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39. 文化祭本番
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そしてようやく迎えた文化祭当日。
天候は曇りで雷の予報が出ている。
(やり直し前は晴れていた気がするけど)
俺の行動で天候が変わったとかならまさにバタフライエフェクトだ。
(良い方に変わってくれたならいいな)
「その格好どうしたの?」
「演劇部が貸してくれたんだ」
俺は今演劇部から借りた黒子の衣装を着ている。
スポットライトのセットをしてもらっている時に、
暗い中ちょろちょろすると目立ってしまうからといって貸してくれたんだ。
「あたしも欲しいな」
「希望ちゃんにはいらないんじゃ?」
「山本さんは明るい場所にいるでしょ」
「哲也、あたしの分はある?」
二人から指摘を受けてるのにガン無視なのがさすがだ。
佐々木さんからアイコンタクトで「どうする?」と聞かれた。
衣装は何着かあるって聞いたし借りるのは問題ない。
「借りてくるよ」
「お願いね」
「暑いだけだと思うわよ」
「うるさいわね、あたしの勝手でしょ」
「さっき高木君と佐々木さんが眼と眼で通じ合ってたの何?」
斎藤さんが気づいて指摘してきた。
山本さんの眉が吊り上がり、大木さんも唇の端が上がってる。
二人とも怒っているときの仕草だ。
(まずい、めっちゃ怒ってる!?)
「はぁ!? どういうことよ!?」
「話聞かないよねってアイコンタクト送ったのよ」
「いやいや、そんなアイコンタクトじゃなかったよ!?」
「じゃあなんだっていうの!?」
「……黒子の衣装準備できるの? ってアイコンタクトだったと思う」
「言葉で言えばいいじゃない」
「だって話聞かないしうるさいし」
「だからって二人だけで意思疎通しないでよ」
「ごめんなさい、俺が悪いから喧嘩はやめてください」
俺が原因で本番前に揉めたくない。
(大木さんも冷たい目で見てるし……)
最近俺を見る目が冷たい気がするんだよな。
なんか少し怒ってそうな雰囲気でちょっと声をかけづらい。
とりあえずもう指定の場所に向かわないといけないし、
大木さんとは夜に話が出来るだろう。
・・・
とうとう本番が始まった。
俺はというと、佐々木さんの近くで待機している。
手にはばっちりランプを持っている。
もちろんまだ消灯しているけど。
今の所順調に進んでいる。
(まあそんなにややこしいことってないか)
リハーサルで起きた装置の干渉以外の問題なんてそうそう……。
ガチャン!!
「停電!?」
馬鹿な!? やり直し前にこんなことはなかったぞ!?
カーテンを閉めて真っ暗な状態で行っていたので、
照明が消えると何も見えない。
もちろん演技も中断している。
(と、とりあえず小西達と相談しないと)
ランプの明かりを頼りに舞台裏に向かう。
到着すると既に山本さんが来ていて小西達と話し合っていた。
「どうする?」
「中止するしかないか」
「でもここまでやったのに」
みんな口々に言う。
今ここでやめてしまうと続きが出来るか分からない。
文化祭のやり直しなんてしてもらえると思えない。
「でも真っ暗な中では出来ない」
「カーテン開ければいいんじゃないか?」
「あいにくと電動式だし仮に開いても外が暗すぎる」
なにか、なにかないか?
もう終盤まで来ている。
ステージ照明がなくてもスポットライトでもなんとかなるぐらいだ。
でもスポットライトも電源を使う。
その代わりになるものなんて……、あっ!!
「小西、一つ案がある」
「なんだ? もったいぶってないで早く言えよ」
「このランプを使うんだ」
・・・
「えーと、会場の皆さん、停電中ですが続きを行います」
「え、大丈夫なの?」「せっかく途中までやってたしね」「暇だしちょうどいい」
体育館にいる人の反応は悪くない。
どうせ動けないし何かやってくれるなら歓迎といった感じだ。
舞台袖から主人公が出てくる。
おれはその真横についていっている。ランプを持って黒子の格好で。
元々終盤はスポットライトの明かりが中心となる予定だった。
ならランプでもかろうじて代用できる。
ただ演者がランプを持たせると演技がしづらい。
かといってランプを演者以外が持っていると目立ってしまう。
でも俺はたまたま黒子の衣装を着ている。
これなら目立たずに舞台に上がれるはずだ。
っと、目標地点はもう少し先の位置だな。
ここは小西に「主人公の演技についていけるのか?」と突っ込まれた。
いちいち演者が黒子を誘導していたら演技にならないからだ。
でもそれは問題ない。
山本さんと喧嘩したあの時、脚本や舞台上の立ち位置は覚えた。
厳密なセリフは忘れていても大まかな流れは覚えている。
『なぜだ、なぜ裏切らなかった!?』
そしてそれはもうひとりも同じだ
ヒロインが舞台袖から出てくる。
ランプを持った黒子と共に。
『はっ、誰があんたの思う通りに動くもんですか』
山本さんはあの時俺と同じようにセリフや立ち位置を覚えてくれていた。
しかも先日のリハーサルで佐々木さんに煽られたおかげで、
改めて台本を暗記していた。
俺よりよっぽど詳しい。
たまたま黒子の衣装を着たがってくれたのも幸いだった。
もし今から着ようと思っても服が調達できなかっただろう。
もしリハーサルでトラブルがなかったら、
ランプなんて用意してなかった。
山本さんも台本がうろ覚えだったかもしれない。
禍福は糾える縄の如しと言う。
一つのことだけ見て改善したとしても、
先を見ればむしろ改悪だったということもある。
一つの後悔をなかったことにするのは、
回り回って新たな後悔を生むかもしれない。
「これにて終了となります、見て頂いた方々どうもありがとうございました」
拍手喝采で幕を下ろした。
停電の中でやったことが高評価につながったようだ。
とうとう終わった……。
もうこれで後悔はない。
天候は曇りで雷の予報が出ている。
(やり直し前は晴れていた気がするけど)
俺の行動で天候が変わったとかならまさにバタフライエフェクトだ。
(良い方に変わってくれたならいいな)
「その格好どうしたの?」
「演劇部が貸してくれたんだ」
俺は今演劇部から借りた黒子の衣装を着ている。
スポットライトのセットをしてもらっている時に、
暗い中ちょろちょろすると目立ってしまうからといって貸してくれたんだ。
「あたしも欲しいな」
「希望ちゃんにはいらないんじゃ?」
「山本さんは明るい場所にいるでしょ」
「哲也、あたしの分はある?」
二人から指摘を受けてるのにガン無視なのがさすがだ。
佐々木さんからアイコンタクトで「どうする?」と聞かれた。
衣装は何着かあるって聞いたし借りるのは問題ない。
「借りてくるよ」
「お願いね」
「暑いだけだと思うわよ」
「うるさいわね、あたしの勝手でしょ」
「さっき高木君と佐々木さんが眼と眼で通じ合ってたの何?」
斎藤さんが気づいて指摘してきた。
山本さんの眉が吊り上がり、大木さんも唇の端が上がってる。
二人とも怒っているときの仕草だ。
(まずい、めっちゃ怒ってる!?)
「はぁ!? どういうことよ!?」
「話聞かないよねってアイコンタクト送ったのよ」
「いやいや、そんなアイコンタクトじゃなかったよ!?」
「じゃあなんだっていうの!?」
「……黒子の衣装準備できるの? ってアイコンタクトだったと思う」
「言葉で言えばいいじゃない」
「だって話聞かないしうるさいし」
「だからって二人だけで意思疎通しないでよ」
「ごめんなさい、俺が悪いから喧嘩はやめてください」
俺が原因で本番前に揉めたくない。
(大木さんも冷たい目で見てるし……)
最近俺を見る目が冷たい気がするんだよな。
なんか少し怒ってそうな雰囲気でちょっと声をかけづらい。
とりあえずもう指定の場所に向かわないといけないし、
大木さんとは夜に話が出来るだろう。
・・・
とうとう本番が始まった。
俺はというと、佐々木さんの近くで待機している。
手にはばっちりランプを持っている。
もちろんまだ消灯しているけど。
今の所順調に進んでいる。
(まあそんなにややこしいことってないか)
リハーサルで起きた装置の干渉以外の問題なんてそうそう……。
ガチャン!!
「停電!?」
馬鹿な!? やり直し前にこんなことはなかったぞ!?
カーテンを閉めて真っ暗な状態で行っていたので、
照明が消えると何も見えない。
もちろん演技も中断している。
(と、とりあえず小西達と相談しないと)
ランプの明かりを頼りに舞台裏に向かう。
到着すると既に山本さんが来ていて小西達と話し合っていた。
「どうする?」
「中止するしかないか」
「でもここまでやったのに」
みんな口々に言う。
今ここでやめてしまうと続きが出来るか分からない。
文化祭のやり直しなんてしてもらえると思えない。
「でも真っ暗な中では出来ない」
「カーテン開ければいいんじゃないか?」
「あいにくと電動式だし仮に開いても外が暗すぎる」
なにか、なにかないか?
もう終盤まで来ている。
ステージ照明がなくてもスポットライトでもなんとかなるぐらいだ。
でもスポットライトも電源を使う。
その代わりになるものなんて……、あっ!!
「小西、一つ案がある」
「なんだ? もったいぶってないで早く言えよ」
「このランプを使うんだ」
・・・
「えーと、会場の皆さん、停電中ですが続きを行います」
「え、大丈夫なの?」「せっかく途中までやってたしね」「暇だしちょうどいい」
体育館にいる人の反応は悪くない。
どうせ動けないし何かやってくれるなら歓迎といった感じだ。
舞台袖から主人公が出てくる。
おれはその真横についていっている。ランプを持って黒子の格好で。
元々終盤はスポットライトの明かりが中心となる予定だった。
ならランプでもかろうじて代用できる。
ただ演者がランプを持たせると演技がしづらい。
かといってランプを演者以外が持っていると目立ってしまう。
でも俺はたまたま黒子の衣装を着ている。
これなら目立たずに舞台に上がれるはずだ。
っと、目標地点はもう少し先の位置だな。
ここは小西に「主人公の演技についていけるのか?」と突っ込まれた。
いちいち演者が黒子を誘導していたら演技にならないからだ。
でもそれは問題ない。
山本さんと喧嘩したあの時、脚本や舞台上の立ち位置は覚えた。
厳密なセリフは忘れていても大まかな流れは覚えている。
『なぜだ、なぜ裏切らなかった!?』
そしてそれはもうひとりも同じだ
ヒロインが舞台袖から出てくる。
ランプを持った黒子と共に。
『はっ、誰があんたの思う通りに動くもんですか』
山本さんはあの時俺と同じようにセリフや立ち位置を覚えてくれていた。
しかも先日のリハーサルで佐々木さんに煽られたおかげで、
改めて台本を暗記していた。
俺よりよっぽど詳しい。
たまたま黒子の衣装を着たがってくれたのも幸いだった。
もし今から着ようと思っても服が調達できなかっただろう。
もしリハーサルでトラブルがなかったら、
ランプなんて用意してなかった。
山本さんも台本がうろ覚えだったかもしれない。
禍福は糾える縄の如しと言う。
一つのことだけ見て改善したとしても、
先を見ればむしろ改悪だったということもある。
一つの後悔をなかったことにするのは、
回り回って新たな後悔を生むかもしれない。
「これにて終了となります、見て頂いた方々どうもありがとうございました」
拍手喝采で幕を下ろした。
停電の中でやったことが高評価につながったようだ。
とうとう終わった……。
もうこれで後悔はない。
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