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40. 本当に後悔していたこと(前編)

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俺達の番が終わった後すぐに停電は復旧した。
(まるで俺達を狙い撃ちしたような停電だったな)
まあ結果的に上手くいったから問題ないか。
その後、文化祭はつつがなく終了した。
ただ人によってはこれからが本番かもしれない。
なにせバレンタインと並んで告白が多い時間が始まるからだ。

今は文化祭後の片づけが一通り終了し雑談している。

「小西君、隣のクラスの相馬さんが来てるー」
「了解」

みんな会話をやめ、
小西が出ていくのを見送った後に一斉に話し出す。

「うらやましい」
「二人目か」
「しかも美人」
「どっちかと付き合うのかな?」
「両方かもよ」
「処刑だな」
「上半身と下半身に分ければ二人分だぞ」
「いや体を左右で半分にしたほうが平等では?」
「いい案だ」

誰かが呼び出されると物騒な会話が繰り広げられる。
特に小西は今日二回目なので嫉妬が多い。
帰ってきたら査問委員会が開かれるだろう。
(俺も後で参加しよう)

まあそれはともかく大抵の学生は残っていて帰ったのはごく一部だ。
(やり直し前の俺はそのごく一部側の人間だったな)
どうせモテないんだから、いても仕方ないと思って帰ったんだ。
今にして思うと、
そういうチャンスを棒に振っていたから駄目だったんだろうな。

辺りは大分暗くなってきた。
(そろそろ目立たなくなるかな)
明るいうちに動くと小西のように目立ってしまうので、
暗くなってきてからがいいらしい。
(まあやり直し前に小西から聞いたんだけどな)
自慢かと思いながら聞いていたけど役に立つものだ。

教室の外に出てみると、
昼間と違って雲一つないので満月が綺麗だった。
「月が綺麗ですね」が「I love you」という意味だというのは後世の捏造なんだっけ?
なら山本さんにそれを言っても分からないかもしれない。
やっぱりちゃんと言葉に出そう。

それにしても山本さんはどこだろうか。
教室にはいなかったから外だと思う。
ただ人が多すぎて全然見つからない。
あ、斎藤さんがいた。
もしかしたら居場所知ってるかも。

「希望ちゃんなら中庭の方に行ったよ」
「ありがとう」

よかった、このままじゃ見つからない所だった。
それにしても中庭か。
昼前に雨がポツポツ降っていたから芝生濡れてるんじゃないかな?

中庭につくと結構な人数がいた。
芝生はやっぱり濡れているけど、
気にせず座ってたりシートを敷いていたりするようだ。
(山本さんはどこだろう?)
あたりを見渡していると、山本さんと目が合った。
シートを敷いて奥の方の芝生に座っている。
その座り方が綺麗でちょっと見とれてしまう。

「あれ、どうしたの?」
「希望に話があってきたんだ」
「何かな?」

手で前髪を撫でる仕草をする山本さん。
最近分かったけどこれは緊張してる時に出る癖だ。
(俺も緊張してるけど山本さんも緊張している)
勇気をもらえた気がする。
ありきたりな言葉でも使い古されたシチュエーションでも構わない。
俺が伝えられるのはこれしかない。

「好きです、付き合ってください!!」

頭を下げて手を差し出す。
頭を下げたのは俺に告白された瞬間の顔を見たくなかったから。
手を差し出したのは直球で言われなくても断られたことがわかるから。
でもこの気持ちは山本さんに見透かされていたようだ。

「顔を上げてあたしの隣に来て」
「でも……」
「つらいことから逃げない」

ポンポンと山本さんの隣の芝生を叩かれる。
シートには二人座れる程度の余裕がある。
(きっとここに座れということだろう)
隣に並んで座る。
顔を見ると恥ずかしさで火を吹きそうだから助かる。
見上げると月が見えて綺麗だ。

「あたしでいいの? 女っぽくないよ?」
「誰よりも可愛らしいと思う」
「付き合ったら今までみたいに優しく出来ないかもよ?」
「透くんとの関係を見ていたら大丈夫だと思う」
「他にいい子いるんじゃないの?」
「希望を選んだんだ」
「そう……、わかった、付き合ってあげる」
「やった!!」
「でも付き合う限り浮気は許さないから」
「そんなことする相手いないよ」
「どうかしら、佐々木とか大木とか怪しい」

ピンポイントに言い当てられてドキッとする。
(やっぱり分かるものなんだろうか?)

「過去に何があっても許す、でもこれからは許さないから」
「わかった」
「じゃあ、あたしはまだここにいるから」
「うん、またね」
「またね」

中庭をあとにする。
さて佐々木さんと大木さんに報告しないと。
彼女が出来たと言ったら喜んでくれるかな?
特に大木さんには今までたくさんお世話になったし何かお礼をしたい。
大木さんの好きな作家の新刊とかプレゼントしようか。

携帯を取り出そうとした時、ポケットに入っていないことに気づく。
あ、しまった、さっき座った時に落としたんだ。
尻ポケットに入れてるとこういうことがあるんだよな。
入れる場所変えたほうが良いかも。

中庭に戻ると山本さんと斎藤さんが話していた。
会話中っぽいからちょっと待ってるか。

「希望ちゃん、高木君と付き合えた?」
「友里恵? うん、付き合えた」
「ずっと好きだったもんね」
「そんなことないわよ」
「えー、あれだけバレバレなことしてて?」
「え、そんなに?」
「高木君にだけ着替え覗かせてるのはさすがにねー」
「あれは哲也が必死に見てくるからかわいそうで……」

そうだったのか……。
てっきり気づかれていないと思ってた。

「それだけ必死に見てくる高木君って童貞かな?」
「さあ? 別にどうでもいいわ」
「えー、普通気にならない?」
「初めてってそんなに大事?」
「大事だよ、希望ちゃんは処女だよね?」
「どうでもいいでしょ」
「高木君も童貞だといいよね」

その言葉で山本さんが不機嫌になる。

「何、その持って回った言い回し?」
「高木くんってさあ、チンコ大きいんだよね」
「なんであんたがそんなこと知ってんの?」
「プールで見たらわかるでしょ」
「そんなとこまで見ないわよ」
「それに精液の量も多くてね、口からあふれちゃう」
「は?」
「希望ちゃんの家に勉強しに行った時、私の口に射精したんだよね」
「……」
「すごかったなぁ、希望ちゃんがいない間にすぐにイっちゃった」
「……で?」
「ねえ、自分の部屋で彼氏が他の女の口に出してたってどんな気持ち?」
「ああ、そういうこと。そうねぇ……ご苦労様」
「はぁ?」
「あたしの彼氏の性欲処理ご苦労様って言ったのよ」
「せ、性欲処理!?」
「だって哲也があんたを好きって言った訳じゃないでしょ?」
「チンコ大きくしてた!!」
「それぐらいしごけば誰だってそうなるわよ」
「他の女に射精したって聞いて悔しくないの!?」
「あたしが付き合う前にしたことだから咎めない」
「なら今からする!!」
「試してみれば? 絶対断るから」
「なんでそんなこと分かんのよ!!」
「あたしの彼氏だもの」

絶対の確信。
俺はここまで山本さんに信頼されていたのか。

「もうあたしがしてあげるからあんたは用済みよ」
「くっ!!」

斎藤さんが逃げるように去っていった。

そうだ、もうそういうことをしてもらっては駄目なんだ。
すぐにでも二人に今までのお礼を言って、
山本さんと付き合うことになったことを報告しよう。
(といっても二人はどこだろう?)
あの話を聞いた後でのこのこ携帯を取りに行く訳にも行かないし、
頑張って探すしかないか。
特に佐々木さんは目立つからすぐわかるだろう。
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