楽しくないだろうな。
せめて5年若ければまだ……。
すると桑島君がまた唇をあわせてきた。
今度はついばむように何度も。
胸を触られながらキスされると、
どちらに意識を集中していいか分からなくなる。
「かわいいですよ」
「年上に言う言葉じゃないかな」
「好きな人には年上でも言っていいんですよ」
そう言いながら胸を揉み始めた。
「んっ」
やわやわと感触を確かめるように触られるのと違う。
今まで感じたことのない刺激なので、
ちょっと体が強張ってしまう。
「揉まれるのは嫌ですか?」
「恥ずかしい、そんなこと答えられないよ」
「いつも相手の考えを聞けと言われてましたからね」
「もう」
すこし緊張が解けた。
そうだ、別に嫌じゃない。
ただ緊張しているだけ。
しばらく合間にキスをされながら胸を揉まれる。
段々体が熱くなってきた。
触られている奥底から熱が発生しているような気分。
これが気持ちいいって感覚なんだろうか。
たまに指が乳首に当たるとお腹の辺りがうずく。
もっと触ってほしいと思ってしまう。
つい彼の手を掴んで乳首に持っていってしまった。
彼は少し驚いた様子だったけど、
理解できたようで乳首を触り始める。
「ん、あっ、んん」
こするように触られるたびに声が止まらない。
こんなに気持ちいいものだったんだ。
それとも彼に触られているからだろうか?
彼の顔をしっかり見る。
優しいけど意志は強そうな顔。
まっすぐ前を向いて、
いつも一生懸命に仕事をしていたのが記憶に残っている。
乳首が硬くなっているのが自分でも分かる。
もっと触ってほしい。
涙ではなく快感で潤んだ眼で彼を見るとキスしてきた。
違う、違うの。
キスは嬉しいけどもっと……。
胸を揉まれた時の感覚も変わってきた。
愛おしさのようなものがあふれてくる。
「あっ」
乳首を唇で挟まれた。
今までにないビリビリとした刺激がある。
それが体の中心まで届いて熱くさせる。
吸われるとその刺激がさらに大きくなる。
声が出るほどではない。
でも明らかに快感が高まってきている。
たまに舌で舐められるとふわっとした感覚になる。
こんなに気持ちいいんだ。
自分でしたことがなかったので全然知らなかった。
昔付き合ってた彼氏とはキスまでだったけど、
もしこんなに気持ちいいのを知ってたら最後までしていたかもしれない。
一生懸命胸を舐めている彼は赤ちゃんのようで、
ついあやしたくなる。
彼の子どももきっとこんな感じで一生懸命吸うんだろうな。
そんな想像をしてしまう。
あっ、パンツが濡れてる、
まるで触ってほしいと主張するように。
「下も」
両方してほしい。
言葉にならなかったけどわかってもらえたようで、
無言でうなづくと下半身に片手を伸ばしてきた。
「んっ!?」
胸の比じゃない刺激で体が跳ねた。
まるで電流が走ったみたい。
自分で触れてもこんなになったことはない。
彼に触られているから?
「あっ、あっ、あっ」
パンツの上から撫でられるだけで、
頭がスパークするような感覚になる。
「駄目、駄目、変に、変になっちゃう」
「それが気持ちいいってことですよ」
そう言って胸への刺激も再開し始めた。
さっきまでと違って胸への刺激も過敏になっている。
「んっ、あっ、んっ、ん」
訳がわからない。
今何をされているのかも理解できない。
ただただ頭が真っ白になっていく。
「んっ、駄目、何か、んっ、んんんーー」
頭の中どころか目の前も真っ白になる。
意識もすべて飛んでただ気持ちよさだけが残る。
これが達するってやつなのかな。
話で聞いたことしかないので分からない。
真っ白になった目の前がだんだん見えるようになると、
微笑んでいる彼の姿が目に映る。
真っ白の頭の中に彼の笑顔が書き込まれていく。
彼が欲しい。
全部受け止めたい。
「入れてほしい」
「わかりました」
彼が少し離れて机を開けている。
コンドームを探しているようだ。
「いいよ」
「駄目です、ちゃんとしないと」
「そのままを感じたいの」
彼が戻ってきて服を脱ぎ始める。
初めて見た男性のあれはとても大きく感じた。
もうしっかり直立しておりすぐにでも入れられそうだ。
「入れます」
「うん」
そろそろと中に入ってくる彼。
「くっ」
「だ、大丈夫ですか?」
「いいの」
思ってたよりは痛くない。多分お酒のせいかも。
彼は心配そうに見ているので笑顔で返す。
もう私は気持ちよくしてもらったのだから、
今度は私が気持ちよくしてあげたい。
彼は私に覆いかぶさってるけど、
力がかからないように少し体を離している。
気を使ってくれているのは嬉しい。
でも彼の体温も感じたい。
彼の体を引き寄せる。
驚いた顔でこちらを見るので唇を奪う。
さっきとは逆に彼の口の中を蹂躙する。
時々跳ねるように動くのは気持ちいいんだろう。
「入ってるだけで気持ちいいです」
「よかった、初めてだからあんまり分からなくて」
本当は口でもしてあげたかった。
でもやり方が全然分からない。
勉強不足なのが悔しい。
「動いても大丈夫ですか?」
「うん、来て」
ゆっくりと彼が動く。
蕩けそうな表情で動いているので、
きっと気持ちいいんだろう。
私の方はまだ若干痛みがある。
だけど彼が動くたびに、
心の隙間が埋められるような気持ちになる。
頭の中が彼で塗りつぶされていく。
彼を受け入れているという事実が、
心の中を幸福感で満たしていく。
こういう行為は快楽のためにするのだと思ってた。
こんなに満たされる気持ちになるんだ。
彼の動きが早くなる。
私で気持ちよくなる彼を見ていると、
最後まで受け止めたいと思ってしまう。
でも妊娠したら……。
私が大丈夫と言っても彼はきっと責任を感じるだろう。
そんなことを考えていたら突然彼の動きが止まった。
そして私の顔をじっと見てくる。
「ど、どうしたの? 気持ちよくなかった?」
「先輩と出会ってすぐ好きになりました」
突然話し始めたのも驚いたけど内容にもびっくりだ。
思っていたよりずっと前だった。
「そんな時期に何かあった?」
「最初に文字の入力と校正のこと教えてくれましたよね」
そういえばそんなことを教えてた。
今考えるとなぜあんなことを教えてたんだろう。
「真剣に教えてくれる顔が綺麗だと思ったのがきっかけです」
「え、それだけ?」
「それで僕のことを真剣に考えてくれる姿に愛を感じたんです」
成長してほしいという気持ちはあったけど、
好意とか愛情は特になかったと思うんだけど……。
「結婚を前提にお付き合いしてください」
「なぜこんなタイミングに?」
「生で入れた時点で僕の覚悟は決まっていますよ」
ああ、妊娠したらどうあれ責任を取ると言いたいんだ。
でも責任を取るにしろ交際の申し込みにしろ、
このタイミングで言う必要ないよね。
入れる前ならともかく。
このちょっと抜けた感じが懐かしい。
しかも今、真剣な顔で返事を待ってるけど、
私に入れた状態なんだよね。
ちょっと下半身に力を入れてみる。
「あふっ、って何するんですか」
「ふふっ」
ちょっと声を出してすぐ取り繕う姿がかわいい。
うん、この人しかいない。
「末永くよろしくお願いします」
そういって足で彼の腰をしっかりホールドする。
「え、あの……?」
「覚悟は決まってるのよね?」
彼の覚悟が決まっているなら、
なおさら最後まで受け止めてあげたい。
「もちろんです」
そう言うと彼は腰を動かし始めた。
私が少しでも気持ちよくなれるポイントを探すように、
いろいろ角度や動きを変化させている。
実際はあまり気持ちよさは感じない。
ただ彼の気持ちが嬉しくて笑顔になる。
その私の笑顔を気持ちよさと勘違いしたようで、
一定のリズムで動き始めた。
そこからあっという間に射精した。
中で脈動するのがうっすら感じられる。
満足した顔をする彼を見て思わず抱きしめてしまう。
しばらく抱きあった後、
彼が私の体から離れて横になる。
「先輩に追いついてから告白しよう、そう思っていました」
「そうなんだ」
「でも今日、明らかに会社辞めようとしてましたよね?」
「そんなことないよ」
嘘だ。辞めようと思っていた。
「知ってましたか? 先輩が「そんなことないよ」っていう時は大体嘘なんですよ」
「そんなk、あっ」
「口癖になっているんですね」
笑われてしまった。
なにかすべて見透かされてるみたい。
でも言い換えれば私を理解してくれているということ。
「僕が一緒に頑張るから仕事続けませんか?」
「うん」
私の悪い所は教えてもらった。
後は改善していくだけだ。
そして支えてくれる人がいる。
これだけ条件が揃っているなら頑張れる。
・・・
数日後、また課長から呼び出される。
坂本君の異動が早まったのだろうか。
会議室に入ると課長と彼がいた。
「急で悪いんだけど桑島君が君の下に配属されることになった」
「え!?」
「またお願いしますね、先輩」
「購買で頑張ってたんじゃないの!?」
「彼の熱烈な要望でね」
もう決定したことらしい。
課長からいろいろ説明を受けて二人で会議室から出る。
「どうしてこんなことを?」
「言ったでしょう、一緒に頑張るって」
言ってたけどまさか異動までしてくるなんて。
「一緒に部下を育てましょう、少し早い子育てみたいなものです」
1
お気に入りに追加
22
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。


タイプではありませんが
雪本 風香
恋愛
彼氏に振られたばかりの山下楓に告白してきた男性は同期の星野だった。
顔もいい、性格もいい星野。
だけど楓は断る。
「タイプじゃない」と。
「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」
懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。
星野の3カ月間の恋愛アピールに。
好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。
※体の関係は10章以降になります。
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

Catch hold of your Love
天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。
決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。
当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。
なぜだ!?
あの美しいオジョーサマは、どーするの!?
※2016年01月08日 完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる