新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 他

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新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件

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今日からまた新しい職場かぁ。
これが派遣社員のつらい所であり楽な所である。
嫌な職場から逃げられるけど新しい職場が良い所かは分からない。
なので初出社はどうしても憂鬱な気分になる。
面倒な人がいないといいなぁ。

会社に到着してそうそうに上司となる人を紹介される。

「初めまして、高橋です。一応君の上司となります」
「こちらこそ初めまして。宮本です」

30台前半で優しそう。でも髪の毛はぼさぼさでなんか冴えない感じ。
私より一回り上だけど大人しそうで怖くはないかな。
機嫌が悪いとすぐ怒り出すような人は嫌だからね。

「じゃあ、さっそく仕事の説明を説明するね」

私に任されるのは液晶?製品の性能評価だった。
どうやらそれの明るさとか色とかを測るらしい。

「わかったかな?」
「はい」

説明を聞きながら簡単にメモを取ったけど特にややこしい手順はない。
教えられた通りにセットしてボタンを押す。
装置が動いて何か数値が出た。

「液晶の動作原理は~~~」

なんか難しいこと話し出した。
それ、明らかに作業と関係ないよね。
ただの派遣に何を期待してるんだろう。
どうさげんりとか言われても何も興味ないんだけど。

「光が透過しないのはこの偏光板の効果、液晶に電気をかけることで光が透過するんだ」
「はい、わかりました」

意味わかんないや。
つらつらと専門用語を並べて説明した気になられても困る。
ついでに言うと私の目を見て話してくるのも何なんだろう。
ちゃんと聞いてるのかチェックでもしてる?
まあ聞いてるふりしていればいいか。

「じゃあ、なにかあったら呼んでね」

一通り説明を終えると彼は去っていった。
さあ、初仕事始めますか。

・・・

いくつかの種類のサンプルの測定は終了した。
それはいいんだけど残っているこいつが問題なのよね。

こいつだけさっき聞いた説明と違っている。
何もしなかったら画面が真っ黒と言ってたけど、これは画面が真っ白だ。
壊れてるの?それとも私の理解が間違ってるの?
嫌だなぁ、理解が間違っている場合大体2パターンの対応なんだよね。
・同じことを説明される。
・理解しなくていいから言われた通りやれと言う。
どちらにしても怒られるんだよなぁ。
でも壊れてるんだったら言わないとそれはそれで怒られるし……。
嫌々だけど彼の元に向かう。

「あ、終わった?」
「すみません、さっきの説明と実際のものが違う気がするんですが」
「うーん、どこが違うの?」

ああ、嫌だな。なんで私が怒られなきゃいけないんだろ。
理解できないのは私だけのせいじゃないと思うんだけどな。

「画面が真っ黒なのはおかしいと思います」
「そっか、ちょっと待っててね」

そういうと彼はどこかに行った。
もしかして質問しただけで怒ったの……?
どっかに行ったのは派遣元に苦情入れてるとか?うわぁ、最低。
そんなことを考えていると、可動式の黒板を引いてきた。

「えっと、偏光板の原理は理解できたかな?」
「え、あの、分かりません」
「そっか、なら説明の仕方を変えるね。こういう枠の中に光を~~~」

彼は黒板に絵を描いて説明を始めた。
びっくりした、説明の仕方を変えてくるなんて。
さっきと比べて絵があるので多少は理解できた気がする。

「分かったかな?」
「え、えっと、なんとなくは……」
「最初はそんなものでいいよ」

そういうものなのか。完璧に理解しないといけないのかと思ってた。
彼の様子は最初と変わらず穏やかで特に怒っているようには見えない。
もうちょっと分からないこと聞いてみてもいいかも。

「でもそれだと今度は画面が真っ白なのがあるのか分かりません」
「そっか、うーん、説明が難しいな。例えば~~~」

そういって彼は原理ではなくイメージ的な説明にしてくれた。
どうやら液晶には光の方向を捻じ曲げる力?があるらしい。
理屈は分からないけど何となくのイメージはつかめた。

「なんとなくでもわかったかな?」
「イメージぐらいは」
「よかった、また分からなかったら言ってね」

そういうと彼はまた自分の作業に戻っていった。

なんか人生で初めて質問に答えてもらった気がする。
今まで、質問しても「理解できないお前が悪い」と怒られていた。
今日は"私が理解できなかった所"を聞いてもらえた。そのうえでわかるように教えてもらえた気がする。
ただ私の目を見て話してくるのが気恥ずかしい。
あんなに男の人に見つめられたのは初めてかも。

少し良い気分で作業に戻る。
残り頑張りますか。

・・・

「終わりました」
「お、はやいね……うん、結果も問題ない」

よかった。初仕事で失敗したら落ち込むからね。

「次はここにある複数のボタンをこの順番に押していって」
「はい」

間を開けずまた次の仕事だ。
今度は決まった順番にボタンを押すらしい。
ボタンを押すと画面の色が赤とか青とかに変わってる。
赤青緑の順番に光らせてるけど何か意味があるのかな?
緑青赤の方がボタン押しやすいんだけどなぁ。

「どうしてこの順番に押すんですか?」

さっきまでの気やすい雰囲気があったので
なにげなく口に出てしまった。

「ああ、それは装置をそういう設定にしてるからだね」

彼は普通に答えてくれた。よかった。
でもそういう設定ってなんだろう。
分からないって言ったら教えてくれるかな?

「よく分かりません」
「そっか、えっとね、最初に決めた人がその順番が好きだったからだよ」

え、そんな適当な決め方なの!?
私が驚いたのが分かったのか彼が苦笑している。

「それ以上の理由は特にないから説明のしようがないんだ」

世の中の決まり事ってもっとちゃんとした理由があるんだと思ってた。
おもしろいなぁ。
この後もちょこちょこ質問したけど、
特に嫌そうなそぶりもなく答えてくれた。

何か不思議な感覚。
彼に「わからない」というと、説明を変えてくれて教えてくれる。
今までは怒り出す人ばかりだったから質問するのが嫌だったけど、
ちゃんと答えてくれるなら質問するのも楽しいかも。

・・・

こうして私の新しい職場での仕事が始まった。

彼は非常に話しやすい人だった。
説明が分かりやすいし気軽に質問しても答えてくれる。
彼はかなり優秀な人のようで周りから相談や問題解決を頼まれている。
私には関係ないから(大変そうだなぁ)と思いながら見てるけど。

ただ良く分からないのが仕事中に雑談してくること。
彼はよく私の仕事を監督するんだけど、
作業の待ち時間に雑談してくるの。

「休日は小説とか読んでいてね」
「そうなんですか」
「最近読んだのだとジョージ・オーウェルの一九八四年とか」
「名前聞いたことがあります」
「宮本さんは小説読んだりする?」
「そうですね」
「例えばどんなの?」

適当に相槌うってたけど、面倒な質問が来た。
こういう人が言う"小説"っていうのはあんまり読まないんだよね。
かといって答えないわけにもいかないし……。

「……本好きの下剋上です」
「ごめん、聞いたことない」
「いえ、構いません」

ここで会話は終了した。
まあ、やっぱり知らないか。
難しい小説を読む人って変に見下してくることが多いから、
特に何も言われなかっただけましだと思うことにしよう。
でもこうやって上司から雑談を振られても答えに困る……。
変なことを答えるとまずいだろうし無視する訳にもいかないし。

とまあ、このように若干気になる点はあるけれども、
総じて言うとそこまで悪くない職場だと思う。
ここなら長く勤められるかもしれないなぁ。

・・・

こうして一か月が過ぎた。
大分作業には慣れたし彼が雑談してくるのにも慣れてきた。
雑談については要は当たり障りのないことを答えていればいい、
そう思っていた矢先のことだった。

「前言ってた本好きの下剋上買って読んでみたけど面白かったよ」

私が前に言ってた本を読んだらしい。
わざわざ買って読むとは頑張るなぁ。図書館とかにもあるのに。

「大分時間がかかってしまったけど全巻読めたよ」

は?あれ一巻がだいぶ分厚い上に36巻あるんですけど?
しかもまとめて買ったらお値段も4万近く行くと思うんですけど?
適当に誤魔化してるんじゃないの?

「最推しはアンゲリカかな。あの取捨選択のすごさと天然のかわいさが良いね」

あれれ、意外と読み込んでる!?
いや、アンゲリカはかわいいからそこだけ記憶に残ってるのかも。

「ちなみに男はアナスタージウスかな。ジルヴェスターと一緒で最初はマインに苦労をかけてきたのにいつの間にか苦労をかけられる側になってるのがおもしろい」

なかなか渋い人選だ。これは本当に読んだのかもしれない。
でも36巻を一か月もかからず……?
どれだけ頑張って読んだんだろう。

「他にもお勧めとかあるかな?」

え、そんな、何も準備してないよ。
えーと。

「えっと、戯言シリーズとか」
「わかった、ありがとう」

あ、とっさに思いついた小説言っちゃった。
お堅い小説とかを読む人に紹介する作品じゃないけど……。
言っちゃたものは仕方ないか。

まあこんな感じに雑談はするけどちゃんと仕事の話もしている。
手順は大体覚えたので、
そこから気になる所、分からない所は質問している。
愛想よく答えてくれるので気が楽だ。
おかげで液晶(とついでに有機EL)について大分詳しくなった気がする。
家族とテレビを買いに行った時に知識を披露したら驚かれた。

派遣先での飲み会にも初めて参加してみた。
お酒の入った彼は普段と違って砕けた様子で周りと話している。

「宮本さん飲んでる?」
「はい」
「そっか、どう普段つらくない?」
「全然大丈夫です」

派遣先の上司にそんなことを聞かれて、
普通「大丈夫」以外言えるわけないじゃない。
ただ今のところ本音でも「大丈夫」かな。
そんなに居心地は悪くない。

「よーう、飲んでるかい?」

課長が話しかけてきた。この人は正直話しづらい。
悪い人ではないんだと思うんだけど、
自分のことばかり喋るし胸を凝視してくるのが印象悪い。

私は身長が小さいけど胸が大きい。
そのせいで上から胸を覗き込まれることが多いの。
課長もわざわざ話しかけてきてじっと覗いてるのはバレバレ。
ちなみに彼もたまに視線を外して胸を見てるけどすぐ目を逸らす。

「注いであげますね」
「おお、すまんな」

課長のグラスが空になっているのでビールを注いでおいた。
早くどっか行ってくれるといいんだけど。

「課長、お酒の無理強いは駄目ですよ」
「わかった、わかった」
「そういえば以前聞いた~~~」

彼が課長の相手をしてくれた。正直、助かる。
おかげでこちらはご飯食べるのに集中できる。
そう思っていた所に女性から声をかけられた。

「こんばんは、いつも頑張ってるね」

そう声をかけてくれたのは同じ部署の女性の藍さん。
正社員で主任。彼と同期らしい。

「高橋君が良く言ってるよ。よく頑張るいい子だって」

褒められるのは嬉しい。
しかも課長と違って女同士なので話しやすい。
仕事の内容もけっこうかぶっていたので、
楽しくお話することが出来た。

結局、彼はずっと私の隣でお酒を飲んでいた。
といっても私とほとんど話すことはなくて、
大体こちらに来た誰かと話していた。

けっこう飲み会も楽しいんだな。
今まで行ったことがなかったのは残念だったかも。

・・・

入社から数か月。もう完全に仕事には慣れた。
いつものように出社したけど彼の姿が見えない。
あれ?今日は有休じゃないよね?
きょろきょろと辺りを見渡していると、
藍さんから声をかけられた。

「高橋君、発熱してお休みみたいよ」

なんと休みの内に発熱が確認されたらしい。
今の規定だと発熱時点で出社停止になっているし、
その後もしばらく出てこれない。
でも仕事はどうなるだろう?
聞くと彼に変わって藍さんが一時的に上司となってくれるそうだ。

女性の上司は初めてだったけど、
今まで飲み会ではよく話していたのであまり緊張はない。
いつも彼とするように雑談しつつ仕事をしていると、
ふと藍さんが爆弾発言をした。

「雑談はほどほどにね、といっても高橋君の影響でしょうけど」「本人いないので言っちゃうけどあなたには甘々だからね」「あなたが困らないように先回りしてトラブル取り除いてたりとか。飲み会の時もあなたが他の男に絡まれないようにしてたでしょ」

そういえば飲み会の時、毎回彼はずっと私の隣にいる。
あれはそういう理由だったんだ。

「本人には内緒だけどきっと高橋君は宮本さんのこと好きよ」

は?それは本人に内緒で言っちゃっていいことなの?
彼が私のことが好き……?いやいや、そんなこと……。
待てよ、そういえば……。

-----------------------------------------------------------------

今週はなぜか測定機器の使用予定がかぶる。
普段ならこんなことはないのに、と思って聞いてみた。

「ああ、ごめん。今使ってるからもう少し後でお願い」
「普段かぶったことがないのに珍しいですね」
「ああ、高橋さんが事前に調整してたからね」

なんと、私が使う時に予定がかぶらないようにしてくれていたらしい。
一度もそんなそぶりを見せたことがなかったので気づかなかった。

また今週は測定機器の調子が悪い。
彼がいないので他の人に見てもらうと驚くことを言われた。

「これ、作業前に調整してもらった?」
「してもらってないです」
「なら調子が悪いのはそれが原因だね」
「今まで一度もそんなことなかったのに」
「あれ?結構な割合で調整が必要になるものなんだけど」
「一度もなかったです」
「ああ、多分高橋さんがいつも調整して渡してたんだね」

どうも毎回調整するのがベストだけどかなり面倒なので、
普通は使ってみて調整が必要だったら調整する感じだとか。

-----------------------------------------------------------------

うん?よく考えてみたら心当たりがありすぎる。
私が好きだからこっそり支援してくれてたってこと?

「言われてみたら心当たりがある気がします」
「気づかれないようにするのがかわいいよね」

私が気づかなかったら意味がないと思うんだけどな。
実際、彼が復帰するまで面倒ごとや非効率なことが多くあった。
全部藍さんに解決してもらったけど結構大変だと言っていた。

・・・

「ご迷惑をおかけしました」

出社停止期間が終了して彼が出社してきた。
事務手続き等があって部署に来るのは始業時間後になったみたい。
いろいろな人に迷惑をかけたと詫びに行ってる。

「宮本さんにも迷惑かけたね、これお詫びの品」

非常に申し訳なさそうに謝ってお詫びを渡してくれた。
うん、このお詫びの品を渡しているのが私だけなんだよね。
他の人には言葉だけ。

改めて彼の動きを見てみるとたしかに分かる。
細かい所で私だけ対応が違っているね。

例えば、朝の挨拶。
挨拶するときに「おはよう、宮本さん」と名前を呼んでくるの。
他の人には「おはよう」だけなのに。

例えば、仕事の監督。
藍さんから聞いた話だと毎日監督する必要はないらしい。

例えば、仕事中の雑談。
藍さんに言われたけどこれはあまりやっちゃいけないことらしい。
当たり前のことだと思って藍さんに雑談振ってしまったじゃないか。おのれ。
ちなみに雑談の内容については、すごく一生懸命喋ってくれている気がする。

「勧められた戯言シリーズ読んだよ」
「どうでした?」
「すごくよかった」「推しだった萩原子荻があっさり死んだのは残念だったけど人間試験でまた見れたのは嬉しかった」

人間シリーズまで読んだの!?

ま、まあ、こんな感じに私に一生懸命感想を伝えてくる。
どこが面白かった、どこが良かった。誰が好きだった等。
正直、よく読む時間があるものだと思う。

……うん、気づいたらめっちゃわかりやすいね。
むしろ私はなんで今まで気づかずにのほほんとしてたんだ!?

ただ私を好きと言っても仕事はきちんとしている。
上司の権限でセクハラするようなことはないし、
私をいやらしい目で見てくることもそんなにない。
たまに胸を見てるけどすぐやめるから許してあげましょう。

こういう好意なら向けられて嫌な気分はしない。
仕事もやりやすいしけっこう良い職場かもしれない。

・・・

そんなこんなで入社1年ほどたったある日。

部長から呼び出された。
めったにないことなので緊張する。

「申し訳ないけど今期末で契約満了とさせてほしい」

どうも新しい人を入れるために派遣社員を減らすらしい。

「高橋君も頑張っていたんだけど、上がどうしても新卒じゃないと駄目と言ってね」
「そうですか……わかりました」

けっこう居心地の良い職場だったのに残念。
でも彼は私がいなくなったら泣いちゃうんじゃないかな。

少し早いけど送別会が開かれることになった。
他にも転勤や退職する人がいるのでまとめてやるらしい。

「宮本さん、お疲れ様」
「おつかれさまです」

いつものように彼が話しかけてくる。

「ごめんね、頑張って交渉もしてみたんだけど……」

肩を落としてしょんぼりした様子で話している。
藍さんから「正社員を増やすなら宮本さんを正社員にすればいい!!」
と啖呵きっていたと聞いた。
まあ派遣社員をわざわざ正社員にする会社なんて珍しいよね。

「まあ飲みましょうよ」
「ああ」

頑張ってくれたみたいだし最後ぐらい構ってあげよう。
最後だからなのか私が構ってあげてるからなのか、
普段より明らかにお酒を飲むペースが速い。

「いつ見ても綺麗な髪だよね」
「ありがとうございます」

こらこら。
私はいいですけど、
同じノリで他の人にやったらセクハラになりますよ。

飲み会もそろそろ終了。
彼は大分酔っぱらっているみたい。
私も今日は大分飲んじゃった。
次行く所もこういう居心地いい所だといいなぁ。

清算が終わって店の外に出ると、
アルコールが入っていてもまだ少し寒い。
道で寝たら風邪ひくどころか死んじゃうかもしれないなぁ。
そんなことを思っていると、
藍さんが彼に肩を貸しながら出てきた。

「本人は歩けるって言うけどちょっと心配なので送っていこうかと」

たしかに途中で倒れちゃったら大変だもんね。
……藍さんにも彼にもお世話になったし、
最後ぐらいもう少し付き合ってあげようか。

「藍さん、私が送っていきますよ」
「あ、いいの?じゃあお願い。でも狼に食べられちゃうかもよ」
「狼はぐでんぐでんになってますよ」

藍さんに変わって、彼に肩を貸す。
うーん、私がちっちゃいせいで逆に歩きづらそうだ。
まあ、いいか。

道を教えてもらいながら彼の家に到着する。
普通の一軒家で一人暮らしにしては広そう。
玄関のドアの前まで来たので声をかける。

「ここまでくればもう大丈夫ですよね?」

反応がない。もしかして酔いつぶれちゃった?
そう思っていると突然彼が私を抱きしめた。

「宮本さん、かわいい、かわいすぎるよ」
「ちょ、ちょっと」

いきなりのキス。
その上ギュッと抱きしめられたのに怖さより安心感がある。

「ずっと好きだったんだ、もう会えなくなるなんて嫌だ」

愛の告白をしてまたキスをしてきた。
私もお酒が入ってるせいかあんまり怒ろうと思えない。
むしろ(ようやく私のことを好きって言ったね)って気分。

「奏、愛してる」

そんなことを考えていたら突然の名前呼びと愛してるのコンボ。
それをキスしながら言うのはずるいと思う。
一生懸命唇を合わせてくるけど舌は入れてこないなぁ。
……こっちから入れちゃえ。

舌を入れると彼が目を見開き、すぐに私の舌を舐め回し始めた。
あ、お酒の味がする。甘くておいしい。

玄関でキスしているこの状況、どう見ても恋人同士だよね。
彼が私を抱きしめる力も強くなってる。嬉しそうだ。
でもやっぱり外は少し寒いな。

「今、鍵を開けるから」

彼も寒いと思ったっぽい。
私を抱きかかえたままドアの鍵を開けて中に連れていかれる。
そしてそのままベッドに押し倒された。

「奏、奏」

ずっと私の目を見て名前を呼んでキスをしてくる。
でもキスばっかり。普段あんなに見ていた胸は触ってこない。
なので彼の目に語りかける。「いいよ」って。

「奏!!」

目で通じたみたい。彼が私の服をまくり上げた。
彼の目が私の胸にくぎ付けになる。
これがあなたがいつも見たがっていたおっぱいですよ。
ブラの外し方がわからずおろおろしてたので、
自分の手でそっとブラを外す。

「綺麗だ……」

宝物でも触るようにゆっくりと優しく胸を触ってくる。
一心不乱に胸を触る彼は子どものようで少しかわいい。
今は柔らかさを堪能しているようで、
指で胸の形を変えるのを楽しんでる。

「あんっ」

指が乳首にかすって少し声が出てしまった。不覚。
もう少しお姉さんっぽい感じでいたかったのに。
私の声を聴いて彼がまたキスをしてきた。

「奏、かわいいよ、奏」

この人の語彙力はなくなってしまったんじゃないかな。
仕事中は私にわかりやすいように言い換えたり例えたりしてくれるのに、
今はずっと私の名前ばかり。
子どもを通り越して赤ちゃんかも。

「あっ、ん」

あ、でも乳首をいじることは覚えたみたい。
揉んでいる時にたまに乳首を指でこすってくる。
もう硬くなっている乳首にはちょっとの刺激でも快感が大きい。
見つめられながらキスされてそんなことされたら我慢が効かなくなっちゃう。

つい彼のモノに触ろうとしたけど届かない。
まさか背が低い弊害がこんな所にあろうとは。おのれ。

そうこうしていると彼の手が下半身に伸びてきた。
スカートを捲し上げられる感覚がはっきりわかる。
こんなにいやらしい気分になるものなんだ。

彼に大事な部分を触れられただけで体がビクンとなった。
上下にこすられると訳が分からないほどの快感が来る。
昔触られた時はこんなじゃなかった。
どっちかっていうと痛いぐらいだった。
なんでこんなに気持ちいいの?

キスの気持ちよさと胸の気持ちよさと下半身の気持ちよさが混じって、
今何をされているのかどこが気持ちいいのか考えられない。
ただただ快楽に押し流されていく感覚。
ようやく考えられるようになったのは私が達した後だった。

達した後の荒くなった呼吸を見て、
キスをやめて私を深く抱きしめてくれる。
彼の目は私をとらえて離さない。
そう、仕事中もずっとそうだった。私の目をずっと見ていた。
私が何を考えているのか、何を望んでいるのかを確認する目。

「愛してるよ、奏」

この場面で一番言ってほしいセリフを言ってくれた。
これで好きにならない人なんていないでしょ。

彼が自分のモノを取り出して私の大事な所に当てる。
もうトロトロで彼のモノが来るのを待っているのがわかる。

「いくよ」

目で「来て」と答える。挿入はするっと入った。
昔したときは痛くてしょうがなかったのに。
彼のはなんというかちょうどいい。
大きくもなく小さくもなく、私の中に納まる。
伝わってくる熱さと圧迫感が彼の女になったことを実感させる。
でも嫌じゃない。嬉しい。

身長差のせいで入れてると私からキスしづらい。
彼は自由にキスできるのに。不公平だ。

「あっ、ん、ん」

彼が動いているとたまにいい所をこすって声が出てしまう。
気持ちいいのもそうなんだけど、
彼が私の目を見て腰を振っていると、
今まで感じたことのない充足感がある。

「奏、奏、奏」

彼が私の名前を呼ぶたび、充足感がもっと大きくなる。
もっと気持ちよくしてあげたい。
すべてを受け入れてあげたい。

「うっ」

その声は突然だった。
中で何かが出る感覚。射精してる?

「もう離さない、奏」

そういって、そのまま覆いかぶさったまま動かなくなった。

「あれ?おーい」

……寝ちゃってる。大分お酒入ってたもんね。
語彙力がなくなったんじゃなくて、
お酒で思考力がなくなって本能のままだったんだね。
ふふ、本能のままなのに私を気遣ってたのが彼らしい。

そういえば何も準備してなかった。子ども出来たらどうしよう。
まあその時は責任取ってもらいますか。

・・・

退職日が迫ったある日。
藍さんが心配そうに声をかけてくれた。

「転職先は決まったの?」

私はニコっと笑って婚約指輪を見せる。

「決まりました、永久就職です♪」
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