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人には人の考え方がある
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「馬鹿野郎、こんな変更受け入れられるか!!」
加工課の中林さんの怒鳴り声で体が震える。
怖い。でも言うことは言わないと。
「でもこのままだと納期が間に合わなくて……」
「だからってこんな一方的な要求飲めるか!!」
取り付く島もない。
「突き返してこい!!」
「はい……」
結局追い返されてしまった。
これでも努力して変更箇所を最大限減らした。
いったいどこを調整すればいいのかわからない。
「災難だったね、中林さん今機嫌悪いから」
「うん……」
近くにいた人が声をかけてくれる。
でも機嫌が悪いからって何なんだろう。
仕事を機嫌でするのはおかしいし、
私だって言われてきてるだけなのに。
「ああ!?断られたって!?」
「この変更は受け入れられないって……」
「馬鹿野郎!!受け入れさせるのがお前の仕事だろうが!!」
先程の返事を営業の橘さんに伝えると怒鳴られた。
もう二人で話し合ってほしい。
私が間に入るより直接話し合ったほうが良いよ。
------------------------------------------------------------------------------------
今日もたくさん怒られたな……。
私の仕事は生産管理だ。
といっても営業と製造の間に立って怒られるだけの仕事。
みんな自分の都合ばかり主張するので、
その調整に奔走している。
「なんとか間に合いましたよ」
「よくやった!!」
眼の前で褒められているのは同じ部署で同期入社の大西君。
いつもみんなの受けが良く人気者。
仕事をしているところを見るけどすごくスムーズだ。
全然怒鳴られていないし問題もすぐ解決している。
私と何が違うんだろう。
毎日毎日怒られ続ける日々。
気が滅入ってきたころ、課長に呼び出された。
大西君も一緒だ。なんだろう?
「今日からしばらく一緒に行動して相手の良い所を吸収するようにね」
「はい」
「わかりました」
課長からの指示は大西君と一緒に仕事をすることだった。
といっても、私が吸収できることも私から吸収できることもないと思う。
きっと大西君に私のフォローをしてもらうための建前なんだろう。
情けないな……。
「よし、じゃあまず俺の仕事に付き合ってくれ」
「わかった」
大西君と一緒に加工課に向かう。
わざわざ行くんだから何か依頼するんだろうな。
「中林さん、こんちは」
「こんにちは」
「大西か、ん?村上も一緒か?珍しいな」
「しばらく一緒に仕事をすることになりまして」
「そうか、まあお前にはちょうどいいな」
「で、調子はどうです?」
「まーた面倒な仕事が来たな」
「最近多いですよね」
「お前の所で断れよ」
「いやー、中林さんの腕を信用して依頼来てるのに断れないですよ」
「おだてりゃいいと思ってないか?」
「ばれましたか」
「ばればれだ」
和気あいあいって感じだ。
やっぱり男同士だと話しやすいんだね。
「で、忙しい所申し訳ないですが仕事の依頼です」
「またかー」
大西君が予定を書いた紙を中林さんに見せる。
すると中林さんの表情が曇った。
あ、これは怒られる奴だ。
「これは……?」
「あ、一応予定立ててみたんですよ」
「馬鹿野郎が。これじゃ納期に間に合わねえよ」
「え、そうなんですか、すみません」
「もう一回予定考えてこい」
「すみません、すぐ考えてきます」
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「ああ、いいよ」
なるほど、中林さんの言うことはもっともだ。
材料が発注予定日に来る前提になってるし、
加工の工程を短く見積もりすぎてる。
加工の難易度も分からないからそのマージンも必要だろう。
「中林さん、この仕事の加工の難易度はどのくらいです?」
「ん?普段より高いな」
「普段の納期+2日でいけます?」
「いけるな」
「なら……この予定でどうですか?」
「ん、これなら可能だ。ほら大西も見ろ」
「なるほど……大分変更してるんですね」
「材料が遅れたら納期を守れない予定なんて意味がないぞ」
「てっきり予定通り来るものだと……」
「大体は来るが材料にも寄るんだよ」
「はい!!」
「返事は良いが、前も教えたことだからな?」
「すみません、理解できてませんでした」
「村上はこの辺りしっかりしてるからな。勉強させてもらえ」
「はい!!」
すごい。怒られてるのに最終的に丸く収まった。
私なら怒鳴られ続けてるよ。
「村上、助かったよ」
「いつもあんな感じなの?」
「ああ、教えてもらいながら予定を立てる感じだな」
「普段から言われてるんだから目安の納期を覚えた方がいいよ」
「覚えてるつもりなんだけどいろいろ条件がつくとこんがらがるんだよな」
「私はこんな感じでメモしてまとめてる」
メモを取り出す。
納期関連はややこしいので時間を作ってメモにまとめている。
まあ大体覚えているからあんまり使わないんだけど。
「メモかぁ。面倒なんだよな」
「苦手なのはわかるけどやらないと苦手なままだよ」
「ごもっとも」
「参考に私のメモ貸してあげようか?」
「是非!!」
大西君は何でも出来ていると思ったけど、
意外に出来ていないこともあるんだな。
------------------------------------------------------------------------------------
別の日
私の案件でトラブルが起きた。
部材が予定通り届かないとのことだ。
ああ、嫌だな。みんな怒り出すに決まってる。
まず営業に話に行くとさっそく怒鳴られた。
「ああ!!部材が来ないってどういうことだ!!」
「税関で止まってるそうです。2日遅れると聞いています……」
「どうするんだよ!!」
「税関の問題はどうしようも……」
「加工の方の納期は短縮できないのか!?」
「無理です」
「どうしてわかる、聞いてこいよ!!」
「元々ギリギリでやってもらってます……」
「あーちょっといいですか?」
「あ!?よく見たらなんで大西がいるんだ?」
「しばらく一緒に仕事するように指示がありまして」
「ふん、で、なんだ?」
「加工課に相談してきますよ、ただ期待はしないでくださいね」
そういって話を打ち切って加工課に向かう。
でも聞きに行っても断られるだけじゃ……?
「いいの?あんなこと言っちゃって?」
「あれでいいんだよ。相手にも面子があるからな」
「面子?」
「村上に断られたと加工課に断られたじゃ違うってことさ」
「え?どうせ駄目って言われるのは一緒じゃないの?」
「理屈的にはそうだけどな」
頭をかきながら答える大西君。
なぜわざわざ怒られに行くのか理解できない。
「中林さーん」
「ん?なんだ、さっきの話は終わったろ?」
「非常に面倒な事態が起きまして」
いやだな。また怒られるんだろうな。
どうせ怒られるだけなんだから聞かなくてもいいのに。
「村上の仕事で部材手配してるものが2日遅れるらしいんですよ」
「はぁ!?じゃあ納期に間に合わねぇよ」
「ですよね。ただ村上が営業に怒られるのが忍びなくて……何とかなったりしますか?」
「ああ……、うーん、まあなんとかなるか」
「ほんとですか!!」
「あ、ありがとうございます」
「今回だけだぞ。村上がかわいそうだからな」
「助かります!!今度ジュースおごりますね」
「安いお礼だな、おい」
「美人の村上からの感謝の言葉で十分でしょ」
「ん……、まあ村上も頑張れよ」
「はい、ありがとうございます」
その足で営業部に向かう。
「橘さーん、さっきの件なんとかなりましたよ」
「本当か!?」
「村上が泣いて頼んで納期に間に合うようにしてくれたんですよ」
「そこまでしてませんよ!?」
「今回だけ、と念を押されてますからね。次回はないです」
「十分だよ。本当に助かった、どう説明しようかと思ってたんだよ」
さっきまでと打って変わってご機嫌な様子の橘さん。
納期が間に合ったから当然か。
「なんとか納期に間に合ったな」
「大西君じゃなきゃ間に合わなかったよ」
「違うぞ。あれは村上の普段の行いの結果だ」
「え、だって」
私が言いに行ったら断られていたに決まっている。
そう言おうとしたけどその言葉を遮って大西君が喋った。
「というかさっき言ったけど断られたって構わないんだ」
「どういうこと?」
「相談はしたけど断られたであればそれで良いってことさ」
わからない。
それって私が怒られるだけで何も良いことないよね。
「怒られるだけって顔だな。理屈はわかるけど相手の気持ちも考えた方がいいぞ」
「気持ちって一方的な都合を言ってきてるだけだと思うよ」
「俺たちだって相手から見れば一方的な都合を言ってるんだよ」
「でもそれには理由が……」
「そう、俺たちに理由があるように相手にも理由があるんだ」
言われてみれば相手が怒っている理由なんて考えたことなかった。
ただ一方的な都合を言っているだけだと思ってた。
「例えば、「急な腰痛で連絡すら出来ない激痛だったため遅刻した」誰かがいたらどう思う?」
「仕方のないことだと思う」
「その人に「つまり寝過ごしたのと一緒で無断遅刻だろ?」って言う人がいたら?」
「……ひどい」
やろうと思っても出来なかったことと単なる不注意を一緒にするなんて。
「理屈上はどちらも無断遅刻、でも印象が違う」
「なるほど……」
「それが理解できたなら大丈夫さ」
最後にドヤ顔で決めたのが気になったけど理解は出来た。
そっか、結果が一緒でも過程が違えば印象も違うんだ。
私、過程とかまったく聞いてなかった。
どうしてそういう結果になったのか、
ちゃんとみんなの話を理解するようにしよう。
「理解した上で言えば怒らずにちゃんと話聞いてくれるよ」
「ありがとう、やってみる」
「後はしかめっ面じゃなくて笑顔でいることだな」
「しかめっ面って」
「気づいてないのか?いつも眉をひそめてるぞ」
ええっ、そんな顔してたっけ?
普通に愛想笑いしてたと思うんだけどな。
「村上みたいな美人が笑顔で言えば二つ返事で聞くもんだぜ」
「美人だなんてそんな」
「おっとセクハラになっちゃうか」
会社に入ってから美人だなんて初めて言われた。
セクハラがどうとかあるけどやっぱり褒められるのは嬉しい。
怒られてばかりで気が滅入ってたけど頑張る気が出てきた。
------------------------------------------------------------------------------------
一緒に仕事をするようになって一ヶ月。
相手を理解できるようになるために、
大西君を真似して定期的に声をかけるようにしている。
「中林さん、こんにちは。調子はどうですか?」
「ん?また依頼か?」
「そうじゃないですけど忙しさはどんなものかなっと思って」
「忙しくないと言ったら嘘になるな」
「私から依頼した仕事で調整が必要なら言ってくださいね」
「おお、その時はな。みんな好き勝手頼むから困るんだ」
話してみて改めて思う。
私は私の頼んだ仕事しか知らなかった。
もしかしたら忙しい状況でさらに頼んでいたから
あんなに機嫌が悪かったのかもしれない。
まあだからと言って私に当たっていい訳じゃないけど。
「橘さん、こんにちは」
「ああ、また納期遅れか?」
「違いますよ。仕事どんな感じかなって思って」
「最近は大西のマネでもしてるのか?」
「そんな感じです」
「そうだな、最近納期がギリギリの仕事が多いな」
「え?ギリギリじゃまずいんですか?」
「こちらで取るマージンがないって意味だよ」
「営業で取るマージン?」
「問題があったときのために多少余裕を持った日程にしたいんだが、最初からギリギリってことだ」
「なるほど……マージンを取ったらダメなんですか?」
「最近納期の要求が厳しくてな……」
そういえば以前は遅れる理由が妥当であれば怒ってなかった。
今はどんな理由でも怒っていることが多い。
なるほど、その理由がマージンがないからかぁ。
営業と製造でマージンを取ってたら納期が遅くなる。
営業がマージンを取らなければ何かあった時困る。
営業がマージンを取りつつ納期を変えなければ製造の納期が厳しくなる。
どれが正しいとも言えないよね。
改めて聞いてみるとみんなわがままで言ってるわけじゃないんだな。
ただそれでもどちらかが我慢するしかないのか。
つまり私の仕事は伝言係ではなく仲裁人なんだ。
きちんと両者の意見を聞いて落とし所を見つける。
ようやく仕事を少し理解できた気がする。
------------------------------------------------------------------------------------
怒られるのは怒られるけど大分頻度や時間が短くなってきた。
でもまだまだ大西君にサポートしてもらっているので、
一人でも出来るようにならないとなぁ。
「村上ちょっといいか?」
「何かな?」
仕事が終わったのに何の用だろう?
伝え忘れたことがあるのかな?
「好きだ。付き合ってくれ」
「え?私?」
仕事の話だと思ってたら突然告白された。
「以前からいいなと思ってた」
「他にもいい子いるよ?」
「お前じゃなきゃ駄目なんだ」
たしかに今付き合ってる人はいない。
ただ特に大西君に恋愛感情とかもってないんだよね。
……うーん、でもここで断るとギクシャクしちゃうかな?
良い人なのは確かだしせっかくだから付き合ってみるかな。
「公私の区別をつけて会社では他人として接することね」
「わかった」
「なら、えっとよろしくお願いします」
「やった!!俺のことは大輝って呼んでくれ」
「わかったよ、大輝」
子どもみたいに喜んでる。
こういうところはかわいいな。
それにしても2年ぶりの彼氏かぁ。
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大輝は私のほうが面食らうぐらい公私の区別をしている。
仕事終わりにも声をかけてこないし電話もない。
本当に付き合ってるのかと思うぐらいだ。
そう思っていたら金曜日の夜に電話がかかってきた。
「映画見ないか?」
デートのお誘いだ。
昔からデートで映画と言われるけど、
二人で見る意味ってないと思うんだけどな。
まあ、大輝が見たいって言ってるんだから付き合ってあげよう。
そして当日。
うーむ、まさかデートでまったく知らないアニメ映画を見ることになるとは。
普通は実写のラブストーリーものとかじゃないんだろうか。
あ、でも付き合い始めでラブストーリー見ても微妙か。
それにしてもアニメはないと思うな。
・・・
映画は意外と面白かった。
序盤はヒーローとヒロインのすれ違いを描いて、
中盤でヒーローの友達からの叱咤激励で一気に解決に向かったのがいいね。
そこから先はなんか戦うシーンになったのでなんとも言えなかったけど。
「あの人物の登場で一瞬で空気が変わったシーンはよかった!!」
熱心に感想を語る大輝がかわいい。
大輝的には中盤~終盤辺りが好みらしい。
男の子はやっぱり戦うシーンが好きなんだね。
「あのタイミングでかけるしかないってシーンでの挿入歌もよかった!!」
「うんうん、よかったねぇ、はいお茶」
「ありがと!!ゴクッゴクッ、ふう」
こんなに熱心に語る性格だったんだ。
大輝は好きなものを共有したいタイプなんだね。
たしかに同じ映画を見て感想を言い合うのは楽しいのかも。
……この映画って続編らしいしせっかくだから元の作品見てみるかな。
・・・
大輝との話題作りのためと思ってアニメをみたけど存外面白かった。
子どもなのに戦場に立たされるという不安定な心理をよく描けていると思う。
アニメなんて大したことないとか思っていたけど、
自分の考えで決めつけてたな……。
------------------------------------------------------------------------------------
次の金曜日の夜
「村上のしてみたいこととかないか?」
「○○ってラーメン屋さんに行きたいんだけどいいかな?」
私の趣味は食べ歩き。
でもどうしても一人では入りづらいお店がある。
今回のラーメン屋とかがその筆頭。
一人じゃ周りの目に耐えられないし、
友達誘っても「並んでまで行きたくない」と言われてしまった。
丁度いいので一緒に行ってもらおう。
仮にそれで嫌われたならまあいいかな。
「わかった、調べとく!!」
「あ、もう調べてるの。数時間ぐらい待つんだけど」
「つまりその間は村上と話し放題ってことだな!!」
次の日の朝、そのラーメン屋に一緒に行った。
朝から来たのにすごい行列だ。
「遅すぎた?」
「そうかも」
結局3時間ぐらい外で待たされた。
でも大輝は愚痴一つ言わず、
「楽しみだな」とか「どれ食べよう」とか言ってくれた。
前の彼氏と似たような状況になった時は、
ずっとぶちぶち文句を言われてた。
人によってこんなにも対応が違うんだな。
なおラーメンはとてもおいしかった。
------------------------------------------------------------------------------------
数か月後
相手の怒る理由をしっかり聞いて理解すれば、
相手も私の話を聞いてくれる。
怒られることはあるけど怒鳴られることはなくなった。
そして怒鳴られないようになったことで
中林さんとも雑談が出来るぐらいになった。
「村上はいつも頑張ってて偉いな」
「なんでそんな子どもを褒めるような言い方なんですか?(笑)」
「娘と変わらない年齢だからな」
「え、中林さん、そんなに年齢いってるんですか?」
「もう50台だぞ」
「そうだったんですね」
「だから村上に怒られると娘に怒られてる気分になるんだよな」
「それで怒鳴ったりしてたんですか?」
「あれは村上が話を聞いてくれない奴だと思ってたからな」
アニメの件と一緒だ。
中林さんも橘さんも話を聞かない人だと決めつけてた。
こうして話をしてみると全然そういう人じゃない。
むしろ私も聞く耳を持っていなかったからおあいこかも。
「あと普段から気難しい顔してたから話しにくかったのもある」
「ええー、そんな顔してました?」
「ああ、私に話しかけるなってオーラが出てた」
「そんなつもりなかったんですけどね」
「まあ今は全然違うけどな」
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週末
今日はスイーツ食べ放題のお店に来ている。
カップルだと割引されるのでお得なのだ。
「食べ放題って言ってもそんなに食べられないんだよな」
「好きなものを少しずつ食べるのがいいの」
「なるほど、元を取るとか考えちゃ駄目なのか」
「そうそう」
大輝が私の忠告通り満遍なくスイーツを取っている。
あ、でもチョコ系だけ2つ取ってる。
お腹に入らなくても知らないぞ。
「おいしかったな」
「ほんとだね」
「これはリピート候補にしておこう」
ニコニコしながらメモしてる。
うんうん、ちゃんとメモする癖がついてるね、えらいえらい。
大輝は私の好きなことを一緒に楽しんでくれる。
私も大輝の好きなことを一緒に楽しむ。
外れを引いても一緒に笑えるというのはこんなに嬉しいんだね。
彼氏に気に入られようとしていた昔の自分がバカみたい。
「じゃあ帰ろうか」
そんな大輝にただ一つだけ不満がある。
これだけデートしていてキスすらしてこないのは消極的すぎると思う。
でもそれなら私が頑張れば良い。
「今日はこのまま大輝の家に泊まってもいい?」
大輝の驚く顔。
今日は"する"気で来たんだ。
「ど、どうぞ」
言葉のないまま大輝の家に来た。
経験がない訳じゃないのに動揺しすぎだよ。
「じゃあさっそくシャワーあびてきてね」
「わ、わかった!!」
大輝がシャワーから出てきたので、
交代で私もシャワーを浴びる。
久しぶりだから痛いだろうな。
シャワーから出て部屋に戻ると、
全裸で手持ち無沙汰な感じで待っていた。
待ってる間に大分落ち着いたみたいだね。
「おまたせ」
そう言うと同時に優しくキスをする。
「ちゅ、ちゅ」
ついばむようなキス。
大輝は少し照れた感じで私を見ている。
大輝のあそこも大きくなってるみたいだ。
「村上も綺麗だよ」
「ありがと、あと穂波って呼んで」
「ほ、穂波」
さて今日は大輝を気持ちよくさせるために、
ばっちり調べてきたんだ。
けっこう大きいけど口に入るかな?
「ああ、穂波」
あ、嬉しい。してあげて名前呼ばれるっていいね。
ええっと亀頭って言うんだっけ。
亀頭を舐めても味はあまりしない。
つるっとしたゴムみたいと書いてあったけど、
実際に舐めてみると大分違う。
あ、でも包皮?っていうのは書いてあった通りだね。
皮製品を舐めてる感じ。
どこら辺が大輝の気持ちいいポイントだろう。
いろいろ確認していると大輝が声をかけてきた。
「何してるんだ?」
「大輝の気持ちいいポイントをチェックしてるの」
「そんな所をチェックしなくていいぞ!?」
「でも気持ちよくなってほしいし」
「穂波がしてくれたら十分だよ」
むう、分析は大事だと思う。
舌で舐めたり口を動かしたりいろいろ試してみた。
どうも手で動かしながら口でするといいらしい。
大輝の表情がすごく我慢する表情なのが楽しい。
「おいしいとか言ったら嬉しい?」
「そ、そんなことないぞ」
明らかに動揺してる。今度言ってあげよう。
さて大分気持ちよくなってくれたみたいだしここでお終い。
今日は口がメインじゃないんだよ。
「しよ」
「ああ」
コンドームをつけてもらっていざ中に。
「ん」
久しぶりの感覚。
あのころは痛いだけだったけど
今はピリピリする程度だね。
男の人は気持ちいいらしいけど
女はあんまり気持ちよくないのが本音。
でも大輝が気持ちいいならそれでいい。
「ちゅ」
動くのかと思ったらキスしてきた。
ゆっくり舌をからめると蕩けそうになる。
一生懸命抱きしめてくれているのも良いね。
「舌を離しても下で繋がってるな」
むー減点。こういう下ネタはきっと会社の誰かの影響だね。
でも下ネタはともかく繋がっているのは嬉しい。
大輝の興奮が直に伝わってくる。
「穂波、愛してるよ」
さらにキスしてくるかと思ったら耳元で囁いてきた。
これはずるい。
「あ、締め付け気持ちいい」
「突然囁くの禁止」
ごまかすだけで精一杯だった。
きっと顔真っ赤だよ。
「動かないならこっちが動くからね」
そのまま照れ隠しのつもりで少し動いてみた。
途端に衝撃が走った。
「あっ、あっ、あっ」
なにこれ!?声がでちゃう。
中をやさしくこすられるのが気持ちいい。
どうして!?昔した時は全然気持ちよくなかったのに!?
「よかった、気持ちよくなってくれてるんだね」
「ん、違う、違うの、これは」
「じゃあ動くよ」
恥ずかしい!!恥ずかしい!!
せっかく余裕な態度を見せてたのにこんなことって。
「あっ、ああ、ん、あっ」
痛みは少しある。でもそれ以上に気持ちいい。
奥まで入った時に満ち足りた気分になる。
出ていく時は少し寂しい。
相手次第でこんなに違うの!?
「穂波はかわいいな」
絶対顔が真っ赤になってるから言ってるんだ。
くそう、するまではあんなに動揺してたのに。
「ん、あ、あっ、駄目、ちょっと待って」
「やめないよ、だって顔はそんなこと言ってない」
駄目。顔を見ながら腰を動かさないで。
嬉しすぎてどうしようもないの。
これは幸せ、そう幸せを感じてるんだ。
幸せがあふれてきちゃう。
「見てるだけで嬉しくなる表情してるよ」
もう、もう、もう。
こんなこと言われたことない。
してる途中で言うのはずるい。
「もうそろそろ出そう」
「いいよ」
「あっ、出るよ」
「来て!!」
すごい、ゴム越しなのに出てるのが分かる。
どくどくと何度も動く感じ。
「気持ちよかった」
「私も」
こんなに気持ちよかったのは生まれて初めて。
大輝とならエッチで達するというのも出来るかもしれない。
「愛してる、穂波」
「私も愛してるよ、大輝」
告白された時は、
仕事を円滑に進めるためのサービスみたいな気持ちだった。
でも今は自信をもって愛していると答えられる。
------------------------------------------------------------------------------------
後日
好きなことを自覚してしまったので、
仕事での距離感が分からなくなってしまった。
付き合い初めに「会社では他人として接すること」
なんて自分で言ったのになんてざまだろう。
大輝は自制できてるのすごいな。
とりあえず中林さんにはばれそうだし、
先に口止めしておかないと。
「中林さんだけに伝えておきますが、大西君と付き合っているんです」
「知ってるぞ」
「え?」
「というか大西が男性陣に広めてるからな」
どういうことなの!?
「別れたときにきまずいでしょうがーーー!!」
家に帰った後に大輝を呼び出して抗議するが、
全然悪びれる様子がない。
「社内恋愛は隠してもすぐばれるよ」
「でもわざわざ広めることじゃないよね!?」
「穂波を狙っている男への牽制だ」
「そんな、私程度の女はいっぱいいるよ」
大輝がキスしてきた。
「んっ」
「いないよ」
「いるy、んっ」
「いないよ」
いると言おうとするたびにキスされる。
「別れたらその時考える」
そんな真剣な目で言われてしまったら断れない。
「もう……これからは事前に相談ぐらいしてよね」
「わかった」
でもそこまで真剣に考えてくれているってことだよね。
それは嬉しい。
「あ、社長にも言っといたから」
「それ、もう退路ないよね!?」
加工課の中林さんの怒鳴り声で体が震える。
怖い。でも言うことは言わないと。
「でもこのままだと納期が間に合わなくて……」
「だからってこんな一方的な要求飲めるか!!」
取り付く島もない。
「突き返してこい!!」
「はい……」
結局追い返されてしまった。
これでも努力して変更箇所を最大限減らした。
いったいどこを調整すればいいのかわからない。
「災難だったね、中林さん今機嫌悪いから」
「うん……」
近くにいた人が声をかけてくれる。
でも機嫌が悪いからって何なんだろう。
仕事を機嫌でするのはおかしいし、
私だって言われてきてるだけなのに。
「ああ!?断られたって!?」
「この変更は受け入れられないって……」
「馬鹿野郎!!受け入れさせるのがお前の仕事だろうが!!」
先程の返事を営業の橘さんに伝えると怒鳴られた。
もう二人で話し合ってほしい。
私が間に入るより直接話し合ったほうが良いよ。
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今日もたくさん怒られたな……。
私の仕事は生産管理だ。
といっても営業と製造の間に立って怒られるだけの仕事。
みんな自分の都合ばかり主張するので、
その調整に奔走している。
「なんとか間に合いましたよ」
「よくやった!!」
眼の前で褒められているのは同じ部署で同期入社の大西君。
いつもみんなの受けが良く人気者。
仕事をしているところを見るけどすごくスムーズだ。
全然怒鳴られていないし問題もすぐ解決している。
私と何が違うんだろう。
毎日毎日怒られ続ける日々。
気が滅入ってきたころ、課長に呼び出された。
大西君も一緒だ。なんだろう?
「今日からしばらく一緒に行動して相手の良い所を吸収するようにね」
「はい」
「わかりました」
課長からの指示は大西君と一緒に仕事をすることだった。
といっても、私が吸収できることも私から吸収できることもないと思う。
きっと大西君に私のフォローをしてもらうための建前なんだろう。
情けないな……。
「よし、じゃあまず俺の仕事に付き合ってくれ」
「わかった」
大西君と一緒に加工課に向かう。
わざわざ行くんだから何か依頼するんだろうな。
「中林さん、こんちは」
「こんにちは」
「大西か、ん?村上も一緒か?珍しいな」
「しばらく一緒に仕事をすることになりまして」
「そうか、まあお前にはちょうどいいな」
「で、調子はどうです?」
「まーた面倒な仕事が来たな」
「最近多いですよね」
「お前の所で断れよ」
「いやー、中林さんの腕を信用して依頼来てるのに断れないですよ」
「おだてりゃいいと思ってないか?」
「ばれましたか」
「ばればれだ」
和気あいあいって感じだ。
やっぱり男同士だと話しやすいんだね。
「で、忙しい所申し訳ないですが仕事の依頼です」
「またかー」
大西君が予定を書いた紙を中林さんに見せる。
すると中林さんの表情が曇った。
あ、これは怒られる奴だ。
「これは……?」
「あ、一応予定立ててみたんですよ」
「馬鹿野郎が。これじゃ納期に間に合わねえよ」
「え、そうなんですか、すみません」
「もう一回予定考えてこい」
「すみません、すぐ考えてきます」
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「ああ、いいよ」
なるほど、中林さんの言うことはもっともだ。
材料が発注予定日に来る前提になってるし、
加工の工程を短く見積もりすぎてる。
加工の難易度も分からないからそのマージンも必要だろう。
「中林さん、この仕事の加工の難易度はどのくらいです?」
「ん?普段より高いな」
「普段の納期+2日でいけます?」
「いけるな」
「なら……この予定でどうですか?」
「ん、これなら可能だ。ほら大西も見ろ」
「なるほど……大分変更してるんですね」
「材料が遅れたら納期を守れない予定なんて意味がないぞ」
「てっきり予定通り来るものだと……」
「大体は来るが材料にも寄るんだよ」
「はい!!」
「返事は良いが、前も教えたことだからな?」
「すみません、理解できてませんでした」
「村上はこの辺りしっかりしてるからな。勉強させてもらえ」
「はい!!」
すごい。怒られてるのに最終的に丸く収まった。
私なら怒鳴られ続けてるよ。
「村上、助かったよ」
「いつもあんな感じなの?」
「ああ、教えてもらいながら予定を立てる感じだな」
「普段から言われてるんだから目安の納期を覚えた方がいいよ」
「覚えてるつもりなんだけどいろいろ条件がつくとこんがらがるんだよな」
「私はこんな感じでメモしてまとめてる」
メモを取り出す。
納期関連はややこしいので時間を作ってメモにまとめている。
まあ大体覚えているからあんまり使わないんだけど。
「メモかぁ。面倒なんだよな」
「苦手なのはわかるけどやらないと苦手なままだよ」
「ごもっとも」
「参考に私のメモ貸してあげようか?」
「是非!!」
大西君は何でも出来ていると思ったけど、
意外に出来ていないこともあるんだな。
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別の日
私の案件でトラブルが起きた。
部材が予定通り届かないとのことだ。
ああ、嫌だな。みんな怒り出すに決まってる。
まず営業に話に行くとさっそく怒鳴られた。
「ああ!!部材が来ないってどういうことだ!!」
「税関で止まってるそうです。2日遅れると聞いています……」
「どうするんだよ!!」
「税関の問題はどうしようも……」
「加工の方の納期は短縮できないのか!?」
「無理です」
「どうしてわかる、聞いてこいよ!!」
「元々ギリギリでやってもらってます……」
「あーちょっといいですか?」
「あ!?よく見たらなんで大西がいるんだ?」
「しばらく一緒に仕事するように指示がありまして」
「ふん、で、なんだ?」
「加工課に相談してきますよ、ただ期待はしないでくださいね」
そういって話を打ち切って加工課に向かう。
でも聞きに行っても断られるだけじゃ……?
「いいの?あんなこと言っちゃって?」
「あれでいいんだよ。相手にも面子があるからな」
「面子?」
「村上に断られたと加工課に断られたじゃ違うってことさ」
「え?どうせ駄目って言われるのは一緒じゃないの?」
「理屈的にはそうだけどな」
頭をかきながら答える大西君。
なぜわざわざ怒られに行くのか理解できない。
「中林さーん」
「ん?なんだ、さっきの話は終わったろ?」
「非常に面倒な事態が起きまして」
いやだな。また怒られるんだろうな。
どうせ怒られるだけなんだから聞かなくてもいいのに。
「村上の仕事で部材手配してるものが2日遅れるらしいんですよ」
「はぁ!?じゃあ納期に間に合わねぇよ」
「ですよね。ただ村上が営業に怒られるのが忍びなくて……何とかなったりしますか?」
「ああ……、うーん、まあなんとかなるか」
「ほんとですか!!」
「あ、ありがとうございます」
「今回だけだぞ。村上がかわいそうだからな」
「助かります!!今度ジュースおごりますね」
「安いお礼だな、おい」
「美人の村上からの感謝の言葉で十分でしょ」
「ん……、まあ村上も頑張れよ」
「はい、ありがとうございます」
その足で営業部に向かう。
「橘さーん、さっきの件なんとかなりましたよ」
「本当か!?」
「村上が泣いて頼んで納期に間に合うようにしてくれたんですよ」
「そこまでしてませんよ!?」
「今回だけ、と念を押されてますからね。次回はないです」
「十分だよ。本当に助かった、どう説明しようかと思ってたんだよ」
さっきまでと打って変わってご機嫌な様子の橘さん。
納期が間に合ったから当然か。
「なんとか納期に間に合ったな」
「大西君じゃなきゃ間に合わなかったよ」
「違うぞ。あれは村上の普段の行いの結果だ」
「え、だって」
私が言いに行ったら断られていたに決まっている。
そう言おうとしたけどその言葉を遮って大西君が喋った。
「というかさっき言ったけど断られたって構わないんだ」
「どういうこと?」
「相談はしたけど断られたであればそれで良いってことさ」
わからない。
それって私が怒られるだけで何も良いことないよね。
「怒られるだけって顔だな。理屈はわかるけど相手の気持ちも考えた方がいいぞ」
「気持ちって一方的な都合を言ってきてるだけだと思うよ」
「俺たちだって相手から見れば一方的な都合を言ってるんだよ」
「でもそれには理由が……」
「そう、俺たちに理由があるように相手にも理由があるんだ」
言われてみれば相手が怒っている理由なんて考えたことなかった。
ただ一方的な都合を言っているだけだと思ってた。
「例えば、「急な腰痛で連絡すら出来ない激痛だったため遅刻した」誰かがいたらどう思う?」
「仕方のないことだと思う」
「その人に「つまり寝過ごしたのと一緒で無断遅刻だろ?」って言う人がいたら?」
「……ひどい」
やろうと思っても出来なかったことと単なる不注意を一緒にするなんて。
「理屈上はどちらも無断遅刻、でも印象が違う」
「なるほど……」
「それが理解できたなら大丈夫さ」
最後にドヤ顔で決めたのが気になったけど理解は出来た。
そっか、結果が一緒でも過程が違えば印象も違うんだ。
私、過程とかまったく聞いてなかった。
どうしてそういう結果になったのか、
ちゃんとみんなの話を理解するようにしよう。
「理解した上で言えば怒らずにちゃんと話聞いてくれるよ」
「ありがとう、やってみる」
「後はしかめっ面じゃなくて笑顔でいることだな」
「しかめっ面って」
「気づいてないのか?いつも眉をひそめてるぞ」
ええっ、そんな顔してたっけ?
普通に愛想笑いしてたと思うんだけどな。
「村上みたいな美人が笑顔で言えば二つ返事で聞くもんだぜ」
「美人だなんてそんな」
「おっとセクハラになっちゃうか」
会社に入ってから美人だなんて初めて言われた。
セクハラがどうとかあるけどやっぱり褒められるのは嬉しい。
怒られてばかりで気が滅入ってたけど頑張る気が出てきた。
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一緒に仕事をするようになって一ヶ月。
相手を理解できるようになるために、
大西君を真似して定期的に声をかけるようにしている。
「中林さん、こんにちは。調子はどうですか?」
「ん?また依頼か?」
「そうじゃないですけど忙しさはどんなものかなっと思って」
「忙しくないと言ったら嘘になるな」
「私から依頼した仕事で調整が必要なら言ってくださいね」
「おお、その時はな。みんな好き勝手頼むから困るんだ」
話してみて改めて思う。
私は私の頼んだ仕事しか知らなかった。
もしかしたら忙しい状況でさらに頼んでいたから
あんなに機嫌が悪かったのかもしれない。
まあだからと言って私に当たっていい訳じゃないけど。
「橘さん、こんにちは」
「ああ、また納期遅れか?」
「違いますよ。仕事どんな感じかなって思って」
「最近は大西のマネでもしてるのか?」
「そんな感じです」
「そうだな、最近納期がギリギリの仕事が多いな」
「え?ギリギリじゃまずいんですか?」
「こちらで取るマージンがないって意味だよ」
「営業で取るマージン?」
「問題があったときのために多少余裕を持った日程にしたいんだが、最初からギリギリってことだ」
「なるほど……マージンを取ったらダメなんですか?」
「最近納期の要求が厳しくてな……」
そういえば以前は遅れる理由が妥当であれば怒ってなかった。
今はどんな理由でも怒っていることが多い。
なるほど、その理由がマージンがないからかぁ。
営業と製造でマージンを取ってたら納期が遅くなる。
営業がマージンを取らなければ何かあった時困る。
営業がマージンを取りつつ納期を変えなければ製造の納期が厳しくなる。
どれが正しいとも言えないよね。
改めて聞いてみるとみんなわがままで言ってるわけじゃないんだな。
ただそれでもどちらかが我慢するしかないのか。
つまり私の仕事は伝言係ではなく仲裁人なんだ。
きちんと両者の意見を聞いて落とし所を見つける。
ようやく仕事を少し理解できた気がする。
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怒られるのは怒られるけど大分頻度や時間が短くなってきた。
でもまだまだ大西君にサポートしてもらっているので、
一人でも出来るようにならないとなぁ。
「村上ちょっといいか?」
「何かな?」
仕事が終わったのに何の用だろう?
伝え忘れたことがあるのかな?
「好きだ。付き合ってくれ」
「え?私?」
仕事の話だと思ってたら突然告白された。
「以前からいいなと思ってた」
「他にもいい子いるよ?」
「お前じゃなきゃ駄目なんだ」
たしかに今付き合ってる人はいない。
ただ特に大西君に恋愛感情とかもってないんだよね。
……うーん、でもここで断るとギクシャクしちゃうかな?
良い人なのは確かだしせっかくだから付き合ってみるかな。
「公私の区別をつけて会社では他人として接することね」
「わかった」
「なら、えっとよろしくお願いします」
「やった!!俺のことは大輝って呼んでくれ」
「わかったよ、大輝」
子どもみたいに喜んでる。
こういうところはかわいいな。
それにしても2年ぶりの彼氏かぁ。
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大輝は私のほうが面食らうぐらい公私の区別をしている。
仕事終わりにも声をかけてこないし電話もない。
本当に付き合ってるのかと思うぐらいだ。
そう思っていたら金曜日の夜に電話がかかってきた。
「映画見ないか?」
デートのお誘いだ。
昔からデートで映画と言われるけど、
二人で見る意味ってないと思うんだけどな。
まあ、大輝が見たいって言ってるんだから付き合ってあげよう。
そして当日。
うーむ、まさかデートでまったく知らないアニメ映画を見ることになるとは。
普通は実写のラブストーリーものとかじゃないんだろうか。
あ、でも付き合い始めでラブストーリー見ても微妙か。
それにしてもアニメはないと思うな。
・・・
映画は意外と面白かった。
序盤はヒーローとヒロインのすれ違いを描いて、
中盤でヒーローの友達からの叱咤激励で一気に解決に向かったのがいいね。
そこから先はなんか戦うシーンになったのでなんとも言えなかったけど。
「あの人物の登場で一瞬で空気が変わったシーンはよかった!!」
熱心に感想を語る大輝がかわいい。
大輝的には中盤~終盤辺りが好みらしい。
男の子はやっぱり戦うシーンが好きなんだね。
「あのタイミングでかけるしかないってシーンでの挿入歌もよかった!!」
「うんうん、よかったねぇ、はいお茶」
「ありがと!!ゴクッゴクッ、ふう」
こんなに熱心に語る性格だったんだ。
大輝は好きなものを共有したいタイプなんだね。
たしかに同じ映画を見て感想を言い合うのは楽しいのかも。
……この映画って続編らしいしせっかくだから元の作品見てみるかな。
・・・
大輝との話題作りのためと思ってアニメをみたけど存外面白かった。
子どもなのに戦場に立たされるという不安定な心理をよく描けていると思う。
アニメなんて大したことないとか思っていたけど、
自分の考えで決めつけてたな……。
------------------------------------------------------------------------------------
次の金曜日の夜
「村上のしてみたいこととかないか?」
「○○ってラーメン屋さんに行きたいんだけどいいかな?」
私の趣味は食べ歩き。
でもどうしても一人では入りづらいお店がある。
今回のラーメン屋とかがその筆頭。
一人じゃ周りの目に耐えられないし、
友達誘っても「並んでまで行きたくない」と言われてしまった。
丁度いいので一緒に行ってもらおう。
仮にそれで嫌われたならまあいいかな。
「わかった、調べとく!!」
「あ、もう調べてるの。数時間ぐらい待つんだけど」
「つまりその間は村上と話し放題ってことだな!!」
次の日の朝、そのラーメン屋に一緒に行った。
朝から来たのにすごい行列だ。
「遅すぎた?」
「そうかも」
結局3時間ぐらい外で待たされた。
でも大輝は愚痴一つ言わず、
「楽しみだな」とか「どれ食べよう」とか言ってくれた。
前の彼氏と似たような状況になった時は、
ずっとぶちぶち文句を言われてた。
人によってこんなにも対応が違うんだな。
なおラーメンはとてもおいしかった。
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数か月後
相手の怒る理由をしっかり聞いて理解すれば、
相手も私の話を聞いてくれる。
怒られることはあるけど怒鳴られることはなくなった。
そして怒鳴られないようになったことで
中林さんとも雑談が出来るぐらいになった。
「村上はいつも頑張ってて偉いな」
「なんでそんな子どもを褒めるような言い方なんですか?(笑)」
「娘と変わらない年齢だからな」
「え、中林さん、そんなに年齢いってるんですか?」
「もう50台だぞ」
「そうだったんですね」
「だから村上に怒られると娘に怒られてる気分になるんだよな」
「それで怒鳴ったりしてたんですか?」
「あれは村上が話を聞いてくれない奴だと思ってたからな」
アニメの件と一緒だ。
中林さんも橘さんも話を聞かない人だと決めつけてた。
こうして話をしてみると全然そういう人じゃない。
むしろ私も聞く耳を持っていなかったからおあいこかも。
「あと普段から気難しい顔してたから話しにくかったのもある」
「ええー、そんな顔してました?」
「ああ、私に話しかけるなってオーラが出てた」
「そんなつもりなかったんですけどね」
「まあ今は全然違うけどな」
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週末
今日はスイーツ食べ放題のお店に来ている。
カップルだと割引されるのでお得なのだ。
「食べ放題って言ってもそんなに食べられないんだよな」
「好きなものを少しずつ食べるのがいいの」
「なるほど、元を取るとか考えちゃ駄目なのか」
「そうそう」
大輝が私の忠告通り満遍なくスイーツを取っている。
あ、でもチョコ系だけ2つ取ってる。
お腹に入らなくても知らないぞ。
「おいしかったな」
「ほんとだね」
「これはリピート候補にしておこう」
ニコニコしながらメモしてる。
うんうん、ちゃんとメモする癖がついてるね、えらいえらい。
大輝は私の好きなことを一緒に楽しんでくれる。
私も大輝の好きなことを一緒に楽しむ。
外れを引いても一緒に笑えるというのはこんなに嬉しいんだね。
彼氏に気に入られようとしていた昔の自分がバカみたい。
「じゃあ帰ろうか」
そんな大輝にただ一つだけ不満がある。
これだけデートしていてキスすらしてこないのは消極的すぎると思う。
でもそれなら私が頑張れば良い。
「今日はこのまま大輝の家に泊まってもいい?」
大輝の驚く顔。
今日は"する"気で来たんだ。
「ど、どうぞ」
言葉のないまま大輝の家に来た。
経験がない訳じゃないのに動揺しすぎだよ。
「じゃあさっそくシャワーあびてきてね」
「わ、わかった!!」
大輝がシャワーから出てきたので、
交代で私もシャワーを浴びる。
久しぶりだから痛いだろうな。
シャワーから出て部屋に戻ると、
全裸で手持ち無沙汰な感じで待っていた。
待ってる間に大分落ち着いたみたいだね。
「おまたせ」
そう言うと同時に優しくキスをする。
「ちゅ、ちゅ」
ついばむようなキス。
大輝は少し照れた感じで私を見ている。
大輝のあそこも大きくなってるみたいだ。
「村上も綺麗だよ」
「ありがと、あと穂波って呼んで」
「ほ、穂波」
さて今日は大輝を気持ちよくさせるために、
ばっちり調べてきたんだ。
けっこう大きいけど口に入るかな?
「ああ、穂波」
あ、嬉しい。してあげて名前呼ばれるっていいね。
ええっと亀頭って言うんだっけ。
亀頭を舐めても味はあまりしない。
つるっとしたゴムみたいと書いてあったけど、
実際に舐めてみると大分違う。
あ、でも包皮?っていうのは書いてあった通りだね。
皮製品を舐めてる感じ。
どこら辺が大輝の気持ちいいポイントだろう。
いろいろ確認していると大輝が声をかけてきた。
「何してるんだ?」
「大輝の気持ちいいポイントをチェックしてるの」
「そんな所をチェックしなくていいぞ!?」
「でも気持ちよくなってほしいし」
「穂波がしてくれたら十分だよ」
むう、分析は大事だと思う。
舌で舐めたり口を動かしたりいろいろ試してみた。
どうも手で動かしながら口でするといいらしい。
大輝の表情がすごく我慢する表情なのが楽しい。
「おいしいとか言ったら嬉しい?」
「そ、そんなことないぞ」
明らかに動揺してる。今度言ってあげよう。
さて大分気持ちよくなってくれたみたいだしここでお終い。
今日は口がメインじゃないんだよ。
「しよ」
「ああ」
コンドームをつけてもらっていざ中に。
「ん」
久しぶりの感覚。
あのころは痛いだけだったけど
今はピリピリする程度だね。
男の人は気持ちいいらしいけど
女はあんまり気持ちよくないのが本音。
でも大輝が気持ちいいならそれでいい。
「ちゅ」
動くのかと思ったらキスしてきた。
ゆっくり舌をからめると蕩けそうになる。
一生懸命抱きしめてくれているのも良いね。
「舌を離しても下で繋がってるな」
むー減点。こういう下ネタはきっと会社の誰かの影響だね。
でも下ネタはともかく繋がっているのは嬉しい。
大輝の興奮が直に伝わってくる。
「穂波、愛してるよ」
さらにキスしてくるかと思ったら耳元で囁いてきた。
これはずるい。
「あ、締め付け気持ちいい」
「突然囁くの禁止」
ごまかすだけで精一杯だった。
きっと顔真っ赤だよ。
「動かないならこっちが動くからね」
そのまま照れ隠しのつもりで少し動いてみた。
途端に衝撃が走った。
「あっ、あっ、あっ」
なにこれ!?声がでちゃう。
中をやさしくこすられるのが気持ちいい。
どうして!?昔した時は全然気持ちよくなかったのに!?
「よかった、気持ちよくなってくれてるんだね」
「ん、違う、違うの、これは」
「じゃあ動くよ」
恥ずかしい!!恥ずかしい!!
せっかく余裕な態度を見せてたのにこんなことって。
「あっ、ああ、ん、あっ」
痛みは少しある。でもそれ以上に気持ちいい。
奥まで入った時に満ち足りた気分になる。
出ていく時は少し寂しい。
相手次第でこんなに違うの!?
「穂波はかわいいな」
絶対顔が真っ赤になってるから言ってるんだ。
くそう、するまではあんなに動揺してたのに。
「ん、あ、あっ、駄目、ちょっと待って」
「やめないよ、だって顔はそんなこと言ってない」
駄目。顔を見ながら腰を動かさないで。
嬉しすぎてどうしようもないの。
これは幸せ、そう幸せを感じてるんだ。
幸せがあふれてきちゃう。
「見てるだけで嬉しくなる表情してるよ」
もう、もう、もう。
こんなこと言われたことない。
してる途中で言うのはずるい。
「もうそろそろ出そう」
「いいよ」
「あっ、出るよ」
「来て!!」
すごい、ゴム越しなのに出てるのが分かる。
どくどくと何度も動く感じ。
「気持ちよかった」
「私も」
こんなに気持ちよかったのは生まれて初めて。
大輝とならエッチで達するというのも出来るかもしれない。
「愛してる、穂波」
「私も愛してるよ、大輝」
告白された時は、
仕事を円滑に進めるためのサービスみたいな気持ちだった。
でも今は自信をもって愛していると答えられる。
------------------------------------------------------------------------------------
後日
好きなことを自覚してしまったので、
仕事での距離感が分からなくなってしまった。
付き合い初めに「会社では他人として接すること」
なんて自分で言ったのになんてざまだろう。
大輝は自制できてるのすごいな。
とりあえず中林さんにはばれそうだし、
先に口止めしておかないと。
「中林さんだけに伝えておきますが、大西君と付き合っているんです」
「知ってるぞ」
「え?」
「というか大西が男性陣に広めてるからな」
どういうことなの!?
「別れたときにきまずいでしょうがーーー!!」
家に帰った後に大輝を呼び出して抗議するが、
全然悪びれる様子がない。
「社内恋愛は隠してもすぐばれるよ」
「でもわざわざ広めることじゃないよね!?」
「穂波を狙っている男への牽制だ」
「そんな、私程度の女はいっぱいいるよ」
大輝がキスしてきた。
「んっ」
「いないよ」
「いるy、んっ」
「いないよ」
いると言おうとするたびにキスされる。
「別れたらその時考える」
そんな真剣な目で言われてしまったら断れない。
「もう……これからは事前に相談ぐらいしてよね」
「わかった」
でもそこまで真剣に考えてくれているってことだよね。
それは嬉しい。
「あ、社長にも言っといたから」
「それ、もう退路ないよね!?」
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