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1.出会い

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俺の名前は露木恭平。
今日から大学一年生だ。

大学は人里離れた山奥にある。
自転車や原付き通学者は毎日山登りさせられるのできつい。
早く車の免許がほしいと切実に感じる。
せめて一緒に通う友達がいればいいんだけど誰もいない。

到着してすぐ入学式をする講堂に向かう。
既にけっこう人は来ており女子率もそこそこ高かった。
理系だと女子1人とかあるらしいけど、
生物系を選んで本当によかった。

入学式は何事もなく終了した。
ただ入学式が終わって解散になったけど、
他の人にどうやって話しかければいいんだろう?
いや女子以前の話で、
見知らぬ人に話しかけるってハードル高くない?
仮に話しかけることが出来たとしても話が広げられる気がしない。
周りは普通に会話してるけどみんな知り合いなの?

誰にも話しかけることができないまま食堂に来てしまった。
とりあえずご飯食べてから考えよう……。
お、メニューがたくさんある。
日替わりはサバ味噌定食か。
魚って気分じゃないし目についた唐揚げ定食にしようか。

女の子「チキン南蛮定食あるやん、うちこれ好きなんよー」

隣に来た女の子が何か喋っている。
独り言にしてはやけに大きい声だな。
チラッと見ると黒髪ツーサイドアップでけっこうかわいい子だ。
まあ特に気にせず券売機で唐揚げ定食を購入する。


女の子「自分、唐揚げ好きなん?チキン南蛮派に転向せえへん?」
俺「……え?俺に声かけてる?」
女の子「自分以外に誰がおるん」

笑いながらこちらを見る彼女。
たしかに周りには誰もいない。
てっきり独り言だと思ってたけど俺に喋っていたらしい。

俺「タルタルソースにつけて食べたらカリカリした感じなくならない?」
彼女「カリカリがなくなるからいいんじゃあないか」

指を立てて悪い顔をしながら言う。
全体的にリアクションが大きい子だな。

彼女「唐揚げの衣が口の中に刺さるのが許せんのよ」
俺「ああ」

言われてみればたしかにカリカリに揚がってるとよくある。
ちゃんとした所ほどそうなりやすいイメージ。

彼女「大きく口を開けて頬張りたいのに小さく食べるしかあらへん」
俺「元々そんなに大きくないのでは?」
彼女「小さいか、小さいって言いたいんか」

手で胸を押さえている。
誰も胸の話なんてしてないしそんなに小さくないだろうに。

俺「口の話だよ」
彼女「当たり前やろ。むしろどこの話と思ったん?」

一転して(・∀・)ニヤニヤしながら追及してくる。
表情がクルクル変わる子だな。
なんかこっちまで楽しくなってくる。

彼女「あ、こんなことしてたらご飯食べる時間なくなるやん」
俺「たしかにそうだね」
彼女「じゃあねー」

そう言って券売機に向かっていった。
さすがに追いかけていくのは勇気がいる。
でもかわいい子だったしもう少し話したかったな。
ちなみに遠目で見ていたけどチキン南蛮定食を購入していた。
有言実行だったらしい。

食券を渡して食事を受け取った後は座席を探す。
混雑していたので適当に空いてる席に座った。
ご飯・味噌汁・漬物・唐揚げ・キャベツと一通りそろっている。

「いただきます」

唐揚げは……うん、上手に揚がってる。
ただ彼女のいうようにカリカリすぎて口に刺さるなぁ。
チキン南蛮もありかもしれない。
ご飯は若干少なめ。小ライスとかあるならプラスしてもいいな。

「ご馳走様でした」

ご飯を食べ終わって食器を片付けにいくと、
さっきの彼女と遭遇した。

彼女「またおうたね」
俺「そうだね」
彼女「唐揚げどうやった?」
俺「たしかに口の中で刺さった」
彼女「そうやろ!!」

少し口を開けて笑う彼女。
嬉しいっていう感情が伝わってくるようだ。
こちらもつられて嬉しくなる。

彼女「よし、これでチキン南蛮派一人ゲットやな」
俺「いやいや、いつチキン南蛮派になるといったんだよ」
男A「あのー、邪魔なんですけど?」
俺・彼女「「すみません!!」」

返却棚の前で雑談していたので後ろから声をかけられてしまった。
二人そろって食器を置いてすぐ離れる。

彼女「怒られてもうたやん」
俺「え?俺のせい?」
彼女「チキン南蛮派にならないからやで」
俺「なんでそこまでチキン南蛮推すんだよ」
彼女「売れへんとメニューから消えるかもしれへんやろ」
俺「入学一日目で心配しすぎ」

けっこう真剣な表情で語っているけど、
なぜそこまで心配してるんだよ。
あれか?チキン南蛮がないと死んでしまうのか?

彼女「まあええわ、今日の所はこれで許したるわ」
俺「一体どこを許されたのか分からないけど分かった」
彼女「覚えとれよー」

なんで悪役みたいな負け惜しみ言って去っていくんだよ。
しかもちゃんと悔しそうな顔してるし。
しかし嵐のような子だったな。
女の子とこんなに喋ったのはいつ以来だろう。
しかもあんなにかわいい子なんて中学以来かな。
まあ大分変わった感じではあったけど。

男A「なあさっきの子友達?」

先ほど後ろにいた人だ。
同じく新入生っぽいな。

俺「いや全然。さっき知り合っただけ」
男A「めっちゃかわいい子だったな」
俺「たしかにかわいかった」
男A「どうやって知り合ったんだ?」
俺「いや、よく分からないうちにあんな感じに」
男A「はー、うらやましいな」

額に手を当てて首を振っている。
客観的に見ればうらやましくなるのも分かる。
ただ俺自身なんで仲良くなったのかさっぱりだ。

男A「あ、俺は立木庄司って言うんだ。庄司でいいぜ」
俺「俺は露木恭平だ。恭平でいいよ」
庄司「ちなみに学科はどこなんだ?」
俺「生物科、そっちは?」
庄司「俺も生物科だ」
俺「よかった、知り合いがいなくて不安だったんだよ」
庄司「俺もだよ」

庄司も生物科だったのか。
同じ学科で友達が出来るのは心強い。
なにせ必修科目だの専門科目だの選択科目だの、
説明を聞いたけどさっぱり理解できなかった。
少しでも相談できる相手が欲しかった所だ。

庄司「そろそろ午後の講義始まる時間だし行くか」
俺「おう」

午後の講義に一緒に向かう。
午前中は友達をどうやって作ればいいのかと悩んでいたのに、
まさかこんなすぐに友達が出来るとは思ってなかった。

庄司「恭平は実家住み?」
俺「いや、一人暮らし」
庄司「いいなあ、憧れる」
俺「そうだよな」

夢の一人暮らしだ。
好きなこと出来るし好きなもの食べられる。
彼女を作って料理してもらうとかエロいことするとかも自由だ。
……まあ彼女なんていたことないけど。

・・・

午後は履修登録の説明を受けた。
やはりいろいろ種類があって何を受講すればいいかさっぱり分からない。

庄司「難しいな」
俺「全部取ったら遊ぶ時間なんてない気がする」

試験に受からないと単位ってもらえないんだよな?
どのくらい難しいかも分からないからギリギリだとまずいよな。
こういう時に先輩とかいたらいいんだろうけど。

庄司「まあとりあえず帰るか」
俺「俺はちょっと売店寄って帰ることにするよ」
庄司「そうか、じゃまた明日な」
俺「おう、また明日な」

庄司と別れて売店に向かう。
この調子で友達を増やせて良ければいいんだけどな。
そう思いながら売店に入る。
基本的には講義に使う文具や器材を売っているけど、
軽食も置いてある。
今後のために品揃えと味を確認しておきたい。

サンドウィッチは品切れか。
おにぎりは明太子とツナマヨと梅が残っている。
この中だと梅が気になる。甘い梅はちょっとなぁ……。
おにぎりに手を伸ばすと横から手が伸びてきた。

俺「あ、すみません」
彼女「あ、昼の唐揚げ君やん」

横を見ると昼間出会った彼女だった。

彼女「奇遇やねー」
俺「ほんとにね」
彼女「はっ、まさかストーカー」
俺「被害者の前を歩くストーカーとはいったい」
彼女「じゃあ唐揚げ君はたまたま?」
俺「唐揚げ君ってローソンで売ってそうな呼び方やめよう」
彼女「ええー、じゃあナナチキ?」
俺「セブンイレブンじゃない」
彼女「じゃあファミチキで」
俺「コンビニから離れよう」
彼女「ケンタ?」
俺「言い方が悪かった、食い物から離れよう」
彼女「あははー」

よく笑う子だな。
それにすごく話しやすい。
返答のテンポがいいんだろうな。

彼女「こんなかから梅選ぶん?」
俺「そっちはツナマヨか」
彼女「おにぎりいうたらツナマヨやろ」
俺「定番は梅だろ」
彼女「売上一位はツナマヨやで」
俺「定番だからそんなに売れないんだよ」
彼女「ツナマヨは20年以上ある商品やから定番と言ってええと思う」

どんな返答しても言い返してくるな。
ただニッコニコで言い返してるから嫌な気分にならない。
こういうのを人徳っていうのかもな。

彼女「お、どしたん?ツナマヨ認める気になった?」
俺「ああ、認めるよ」
彼女「ならこれあげるわ」

ツナマヨをこちらに手渡す彼女。
彼女の小さくて柔らかい手が俺の手に触れたので少し意識してしまう。

彼女「無事ツナマヨ派が増えたな」

一人でうんうん頷いている。

俺「なんでチキン南蛮派とかツナマヨ派とか増やそうとするんだ?」
彼女「うちが好きなもんは他人にも好きになってほしーやん?」

「何を当たり前のことを」という表情で答える彼女。
好きなものを共有したい気分はわかるけど、
見知らぬ相手にまでやる人は珍しい。

俺「気持ちは分かる」
彼女「そうやろ!!」

彼女が満面の笑みで答える。
陽キャってこういう人物のことをいうんだろうか。

彼女「これは運命だと思うねん」

運命?もしかして電波系な人だったりする?
えせ関西弁で言われると貧乏神を思い出すな。
「売るねん、売るねん、物件売るねん」とかいいそう。

彼女「なんか失礼なこと考えてへん?」
俺「そんなことないよ」
彼女「ま、ええわ、うちと友達にならへんか?」

小さな手を差し出してきた。
これが彼女、桂木さちとの出会いだった。
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